「作りたいものを決めたら、あとは作るだけ」。UE初心者だった2人が大ヒット作『Clair Obscur: Expedition 33』を完成させるまで【インタビュー】

「作りたいものを決めたら、あとは作るだけ」。UE初心者だった2人が大ヒット作『Clair Obscur: Expedition 33』を完成させるまで【インタビュー】

2025.08.05
注目記事ゲームづくりの知識インタビューゲームの舞台裏アンリアルエンジン
この記事をシェア!
Twitter Facebook LINE B!
Twitter Facebook LINE B!

ターン制バトルにアクション要素を融合した戦闘システムで話題となり、発売約1か月で330万本の売り上げを記録したUnreal Engine 5製RPG『Clair Obscur: Expedition 33(クレール オブスキュール:エクスペディション33)』。

ゲームメーカーズでは、同作の開発スタジオであるフランスのSandfall Interactive来日をきっかけに、エピック ゲームズ ジャパン協力のもとショートインタビューを実施しました。

テーマは「プロトタイプ」。作品が生まれたきっかけやアイデアの具現化など、作品の開発初期段階に関する話を中心にお聞きしました。

INTERVIEW / 神山 大輝
EDIT / 藤縄 優佑

目次

プログラムが書けない状態からスタートし、1年半でプロトタイプを作り上げた

今回のインタビューでは、Sandfall InteractiveのCEO & Creative DirectorであるGuillaume Broche氏、CTO & Lead ProgrammerのTom Guillermin氏にお話をうかがいました。

Tom Guillermin氏(写真左)とGuillaume Broche氏(写真右)

――『Clair Obscur: Expedition 33』の初期構想とアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?

Guillaume:「ターンベース+フォトリアル」が当初のテーマでした。私自身、『ファイナルファンタジーVIII』『ファイナルファンタジーⅩ』、『アトリエ』シリーズなど日本のRPGやターンベースの戦闘が大好きだったんです。

私自身が好きだったゲームを、もっとフォトリアルなグラフィックで遊びたい。それならば自分で作ろうと考えたのが、本作が生まれたきっかけでした。

『Clair Obscur: Expedition 33 | Launch Trailer』

Guillaume:当時はUbisoftでプロジェクトを管理する立場で仕事をしており、プログラムはまったく書けませんでした。だからまずはゲームエンジンの勉強からはじめました。

2018年ごろ、ネットで調べたところ別のエンジンもよく目にしていたんですが、フォトリアルな表現がしたかったのでアンリアルエンジンを選びました。触ってみたら、すぐに夢中になってしまって。毎晩仕事から帰るたびに触りながら勉強して……。完全に恋に落ちた感じですね。

ただ、私はエンジニアではないので、プログラムを書くにも限界がありました。開発をスタートしてから半年後、同じくUbisoftで働いていたTomに声をかけて、プロジェクトに参加してもらうことにしたんです。

Tom:私はゲームが大好きで、子どものころには『World of Warcraft』のプライベートサーバーを自作したり、『黄金の太陽』にもハマったり。『GTA』も好きでしたね、まあ……これはみんな好きなタイトルですけど。

Guillaume:私は『GTA』、好きじゃないけどね。

――RPGの開発はシステム面から作り始めるケースもあれば、序盤のエリアでLookDevを行うケースもあります。今回の「ターンベース&フォトリアル」というコンセプトに対して、まずは何から手を付けたのでしょうか。

Guillaume:ゲームの完成形が頭の中にはっきりあったこともあり、システムとビジュアル、どちらも同時に取り組んでいました。その日の気分で、ゲームのシステムに取り組む日もあれば、ビジュアルに集中する日もありました。

私の考え方はプログラムとアートの中間にあるので、カメラや演出なども最初から意識してシステムを組んでいました。バトルとレベルデザインは同じくらいのペースで進めましたが、レベルデザインは最後まで苦労しましたね。

当初は2段ジャンプがあったり、オープンワールドだったりして、今の仕様とはかなり違う構想だったんです。敵と出会った瞬間にその場で戦うのか、バトル用のシーンに移行して戦闘するのかなども、かなり悩みました。

Tom:初めてGuillaumeが作った60分ほどプレイ可能なプロトタイプを見たとき、びっくりしました。バトルだけではなく約10分のカットシーンやナレーション、ストーリーまで入っていたんです。

Guillaume:当時はまだMegaScansも無料ではなかったので(※)、ビジュアル面でもいろいろ苦労しましたね。

※ MegaScansの無料化は、MegaScansを提供しているQuixelをEpic Gamesが買収した2019年11月ごろからスタートした

――その時点でかなりの作り込みを感じますが、プロトタイプ制作の予定期間と、実際にかかった期間はどのくらいでしたか?

