ゲーム会社や関連企業のオフィスを巡る新連載がスタート!
第1回はゲームメーカーズの拠点から徒歩5分、ゲームサウンド専門会社「ノイジークローク」さんにお邪魔します。ゲーム音楽や効果音がどのように作られ、どのような環境で実装されていくのか、「作業環境」にフォーカスした情報をお届けします。
ゲーム会社や関連企業のオフィスを巡る新連載がスタート!
第1回はゲームメーカーズの拠点から徒歩5分、ゲームサウンド専門会社「ノイジークローク」さんにお邪魔します。ゲーム音楽や効果音がどのように作られ、どのような環境で実装されていくのか、「作業環境」にフォーカスした情報をお届けします。
TEXT&PHOTO / 神山 大輝
株式会社ノイジークロークは、2004年設立のゲームサウンド制作会社。音楽や効果音を作るだけでなく、ゲームエンジンへの実装やサウンドディレクション全般を含めてお任せできる制作会社です。
神山
昨年リリースした「ゲームメーカーズ コラボPC」付属コンテンツの音楽や効果音を依頼したこともあり、ゲームメーカーズとも仲良くしていただいております。
そんな同社は昨年11月にDolby Atmos対応のイマーシブオーディオスタジオ併設のオフィスを開業。ゲームメーカーズの拠点から徒歩5分の距離であることから「遊びに行きたい!」となり、オフィスツアーの企画がスタートすることになりました。
オフィスを案内してくれたのは、ノイジークローク代表の坂本 英城氏。多くの方が耳にしたであろう『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』メインテーマの「命の灯火」を手掛けた作曲家であり、『TIME TRAVELERS(タイムトラベラーズ)』主題歌がフィギュアスケートの羽生結弦選手のエキシビションプログラムにも選曲されるなど、大変ビッグネームな方です。
ゲーム音楽の地位向上や後進育成にも力を入れており、「ゲームタクト」などのゲーム音楽イベント主催のほか、昨年には私たちが主催する「ゲームメーカーズ スクランブル」にも登壇いただきました。
エレベーターで8階に来たはずなのに、なぜか屋外に出てしまったかのような雰囲気のエントランスに到着。ジャングルのような見た目に加え、サウンド会社だけあって自社で制作した雨音や動物の鳴き声などが2系統のGenelecスピーカーから再生されており、なかなか臨場感があります。
オフィス内がアトラクションだとしたら、エントランスはQライン。Qラインとはジェットコースターなどのアトラクションに乗る際の待機列および列形成のための前室を示す専門用語のことです。
坂本氏いわく「ジェットコースターなどのアトラクションに乗る前に、暗くて落ち着く部屋に通されて、ディスプレイからは「ようこそ!」と声が再生されているような部屋を目指した」とのことで、このエントランスにおいても暗くて落ち着く、それでいて期待感をあおる空間が目指されました。
エントランスからは執務室と会議室、スタジオの3方向に進むことができます。
エントランスからいきなり3分岐する理由は、有名な声優や演奏者が収録のために来社した際、執務室を通らずにスタジオへ直接行きたいから。有名な方が執務室を通るとザワザワしますし、そもそも執務室ではさまざまな未公開タイトル開発を行っているので、基本的には閉ざされていた方が安全です。
ということで、まずはスタジオに行ってみましょう。
扉をくぐった先には演者用のお水やコーヒーが置かれており、逆側には大きくノイジークロークのロゴが描かれている。坂本氏が手にしているのは、社員をイラスト化した缶バッジがもらえるガチャで遊び心も満載。ちなみに、後ろに映っているハンガーラックは私物のビンテージモノだ
いよいよスタジオのコントロールルームに到着!ノイジークロークだけでなく、一般的な音楽制作スタジオは「音を聴く“コントロールルーム”」と「音を録る“収録ブース”」に分かれています。
コントロールルームからはディレクションを行う偉い人が指示を出し、ブースでは声優が喋ったり、ギタリストがギターを弾いたりする、そんな流れで収録作業が行われます。
ラックには複数のアウトボード(やや乱暴に言えばエフェクターのようなモノ)が並んでいる。MOHOG AUDIO MoFET76があるのが個人的にはアツい。マイクプリアンプはAMS Neve 1073DPAとFocusrite ISA220という鉄板のラインナップ
坂本氏
コントロールルーム、ブースともに壁はグレー基調で、木目の部分はすべて本物の木を使っています。カラフルな内装だと、声優や演奏家の方の洋服が沈んでしまうので、スタジオでの写真が映えるように背景として落ち着いたトーンを目指しました。
個人的に一口坂スタジオが大好きだったので、内装は少し影響を受けているかもしれません。
続いてはすぐ横の収録ブースへ。ノイジークロークの収録ブースは1か所ですが、部屋の前後で音の響きが異なるのが非常にユニークです。
声を録るときは反響を押さえた部屋の奥側、楽器を録るときは少し響きを残した部屋の手前側にマイクを立てて収録。一部屋で異なる残響をコントロールしている匠の技が光ります。
