2022年7月22日(金)から9月4日(日)にわたって開催された、Unreal Engine(以下、UE) の学習を目的としたゲーム制作コンテスト『第18回UE5ぷちコン』。今回は「かける」をテーマに717作品の応募がありました。『ぷちレスキュー』を制作し、最優秀賞を受賞したpeke2さんに企画から実装に至るまでの工夫やこだわりについて伺いました。
TEXT / 佐藤 悠介
INTERVIEW / 神山 大輝
EDIT / 酒井 理恵
目次
peke2さん
一般企業に就職後、ゲーム会社へ転職。現在はクライアントエンジニアとしてモバイル向けのゲーム開発を行っている。『UNREAL FEST×ぷちコン 冬のゲームジャム祭り!』では「Axel賞」、『第17回UE4ぷちコン』では「しお賞」、そして今回『第18回UE5ぷちコン』最優秀賞を受賞。
Twitter: @_peke2
ゲーム開発・ぷちコン参加のきっかけ
『第18回UE5ぷちコン』用に制作された『ぷちレスキュー』の紹介映像
――まずは自己紹介をお願いします。
peke2と申します。新卒で一般企業に就職し、3~4年目ほどでゲーム会社に転職した後、25年間同じ会社で働いており、現在はクライアントエンジニアとしてモバイル向けのゲーム開発を行っています。
――新卒ではゲームとは関係のない会社に就職したとのことでしたが、いつからゲーム業界に興味を持たれたのでしょうか?
小学生の頃からPCには興味がありました。ファミリーベーシックから入って、その後はポケットコンピューターを触っていました。会社に入ってからは、PCを買ってプログラミングを趣味程度に楽しんでいました。
新卒の当時は、ゲームを作ることに固執していなかったので一般の企業に就職しましたが、段々と好きなことを仕事にしたいという気持ちが湧いてきたんですよね。それで、会社を辞めて中途でゲーム会社に就職しました。
――peke2さんは、以前からぷちコンに参加されていますよね。どういった経緯でぷちコンに参加することを決めたのでしょうか?
初めて参加したゲーム開発の勉強会『GamePM勉強会』(※)がとても面白くて。勉強会でよく見かけていた佐々木さんが関わっているコンテストでしたし、もともとUnreal Engineを勉強したい思いがありました。ぷちコンには第14回から参加しています。
※ ヒストリア 代表取締役 佐々木 瞬氏がかつて主催していた勉強会。ゲーム制作におけるプロジェクトマネジメントを中心に、ゲーム開発に関わる知識・技術全般をテーマにしている
「かける」というテーマに即した企画と実装の工夫
――ここからは最優秀賞受賞作『ぷちレスキュー』についてお伺いします。まずは、簡単にゲームの紹介をお願いします。
『ぷちレスキュー』は、火災現場に取り残された要救助者を救うゲームです。プレイヤーは、物を運べるフックを装備したヘリコプターを操作して、制限時間内に火災現場にいる要救助者全員の救助を目指します。
――今回のテーマ「かける」からどういった経緯で『ぷちレスキュー』の発想が生まれたのでしょう?
まず初めに、「かける」というテーマに関する単語を書き出し、その後それぞれの単語に紐づく単語をマインドマップで整理しました。その中からゲームで使えそうなものを選んで、ゲームの中で動かすならどうするかを掘り下げています。
前回のぷちコン参加時はファンタジー要素の強いアクションゲームでした。今回は違う方向にしようと、炎に水を「かけて」人を助けるという要素を主軸にしながらフックに物を引っ「かける」、橋を「かける」と要素を足していきました。
――候補にあがったものの採用しなかった案にはどのような案があるのでしょう?
キャラクターが水をかけると植物が生えて、それを使って橋をかけたり敵を攻撃したりするアクションゲームがありました。しかし、これは植物やモンスターのデザインを複数用意する必要があり実現するコストが高かったため採択しませんでした。また、サードパーソンの流用になり、いつも応募しているのと同じようなゲームになってしまうことも断念した理由の一つです。
前回開催の『第17回UE4ぷちコン』にpeke2さんが提出した作品
――ヘリコプターの挙動がどのように実装されているか気になりました。どのように作りましたか?
ヘリコプターの挙動は、機能別サンプルにあったUFOを参考に作りました。飛行する Character にCharacter Movementを追加してこのような挙動になっています。ヘリコプターとフックをつなぐ鎖も機能別サンプルから拝借しています。
――物をフックに引っかけて運ぶ部分はどのように実装しましたか?
最初は物理演算でフックに物を引っかけるつもりでした。でも、実装難易度が高かったため、物をつかむGrabで疑似的にフックに物が引っかかっているように見せることにしました。また、フックで物をつかんでいる最中はコリジョンをオフにして、物の傾きは固定しています。
――なぜフックで物をつかんでいる最中のコリジョンをオフにして、物の傾きを固定したのでしょう?
狭いところで橋をかける際の操作性を担保するためです。コリジョンがあると、周囲のオブジェクトにぶつかった際の物理演算の激しい挙動でプレイになりませんでした。物の傾きも同様に、つかんだ後に回転し続けて安定しないため固定しました。制限を適用した後は、機能別サンプルから取得した鎖に物をぶら下げるだけでいい感じに揺れてくれました。
この橋をかけるところは作品の中でも気に入っています。操作も難しいですが、うまく橋がかかったときにうれしい、楽しいと感じられると思います。
意外性のある使い方もした制作ツール群
――ゲーム内のモデルやエフェクトなどについて質問です。制作に使用したツールを教えてください。
モデルに関しては、フック以外はマーケットプレイスのものを使用しています。一方、15種類ほどのエフェクトはすべてNiagaraで自作しています。ほとんどのテクスチャはSubstance 3D Designerで作成しています。
――Substance 3D Designerを使っているんですね。普通のペイントツールを使わないのは何故ですか?
