『ファイナルファンタジーXVI』のキャラクターモデル制作手法を解説。PS5上で快適に動く軽量さを保ちつつ、カットシーンで映えるディテールをどう生み出すか【CEDEC2023】

2023.10.17
CEDEC注目記事ゲームづくりの知識見た目を良くするゲームの舞台裏講演レポートCEDEC2023
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国内最大規模のゲーム業界カンファレンス「CEDEC2023」が、2023年8月23日(水)から8月25日(金)までの日程で開催されました。3日目となる8月25日には、スクウェア・エニックス リードキャラクターモデルアーティスト 園部 淳氏とキャラクターモデルアーティスト 南條 和哉氏が登壇し、「FINAL FANTASY XVIにおける召喚獣とキャラクターモデルの制作舞台裏」と題した講演が行われました。

シリーズが持つ魅力を徹底的に表現するためのアプローチやワークフローについて解説された本講演をレポートします。

TEXT / rita

EDIT / 神谷 優斗

目次

園部氏(左)は召喚獣やモンスターのリードおよび動物系のアセットなどを担当。南條氏(右)は人型キャラクターの衣装周りを担当した

ゲームに使える軽さと、カットシーンに使えるリアリティを両立

「FINAL FANTASY」シリーズのグラフィックスは、常に時代のフラッグシップとしてのクオリティを実現してきました。今回取り上げた『FINAL FANTASY XVI』も例外ではなく、ナンバリングタイトルに相応しいビジュアルクオリティが求められたそうです。それは「リアルでありつつFFらしさも併せ持つ」という、単なるフォトリアルに留まらない表現への挑戦でした。

また「コンセプトアートを重視する」という方針に沿って、衣装はフォトグラメトリー(※)ではなくMarvelous Designerを使用するなど、アートデザインの再現・表現に重きが置かれています。
※ 複数の画像を基に3Dモデルを生成する技術

さらに、本作はいわゆる「ムービー用の3Dモデル」を作成しないという方針であったそう。というのも、カットシーンでプリレンダリングのムービーを用いると、ランタイムでは使用できないハイコストな3Dモデルが使える分、3Dモデルを制作するコストが高くつくためです。

カットシーンはリアルタイムレンダリングで表現する都合上、すべてのキャラクターモデルにはリアルタイムレンダリングできるサイズであることが求められました

内製ツールを組み込んだワークフロー

キャラクターのワークフローは、Mayaで素体作成の後、Marvelous Designerで服飾の作成、ZBrushのスカルプトによるハイモデル作成を経て、再びMayaでリトポロジー・UV展開・スキニングを実施。その後、Substance 3D Painterでテクスチャを作成したら、ゲームエンジンの機能であるChara Editorでゲームに実装される流れです。

制作の最初期段階では、「ブロックモデル」と呼ばれるローディテールな3Dモデルが作られます。フルディテールのモデルができあがるまでエンジン側ではブロックモデルを使うことで、モデルの完成を待たずに後の工程が進行できます。

最後の工程で使うChara Editorは、DCCツールから出力したデータをエンジンのマテリアルとバインドし、ルックを確認・調整する環境です。調整したデータをバージョン管理システムにサブミットする工程までを担います。

ゲームを再現したライティング環境のなか、モーションを再生して確認できる

召喚獣を低コストでディテールアップするモデリングとマテリアルのテクニック

講演では、園部氏が召喚獣やモンスターの表現について解説しました。

召喚獣は巨大であるため、表面のディテールがルックに大きな影響を及ぼします。本作では、パターンモデルタイリングテクスチャの、2つのテクニックを駆使してディテールアップが図られました。

パターンモデルとは、キャラクターの表面に配置されるオブジェクトを指します。数種類作って配置することで、情報量が増やせます。

召喚獣「タイタン」は、鉱物の結晶やスクラップ状のパーツがくっついているため、パターンモデルによるアプローチと非常に相性が良かったとのこと。カットシーンでアップになる場所を重点に配置されています。

タイリングテクスチャは、すべてのモデルをリアルタイムで動かすのに不可欠だったそう。モデルがアップで映された場合にも耐えうるディテールを担保するためには、テクスチャの密度を上げる必要があります。タイリングを用いることで、テクスチャ1枚のサイズを大きくせずに情報量を増やせます。

単なるテクスチャリピートでは単調になるため、密度の異なる複数のテクスチャを合成するのがポイントとのこと。これにより、タイリングしていても複雑なパターンを作り出すことができます。

なお、ディテールが過剰になるのを防ぐため、合成時はブレンド率が100%を超えないようにしていたそう。

タイリングは、召喚獣だけでなく、ほぼすべてのキャラクターモデルのクオリティを向上させるのに必須のテクニックであったと園部氏は言います。

炎や冷気を表現する「スクロールアニメーション」と「SSS」

FFならではの要素である炎や冷気などの属性表現には、3つのテクニックが使用されました。

その1つ、エミッシブスクロールアニメーションは、マテリアルにおける発光成分のパラメーター「エミッシブ」を複雑なパターンでスクロールさせるテクニックです。最大3つのスクロールパターン+フローマップ(※)により、不規則なスクロールを実現しています。
※ テクスチャアニメーションにおける各ピクセルの移動方向を格納したテクスチャ

