登壇したのは、STAND 代表取締役 宮田 大介氏。ゲームクリエイターが自分らしく生涯活躍できる世界を目指して、クリエイターコミュニティ「ゲームクリエイターズギルド」を運営しています。
『ゲームクリエイター甲子園』について
はじめに、統計データに関する前提情報と免責事項として、『ゲームクリエイター甲子園(以下、GC甲子園)』や本講演で使用するデータについて説明されました。
本講演で使用しているデータが、ゲーム制作経験があり業界への就職志望の高い学生が多く、データが偏っていることを説明
『GC甲子園』は、ゲームクリエイターズギルドが主催する学生向けのインディーゲームコンテスト
コンテストへの応募数は年々増加しており、2年で3,000名が参加している
学生クリエイターのゲーム開発に関する現状
本講演は二部で構成されており、第一部ではイベントに参加するようなゲーム業界への志望が高い学生が、どのような環境でゲームを開発しているかが紹介されました。
ゲーム10本制作、ゲームエンジン使用経験9割――数字からわかる傾向
ゲームの制作本数
最初に、過去の制作本数について語られました。トップラインは「3~5本」ですが、キリが良いからか「10本」の回答も多く見受けられ、想定よりたくさんの作品を制作している学生が多いという印象を受けたと宮田氏は述べます。
制作チームの人数
続いて、制作チームを構成する人数の傾向について解説されました。『GC甲子園』制作チームの最大人数は「16人」(2020年開催時)、「31人」(2021年開催時)、「21人」(2022年開催時)と、平均の「3~4人」と比べて大きな差があります。この要因は、専門学校などでは大規模なチームを組んでいることと、参加者の半数以上が個人で作品を制作していることが挙げられました。
利用されているゲームエンジンの種類
次に、開発環境についての説明がされ、『GC甲子園』に応募された187作品中132作品で使われたゲームエンジンの内訳が明かされました。Unity製の作品が圧倒的に多いものの、Unreal Engineを使った作品も年々増えています。ゲームエンジン未使用と回答しているケースでは、専門学校の育成方針によるものが多いイメージでした。そういった例はあるものの、ゲームエンジンの利用自体は一般化が進みつつあるようです。
ゲームエンジンの使用経験についてはUnityが9割、Unreal Engineは7割と、ほとんどの学生が触れた経験があることが分かります。
アセットの利用
約9割の学生が、何らかの形でアセットを使用していることが紹介されました。とくに、サウンドやグラフィック関連といった、制作に専門知識が求められる分野で利用されています。一方、オンラインサーバーやプログラム関連のアセットは、使用率がまだ低いのが現状です。
対応デバイスとパブリッシング
『GC甲子園』の応募作品の対応デバイスの傾向は、PC向けゲームが全体の9割を占めており、モバイルやVR向けゲームはごく一部に留まっています。また、モバイルゲームを開発している場合は、パブリッシングに至っている可能性が高いとのこと。これは、モバイル向けゲームを開発している学生はすでにPC向けのゲームを開発しており、次の挑戦としてパブリッシングを視野に入れてモバイルゲーム開発に着手しているのではないかと宮田氏は予想しています。
さらに、作品のパブリッシングに至っている学生が少ないといったことも併せて紹介されました。宮田氏は「パブリッシングレベルに至っている作品そのものはもっとあるものの、トライする学生はまだまだ少ない」と評しています。
パブリッシング経験がある学生はPCだけでなくモバイルプラットフォームも使用していることが読み取れる
学生のゲーム開発に対する意識
第一部の最後として、学生たちの開発に関する悩みも紹介されました。プログラマー志望の人がBGMをどうやって調達するか、どこまでフリー素材を使うかなど、希望職種以外の分野の素材に関する悩み、チーム内でイメージをどう統一するかなどのチームプレーとしての悩み、ゲームとしての面白さの追求など、さまざまな回答が寄せられています。
ストアに配信する手続き方法がわからない、手数料をどうやって捻出するかなど学生ならではの悩みも
「就業後も個人クリエイターとして制作をしていきたいか」といったアンケートの結果も紹介されました。「企業での仕事としてのゲーム制作だけでなく、個人でもゲーム制作をしていきたい」と考えている学生が約7割もいることから、インディークリエイター気質のある学生が増えていると宮田氏は述べています。
