「鉄拳」流 ユーザーコミュニティとの付き合い方。競技シーンに対し、公式としてどう関わるか【台北ゲームショウ2024】

2024.02.22
注目記事ゲームづくりの知識ゲームの舞台裏講演レポート
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2024年1月25日〜28日(現地時間)に開催された『台北ゲームショウ2024』。開催に併せて、「Asia Pacific Game Summit(以下、APGS)」が25・26日に行われました。

台北市コンピュータ協会が主催するこの催しでは、台湾のゲーム産業の促進と国際交流を目的とした、ゲーム開発・販売者に向けたカンファレンスが実施されます。


本稿では、26日に行われた、バンダイナムコエンターテインメント 「鉄拳」シリーズディレクター 原田 勝弘氏、プロデューサー Michael Murray氏による講演『How Tekken Series Operate Users Community through Events/eSports(鉄拳シリーズがイベント/eスポーツを通じてユーザーコミュニティを運営する方法)』をレポートします。

TEXT / 馬波レイ

EDIT / 神谷 優斗

目次

登壇した原田氏(右)とMurray氏(左)

SNS登場前後で大きく変化した、メーカーとユーザーの関わり方

原田氏とMurray氏はシリーズ最新作『鉄拳8』の概要を説明したのちに、本題であるユーザーコミュニティの重要性について講演をはじめました。

最初に原田氏が語ったのは、ゲームを売る側と買う側の関係性の変遷です。

SNSが登場するまでは、地上波テレビなどのマスマーケットに広告宣伝を打ち、ブランド力を見せることでユーザーがゲームを購入する動機を獲得していました。

しかし、SNSによって“ブランド力”という魔法が通じなくなりました。つまり「そのゲームをどんな人たちがを作っていて、どういうサービスをしてくれるのか」ということをユーザーが見破れる社会になったということです。

対戦格闘ゲームのシーンにおいては、SNSの登場よりも前に独自のコミュニティが発展していたと原田氏は語ります。具体的には、1990年ごろから作り手が直接ゲームセンターに足を運び、ユーザーとのコミュニケーションをダイレクトに行っていたそうです(※)。
※ アーケード版『鉄拳2』の稼働開始が1995年。mixiのサービス開始が2004年

余談ですが、筆者は同時代に「鉄拳3」の攻略記事に関わっており、“新宿平八”を名乗る原田氏がゲームセンターでゲーマーと直接コミュニケーションを取るなかで、ゲームをよりよくするためのフィードバックを得るのを目の当たりにしてきました。原田氏とやり取りするうちに鉄拳の開発者へと進んでいった人物もいます。

長きにわたりユーザーとコミュニケーションをとってきたからこそ、原田氏は「ユーザーコミュニティはゲームの評価を位置づける最重要項目であり、積極的に関わっていくべきだ」と結論づけるに至ったそうです。

Murray氏もそれを補足する形で「信用に足る作り手であり、かつユーザーがそのゲームについての意見を伝えられる、原田さんのような“顔役”が必要」なのだと語りました。

競技シーンとの関わりでは現地コミュニティを大事に

続いて、現在の鉄拳コミュニティのあり方として、競技シーンとの関わり方が語られました。

現代のeスポーツシーンにおいて、世界規模の大会は当たり前のように開催されています。「鉄拳」においても、1年かけて世界各地を転戦し、その年のチャンピオンを決定する「鉄拳ワールドツアー」が開かれています。

ワールドツアーについて、原田氏は「大手パブリッシャーであれば、たくさんお金を使って各国で公式大会を開催していけばうまくロードマップが繋がると思われがちだが、それだけではうまくいかない」と言います。

というのも、対戦格闘ゲームは長くプレイしているコアなユーザーが多くいるジャンルであり、各地域にはすでに伝統的な大会が存在するためです。コミュニティから大会を奪うような形でワールドツアーを行えば失敗するのは明白であるため、コミュニティに大会を任せながらも公式がどれだけサポートしてあげられるか、といった関係性が非常に重要である、と原田氏は説明しました。

