インディーゲームパブリッシャーに聞く! Vol.03「ウィッシュリスト登録数300万オーバーの作品でもプロモーションの方針は変えていない」

2024.08.07
注目記事ゲームの舞台裏インタビュー
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インディーゲームを世に送り出す「インディーゲームパブリッシャー」。その存在は知っていても実際の役割を知る機会はあまりなく、どんなことをしているかわからない、なんだか実態がつかめないという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

本連載「インディーゲームパブリッシャーに聞く!」では、そんな疑問の数々をインディーゲームパブリッシャーに直接質問し、その役割や実情を伺っていきます。

今回、インタビューに応じていただいたのは、テキサス州ダラスを拠点とするストラテジーゲーム専門パブリッシャー「Hooded Horse」。同社の概要やビジネスモデル、同社がパブリッシングした『Manor Lords』などについてCEOのTim Bender氏にメールでインタビューしました。

※ 本記事はメールインタビューをベースにしつつ、以前掲載したインタビュー記事を再編・構成しています

TEXT / 浜井 智史

INTERVIEW&EDIT / 藤縄 優佑

目次

「ストラテジー」ジャンルに特化したパブリッシャー「Hooded Horse」

Hooded Horseロゴ

――Hooded Horseさんについて教えてください。

Hooded Horseは、ストラテジーやタクティカルゲームに特化したゲームパブリッシャーです。これまで、『Against the Storm』や『Old World』、『Terra Invicta』などをリリースしています。

2024年4月には、中世風の世界を舞台にしたストラテジー『Manor Lords』をリリースしました。

メールインタビューに応じていただいたTim Bender氏

――なぜストラテジーに特化したパブリッシャーを起ち上げたのでしょうか?

ストラテジーやタクティカルゲームが個人的に好きなジャンルで、理解度も高かったことも理由の一つです。また、このジャンルは競争相手が少ないと考えていました。もちろん、Paradox Arcといった先駆者はいましたが、もう1社くらいであれば、自分の創りたい会社が新規参入できる余裕があると感じました。

私が自らの会社に求めた理念は、独立性の高い小規模な開発スタジオを支援し、その独立性を保ったまま活動できるようなパブリッシングでした。とりわけ、小規模な開発スタジオをサポートしたいと考えていました。

Hooded Horseの起ち上げのなか、最初に出会ったタイトルは『Terra Invicta』だという

そういった小規模なスタジオは、ストラテジーゲームのようなコアなタイトルを手がけることも多いです。しかしそれらのジャンルは、一定のクオリティを求めるなら長い開発期間が必要な上、いくらクオリティが高くても無数のタイトルが埋もれてしまいます。プレイヤーが1作品につぎ込む時間が膨大で、他作品に手を出す頻度が低いからです。

利益率も決して高くはなく、開発を続けるには厳しいジャンルですが、それを待ち望む熱心なファンも存在します。彼らにきちんと作品を届けて、プロジェクトを成功させることが、小規模なスタジオがゲーム開発を続けていく上で大切なことだと考えています。

もちろん、このジャンルには長所もあります。例えば、一度ファンの心を掴むことができれば長期間プレイしてもらえますし、作品がヒットすればDLCも出しやすくなります。また、他のジャンルと比較して、やや高額でも作品を購入してくれるプレイヤー層がいるように思います。その他にも数えきれないほどの強みがあります。

――今後のパブリッシングに関して、IP(ゲームタイトルやキャラクターなどの著作権)を獲得する予定はないのでしょうか。

IPの獲得は考えていません。正直、獲得したところで、私たちに良い使い道があるのかどうかも分からないので。

ゲームに対する真摯な姿勢が『Manor Lords』の売上に影響を与えた

――『Manor Lords』のウィッシュリスト登録数は2022年にデモ版を公開した時点で50万件、最終的に300万件以上を記録しています。売上本数も、リリースから2日で100万本を突破し、発売3週間で200万本を達成しています。これほどの大ヒットは予想していましたか?

『Manor Lords』の成功は、我々の期待を大きく超えたものでした。Steamの最高同時接続数も、『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』のようなヒット作品をはじめ、他の同ジャンルの作品を上回るとは思っていませんでした。

『Manor Lords』トレーラー

――Hooded Horseとして実施するプロモーションにおいて、本作ならではの施策はあったのでしょうか。

特別なプロモーションは打っていません。どのような場合であれ、プロモーションの際はできるだけ多くのプレイヤーにゲームプレイの様子を発信することで、プレイヤーの需要を見極めることが肝心だと思います。

『Manor Lords』のプロモーションにおいても、プレスリリース、ストリーマーやインフルエンサーへの発信、ストアページのデザインなど、あらゆる面で他タイトルと同様の施策を打ち出しました。

他タイトルとの大きな違いは反響の大きさで、多くのストリーマーが本作をプレイし、送付したプレスリリースもこれまで以上に取り上げられました。

――デモ版の時点でウィッシュリスト登録数が50万件も増加し、最終的には300万件を突破した理由について、どのようにお考えでしょうか。

多くのプレイヤーが『Manor Lords』に求めているのは、リアルな世界観で、自らが領主となり都市を管理することです。その期待に応えるため、本作は魅力的で没入感のあるプレイ体験を追求しています。