Substance 3D Designerはノードベースのツールなので、曖昧さがなく再現性があります。どうやってこの絵が作られているのかが直感的に分かり、Unreal Engineのマテリアル エディタに似ていて使いやすかったです。エンジニア気質の人には合っているのかなと思います。
――作品の中で特に気に入っているエフェクトはありますか?
作品の大きなポイントになっている炎のエフェクトはこだわって制作しました。ゲーム全体のカジュアルな雰囲気に合わせて、リアルさを消し、わざとらしくてマンガっぽい見た目を目指しました。炎のゆらぎの表現は2017年のCEDEC講演「レイヤーで描く『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の世界 ~3Dグラフィックスのアートと実装~」で紹介されている表現を参考にしました。炎は一定時間経つごとに燃え広がるようになっていて、広がる対象をトレース応答で指定できるようにしています。
あとは、ヘリコプターの着地エフェクトはうまく見せられたと思います。もや状のマテリアルを丸めたらそれっぽい形になりました。
――冒頭のシネマティックシーン、放置時に流れるデモ、操作説明メニューとゲーム以外の部分もしっかりと実装されていましたね。何故そうされたのでしょう?
デモや操作メニューというゲームの導入に関する部分は物足りないなと思っていたので、いろいろと工夫しました。最初のシネマティックシーンは、ゲームの中の世界観でゲームについて説明したほうが説得力が増すと思いました。
放置時に流れるデモは動画でも良かったのですが、ゲームのリプレイ的なものを実装したことが無かったので対応しました。そもそもUnreal Engineの勉強も兼ねてのコンテスト参加ですので、やってみようと。
動画の冒頭でシネマティックシーンは確認できる
シネマティックシーンの制作には、全てアセットを使っています。アセットを組み合わせて、最終的にそれっぽく見えればいいかなと。
――アセットの組み合わせだったとは驚きました。どんなアセットを使用したのですか?
Bunkerというアセットで、ドーム状の整備工場のようなものです。それを縦置きにして、組み合わせました。ほかにも、よくわからないパーツやレールのアセットをそれっぽく配置しています。見た目はLumenを使用することで見た目はすごくきれいになりました。処理負荷が高くなるので、使用する際には最初にPCのスペック等の検討をしたほうが良いと思います。
審査提出時の段階ではLumenを使用していますが、確認した低スペックPCの環境では処理負荷が高かったため、ビルドデータ提出の際にはLumenをオフにしています。
ゲーム難易度におけるプレイヤーのジレンマ
――ゲームを遊んでみて、やりこみ甲斐のある難易度が設定されていると感じました。ゲーム難易度の設定は何を意識して行いましたか?
ヘリコプターを操作し、水をかけて炎を消すだけだとゲームプレイが単純すぎて面白くないなと感じました。そこでプレイヤーとゲームとの間に駆け引き、ジレンマを生み出そうとしていろいろな要素を足していきました。その結果が、今の歯ごたえのある難易度になっています。
――具体的にはどのような調整をしたのでしょうか?
物を引っかけて動かすことやヘリコプターと要救助者の体力、水の量といった要素を追加しました。火もすぐ消えてしまわないようにパラメーターを設定しています。ほかにも、時間制限やフレアを使った要救助者へのルート指示、乗員制限といった要素を追加することで、プレイヤーが急がないといけないのに、焦ってミスするとクリアできないような難易度になりました。私自身、テストプレイでは制限時間ギリギリでのクリアが多かったです。
――そのほか『ぷちレスキュー』の制作において、苦労した場面はありましたか?
最終的なパッケージングでは、メモリリークがありました。デモ画面を実装してみたら、10時間放置すると処理落ちしてしまうと判明して絶望しました。修正したら10時間放置して、なにか問題があったら、また修正して……の繰り返しでほとんど仕事でデバッグしているのと変わらないなって!
その点、ぷちコンは動画審査なので良いですよね。動画さえ撮影できていれば、すべてのバグを直さなくてもいいんですから。「作りたいところだけ作る」気軽さがぷちコンのいいところだなと感じました。仕事ではなかなかこうはいきませんからね……。
今後の展望とぷちコンの存在
――最後に今後作ってみたい作品や、キャリアの展望について教えてください。
今のところは、現在の仕事を続けつつ、勉強と趣味でゲーム制作をやっていきたいなと思います。最優秀賞を受賞しましたが、いい勉強になるのでぷちコンには参加し続けようかなと。コンテストに参加して徐々に技術力を身につけていって、なにかやりたいことがみつかったときに、その力を生かせるようになっていきたいです。
――これからの作品も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
使用ツール・アセット一覧
※使用アセットは記事中に登場したもののみ掲載しています
ゲームメーカーズ編集部。とにかくゲームが好きで、プレイするジャンルはRPG、SLG、FPS、ADV…とさまざま。『CoD』シリーズでは、アマチュアプレイヤーとしてのesports経験も。
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