「そうしたコミュニティでは、会場や機材のサポートは企業から受けたいけれど、ユーザーを集めて盛り上げる“運営”そのものは彼ら自身が手掛けたいという思いがある。それに対して企業がどこまで踏み込めばよいのか、距離感がすごく難しい」と原田氏。それを受けて「(タイトル発売後のPR予算獲得を含めて)年単位で継続的に続けられるシステム作りも重要だ」とMurray氏は続けました。

既存の大会と協力する例として挙げられたのは、「Evolution Championship Series(EVO)」との関係性です。最初に原田氏たちがEVOを訪れたときの100人規模から数万人規模へと拡大するに従い、「大会開催時に新情報を公開する」などの連携も生まれてきました。ただし、それにはイベントのスケジュールと開発のスケジュールをすり合わせるなどの苦労があることも語られました。

ユーザーからの信頼を得るSNSの運用ノウハウ

SNSには、ユーザーとの直接的なコミュニティが取れる分、リスクや苦労もあるそう。「正解」がなくマニュアル化できない点が最も難しいと原田氏は語ります。

例えば、同じ発言内容であっても、発言者が原田氏とMurray氏とでは(発言者の性格やキャラクターの違いで)伝わり方が変化します。最適な運用方法は経験で見極めていく必要があるそうです。

運用していく中でユーザーからの信頼を得るために重要視している点としては、原田氏から「どこまで本音で話せているか」が、Murray氏から「発言の透明性」が挙げられました。

SNS運用では、企業内での声に悩まされることもあるといいます。原田氏いわく「一番の障害になるのは経営層」。刺激的な発言をすると「これは炎上なのではないですか。もっと無難な発言をしなさい」と盛り上がりに水を差してくるのだそうです。それを受け入れてしまうと発言がどんどんと丸くなり、SNSの価値がどんどんと下がってしまうことになる。そうならないためには、ユーザーとの距離感を探り、また経営層にも理解を求めていくことが大事であるそうです。

Murray氏は距離感がよりユーザーに近いインフルエンサーとの関係性にも触れました。ゲームをPRする上で、SNSや配信メディアにおける影響力の強いインフルエンサーとの関係はとても重要だとした上で、「彼らによって自分の意見が捻じ曲げて伝えられないよう気をつける必要がある」と付け加えました。

鉄拳プロジェクトの場合は、Murray氏との付き合いが長く、考え方を理解しているインフルエンサーに仕事を依頼しているそう。そうした関係性がない場合は、代理店に相談するなど人選が大事であるとのことです。

ブランドを傷つけようとする発言への対応にも触れた質疑応答

講演の最後には質疑応答の時間があり、立ち見がでるほど詰めかけた来場者からは多くの質問が寄せられました。ここでは、その中からいくつかの解答を抜粋して紹介します。

「キャラクターバランスは、世界規模での膨大なデータを使って調整している。大会で優勝したキャラクターが強く見えるかもしれないが、それは使っているプレイヤーの腕前がすごいだけ」(原田氏)

「参加者がパッションを共有できるオフラインでの大会が一番盛り上がると考えている」(Murray氏)

「(ダイバーシティやポリティカルコレクトネスの観点から)ブランドを傷つけようとする発言については、日頃からちゃんと勉強して自分なりの意見を持っておくことが大事。大学の研究室と共同で起業してそうした問題についての勉強を行い、シンポジウムや書籍という形にしている」(原田氏)

来場者からの質問に答える原田氏とMurray氏。「臭豆腐が苦手な台湾人っているのでしょうか?」との原田氏の逆質問で場が和む場面もあった

「鉄拳」公式サイト「Asia Pacific Game Summit」公式サイト
馬波レイ

90年代よりライター業をスタート。PCやゲーム系の雑誌・WEBメディアを中心に執筆活動を継続中。好きなゲームジャンルはアクションシューター(2D・3D問わず)だが、新しいアイデアやテクノロジーが感じられるゲームには目が向きがち。趣味はプロレス観戦。

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