【cluster革命前夜 注目作品インタビュー Vol.01】「実現できること」を出発点にゲームの仕様を決めていく。「撮れ高」から『Don’t Hit The Rabbits!』が生まれた経緯を聞いた

2024.03.30
注目記事ゲームの舞台裏インタビュー
この記事をシェア!
twitter facebook line B!
twitter facebook line B!

「撮れ高」をテーマにしたワールドを投稿するコンテスト「clusterゲーム革命前夜」連動企画として、ゲームメーカーズ編集部が気になるワールドをピックアップ!

砲弾をタイミングよくバットで打ち返してボスを倒すワールド『Don’t Hit The Rabbits!』の制作者に、テーマを企画として落とし込むまでのプロセスや制作で苦労したポイントなどを聞きました。

INTERVIEW / 神谷 優斗, 神山 大輝

TEXT / 神谷 優斗

目次

KoNatsuさん

3Dアバターを制作してBoothで販売するほか、clusterのワールド制作も行う。「clusterゲーム革命前夜」では、飛んでくる砲弾をバットで打ち返してボスを倒すワールド『Don’t Hit The Rabbits!』を制作。

「clusterゲーム革命前夜」参加の経緯

――自己紹介をお願いします。

KoNatsuと申します。普段はclusterやVRChatで使えるアバターをBoothで販売したり、clusterでワールドを作ったりしています。過去にはclusterで開催された「アバターマーケット」や、VRChatで行われた「バーチャルマーケット(Vket)」などのイベントにも出展しました。

――「clusterゲーム革命前夜」に参加した経緯を教えてください。

以前「ClusterGAMEJAM」に参加したことがあり、今回もその流れで面白そうだなと思って参加しました。

ワールド制作の自由度を考慮し、Unityを採用

――今回制作された『Don’t Hit The Rabbits!』について、簡単に紹介をお願いします。

本作はウサギを守りつつ、敵から飛んでくる砲弾をタイミングよくバットで打ち返して敵を倒すのがコンセプトのゲームです。

「砲弾に交じって飛んでくるウサギを打ち返してしまうと、ウサギが怒ってミサイルで復讐しにくる」というかわいいペナルティが、今回のテーマである「撮れ高」につながっています。

――本作はUnity(Cluster Creator Kit ※1)とワールドクラフト(※2)、どちらを使用して作られているのでしょうか?
※1 clusterのワールドを製作できる、Unity用のテンプレートプロジェクト。制作したワールドは、Unityから直接clusterにアップロードできる
※2 cluster内でワールドを制作できるツール

UnityCluster Creator KitCCK)を採用しています。CCKの方ができる表現の幅が広く、ワールド制作の自由度が高いためです。

開発時のエディタ画面

――Unity(CCK)のほかに使用したツールはありますか?

モデル制作にはBlender、そのほかにもAdobe IllustratorAdobe Photoshopを使用しています。

筐体などの3Dモデル制作にはBlenderを使用

「配信者が驚くような仕組み」から発想したゲームシステム

――今回のテーマ「撮れ高」から、どのようにしてワールドのアイデアを生み出したのでしょうか。

「撮れ高」という言葉から、配信者が驚くような仕組みがあるとよいと思いました。

そこから発想した「思わずやりたくなるちょっと悪い事を用意して、それを行ってしまうと罰が下る」アイデアが、本作の「ウサギを打つと、罰としてミサイルが飛んでくる」ゲームシステムにつながりました。

――アイデア出しから、アイデアを具体的な仕様に落とし込むまでのプロセスを具体的に教えてください。

私はどちらかというと、先にCCKの仕様から「実現できること」を考えます。そこから「実現できること」にゲームデザイン的な要素を組み合わせてゲームの形にしていきます。今回は、最初に思いついた「敵からプレイヤーめがけて飛んでくる弾を打ち返すゲーム」をベースに、細かなアイデアをノートに起こしつつ仕様を固めていきました。

――clusterで実際にワールド制作を行った際、どのような手順で行いましたか?

本作は2人チームで開発しており、私はデザインを、もう1人のチームメンバーはロジックを担当しています。

最初は思いついたゲームが本当にCCKで実現できるのかを確かめるために基本ロジックの実装から始めました。

敵からの発射物をプレイヤー付近に落とすロジックを作成したあたりから、実装と同時に3Dモデル制作を進めていきました。その後は出来上がった3Dモデルを都度ゲームに組み込んでいく形で進行していきます。ロジックはモデルの見た目に影響を受けないように作成し、見た目に変更があってもロジック側に影響が出ないPrefab作りを意識しています。

デザイン担当者はBlenderで作成した3DモデルをすべてUnityパッケージにして渡すことで、ロジック担当者のモデル取り込みの手間を減らしています。

本作の制作フロー

世界観に統一感を生み出す手法

――エフェクトや筐体、ボスキャラクターなどのアセットは、どのようにして用意しましたか?

