空想企画会議――YouTuber・ドズル氏編。配信映えするゲームの企画はこう作れ!【後編】

空想企画会議――YouTuber・ドズル氏編。配信映えするゲームの企画はこう作れ!【後編】

2025.11.11
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「一緒にアイデアを出し合って、架空のゲームの企画を考えてみませんか?」というぶっつけ本番なインタビューの第2回。お相手を務めるのは、YouTubeでのゲーム実況や配信を中心に多彩な活動を展開するクリエイター集団・ドズル社を率いるドズル氏!

前半パートでは「マッチョをテーマに、インフレ系のシミュレーションゲームを作っていく」という大まかな方針が決まりました(なんのこと?と思った方、ぜひ前編からご覧ください!)。

後半は、バラバラに出た要素をひとつの企画としてまとめていく過程をご紹介。ドズル氏の豊富なアイデアと、佐々木氏の企画力で、最高の企画を作り上げます!

目次

株式会社ヒストリア 代表取締役 佐々木 瞬

ゲーム会社ヒストリアの代表。『Faaast Penguin』プロデューサー、『ライブアライブ』ディレクター。ゲームの企画仕事やテクニカルなことをやっている。Unreal Engineが好き。

株式会社ドズル 代表取締役 ドズル

5人組でゲーム実況を行うドズル社の代表。医大生からYouTubeクリエイターになった異色の経歴を持ち、『マインクラフト』などのゲーム実況を中心に活動中。YouTube登録者数は249万人↑

マッチョになれるシミュレーションゲームを作ろう!

改めて、今回作っていく企画書のシートを見ていきましょう。

前編ではサムネとタイトルが浮かびやすい」「2時間ほどで終わるゲーム」、そして「ヴァンサバのようなインフレ性」「ドラマ性」などのゲーム要素が挙がりました。

そしてテーマとしては「マッチョ」が挙がりましたね。

このゲームで大切なのはプレイ開始から2時間後、つまり「100日後の大会で何をするか」です。筋肉のパラメータを上げた先になにが待っているのか?これをシステム面で考える起点は、やはり「大会」でしょう。

どんな感じで考えていくと良いですか?

そうですね、少し既存のゲームの事例を見ていきますか。

先ほど挙がった「栄冠ナイン」方式ですが、これよりもカジュアルなゲームに寄せたほうが良いと考えます。「ときメモ」方式のように、シンプルに行動選択をするだけのゲームでも良いかもしれません。

ちなみに、筋トレの行動は「トレーニング・食事・休息」の3つで1セットなんですよ。

なるほど。これを仕様に落とすときのポイントですが、“トレーニング・食事・休息”の3択で日付を消化していくのと、“トレーニング・休息+毎日の食事選択”で日付を消化するのでは、ゲーム性が大きく異なるんですよ。

さらに選択肢を“トレーニング・休息・バイト”にすれば、お金を稼いでトレーニングや食事に使うといったループが自然に生まれやすくなると思います。

うん、ここまではいい気がするんですよ。

やっぱり「大会」の内容、つまりゲームの目的が見えてこないんですよ。そもそも、なぜ主人公はマッチョにならなければいけないんでしょうか?

ムキムキな人と憧れの女性が付き合って、その嫉妬で……とか。コメディにいくと、マッチョ星から宇宙人が攻めてきて、地球を守るために自分もマッチョになるなどでしょうか。

コメディ路線の方が良いような気はしますね。ラフに遊んで欲しいので。

それと、筋肉量が増えるのは見た目としては面白いんですが、ゲームシステムとしてはちょっと興奮しにくい自分がいます。ヴァンサバみたいに、1匹ずつピンピン倒していくところから始まり、最後はまとめてブワーッと倒せる快感があるゲームにはなっていないと思うんですよ。

そこなんですよね。まだ、インフレ度合いが小さいんです。ガリガリがマッチョになるのは確かに面白いけど、序盤でムキムキになっちゃうと後半で失速する。一方で、序盤からずっとガリガリだと、それはそれで面白みに欠ける。

このゲームにお金の要素は本当に必要なのか?

あとは一応、ジムを育てる経営要素などもアイデアとしてはありますね。

それだと「たくさん入会がある」などのイベントがあると嬉しいですね。そうするとバイトをしなくてよくなって、トレーニングに集中できるようになる。

月謝による収入があって、ジムのパワーアップ要素もあって、それが大会とは別の目的にもなります。自分のパラメータ上げる、そしてジム経営の2軸でカオスさを作るのは良いかもしれません。

ただ、主体は筋肉である以上、経営要素は薄くした方が良いですね。

う〜ん……。ちなみに、ジム経営要素を強くしたらどうなるんですか?

