登壇したのはサイバーコネクトツー(以降、CC2と表記)開発部のシニア/エフェクトセクションリーダー 大塚航輝氏。入社から現在に至るまで、リアルタイムエフェクトの制作やディレクションに携わっています。
ゲームエフェクトが果たす役割
本講演におけるゲームエフェクトの定義
エフェクトは、視覚的な効果や演出を指しています。特に映画やゲームなどのメディア制作において、さまざまな場面や状況を効果的に表現するために使われます。
一方、ゲームエフェクトとは、ゲーム内で特定のアクションやイベントがリアルタイムに発生した際に、視覚的に表現される効果や演出のことを指します。
例えば、爆発・魔法の光・煙・火花などがゲームエフェクトに該当します。これらはプレイヤーに対して、ゲームの没入感や楽しさを高める役割があります。ゲームエフェクトがエフェクトと異なるのは、リアルタイムに発生するイベントに対する効果や演出である点です。
ゲームではプレイヤーが選択する行動により起きる現象が異なり、リアルタイムに状況が変化するのでそれに対応するエフェクトが必要になる
エフェクトなどのレンダリングにはプリレンダリングとリアルタイムレンダリングがあります。プリレンダリングは処理時間に余裕がある高品質な映像で使用される一方、リアルタイムレンダリングは毎フレーム計算して出力されるため、インゲームでの状況の変化に対応できます。
このため、ゲームエフェクトではリアルタイムレンダリングが主に使われています。
ゲームエフェクトの役割
ゲームエフェクトには以下の3つの役割があります。
①ゲーム内で起こっていることを分かりやすくする
②ゲーム画面を派手に・にぎやかにする
③ゲームを触った際の気持ちよさ・楽しさの向上
①の分かりやすさは、打撃時のショック系エフェクト、斬撃時のスラッシュ系エフェクト、属性を伴った際の炎や雷エフェクトなど、ゲーム内で起こった現象を視覚化する分かりやすさのことです。
②の派手さやにぎやかさは、攻撃が当たった際のリアクションです。これが小さいとプレイヤーはつまらなく感じてしまうので、インパクトや爽快さを感じられるように限界まで派手にしていきます。
③の気持ちよさや楽しさは、高速で移動する際のブラーや移動距離を分かりやすくするトレイル(軌跡)など、プレイヤー行動の気持ちよさや楽しさを向上させるものです。
ゲームエフェクト制作の基本
ゲームエフェクトは、パーティクルシステムを使用して作成します。パーティクルシステムには、アンリアルエンジンのNiagara・UnityのVFXGraph・自社ツールなどが挙げられ、CC2では主にアンリアルエンジンのNiagaraを使用しています(プロジェクトによっては自社ツールも使用)。
ゲームエフェクトの素材となるのがテクスチャ・メッシュ・マテリアルです。
テクスチャやメッシュは、3ds Max・MayaといったDCCツール(※)やAdobe Photoshopなどを用いて作成しています。マテリアルの作業では素材を表示するだけではなく、ノードベースのシェーダーを用いた作業も求められます。
※ Digital Content Creation。3DCGの統合制作ツールのこと
モデラーがテクスチャとメッシュを組み合わせてキャラクターを作成するように、ゲームエフェクトもテクスチャとメッシュを組み合わせて作成します。モデリングと異なるのは、パーティクルシステムでアニメーションを付けている点や、どんな効果音が入るかサウンドを意識する点、ゲームエフェクトの尺が適切かを気にする点などがあります。
作業上では修正作業が少なくなるように、なるべく本番想定の背景に合わせてゲームエフェクトを作成するようにしています。また、ゲームエフェクトが複数同時に再生されることもあるので、その際の印象にも配慮しています。
ゲームエフェクトがカバーする範囲と関わる職域
基本的に物理現象やゲームで目立たせたいものはゲームエフェクトで作成されています。会社によっては分業しているところもありますが、ゲームの「手触り」に関するものをゲームエフェクトで担当することが多いと大塚氏。
作業においては、主にモデラーアーティスト・背景アーティスト・テクニカルアーティスト・プログラマーとは常に協力関係にあります。ゲームエフェクトを理想的な機能に近づけつつ、「用意・準備・管理」がしやすいデータになるように他セクションとの協力が仕事の中で重要になると大塚氏。他セクションの仕事を理解しているとタスクを進めやすくなるため、専門外のことも気になったら積極的に学ぶ姿勢が業務に役立つそうです。
魅力的なエフェクトを作成するコツと手法
エフェクトを3つの要素に分ける
CC2ではエフェクトを「メインエフェクト」、「サブエフェクト」、「賑やかしエフェクト」を3つの要素に分類しています。
「メインエフェクト」は一番に見せたい必ず必要な要素、「サブエフェクト」はメインエフェクトの次に見せたい要素で、無いとエフェクトとしてもの足りなくなるものです。「賑やかしエフェクト」は無くても成立しますが、画面を華やかに見せてくれる要素です。
