2023年9月21日(木)から24日(日)の4日間、幕張メッセで開催された『東京ゲームショウ 2023(以下、TGS)』。
展示されたゲームの中から、今回は個人サークル「けんこうランド」が開発するビジュアルノベルゲーム『世界滅亡共有幻想マミヤ』を紹介するとともに、同作品の開発者ココロ・テン氏とパブリッシャー「Fruitbat Factory」に開発の経緯や出会い、協力体制について聞きました。
2023年9月21日(木)から24日(日)の4日間、幕張メッセで開催された『東京ゲームショウ 2023(以下、TGS)』。
展示されたゲームの中から、今回は個人サークル「けんこうランド」が開発するビジュアルノベルゲーム『世界滅亡共有幻想マミヤ』を紹介するとともに、同作品の開発者ココロ・テン氏とパブリッシャー「Fruitbat Factory」に開発の経緯や出会い、協力体制について聞きました。
TEXT / tyap
EDIT / 藤縄 優佑
『世界滅亡共有幻想マミヤ』は、Steamで配信されているダークミステリービジュアルノベルゲームです。Steamでは前編・中編が収録され、完結編『DoomsDay Dreams』が2023年11月22日にDLCとしてリリースされます。
本作の舞台は、世界滅亡が予言された年の東京。
物語は、主人公4人に共通する友人「夏目」の葬式から始まります。葬式後も彼らの日常は、「夏目」がこの世にいない寂しさを抱えながら続いていくはずでした。
しかし、「マミヤ」と名乗る謎の人物に出会うことで、その運命は崩れていきます。
前編の『FallDown』は、4人それぞれの個別ルートを進めることで、彼らがたどる結末を追体験するストーリーを楽しめます。
中編の『DownFall』では、前編とは別の4人が「間宮」によって翻弄される様子を描くとともに、前編に登場した4人の結末を変えるべく、「夏目」自身が彼らに介入。「マミヤ」の真相へと近づくストーリー構成となっています。
美麗なグラフィックと息をのむようなテキスト表現、どこか陰のあるキャラクターによって紡がれるシナリオによって、プレイヤーの心の中にも共有幻想「マミヤ」が作られていきます。
TGS会場でプレイできたものは、現在配信中のバージョンから一部演出を強化した最新版。TGSの開催に合わせて、Steamでリリースされているデモ版も同様のものにアップデートされています。
シナリオ、グラフィック、テキスト、BGM……。ビジュアルノベルゲームとしてすべての表現方法を存分に生かした本作の没入感は格別です。
本作はココロ・テン氏が一人で開発しています。2015年末から開発を始め、今年で8年目。何度か仕事の関係で開発を中断していたときもあったため、厳密な開発期間は4年とのことです。
使用ツールはティラノスクリプト。前作の『レムレスブルーの午前2時』ではLiveMakerを使用していましたが、同ツールの開発が終了してしまったため新たなツールを探すことに。
探していたツールの条件は、Macに対応していることと、コミュニティが活発なもの。その結果、ティラノスクリプトにたどり着きました。
ティラノスクリプトの公式掲示板では、同ツールの開発者であるシケモクMK氏や他のユーザーと情報交換できている環境を非常に気に入っており、シケモクMK氏にデータを送るなどして密接なやりとりを行っていたそう。
イラストツールはCLIP STUDIO PAINTを使用。iPadで線画を描き、着彩はPCで行うスタイルで作業しています。
臨場感あふれるスチルのコツをお聞きしたところ、横長の画面を活用するために斜め構図を採用することが多いとのこと。また、メリハリをつけるために、コントラストを高くすることを意識しているそうです。
「スチルが表示された瞬間に心が動く絵を目指しています」とココロ・テン氏は語ります。
『世界滅亡共有幻想マミヤ』は、演出表現が非常に丁寧で印象的です。