そっちに振って考えると、恐らくジムの常連が大会で入賞するんでしょうね。機材などを細かく入れ替えながら常連がパワーアップして、さらに客が増えて、より良い機材を導入できるというゲームループで回します。

やっぱり、そうなりますよね。自分の顔がマッチョになるのがキモだと思うので、そことはつながらないですね。

マッチョになるトレーニングに面白さを集約させるなら、やっぱりジム経営要素はいらないか……?

そうですね、これだとまだ盛り上がりどころが足りない気がします。

いまのままでも問題なくゲームとしては成り立つのですが、分かりやすく「面白い!」という感じが足りないですよね……。

最初に立てたコンセプトに立ち返る

「マッチョ」に立ち返って、マッチョの魅力を引き出してみましょう。

マッチョでインフレを感じさせるためには、パラメータが上がったことをちょこちょこ実感できる仕掛けが必要ですよね。たとえば“ベンチプレスで何キロ上がるようになった”とか。

筋トレにおけるBIG3は、ベンチプレス(胸)、スクワット(足腰)、デッドリフト(背中)です。それぞれ別の筋肉を使う要素ですが、これはゲームに活かせますか?

終わりがあるユニークなシミュレーションゲームという軸はできてきたが、最後の1つのピースがハマらない!ドズル氏によるBIG3の実演で打開を模索する

あるいは、極端に考えると、スクワットやデッドリフトをやめて、胸と腕だけ鍛える“ベンチ特化マッチョ”にするのもアリかもしれません。

でも、1種目だけだと、大会で“何キロ上げたか”が分かりにくくなります。

これはブレストですけど、例えば人を両脇に乗せて“これが持ち上がるのか!?”みたいな、最初から数値じゃない方が演出としては面白いですよね。

……ん?それ良いんじゃないですか?

最初はちゃんとキロ数でやって、途中からは数値じゃなくなっていくのは、良いインフレ感ですよ。人を持ち上げたり、ビルを持ち上げたり。“今回のベンチプレスはこれだ!”で、挑戦するモノを演出できると面白いのでは?

ベンチプレスだけに特化してシンプル化。「ビルを持ち上げたり、山を持ち上げたりする」という演出面での強化でインフレを感じさせる方向にシフト

これは面白そうな演出ですね。

あと、僕は「効率化」と「常識が変わる」要素が好きなんです。

『クッキークリッカー』がそうですけど、あとから新しい要素が入ることによって、今までの「クリックでしかクッキーは増えない」という常識が変わっていくじゃないですか。

だから、効率化で得られる恩恵が、複利で増えていくようなゲームがいいと思うんですよ。これはジムのパワーアップではなく、もっとぶっ飛んだ発想の、掛け算的に働くものが良いはずです。

トレーニング以外にも、パラメータが増える要素があると良い、ってことですね?

ローグライク系のゲームでよくある「休息時に筋力も上がる」「トレーニングを3連続続けると効果が1.5倍になる」などのアイテムがあって、これを掛け算していくとものすごい効果になる、とかはどうでしょう?

良いですね!後半は持ち上げられるベンチプレスも、何キロではなく何トンになっているはず。

ベンチプレスに絞るのであれば、左右の重りの部分を自分で見つけてくる、探索モードもアリですよね?タイヤとか岩とか、そういうのをランダムで探してくるモードです。

ああ、これは良いですね!探索を踏まえて、トレーニングに面白さを集約する方法もいいですね。あとは、真ん中のバーの効果もあってもいいですよね。右の重り、左の重り、バーの相乗効果で、トレーニング効果がどんどん上がっていく

両サイドそれぞれにつける重りを変えると、特殊効果が出るとか。ローグライク的な掛け算ができるとかなり良いと思います!

ようやく見つけた突破口は「探索によるローグライク要素」!

中盤でレアリティの高いバーが見つかって、左右にダンベルを2個ずつ装着できるようになるとかも考えられます。あとは肉を重りにできるけど、食事にも使えてしまうとか。

こうなると、お金やジム経営の要素より面白そうですね。紆余曲折ありましたけど、かなり良い題材が出た気がします!

探索で獲得できるオモリとバーによる相乗効果で、トレーニング効果が複利で上がっていくシステムに。「ヒダリのオモリ」×「バー」×「ミギのオモリ」によるトレーニング係数のインフレがシステムのキモになる

途中から、探索を自動化するアイテムや仲間が見つかってもいい。うん、いいですね。

トレーニングをベンチプレスだけに集約して、ダンベル側を強化していく。しっかりとインフレが起こせそうな気がしてきました!

そして企画書へ!