プロモーションの際は、実際のゲームプレイ画面を資料に用いたほか、直接的なコミュニケーションを心がけるなど真摯にプレイヤーと向き合い、本作の魅力を可能な限り広範囲に紹介できるよう尽力しました。それが実を結び、本作は多くのプレイヤーを魅了し、我々がリリースしたタイトルで最多のウィッシュリスト登録数を記録しました。

しかし、今回のように1作だけ大ヒットタイトルを生むのがパブリッシャーとしてベストとは思っていません。私たちが関わるすべてのタイトルがプレイヤーに支持され、成功することが重要だと考えています。

リリースするすべての作品がこれほどまで幅広い層に支持されるとは限りませんが、大切なのは、各作品に強い魅力を感じてくれるプレイヤーを見出し、誠実に届けることです。

――ウィッシュリスト登録数はやはりゲームの売上に反映されるものでしょうか。

ウィッシュリスト登録数は、売上本数に反映される傾向が強くみられます。なぜなら、ウィッシュリストの登録は、誠実なマーケティングを行った(ゲームプレイに焦点を当て、プレイヤーが楽しく遊べるゲームであることを提示すること)結果として発生するものだからです。

また、ストリーマーによる配信を視聴した方たちがウィッシュリスト登録に導かれる流れを加味しても、その傾向はたしかだと言えます。配信を見た人は、直接ゲーム内容を知った上で興味を持ち、それを遊びたいと望んでウィッシュリスト登録をするのですから。

――独力でゲームをリリースするゲーム開発者さんに向けて、プロモーションにまつわるアドバイスがあればお聞かせください。

ご自身が開発するゲームのターゲット層がどこにあるのかを慎重に見極め、プレイヤーが望むユニークな体験を提供することが重要だと思います。その場合、ゲームプレイの様子を可能な限り広くプレイヤーに発信するのが効果的でしょう。

Hooded Horse側のレベニューシェアは35%。開発者と誠実に向き合った契約方針

――開発者さんとパブリッシング契約を結ぶ際の条件などについて教えてください。

我々が開発チームとパブリッシング契約を結ぶ場合は、主に2種類に分けられます。

まず一つ目は、資金提供を必要としているソロもしくは二人組体制で開発されている小規模なゲームです。こうしたゲームに対しては、基本的に「開発費用の投資」「マーケティング」を行います。

資金面で安定している大きな開発スタジオは、開発費用などを自分たちで賄えていることが多いので、マーケティングに限定して契約します。もちろん、ローカリゼーションやQA(品質保証)など、パブリッシングのサポートは行いますが、開発費用の投資はしません。

開発費用の投資を必要とする小さな開発スタジオの場合は、そもそも必要とする開発資金も少ないため、全体的な出資額はあまり高額ではないです。

――開発者さんとのレベニューシェア(収益分配)はどのように決定しているのですか?

マーケティングのみの契約であれば、収益の35%をパブリッシャー側の取り分として、残りの65%を開発側の取り分とするのが弊社のスタンダードです。

ただし、パブリッシャー側の取り分が35%を下回るような特殊なケースもあります。例えば、契約以前にウィッシュリスト登録数がすでに55万件を超えていた作品などです。

開発費用の投資を行う場合は、パブリッシャー側の取り分が35%よりも少し大きくなりますが、それでもリーズナブルになるよう調整しています。

――リクープ(※)について、どういった取り組みをしていますか?

※ 費用などを回収すること。ゲームリリース後、リクープが完了するまでパブリッシャー側が売上をすべて獲得するケースがあり、Hooded Horseはこれを指して話している

リクープのような制度は一切ありません。リリース初月から、数年間の月間収益配分に至るまで、この比率は変わりません。

聞いた話によると、パブリッシャー側の取り分が30%で、リクープも行う契約形態もあるようです。その比率が業界のスタンダードなのかどうかは分かりませんが、私たちはリクープを行わない代わりに、取り分を35%に設定しています。

発売直後の売上を確保するリクープを行うより、長期的にやや高めの収益配分をいただく形式のほうが、より開発者さんのことを考えているように思います。

リクープとは結局、ゲームが失敗する責任をパブリッシャーから開発者さんへと転嫁させるものでしかありません。しかし、多くのタイトルを抱えているパブリッシャーに対して、開発者さんは一つ一つのタイトルの成否に賭けている部分が大きいです。こうしたリスクに関しては、開発者さんよりもパブリッシャー側が負うべきだと考えています。

 

『Manor Lords』のヒットの背景には、特別な施策が存在したわけではありません。作品そのものの魅力と、プレイヤーが求める体験を分析・発信するHooded Horseの誠実な姿勢が合致した結果といえるでしょう。

本連載では引き続き、インディーゲームパブリッシャーにフォーカスしたインタビューを行います。

「Hooded Horse」公式サイト『Manor Lords』公式サイト
浜井 智史

ゲームメーカーズで編集や諸業務に携わっています。『星のカービィ』シリーズと『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズが好きです。

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