高性能なマイクは周りの音をよく拾ってしまうため、録音を行うブースは可能な限り静かであることが望ましい。ただ、完全な無音は五反田の商業ビルではなかなか難しい。このために道路から遠い8階という高層階を選び、さらに場所も大通りから一番離れた箇所にブースが設置されている
音楽スタジオにおけるイマーシブとは、一般的には“複数のスピーカーが設置されており、Dolby AtmosやAuro-3Dなどマルチチャンネル規格に対応しているスタジオ”を指します。ノイジークロークのイマーシブスタジオではDolby Atmos(7.1.4ch)対応の立体空間音響制作が可能となっています。
いきなり7.1.4chと言われてもよく分からないと思いますが、例えば「5.1chサラウンド」は5個のスピーカーと1個のサブウーファーに囲まれた場所で音を聴きます。それでは7.1.4chはというと、7個のスピーカーと1個のサブウーファーに加えて、天井に4個のスピーカーが付いている空間を指しています。
上方向にスピーカーがあると、上空を飛び回るヘリコプターや天候変化などをよりリアルに感じられます。複数のスピーカーの中で音を聴く、あるいは作ることで、立体的な=没入できるサウンドを実現できるというわけです。
一般のご家庭で同じ環境を再現するのはほぼ不可能ですが、今はDolby Atmos対応のヘッドホンやサウンドバーで気軽に試すこともできます(とはいえ普及はまだまだこれからです)。
坂本氏
イマーシブスタジオを社内に作った理由は、社員がいつでも触れるようにしたかったから。日々触れることで実力が上がったり、新たな発想が生まれたりするはずです。
ゲームサウンドのサガとして「良い音で作ったものを、いかにそのまま圧縮するか?」は常に考えなくてはいけませんが、やはり最初に作るサウンドは最大限良い環境で作るべきだと考えています。
来た道を戻って、エントランスの真ん前に位置する会議室まで来ました。大型のディスプレイとモニタースピーカー、そして見たことのない照明が目を引く大部屋です。
この会議室は打ち合わせ目的だけでなく、収録の控え室としても使われているそう。スタジオで再生されている音声をそのまま再生できるような設計となっており、収録ブースの内部もカメラで確認できます。解放感を出すために天井をぶち抜いて高くしており、簡易防音も施されています。
坂本氏
会議室って、荷物を置くところに悩みますよね?それがお客様にとっては煩わしいので、荷物を置くための8人掛けベンチを壁側に設置しています。
ベンチ内にはものが置けるようになっていて、中にはボードゲームも用意しています。
三叉路から左の扉に向かうと執務室があります。ここではクリエイターの皆さんがDAWを用いて効果音を制作したり、作った音素材のゲームエンジンへ組み込んで確認したりしています。オフィスにいるのは効果音制作のメンバーで、コンポーザー(作曲家)はリモート勤務とのこと。
効果音はライブラリと呼ばれる市販の素材集を加工するか、シンセサイザーでゼロから制作するか、あるいはマイクで収録を行うことで制作されます。効果音チームはReaper、作曲家チームはCubaseをメインDAWとして使用し、効果音チームのヘッドホンはTAGO STUDIO T3-01で統一されています。
神山
余談ですが、私も偶然T3-01を8年ほど使用しており、勝手にシンパシーを感じていました。
ノイジークロークではヘッドホンのみ統一で、Audio I/0や液晶モニターはそれぞれとのこと。使用機材もクリエイターによって独自色が出ていました。
坂本氏
でも、クリエイターにしては整理整頓されていますよね?実は各デスクには引き出しがないんです。文房具などはオフィスの一角にまとめて用意してあります。
引き出しの代わりに全員分ロッカーがあり、ここは郵便受けとしても機能しています。
一般的な音楽制作スタジオには高級なスピーカーがあり、音の反響を抑えた防音室があり、とにかく「音を正確に聴く」ことに特化しています。でも、ほとんどのゲームプレイヤーはコンシューマーゲームをリビングなどの部屋にあるテレビで遊んでいるはず。
「実際の家に近い音響」をオフィス内に用意したのが、このホームラボです。
6畳一間の空間で、あえて防音や吸音は最低限。スピーカーも民生機でDolby Atmosが再生できるSONY BRAVIA Theatre Quad(民生機と言っても30万円ほどの製品ですが)、テレビに近い音が鳴らせるAVANTONEなどが導入されていました。
スタジオ、会議室、執務室をまわったところで、オフィスに到着してから3時間が経過していました。
ついつい長居をしてしまったのは、どの空間もホスピタリティに溢れていたから。待ち時間の多いエントランスには映像や音声によって飽きさせない工夫が施されており、会議室には荷物が置けるようベンチが配置されていたり、スタジオも「演者の服装が溶け込みすぎないように」とグレー配色の落ち着いた空間にされていたり――どの空間も来てくれる誰かのことを考えて設計されたオフィスでした。
取材にお付き合いいただいた坂本さん、ノイジークロークの皆さん、ありがとうございました!
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