ゲーム会社に就業後も個人制作のゲームを作りたい理由として、自分の好きなものを作りたいといった意見も寄せられた
宮田氏は第一部の総括として、ゲームエンジンやアセットの登場によりゲーム制作のハードルが下がり、ゲーム制作が専門学生以外の層にも広がっている一方で、パブリッシングに至る学生はまだごく一部のままと分析しました。
学生クリエイターのゲーム会社就職に関する現状
第二部では、アンケートを実施した学生が就職に対してどのような思いを持っているのかを発表しました。なお、本講演で紹介されたアンケート回答者は、ゲーム業界への就職志望度が高い学生が多く、偏りがあるとしています。
学生の企業認知度
ゲーム業界への志望度が高い学生へのアンケートでありますが、認知しているゲーム会社の数は「1~5社」、「6~10社」の回答で全体の6割ほど。
思いつく具体的なゲーム会社は大手パブリッシャーや、ハードウェアを母体にソフトウェアを開発するコンソール系企業に偏り、学生にはデベロッパー企業はまだ認知が広がっていません。
想起するゲーム会社の数が多い学生は、就職活動を始めている影響も考えられる
以上のような現状がありつつも、「どういった会社で働きたいと思うか」といった問いには、「自分のやりたいこととマッチしていそう」、「社風や社員の雰囲気」、「自分が成長できるか」といった回答が多数を占めました。一方、「有名タイトルに関われるか」、「会社の知名度が高い」、「開発規模が大きい」といった大手企業ならではの要素は複数選択可能のアンケートであるにもかかわらず下位の回答となりました。
学生が企業に評価してほしい点
企業にどんな部分を評価してもらいたいかといった問いに対しては、「面接での人柄」、「作品から見える自分のものづくりの姿勢」と回答する学生が6割を超え、書類選考でわかることよりも面接での人柄、現在の実力よりも将来のポテンシャルなどで判断してほしいと考える学生が多いことが分かります。
その他の質問
他にも、「企業を知ることができた機会は?」、「就職活動で面接を何社受けたか?」、「就職活動を辞めたのは何社から内定がでたタイミングですか?」といった採用側が気になるデータも紹介されました。
企業を知るきっかけは説明会や企業ホームページ、社員との対話であるとを答えた学生が多い
面接を受けた企業の数は「5社以上」が半数を超え、1社~2社から内定が出ると就活を辞める学生が多数
また、「学生が憧れている/参考にしているゲームクリエイターは?」という問いに対して、ゲーム業界を強く志望する学生でも約6割が「分からない」と回答し、ゲームクリエイター個人としてのブランディングには余地があると宮田氏は述べています。
宮田氏は、第二部のまとめとして「中小規模のデベロッパーが認知を広げることにより、学生と企業のマッチングが増える可能性がある。また、スキルよりも人柄やものづくりの姿勢を見て欲しいと思っている学生が多いことから、企業と学生の接点を増やし、企業を知ってもらうことが両者にとってメリットになりそうだ」とアンケートの結果を考察しています。
今後の課題は「若い世代のクリエイターをどうやってステップアップさせるか」
宮田氏は、全体の総括としてインディークリエイターの土壌が学生にも広がりつつあり、数年後のゲーム業界の裾野を広げられる可能性がある、と述べました。そのうえで、業界全体として若い力をどう未来につなげていけるかを検討する必要があると言います。
具体的には、ゲームを「作る・動かす」段階から「作品」、「商品」として一歩上の段階へ進むための方策を業界全体で支援する必要がありそうです。とくに、学生のうちからユーザーに届け、フィードバックをもらう経験ができれば、よりクリエイターの土壌が育つでしょう。
また、ゼロから完成まで携わる学生のゲーム制作は専門性の高いスキルが必要とされる昨今の大規模開発とは乖離しています。このことにより生まれる問題が今後増える可能性があります。
次世代の若いスターをどう育て、世界に向けて売り出していくことができるかが今後の課題であると宮田氏は説明し、講演を締めくくりました。
ゲームクリエイター甲子園20222年で3000名の学生ゲームクリエイターが参加した「ゲームクリエイター甲子園」が伝えたい学生インディーゲームクリエイターの現況/トレンドとそこから見えるゲーム業界の未来 - CEDEC2022