2025年3月28日(金)、ゲーム開発者向けカンファレンス「GAME CREATORS CONFERENCE ’25」が開催されました。
本稿では、『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょに エクササイズ-』における、初音ミクをはじめとするピアプロキャラクターズを本作に沿ったキャラクター表現にするための工夫について、本作のNintendo Switch版の開発を担ったヘキサドライブより岡本 鯉太郎氏が行った講演をレポートします。
2025年3月28日(金)、ゲーム開発者向けカンファレンス「GAME CREATORS CONFERENCE ’25」が開催されました。
本稿では、『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょに エクササイズ-』における、初音ミクをはじめとするピアプロキャラクターズを本作に沿ったキャラクター表現にするための工夫について、本作のNintendo Switch版の開発を担ったヘキサドライブより岡本 鯉太郎氏が行った講演をレポートします。
TEXT / HiMiKo
EDIT / 酒井 理恵
登壇したのは、ヘキサドライブ 開発部にてテクニカルアーティストを務める岡本 鯉太郎氏です。『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょに エクササイズ-(以下、Fit Boxing feat. 初音ミクと表記)』の開発にあたり、工夫した点や実装のポイントなどを語りました。
同作品の開発環境は、以下の通りです。
今回の開発は、初音ミクの「らしさ」はどこにあるのかを分析するところから始まったとのこと。MVやイラストなど多くの媒体に登場する初音ミクというキャラクターについて、今作のLookDevは「公式らしさ」「親しみやすさ」「動きやすさ」の3つのコンセプトを重視したそうです。
「公式らしさ」とは、公式イラストから見て取れる「初音ミクらしさ」のこと。
KEI氏による公式イラストは一般への認知度が高いため、特徴的なポイントを盛り込む必要がありました。例として「長くボリュームのあるツインテール」、「スレンダーな体型」、「肩幅と骨盤の幅がほぼ同一」という特徴を挙げています。これらを盛り込むことで、シルエットだけを見ても初音ミクだと分かるようなモデルを目指したといいます。
その上で、愛着が持てて安心感のある「親しみやすさ」も重要な要素です。髪の毛にはっきりとしたハイライトや逆光の表現を加えたり、鼻のハイライトにこだわったり、まつ毛の端に赤みを加えたりするなど、立体感を持たせるための表現の工夫を紹介しました。
また、今作はエクササイズゲームのため、パンチなどのアクションを行うことが前提となります。「動きやすさ」、つまりモデルの動きの自由度を保つことで、ユーザーが認識しやすいポーズが取れること、アニメーターがモデルを動かしやすいことの双方を意識したといいます。具体的な修正ポイントの例として以下を挙げ、「動きやすさ」を実現するための工夫を語りました。
質感表現については、lilToonを使うことでさまざまな表現が実現できたと岡本氏。lilToonはVRChatでもよく利用されているトゥーンシェーダーです。さまざまな設定項目によって細やかに調整でき、動作も軽いことが魅力だったといいます。
たとえば肌の陰影の表現。lilToonの設定項目の「リムライト」などを使用しています。また、「影設定」の項目で「境界の色」の指定ができるようになっていますが、そこにあえて黄色を指定しています。こうすることで、鎖骨やお腹の筋肉などの部位における落ち影の粗さをカバーしているとのこと。
衣装の表現については光沢・マットキャップ・輪郭線などの設定を組み合わせた上で反射マップとマットキャップマスクを適用するなど、複雑な設定を行っているとのこと。ライト風のハイライトを入れることで、よりリッチな表現に臨んでいます。
髪の毛のくっきりとしたハイライトや逆光の表現についてもマットキャップを使用しました。いわゆる「天使の輪」と呼ばれるハイライトはマットキャップとマスクで表現しています。
以下のような点を改善し、モデリングに活かしました。トゥーンでありながらリッチな表現を目指しています。
イラストは初音ミクの公式イラストも手掛ける岩十氏。三面図にはグローブの内側の処理など細かい点まで書き込まれている
今作では衣装のことを「スタイル」と呼んでいます。パッケージにも採用された「メロディポップ スタイル」はオリジナルの衣装。
フィードバックは靴の裏の模様や、髪留めのアタッチする部分の深さ、ヘッドホンの表裏のデザインの違いなど、細部まで多岐にわたりました。
今作ではスポーツタイプのオリジナル衣装も制作されました。スポーツスタイルの制作にあたっては、ポーズが分かりやすいか、スポーツに適している格好かといった点を重視しました。そのほか、細かいレースなどのスポーツに適さない装飾は避けたとのこと。
最終的には、衣装背面のステッチをX字状とするかY字状とするかのデザインやフリルなどにもこだわりつつ、動きやすさも兼ね備えたスポーツスタイルに仕上がったとのことでした。
鏡音リンについては特徴的なリボンを活かしつつ、フードを着用させて紐を揺らす仕様に。軽そうな素材の想定で袖部分を大きく開き、リストバンドを装着させてスポーツスタイルっぽさを演出しています。
鏡音レンもリンとお揃いのリストバンドを装着。すっきりとした動きやすい衣装を意識しつつも、後ろ髪のハネなどの特徴も盛り込んでいます。