この3つの要素のバランスがエフェクト作成において大切となります。球状爆発のエフェクトを例に説明します。
メインエフェクト
この例では、メインエフェクトとなるのは爆発本体部分です。凝縮された膨大なエネルギーが瞬時に暴発するような質感イメージで作成し、色は2~3階調程度、多くても4階調に抑えて作成します。
色を増やすとメインエフェクトの質感のバランスを取るのが難しくなる、と大塚氏
サブエフェクト
サブエフェクトはリング状の部分です。メインエフェクトが見づらくならないように、マスク素材は1~2階調程度とし、他は半透明素材を使用します。
ディテールが細かいものはマスク素材にするとノイズのような見た目になり、全体的に印象を損なってしまうため、こうした素材はマスク素材にしないのがポイント
賑やかしエフェクト
賑やかしエフェクトは粒子や塵の素材です。主に精細さを表現する役割がありますが、処理負荷軽減の際には真っ先に見直しの対象となるところです。
それぞれのエフェクト素材を組み立てる
素材の全てが一律のタイミングで発生したり消滅したりしてしまうと、単調なエフェクトに見えてしまいがちです。このエフェクトではサブ→メイン→賑やかしの順番で、時間差で消滅させることで自然に見えるようにしています。
実際のゲームでは、爆発だけでなくチャージや発射エフェクトも制作しています。爆発の余韻をしっかり作ることで、爆発の規模感や熱量が伝わるようにしているそうです。
エフェクト作成の共通ルール
エフェクトを作成するにあたって共通する大切なことの1つに「統一感」があります。色味が4つ以上に増えてくると、まとまりが無くなってきてしまいます。なるべく近い色相にすることで、仕上がりが自然になります。
この爆発ではベースを黄色系のエフェクトで6~7割、オレンジの模様を2~3割にし、アクセントや強い発光感の緩和のために黒っぽい素材も混ぜている
また、アニメーションに緩急をつけることでメリハリのあるエフェクトになります。
ただし、大きなエフェクトの場合は、プレイヤーと距離が近い時にエフェクトが発生すると目がチカチカしてしまいます。こうした場合はアニメーションを調整して、あえて緩急をつけないこともあるそうです。
左のヌルっとした感じよりも右の緩急をつけたメリハリのあるエフェクトのほうが基本的に好印象になる
アニメ的な表現
CC2でよく用いられるアニメ的な表現をいくつかご紹介します。
レンズフレア表現や抽象的表現による誇張
十字のレンズフレア表現はアニメによって表現の幅があるため、さまざまなアニメを参考にテイストに合わせた表現をします。
また、イメージ背景を用いて、アニメらしさを表現することもあります。これは、現実には起こらないことでも威力を表現するために用いる抽象的な誇張表現です。
お化けブラー
いわゆるキャラクターの残像表現の1つで、キャラクターに指向性を持たせて形を崩すものが「お化けブラー」と呼ばれています。
崩れている度合いが高くスピードが速いほど有効な見栄えになりますが、形が崩れ過ぎてしまうと悪印象になるので注意が必要とのこと。また、ブラーはずっと表示するのではなく、遅い動きから急激にスピードアップしたときなどの緩急表現として使うとより効果的です。
2階調化によるアニメ的な表現
煙などリアル調なものをAdobe Photoshop・After Effectsで編集し、2階調化することで、アニメ調でありながらリアルな動きの素材を作成できます。
高速回転するメッシュ
高速回転を表現するメッシュは、メッシュを回転させるのではなく、テクスチャ自体を回転させたほうが高速に回転しているアニメーションに見せられます。
CC2のエフェクト学習方法──学習スタンスと課題内容
エフェクトアーティストの人口が少ないこともあり、世の中に出回っているエフェクトに関する情報は限られている、と大塚氏は言います。グラフィックの進化に合わせて必要なスキルも上昇傾向にあるため、自ら積極的に情報を入手する姿勢が大切です。
CC2ではエフェクト学習について以下の考えで臨んでいます。
①分解・分析・再構築のステップを踏む
②素材はシンプルに
③トライ&エラーを繰り返す
①分解・分析・再構築のステップを踏む
エフェクトを作成する際のステップを焚火の例で考えます。
分解のフェーズでは、炎・火の粉・煙など焚火がどのような要素で構成されているかを観察します。
分析は、見つけた要素がどのような理屈で動いているかを理解します。薪の下から上昇気流によって酸素が送り込まれ、燃え上っていることが分かります。上昇気流を想定することによって、炎のゆらめき具合や火の粉の弾ける軌道を推測できます。
再構築で、分解・分析してわかった要素を実際のゲームエフェクトとして制作する作業です。リアルな焚火を参考にして煙の濃さを変えたり、リアルには無い蜃気楼のような歪み素材を足したりして、リアリティを持たせるための誇張を積極的に取り入れていきます。
②素材はシンプルに
エフェクトの素材はマテリアル・メッシュ・エミッター・テクスチャなどさまざまな要素で構成されますが、それぞれの素材がシンプルになるように意識しましょう。