召喚獣「フェニックス」の体表を流れる炎などに使われている

2つめは、物理ベースレンダリング(PBR)マテリアルの要素であるメタリックラフネスノーマルのスクロールアニメーションです。スクロールの仕組みはエミッシブスクロールアニメーションと同一ですが、PBRによるシェーディングに直接作用する点で異なります。

このテクニックは、召喚獣「シヴァ」の冷気の表現や、液体が流れる表現に用いられたとのことです。

マントに見られる、水色のもやのようなものがスクロールしている。ドライアイスの煙が物体の表面を流れているような表現に

3つめは、物体の透け感を表現するサブサーフェススキャッタリング(SSS)(※)です。
※ 光をある程度通す物体の表面に現れる散乱光をシミュレーションする技術

半透明のオブジェクトは処理負荷を増大させるため、エンジニアリングの観点からリアルタイムレンダリングでは極力使用を避けたいものです。SSSを適用することで、描画先とのブレンドによる半透明描画よりもコストを抑えつつ、半透明に近い描画結果が得られます。

 シヴァのマントにSSSが使用されている。半透明を利用せずとも、透けているような見た目が実現できた

SSSは有機的な質感を持つ召喚獣やモンスターなどで多用されたそうです。

モンスターの表現力アップに寄与した3つのポイント

本作のほぼすべての眼球には、汎用性を持たせた1つの眼球用シェーダーが共通して使われました。虹彩や瞳孔のカスタマイズのみならず、動物特有の目の表現や、充血、エミッシブによる発光、色の遷移にも対応しています。

人間だけでなく、ヤギの目にも使われている

また、スカルプトでは、造形の根本やシルエットにこだわる方針がとられました。内部の構造や骨格を意識することで「欠損した腕が再生する」といった演出を行う際に自然な表現ができたとのことです。

「デビルタイタン」はモンスターの中でもひときわ巨大であるため、通常のキャラクター制作フローは適用できませんでした。そこで、デビルタイタンには地形などに使われる岩肌のマテリアルが使われました。Chara Editorがキャラクター以外のセクション用のマテリアルも使用できることで、このような対応も可能であったそうです。

リアルでありながらもFFらしさを感じさせる人型キャラクター

次に、人型キャラクターに対するアプローチについてを南條氏が解説しました。

顔の造形は、コンセプトアートにマッチしているのを前提に、なるべくリアル寄りに近づける方針がとられました。肌の質感は、色ムラや細かな凹凸のタイリングを数パターンミックスして表現。眼球は、現実と同じサイズ感で作ることで、アートの方向性とリアリティのバランスをとっています。

汎用テクスチャを使い、低コストかつ高解像度で髪を描画

毛や羽は、作中に登場するほとんどを汎用テクスチャで表現しているとのこと。モデル独自のテクスチャを持たない分、高解像度で使用でき、リアリティの向上に大きく寄与しています。

毛や羽に使われた汎用テクスチャ

汎用テクスチャを用いた髪は、Maya上で配置したカーブからメッシュを生成するツールで作ります。生成後は、光が綺麗に当たるように法線を調整し、エンジン側で最終的な色を指定します。

加えて、髪には「2ndオクルージョン」と呼ばれる追加のアンビエントオクルージョン(AO)が適用されています。汎用テクスチャに含まれるAO要素とは別に、キャラクターの髪型ごとに専用のものが使われます。

2ndオクルージョンは、Mayaでベイクしたライティング結果にSubstance 3D Painterでの調整を加えて作成されました。

風による毛の揺れは、頂点シェーダー上でのアニメーションで表現されています。風速のほか、キャラクターの動きによる慣性が反映されます。

不自然な揺れにならないよう、揺れ幅や方向には制約を持たせているとのこと。加えて、頂点カラーによる揺れの大きさの調整も可能です。

多用される汚れ表現が効率よく作れるシェーダーの実装

本作の世界観ではあらゆるものが汚れていないと不自然に見えるため、汚れの表現は重要であったそう。汚れ表現には、汎用性気軽に付け足せる使いやすさが求められました。

全身の汚れ具合を0から1の割合で指定すると、透明度ではなく汚れが占める面積が変化します。部分的な汚れを表現するには、汚れ具合に加え、マスクを指定します。例えば、口元のみのマスクを使用すると、吐血の表現になります。