サウンドとHumanoidアニメーションは外部のものを使い、エフェクトや3Dモデルは自作しています。エフェクト用のパーティクルは、Adobe Illustratorで用意した個々のイラストをUnityでパーティクルとして組み上げるフローで制作しました。

自作した爆発エフェクト

筐体ボスキャラクターなどの3Dモデルは、Blenderでのモデリングの後にAdobe Photoshopでテクスチャリングを行っています。

――カートゥーン調のエフェクトなど、世界観がうまく統一されているように感じました。世界観を表現するために気を付けていることがあれば教えてください。

「古いアーケードゲームっぽくしたい」のように、まずは大まかな世界観の雰囲気を決め、そこから世界観と統一感のあるストーリーを考えています。その後、緑だったらこの緑、赤ならこの赤といった配色パターンを決定します。統一感を出すために、あまり多くの色を使わない、フォントを統一する、文字の修飾は黒い淵・パキッとした影・ドットのみ使用するなどにも気をつけています。

何度でも遊べるように「決め打ちの実装」はしない

――発射物や砲台、落下位置などを決める仕組みや、ボスキャラクターのアニメーション遷移などはどのように実装されているのですか?

できるだけ決め打ちの実装にはしたくない」という思いがあり、発射物に関してはプレイヤーに対応したランダムな位置に飛んでくることを意識しています。

発射物のロジックでは、まずステージ上のプレイヤーの近傍2m~4mのランダムな位置を落下地点に決め、そこに落下予測地点を示すオブジェクトを生成します。その後、落下地点へ正確に発射物が落下するよう、砲台の水平角と仰角を変更し、初速固定で発射物を生成しています。

落下地点に対して放物線を描く経路鋭角鈍角で2つ求まります。どちらの経路にするかで打ち返す難しさが変わるため、難易度調整のためにもランダムで経路が選択されるようにしました。

砲弾の発射まわりの処理

敵のアニメーションはシンプルに実装しています。通常はアイドルアニメーションを再生し、「発射するとき」「被弾したとき」「ゲームクリア」「ゲームオーバー」それぞれのシグナルを受信してアニメーションが切り替わる仕組みになっています。

敵のアニメーション遷移ロジック

――実装やゲームデザインなどの面で、複数人プレイに対応するにあたって試行錯誤したエピソードがあれば教えてください。

本作では、プレイ人数に合わせて同時に発射される弾の数が変わるようにしています。前述した発射物計算のロジックをステージにいるプレイヤーの数だけ繰り返し、それぞれがランダムな弾、角度、位置で着弾するようにしました。

しかし、同期の関係でオーナー以外のプレイヤーは「打ち返せるタイミングと見た目にずれが生じてしまう」「打ち返しているのに被弾してしまう」ことが頻発しました。そのためオーナー以外は被弾しやすく、人数が増えた分だけ難度が上がってしまったことで、やむなく「ソロプレイ(複数も可)」と表記することになりました。

clusterならではのメリットは?

――clusterでゲームを制作する上で、clusterならではの利点はありますか?

利点としては、簡単にマルチプレイのメタバースゲームが作れることだと思います。スクリプトが使えるようになってから、実装の自由度がグンと上がった気がします。コンポーネントによるノーコード実装も利点です。ただ、受信者と型によって思い通りにイベントを送れなかったり、コンポーネントのパラメータをどう設定していいかわからなかったりと最初は戸惑うかもしれません。

――逆に、clusterならではの困りごとはありますか?

困りごとは、同期システムの都合上、オーナーと参加者にプレイフィールの差が生じてしまうことです。

また、VRとデスクトップによって共通の挙動になってしまうことも困りごとのひとつです。「VR版ではアイテムの好きな位置をつかめるが、デスクトップ版ではつかむ位置を固定する」のように、挙動を分けられるようになるとうれしいです。

デザイン面・ゲーム面でこだわったポイント

――制作にあたり、最もこだわったポイントは何でしょうか?

デザイン面では世界観にこだわりました。統一感を重要視し、テキスト1つ1つのテイストが合うよう意識しました。打ったとき、被弾したとき、ダメージを与えたときに出るエフェクトなども、統一感を持たせるためにすべて自作しています。

ウサギを打ったときに出るエフェクト(左)と砲弾を打ったときに出るエフェクト(右)は個別に作られている

ゲーム面では、結果としてソロプレイ推奨のゲームにはなりましたが、途中参加ができる点と繰り返し遊べる点は意識しました。ゲーム側の都合で、ユーザーにインスタンスの立て直しや待機を強いることができるだけないようにしたいと思っています。

――制作で苦労したエピソードはありますか?