シンプルな構成にすることで処理負荷も抑えられます。もし複雑な構成にする場合には、作品が完成しないループに陥らないよう明確なゴールを設定して作業するのが良いと大塚氏は勧めています。
複雑なノードの組み方やメッシュの形状の作成に時間を取られて完成が遅れてしまうくらいならば、プリミティブな状態でアニメーションを完成させた方が効率的
③トライ&エラーを繰り返す
どの職種にも言えること、と前置いたうえで大塚氏は「エフェクトを学ぶ一番の近道はあらゆる作品から魅力的に見える要素を分解し、それらを組み合わせて作成すること」と言います。トライ&エラーを繰り返し、技術を身に付けていくことで、次第に自分の考えを作品に取り入れていけるようになります。
伝えたいことが明確な作品は魅力的に映る、と大塚氏は語ります。あらゆる作品を見るには体力も必要であるため、健康に気を付けつつ、さまざまなエンタメを積極的に吸収していくことを勧めました。
CC2のエフェクト研修課題内容
CC2では入社後、プロジェクトにアサインされる前に研修課題をこなします。研修課題は約3か月で、焚火・落雷・氷・炎の竜巻の4つの課題を作成します。
研修の目標は「段階的な課題制作を通して、ゲームエフェクトの制作に求められる技術を習得する」ことにあります。
制作物に対して「どういうデータが必要なのか」「どういう演出が必要なのか」を自分で考えて意識できるようになり、世界で起きる自然現象や物理現象を理解して説得力のあるエフェクトを作れるようになるのが目標です。
課題1:焚火
最初の課題「焚火」の制作期間は7日間。必要なテクスチャ素材やメッシュ素材は自分で作成してもWeb上にある素材を使用しても構いません。なぜならこの課題は「分解・分析・再構築」を学ぶのが目的だからです。焚火の動画などを観察し、ゲーム上のパーティクルとして再現するときにどのように見えるのが好ましいのか考えます。
課題2:落雷
次の課題「落雷」の制作期間は20日間。作業量と期間を考慮してカメラは固定、尺も10秒ほどに抑え、気持ちよさや派手さを出す演出を学びます。
初めの5日間でコンセプトやイメージを決めて仮エフェクトの作成を始めます。そして、次の5日間でカメラの位置や演出の尺・タイミングをほぼ決め、仮エフェクトを完成させます。そして最後の10日間で、指導者とコミュニケーションを取りながらブラッシュアップを進め、エフェクトをFIXさせます。
課題3:氷
3番目の「氷」の制作期間は同じく20日間。落雷の経験を活かしつつ、氷の質感の冷たさが視覚的に伝わるよう作成します。氷の質感は、リアル調でもアニメ調でも、見て「冷たい」と感じるには工夫が必要です。
例では、氷の質感以外に冷気や画面フィルターを入れています。氷が砕けるシーンを演出のピークとし、その直前にひびが入り、砕ける瞬間にはフラッシュ効果も入れ、氷の表現をより効果的にしています。
課題4:炎の竜巻
最後の「炎の竜巻」の制作期間も20日間です。総まとめとして全ての要素が含まれており、難易度も高いです。「起承転結ができているか」「アニメーションが気持ち良いか」「質感が表現できているか」を重点的にチェックします。
応用編の課題ということもあり、ここでつまづく人が多いとのこと。
竜巻は自然現象ですが、単純にリアルの事象をエフェクトで再現すればいいわけではありません。リアルの特徴を押さえつつゲームに落とし込み、派手で気持ちの良いエフェクトを作ることが、課題に求めるCC2のクオリティーとなります。
研修課題の作成を経て得る内容は、以下となります。
- テクスチャやメッシュ作成の基礎
- 物理演算の理解
- マテリアル、シェーダーの基礎
- アニメーションの基礎
- 課題を仕上げるためのコミュニケーション能力
その中で、CC2が特に重要視しているのはコミュニケーション能力です。研修におけるコミュニケーションとは、上司と相談したり先輩にアドバイスをもらったりする力のことです。
エフェクトの定義はあいまいなもので、プロジェクトでエフェクトアーティストが「爆発を作成して欲しい」と依頼されても、100%相手方が想定したものを仕上げるのは難しいことです。「爆発の大きさはどれくらいか」「イメージはエネルギー系か炎系か」「球状爆発か霧散爆発か」「どんな色相か」「リアル調かアニメ調か」など非常に細かい情報を交わさないと、想定に近いイメージにまで持っていけません。
そのため、エフェクトアーティストは研修の段階から「イメージを共有する」という訓練を行っているそうです。「ゲームエフェクト制作に大切なことは何か」が、惜しみなく伝わる講演でした。
サイバーコネクトツー 公式サイト『CC2流!ビジュアルエフェクトアーティスト入門講座』- CEDEC+KYUSHU 2023
ゲーム会社で16年間、マニュアル・コピー・シナリオとライター職を続けて現在フリーライターとして活動中。 ゲーム以外ではパチスロ・アニメ・麻雀などが好きで、パチスロでは他媒体でも記事を執筆しています。 SEO検定1級(全日本SEO協会)、日本語検定 準1級&2級(日本語検定委員会)、DTPエキスパート・マイスター(JAGAT)など。