ココロ・テン氏は、「物語は絵と文章さえあれば、他の媒体でも代替できます。ノベルゲームがほかの媒体と違うのは、音楽と文章と絵が融合されている点です。なので、ノベルゲームならではの物語体験をしてもらうために、そのすべてを存分に表現しようと心がけています」と話します。
特に、BGMのタイミングにはかなり時間をかけて調整を行っているとのこと。シーンの盛り上がりとBGMの盛り上がるタイミングが合うように、ウェイトを挟むなどして調整しています。
開発で最も苦労した点はシナリオで、自分の中でキャラクターをうまく掘り下げられない期間が続き、もどかしい思いをしたそうです。
例えば、2020年末にPIXIV FANBOXにて完結編『DoomsDay Dreams』の一部を収録したベータ版を公開しましたが、完成版ではシナリオを大幅に変更しています。特に、メインキャラクターの一人である『東條湊ルート』はほぼすべて書き直しているため、ベータ版をプレイした方にとってかなり印象が変わっているそう。
4年にわたる長期間の制作においてモチベーションの維持についてお聞きすると、自分にとっては外部が設けた締め切りが一番効果があるとココロ・テン氏は話します。
「パブリッシャーさんにイベント出展や翻訳などおまかせしているのですが、私の進行が遅れてしまうと関係者の皆さまのスケジュールにも影響が出てしまいます。締め切りは絶対に守らないと……という気持ちが強まります。また、2020年から始めたPIXIV FANBOXでは支援者の方へ定期的に進捗をお伝えしており、こちらも同様に効果を感じています」
ここからは日本産ゲームを英訳する、翻訳中心のパブリッシャー「Fruitbat Factory(フルーツバット・ファクトリー)」の石井 善文氏と、同社の海外担当者2名も交えて話を伺いました。
Fruitbat Factoryとココロ・テン氏の出会いは、2017年のコミックマーケット。ココロ・テン氏が制作中の『世界滅亡共有幻想マミヤ』を頒布していたところ、Fruitbat Factoryの海外担当者が本作を手に取りました。
彼らは日本のビジュアルノベル、ひいては本作にどのような魅力を感じたのでしょうか。
「英語圏においてビジュアルノベルという言葉自体は十数年前から存在しており、徐々に知名度が上がっています。大衆的な支持を得ているジャンルではありませんが、一部の層に安定した人気があります」と、海外担当者に回答していただけました。
海外担当者たちもビジュアルノベルを好む“一部の層”であり、本作をプレイして非常に気に入ったといい、パブリッシングをココロ・テン氏に持ちかけました。
本作で特に好きな点を伺うと、美麗なグラフィックやキャライラスト、情緒あふれるBGMに心惹かれたとのこと。
海外担当者は日本語が読めないのですが、断片的に読み取ったダークな展開に引き込まれ「当時プレイしたことのあるビジュアルノベルにはダークな作品は少なかったので、珍しくて面白そうだと感じました。ストーリーを把握するために翻訳担当にもプレイしてもらい、とても気に入ったとのコメントをもらったので、ココロ・テン氏にコンタクトを取ることにしました」と話します。
ココロ・テン氏は、パブリッシングの提案を受けるとは予想だにせず、驚いたと言います。「2017年ごろは今ほどインディーは注目されておらず、翻訳も有志が行うパターンが目立っていたように思います。そうした状況で翻訳などを含めたパブリッシングの提案をしていただけたのは、すごく幸運でした」(ココロ・テン氏)
そうして決まったパブリッシングにおいて、Fruitbat Factoryは翻訳および翻訳文章の実装、Steamの登録周りやプロモーションといった、直接的な制作以外を担当しています。
筆者が気になったのは、翻訳文章の実装作業です。ティラノスクリプトでは、表示言語を切り替える機能が搭載されていません。英語対応を行うにあたり、どのような方法でシームレスな言語切り替え機能を実装したのでしょうか。
結論から言えば、ティラノスクリプト単独の機能ではなく、Pythonでの工夫などによって言語切り替え機能を実装しています。
