2025年7月18日(金)から20日(日)、京都みやこめっせで開催されていた「BitSummit the 13th」。本記事では展示作品の中から、チーム「Quail Button」が開発するADV『コミュ障キリンの一週間』を紹介します。
TEXT / tyap
EDIT / 藤縄 優佑
キリンの心を守り抜け。会話を避けながらToDoリストを埋めていく
『A Week in the Life of Asocial Giraffe – Announcement Trailer』
『コミュ障キリンの一週間』は、「フレンドリーシティ」と呼ばれる町に住む極度の人見知りなキリンが主人公の、ポイント&クリック型アドベンチャーゲームです。
基本操作はポイント&クリックのみ。マップに設置されているアイテムを動かしたりキリンを移動させたりして、ToDoリストに記載された目的の達成を目指します。
クリックに反応するオブジェクトはキラキラと輝くエフェクトが表示されるなど目立つ処理が施されますし、マウスカーソルを合わせるとカーソルのデザインも変化。クリック対象が判別しやすいつくりです。
しかし、キリンの目的を達成するにあたって、絶対に避けなければいけない要素があります。それは会話です。
この町の住民は交流が大好きな人ばかりなので、一度でも顔を合わせてしまうとマシンガントークが発生……。
緊張のあまり会話に耐えられなくなったキリンは頭が爆発してゲームオーバーに。
ゲームオーバー後はステージの最初からやり直すか、住民と遭遇する前(ゲームオーバー直前)のシーンに戻るかを選択できます。
人と遭遇してはいけないステルス要素を備えながらもリアルタイムで物語が進行するわけではないため、プレイヤーのペースでじっくりと考えながら次に取る行動を決められます。
パズル的な論理性と、全力で隠密行動するキリンの緊張感あふれる心情が、作品のコンセプトを引き立たせています。
BitSummitでは、Steamで配信中のデモ版からステージも追加されたほか、英語以外にも日本語などの言語でも遊べるようアップデートしたバージョンを試遊できました。
温かみのあるアニメーションとユニークな演出、どこか共感できるシャイなキリンのキャラクターは、プレイヤーの心をわしづかみにするでしょう。
ターゲットは全世界。キリンを通じて伝えるコミュニケーションの多様性
『コミュ障キリンの一週間』のユニークなアイデアと開発経緯を、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を置く開発チーム「Quail Button」のremy karns氏(以下、remy)にうかがいました。
開発メンバーはシナリオライター兼プログラマー、アーティスト、そしてイラスト全般とテキストを担当するremy氏の3名で構成されています。
本作のユニークなアイデアはどのようなきっかけでひらめいたのでしょうか?
多くのゲームには必ず会話が用意されており、会話を避けてゲームを進行させるのはほぼ不可能です。そこで、会話を避けるゲームがあれば面白いのではないかという逆転の発想から、約1年半前に本作の開発を開始。会話を避ける本来のプレイスタイルに加えて、あえて住民の会話を聞くプレイスタイルのどちらも楽しめるように、住民の会話テキストにも注力していると話しました。
本作を世界中の人に楽しんでもらいたいという思いが強いremy氏は、本作が国際的に楽しんでもらえるゲームであるかを確認するため、BitSummitに応募したと言います。
「イベントの試遊を通じてバグを発見してしまうのが一番大変ですが、たくさんの人に楽しんでもらえててうれしいです」とイベントならではの苦労を語りつつ、好意的な反応に手応えを感じていました。さらに、海外への出展を通じて主人公に対する反応の違いを実感したとremy氏は話します。
アメリカでは主人公のキリンに対して「なぜキリン?」と不思議がられる機会が多かった一方で、日本ではキリンを特別視せず、住民の1人として受け入れている様子が興味深いと感じたそうです。
キリンを主人公に選んだ理由は、キリンの特徴的なスタイルにあります。
キリンは首が長く背も高いため、他の住民と比べて物理的な距離が生まれています。この距離感の遠さが、キリンと住民の心の距離を表現しているのだとremy氏は説明します。
加えて、キリンの目立ちたくない心情とは裏腹に、容姿で目立ってしまうギャップによる葛藤も演出しているのだそう。
全世界のコミュニケーションが得意な人や、そうでない人だけでなく、ストーリーを重視する人や、パズルゲームが好きな人にも本作を届けたいとremy氏は語ります。
とくに、タイトルにもある「コミュ障」というテーマに対して、会話が苦手であることを笑わせるつもりでは作っておらず、むしろポジティブなイメージを持ってほしいという考えで開発していると説明しました。
「世界中にいるキリンのような境遇の人たちにこのゲームを届けたいです。キリン自身も人と話すのが苦手なだけで、本当はコミュニケーションを取りたいと思っています。そのジレンマがプレイヤーの感情とマッチしてるとうれしいです」とコメントしていただきました。
取材後の2025年7月19日(土)、「BitSummit the 13th」会場で行われたアワード授賞式にて、海外からの作品の中で優秀な作品に贈られる賞「INTERNATIONAL AWARD」を、『コミュ障キリンの一週間』が受賞した(画像はBitSummitニュースページより引用)
ゲームを遊び、ゲームを作り、絵を描き、文章を書くエビです。
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