デザイン面では、世界観を決めるのに苦労しました。本作を作るにあたり、入口とゲームのプレイフィールドをぶっつりと分けるのではなく、ストーリーの流れを感じさせたい思いがありました。そこで、筐体内にゲートを置くことで「100円を入れてゲームの中に入る」流れを表現しました。

ゲーム面では、落下地点に対して正確に発射物を落とす仰角計算の実装が、計算間違いによって何度もずれてしまい苦労しました。最終的に誤差の無い計算アルゴリズムができ、予測地点に正確に着弾するようにできました。

――これからの作品も楽しみにしています。ありがとうございました。

『Don’t Hit The Rabbits!』紹介ページ「clusterゲーム革命前夜」イベント特設ページcluster 公式サイト
神谷 優斗

コーヒーがゲームデザインと同じくらい好きです

関連記事

インディーゲームの「絶対に勝つための必殺技」とは。3名の敏腕プロデューサーが企画・開発・販売について熱く語り合った講演をレポート
2024.04.30
【cluster革命前夜 注目作品インタビュー Vol.03】ゲーム内の体験で、プレイの外にある日常にも影響を与えたい。『The World Echo Seekers』
2024.04.27
メールマガジンに関するアンケートを実施中!ご意見・ご要望をお寄せください【回答期限:5/7(火)午前10時】
2024.04.26
プログラミング不要の「ティラノビルダー」で短編ノベルゲームづくり Vol.1―キャラクターを表示してしゃべらせてみよう
2024.04.25
【自作ゲームのPV制作 お悩み相談会】編集部員が作ったPVに対してプロが実践フィードバック!動画編集のコツが分かる座談会の様子をお届け(Mr.GAMEHIT監修)
2024.04.24
UE6にはフォートナイト用の言語「Verse」が導入される?GDC 2024のVerse講演から見るアンリアルエンジンの今後
2024.04.22

注目記事ランキング

2024.04.25 - 2024.05.02
1
【2022年5月版】今から始めるフォートナイトの「クリエイティブ」モードープレイ開始から基本的な操作方法まで解説
2
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧
3
『フォートナイト』で動く本格的なゲームが作れるツール「UEFN」とは?従来のクリエイティブモードから進化したポイントを一挙紹介!
4
【CHALLENGE1】「クリエイター ポータル」を使って、UEFNで作成した島を世界中に公開する
5
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.5「島の設定」
6
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.1「アイテム系」
7
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.7「NPC系」Part1
8
まるで『マイクラ』?ボクセル地形を生み出す無料アセット「VoxelPlugin Free」で”地形を掘ったり積み重ねたり”して遊んでみよう
9
UEFNで使えるプログラミング言語「Verse」のノウハウが集結。『UEFN.Tokyo 勉強会 03 Verse Night』レポート
10
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.2「ユーティリティ系」
11
【STEP2】UEFNの基本的な使い方を覚えよう
12
フォートナイトとUEFNがv29.30にアップデート。すでに公開した島をプレイできないようにする機能が導入される
13
【CHALLENGE3】UEFNの機能「ランドスケープ」を使ってオリジナルの地形を作る
14
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.8「ゾーン系」
15
フルカラー書籍「UEFN(Unreal Editor For Fortnite)でゲームづくりを始めよう!」、ついに本日発売!全国書店で好評発売中!
16
【CHALLENGE2-1】フレンドと一緒にゲームを作ろう――UEFNプロジェクトをチームメンバーとリアルタイムで共同編集する
17
『フォートナイト』で建築ビジュアライゼーション!?UEFNでオリジナルの世界観をどう作り上げたか、その手法を解説【UNREAL FEST 2023 TOKYO】
18
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.10「UI系」Part1
19
【STEP4-1】コース外に出たらデスする仕組みを作る
20
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.6「チーム・対戦系」Part1
21
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.7「NPC系」Part2
22
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.4「ゲームシステム系」
23
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.6「チーム・対戦系」Part2
24
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.3「プレイヤー系」
25
「UEFN」って実際どうなの? 編集部が3時間で「みんなで遊べるアクションゲーム(?)」を作ってみた
26
【STEP5-1】スタート時のカウントダウンを作る
27
【STEP3】オリジナルのアスレチックコースを作ろう
28
【STEP4-2】リスポーンとチェックポイントの仕組みを作る
29
【STEP6-1】「オリジナルキャラクターを登場させよう」――Fabでアセットをダウンロードしよう
30
【STEP4-3】仕掛けを使って「坂を転がるボールのギミック」を組み込む
VIEW MORE

イベントカレンダー

VIEW MORE

今日の用語

ローカル座標
ローカルザヒョウ 各オブジェクトの原点を基点とした座標系における、特定の一点を示した座標。
VIEW MORE

Twitterで最新情報を
チェック!