ティラノスクリプトから出力されるファイルには、ゲーム内テキストだけでなく、当然ながらスクリプトも含まれます。ファイルをそのまま翻訳するのは非効率ということもあり、まずはファイルからスクリプトとテキストを分割・抽出する作業が発生します。
そこでFruitbat Factoryのエンジニアは、ファイルからスクリプト・テキストを分割・抽出しつつ、各スクリプト・テキストに応じたIDを振り分けるバッチファイルをPythonで作成しました。
その後、抽出後のテキストを使って翻訳者が英訳。翻訳完了後のテキストは、IDを基にしてスクリプトと統合します。これで、日本語テキストと英語テキストが含まれたティラノスクリプト用ファイルが完成します。
ゲームファイル内には両言語のテキストがif文で囲われており、「sf.fbflang」という変数の中身が0であれば英語テキストを、それ以外の値(1)であれば日本語テキストが表示されます。
コンフィグ画面にはティラノスクリプトで実装された言語切り替え用ボタンが配置されており、ボタンが押されると上記の変数の中身が切り替わり、それに応じて言語も切り替わります。
このように実装されているため、翻訳作業中に日本語テキストが変更・追加されるとIDに齟齬が発生するため、翻訳ファイルの作成は気を遣うそうです。
なお、Nintendo Switch版やスマートフォン版をはじめとする他のプラットフォームへの移植対応に関しては、
「弊社では、吉里吉里2の作品をUnityに置き換えたうえでNintendo Switchでリリースしたことはありますが、ティラノスクリプト作品の移植経験はありません。移植可能かどうかを検討する段階ではありますが、ぜひやりたいと思っています」(Fruitbat Factory担当者)
「PCユーザーより他のプラットフォームのほうがユーザー数が圧倒的に多いというのは魅力的だと思います。今後、検討していきたいですね」(ココロ・テン氏)
と、お互い前向きな返答をいただけました。
最後に、ココロ・テン氏は「『世界滅亡共有幻想マミヤ』は開発に8年をかけました。私にとって手を動かし続けるために必要だった『外部が設けた締切』は、始めはパブリッシャーではなく、協力してくれる友人の存在からスタートしました。適切な締切を設定して、自分だけのゲームを完成させましょう!」と、インタビューを締めくくりました。
『世界滅亡共有幻想マミヤ』の完結編『DoomsDay Dreams』は、2023年11月22日にSteamでDLCとして配信されます。
『世界滅亡共有幻想マミヤ』公式サイト「Fruitbat Factory」公式サイト『東京ゲームショウ2023』公式サイトゲームを遊び、ゲームを作り、絵を描き、文章を書くエビです。
西川善司が語る“ゲームの仕組み”の記事をまとめました。
Blenderを初めて使う人に向けたチュートリアル記事。モデル制作からUE5へのインポートまで幅広く解説。
アークライトの野澤 邦仁(のざわ くにひと)氏が、ボードゲームの企画から制作・出展方法まで解説。
ゲーム制作の定番ツールやイベント情報をまとめました。
東京ゲームショウ2024で展示された作品のプレイレポートやインタビューをまとめました。
CEDEC2024で行われた講演レポートをまとめました。
BitSummitで展示された作品のプレイレポートをまとめました。
ゲームメーカーズ スクランブル2024で行われた講演のアーカイブ動画・スライドをまとめました。
CEDEC2023で行われた講演レポートをまとめました。
東京ゲームショウ2023で展示された作品のプレイレポートやインタビューをまとめました。
UNREAL FEST 2023で行われた講演レポートをまとめました。
BitSummitで展示された作品のプレイレポートをまとめました。
ゲームメーカーズ スクランブルで行われた講演のアーカイブ動画・スライドをまとめました。
UNREAL FEST 2022で行われた講演レポートやインタビューをまとめました。
CEDEC2022で行われた講演レポートをまとめました。