それでは、ここから一気にまとめていきましょう!まずプレイ人数は1名ですよね。

プレイ時間は1.5時間くらいで1周できるといいな、と思いました。

ターゲットは……もういいや、このタイトルの場合は抜かしても問題ないでしょう。

プラットフォームはSwitchとSteamにしておきましょう。自分の顔を取り込んでマッチョにできるかどうかの技術的な調査は必要ですが、プレイヤー人口を考えてこの2つを選択しておきます。

テーマは間違いなく「マッチョ」ですよね。

あとは「育成ゲーム」ですね。「マッチョ×育成ゲーム」としておきましょう。あとは肝心のタイトルとジャンル名ですね……。

マッチョシミュレーター』はキャッチーかつ最近のトレンドを反映していると思います。

シミュレーターは文法としては異なってきますね。もっとリアルに作ることを目的としたゲームだと思われてしまいます。

あとは「30日後にマッチョになる」などの要素を入れるか。あとは「なんでも持ち上げるマッチョ」という要素ですかね。もう『ウルトラハイパーマッチョ』みたいなキラキラネームでもいいですけどね。

これ、タイトルをちゃんと決めるにはどうすれば良いんですか?

ちゃんとやるなら調査会社でリサーチしたりもしますけど、今の段階では分かりやすさ、ノリでいいと思いますよ。一番ノリを反映しているのは……。

やっぱり『ハイパーウルトラマッチョ』にしましょう。略してHUM

脳筋なタイトルで良いですね!

あとは特徴です。「筋肉を育てる」、「ベンチプレスでなんでも持ち上げる」、「ダンベルの装備によってトレーニング効果が変わる」、「探索でダンベルの重りを見つける」、「大会で優勝する」あたりでしょうか。

「自分の顔をはめ込んで合成できる」も絶対に入れたいです!ジャンルは「ローグライク筋肉育成ゲーム」ですかね。ローグライクって言っちゃっていいんですか?

ランダムでアイテムを入手し、毎回結果が変わる作品はローグライクと言ってしまってもいいでしょう。コアでシビアな遊び、リセットされるのがローグライク、引き継ぎができるのがローグライトと捉えて良いです。

じゃあ、次の人生に「重りを1個だけ持っていける」とかもあっても良いですね。

そのあたりも盛り込んで……。

できたー!完成です!

やりました!もう少し“ゲームっぽいもの”を想像していましたが、ドズルさんが発想を広げて作った作品として、本当に良いものになりましたね。

キャラモノとか筋肉ネタだけではなく、システム面も洗練された印象がありました。横でどんどんビジュアルができていくのもすごく良かったです。

制作の裏側。実はヒストリアの2Dアーティストが、会議の様子を聞きながら次々にビジュアルイメージを量産していた

でも、本当にうまくまとまりました。ゲームシステムを考えていると、ゲームとして成り立たせるためのよくある仕組みを入れがちなんです。そうすると「最初の勢いがなくなってない?」っていう問題が出てくる。

きれいで成り立つゲームにはなるんだけど、面白いかというと……やりたかったことって、本当にこれ?みたいな感じになることってゲーム会社の企画会議でもよくあるんです。

そこでドズルさんが『盛り上がりどころがない』って言ったのは、まさにそれ!って思いました。

企画を考えながら、ずっと実況している状況を想像してたんです。

「このシステムだと、途中から見た人には理解できないかもしれない」「このくらいの情報量だと理解できるし、何分かに1回来る大きなイベントでみんなで盛り上がるかもしれない」などを考えていました。

ちまちまパラメータを上げていくだけだと、見ていて退屈になってしまう。探索を入れるとランダム性が出て、今はまだ使えないけど“良い重りを見つけた!”といった、ラッキーなシチュエーションも生まれます。

ユニークなアイテムを重りとして実装することで、マッチョな世界観だけではない、別の楽しみも生まれました。

重りシステムは良いですよ。猫を乗せると癒されて回復するとか、いくらでもアイデアが出ますし、場合によっては重りのアイテムとしてコラボもできそうです。いろいろ広がりも作れそうなゲームができました!

盛り上がりどころが分かりやすい企画が出来たので、これは本当に作ってみたくなりますね!

良いですね!面白いゲームになりそうなので、ぜひ!

僕たちも「自分たちの手でゲームを作ってみたい!」という気持ちがどんどん強くなっています。 「こんなの面白そう」「一緒に作ったら絶対バズる」みたいなアイデアをお持ちの方、ぜひ気軽にドズルに声をかけてください! ゲームを通して、もっとたくさんの“楽しい”を一緒に広げていけたら嬉しいです。

ドズル社 公式YouTube

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