Before
After

マスクは4パターンまで同時に指定できるため、部位ごとに汚れ具合が異なる複数のパターンを1つのモデルで使用可能です。

Substance 3D Painterで作成したマスク画像を、モデルの頂点パラメータにベイクすることで汚れ部位を指定します。

汚れを応用した、濡れ表現にも対応しています。毛に対しては、風の影響を受けにくくしたうえでボリューム感を抑え、水滴の反射をつけるなどの特別な処理を施しています。

涙は、涙用のマスクで指定した箇所に濡れ表現を加えることで実現。同様の仕組みで、血の流れも表現しています。カットシーンでは、涙の流れる先端にパーティクルエフェクトを配置し、涙の粒としています。

鼻の下にマスクを指定し赤い濡れを適用すると、鼻血になる

どのキャラクターでも発生しうる状態異常である「石化」や「氷結」などの表現は、共通のシェーダー機能として実装されました。これにより、すべてのキャラクターに共通の方法で石化表現などを適用できます。

なお、主人公のパワーアップ状態「半顕現」を表現するシェーダーは、カスタムシェーダーとして用意されています。

半顕現に伴うパーツの表示・非表示もマテリアルで制御しています。召喚獣の手足がちぎれるようなシーンなどで、同様の手法が使われています。

 腕のまわりにある枝のようなパーツの表示が、マテリアルによって制御されている

ベロアやサテンなども表現する、衣装の制作ワークフロー

衣装の制作は、基本的にMarvelous Designerでアートデザインを忠実に再現する方針で進められました。

Marvelous Designerで作成したデータは、スカルプトなどの作業効率のため一度リメッシュ(※)されます。
※ メッシュのポリゴンを再構成し、トポロジーを整える作業

リメッシュされた後は、ZBrushでディテールを足します。本作では、利用できるテクスチャサイズがそれほど大きくなかったため、ディテールが細かくなりすぎないように注意したとのこと。

しわや鎧の傷などをZBrushでスカルプトしていく

その後、Substance 3D Painterでベイクなどの作業も含めたテクスチャリングを行います。前述の汚れ表現やタイリングなどが入るのを考慮し、この段階では比較的あっさりめの表現に留めているそうです。

最後に、Chara Editorによる実装作業を行います。タイリング表現には、キャラクター用に用意した素材が使用されます。

タイリングの適用領域はマスクで指定します。マスク領域が重なることも許容されており、その場合は複数の素材をミックスした質感が表現できます。

衣装の縫い目はデカールで表現。追加のUVマップを用意し、縫い目の汎用テクスチャをリピートさせて貼り付けています。

縫い目は複数パターンから選べる。実際は1つのパターンを利用することがほとんどだったそう

個々の衣装専用のデザインを表現するデカールテクスチャも使用しています。デカールならば部分的に解像度の高いテクスチャが割り当てられるため、ディテールの向上に適しているとのこと。コストを考慮し、1キャラクターにつき1つまでといった制約が課されています。

以下が、タイリングとデカールの適用前後の比較です。

Before
After

また、独特の光沢を持つベロアやサテンなど生地によって異なる質感は、生地ごとにシェーダータイプを使い分けて実現しています。タイリングマスクによって適用範囲を切り分け、1モデル内で異なるシェーダータイプを共存させることも可能です。

 紫色の生地にベロア調のシェーダータイプを適用している

通常のアンビエントオクルージョン以上に詳細な影を落とすテクニック

最後に、キャラクターのアンビエントオクルージョン(AO)についての解説です。ここでのAOは、ポストプロセスで付与するスクリーンスペースアンビエントオクルージョン(SSAO)ではなく、マテリアルが持つAOテクスチャのことを指しています。

本作ではAOテクスチャに加え、MicroShadowSpecularOcculusionを適用することで、陰影をよりリアルに近づけています。

MicroShadowはAOテクスチャから生成できる、擬似的な細かい陰を描画するためのテクスチャです。細かい凹凸が重なっている部分において、より詳細なディティールが得られます。

MicroShadow適用前(左)と適用後(右)。腹周りにある衣服の細かい凹凸にも影が落ちている

SpecularOcculusionは、光沢のあるマテリアルにおいて影の中でも強い反射光が出てしまう現象を抑えるテクスチャです。レザーなどの素材が、反射光によって浮いてしまうのを防ぎます。

SpecularOcculusionの適用前(左)と適用後(右)

最後に、限られた容量の中でより高いクオリティに仕上げるうえで、テクスチャ解像度に依存しないタイリングは特に効率的だったと南條氏。また、汚れ表現はこれまでのFFにはなかったアプローチで、チャレンジしがいがあったと語りました。

『FINAL FANTASY XVI』 公式サイトFINAL FANTASY XVIにおける召喚獣とキャラクターモデルの制作舞台裏 - CEDEC2023
rita

ゲームエンジンプログラマ。シリコンスタジオ、ゲームフリークを経て、現在はフリーランス的に活動中。低レイヤ・描画などのランタイムから、ツール・アセットパイプラインまで、ゲームに関する技術はなんでも守備範囲です。RPG・音ゲー・格ゲー・紳士ゲー・お馬さんなどなど幅広く嗜みます。新作を待ちわびているのは『世界樹の迷宮』『ブレイズアンドブレイド』『バーチャロン』など。

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