Guillaume:実は当初は完成させるつもりはなく、「今日はこれ作りたいね」という気分で進めていただけなので、具体的なプランはありませんでした。プロトタイプ制作をはじめて1年半くらい経ったころに「ちゃんとしたゲームとして仕上げよう!」と決意して、そこからようやく完成までのプランを立てました。

話をまとめると、最初の半年は私1人で開発し、その後Tomとの2人体制で1年かけてプロトタイプを作り上げた、という流れです。

プロトタイプ時のプロジェクト名は『We Lost』で、本制作時はProject Wと名付けられていた

――Guillaumeさんは本作で初めてアンリアルエンジンに触れたということでしたが、Tomさんはいかがでしょうか。

Tom:私も本格的にアンリアルエンジンでプロジェクトを制作するのは初めてでした。しかし、Ubisoftで自社エンジンを深く触っていた経験や、Web系ゲームエンジンの開発経験があったので、その知識は役立ちました。

Guillaume:私は完全に初心者でした。それこそ、当初はバージョン管理の概念もなく、データをやり取りはUSBメモリで行っていましたね。

――プロタイプ制作時、Tomさんの具体的な役割を教えてください。

Tom:開発初期は、主にスキルシステムの技術的なサポートをしていました。RPGではステータス変更など多くの要素が相互作用するため、HPのような具体的なデータだけでなく、データそのものを変更するような抽象的なレイヤー(Abstraction Layer)を構築する必要があります。この辺りのシステム周りを作っていました。

Tom:私はプログラマーなので、そういった理論的な考え方を基盤としたインターフェースやAbstraction Layerの設計を行いましたが、これらを使って実際にコンテンツを作ったのはすべてGuillaumeですよ。

「作ること」がもっとも重要

――プロトタイプから本制作に移行するときに生かした要素はありますか?

Guillaume:当時はマーケットプレイスのアセットを大量に使っていましたし、そのアセットに合わせてストーリーも作っていたので、それらを含めて全部捨てました。残したのはバトルシステムだけです。会社としてちゃんと開発に入ると決めたとき、土台だけを持ち込んだ感じです。

Tom:とはいえ、uproject自体は当時のままです。パッケージには含んでいませんが、プロジェクト内にはそのころのアセットなども残っていますよ。

――本制作に移ったのはいつごろでしょうか。

Guillaume:2021年4月です。オフィスも構えつつ、10人以下のチームからスタートしました。そこから1年かけてバーティカルスライス(※)を制作し、2022年のGDC(Game Developers Conference)でバーティカルスライスを披露しました。

※ 一区間のみ、完成に近い状態で遊べるようにした手法。なお、本作はEpic MegaGrantsから5万ドルの提供、オクシタニー地域圏のインキュベーター Montpellier Game Labの支援、フランス国立映画映像センター(CNC:Centre national du cinéma et de l’image animée)にはプリプロダクション制作の支援金と税制優遇措置のサポートを受けて作られている

(画像はSandfall Interactiveのブログ記事より引用)

Guillaume:そこでKepler Interactiveさんと出会い、契約を結びました。その後は少しずつチームをスケールアップしていき、ピーク時には35人ほどの体制で開発を進めました。

Tom:開発自体は内製で行いましたが、QAやローカライズ、プラットフォームへの移植作業などは外部の協力会社にも依頼していました。

「Sandfall Interactive」開発ピーク時のチーム構成

  • プログラマー:4名
  • 背景:5名
  • キャラクター:3名
  • ゲームデザイン:3名
  • シネマティクス:6名
  • バトルアニメーション:8名(韓国のフリーランスに外注)
  • オーディオ:4名

――もう一度ゼロから『Clair Obscur: Expedition 33』を作ることになるなら、どういった点に気をつけて開発するかをお聞かせください。

Tom:できるだけ早くパッケージングのシッピング版を作ること。バーティカルスライスのときもシッピング版とデバッグ版が違うものと知らなかったので、すごく苦労しました。

UE5は魔法に見えるくらいなんでも簡単にできそうですが、そんなことはありません。アンリアルエンジンではメモリがオーバーロードするのは結構ありがちなので、メモリ管理について、もっと早めに勉強すれば良かったなとも思っています。

Guillaume:本作をリリースした今でもファイルとフォルダの管理はまったくひどいもので、めちゃくちゃグチャグチャです。ここは最初から整理して作れば良かったです。でも、そこは振り返ったからこそ思うものであって、開発では大事なことじゃありません。

作りたいゲームを決めて、あとは作るだけ」なんです。だからみなさん、自分が作りたいものを作ってください。

『Clair Obscur: Expedition 33』公式サイト
神山 大輝

ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビュー作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。

ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。

関連記事

UE5標準物理エンジン「Chaos」最適化テクニック、Epic Gamesが解説。コリジョン判定や剛体シミュレーションの負荷軽減など
2025.10.30
Epic Games代表のTim Sweeney氏が来日!UE公式無料イベント「Unreal Fest Tokyo 2025」で基調講演に登壇
2025.10.21
ソニー・ホンダによるUE活用の運転支援システムなど、自動車業界のUE採用事例を解説。エピック ゲームズ ジャパン主催「Build: Tokyo‘25 for Automotive」レポート
2025.10.20
UEの映像技術を学べる無料公式イベント「Cinematic Deep Dive’25」、12/10(水)に開催。先着350人まで参加登録を受付中
2025.10.17
EOS・EACを解説したエピック ゲームズ ジャパン登壇講演、UEFNによる松江城メタバース化事例など。広島・大阪で開催されたUE勉強会の講演資料が公開
2025.10.17
UE公式の大型イベント「Unreal Fest Bali 2025」講演動画が公開。「Gameplay Ability System」の使い方や、UE5.7 Previewで正式導入した「Substrate」活用術など
2025.10.16

注目記事ランキング

2025.10.30 - 2025.11.06
VIEW MORE

連載・特集ピックアップ

イベントカレンダー

VIEW MORE

今日の用語

ライトニングトーク(LT)
ライトニングトーク 5分ほどの短い時間で区切って行うプレゼンテーションの手法。2000年ごろから浸透した手法で、技術カンファレンスや勉強会で行われることが多い。
VIEW MORE

Xで最新情報をチェック!