巡音ルカは公式スタイルだとスリットが長く左足が見えるデザインのため、スポーツスタイルも左足を素足で出すデザインになりました。
公式衣装のときと同じくゴールドもあしらわれています。
スポーツスタイルにはカラーバリエーションも作成。色だけでなく、衣装のデザインや特殊効果に変更が加えられています。これらの差分はモデルではなく、シェーディングによって変更しています。
アニメーション作成ではフローごとに以下のツールを使用しました。
初音ミクとコラボする前の「Fit Boxing」シリーズにあるパンチなどの動きはピアプロキャラクターズの個性に合わせた動きではありません。そのため、ピアプロキャラクターの個性に合わせたモーションを新たにキャプチャーする必要がありました。
一日の運動が終わった後に行うスタンプのアクションは、当初は「ハイタッチ」を予定していましたが、よりボクシングらしい「グータッチ」を採用。グータッチは、支えの無い状態で空中で動作を行うと、拳がぶれてふらつきやすい動きです。もっとも安定して撮影できたのは、柱に当てる形で撮影する方法だったと語りました。
また、ラッシュはたくさんのパンチを繰り出さなければならず、ゲーム内では非常にハードな動きです。しかし撮影時には痛くなさそうな可愛い連続パンチになってしまい、現場では爆笑が起こったというほのぼのとしたエピソードも紹介されました。
リグはMaya用のオープンソースのリギングフレームワーク「mGear」と内製のカスタムリグとを併用して対応しているとのこと。たとえば基幹骨のアニメーションはmGearで作り、Mayaのリファレンスで読み込んでいます。
一方、腰のベルトなどはmGearだけでは十分対応できないため、カスタムリグを併用しています。足を動かしたときにめりこんだりしないように設定してあり、アニメーターが意識しなくても自動的に動きがついてくる仕組みにしてあると岡本氏は語りました。
アニメーションの制作にあたっては、既存のアニメーションのファイルと新規で収録したモーションキャプチャーデータのファイルとが混在する形となったそう。複数の形式のファイルを組み合わせやすくするため、中間ファイルが用意されたといいます。
具体的には、既存の『Fit Boxing』にもあるボクシング的な動きはMaya Binaryのリグデータである一方、新しくモーションキャプチャーで撮影したピアプロキャラクターズの動きはMotionBuilderのFBXバイナリデータ。両方を組み合わせるために中間ファイルとなるMayaのシーンを作成し、リターゲットツールの中に組み込むことで、双方の形式に対応できるようにしました。
結果的にはこの中間ファイルを利用した運用はリグやアニメーションの変更にも強く、リターゲットツールの更新も容易だったと岡本氏。具体的には、中間ファイルがあったことによって、以下のような調整が可能でした。
このように、アップベクターの計算方法変更や基幹骨の追加などの場面で更新が行いやすかったと語りました。
揺れ物のアニメーションへの対応についても触れられました。Unity向けのアセット、MagicaCloth2は設定項目が非常に少なくて使いやすい上、機能が充実しているとのこと。ネクタイ、前髪、ツインテールなどに使用されています。
レンダリングはUnityでFBX ExporterとRecorderを用意するとRecorderの中にFBXの項目ができることを利用してFBX出力を行いました。
UnityとMayaとでデータのやり取りをする際は、モーションのFBXへの書き出しや、揺れ物のジョイントのグループ化、アニメーションレイヤーの作成などはカスタムのツールで行えるようにしているとのことでした。
左のパネルでモーションのFBXを指定して読み込み。キャラクターが読み込まれると、ネクタイなどの必要な揺れ物を自動でアニメーションレイヤーとして作成し、右側に表示。アニメーションレイヤーを編集することにより、元のアニメーションには触れずに済む
フェイシャルアニメーションについてはUnityのプラグインであるuLipSyncを使用しています。フェイシャルはブレンドシェイプではなく、ジョイントで動かしていると岡本氏。俗に「かざり目」と呼ばれる不等号のような形をした目はモデルを切り替える形ですが、それ以外はアニメーションレイヤーで制御できるようになっています。
具体的には、アニメーションレイヤーを切り替えることで、笑った状態(2パターン)、両目を閉じた状態、片目を閉じた状態(左目ウインク、右目ウインク)などの表情に変えられるようになっています。また、口の形としては「あ」「い」「う」「え」「お」「ん」が用意され、音声によって自動で変更していると語りました。
岡本氏は最後に「桜ミクスタイル」・「目指せ!一番星スタイル」の工夫について語りました。
「桜ミク スタイル」はダウロードコンテンツとして用意されました。ツインテールにつけられた、さくらんぼの形の髪留めが特徴的なスタイルです。
この髪留め部分について、MagicaCloth2でジョイントを増やして揺れ物の設定をする際、ジョイントを増やしすぎると折れたような形になってしまったそうです。そのため、ジョイント数を3本くらいに絞って対応したとのこと。
また、髪留めをさくらんぼ大にすると髪の毛の表面でヒットするようになり、柔らかく揺れる感じが出なくなります。そこで、あえてコリジョンをさくらんぼより小さい形に整え、すこし内側にも揺れやすくするように調整したといいます。
「目指せ!一番星スタイル」は公募した衣装の中から選ばれ、無料アップデートコンテンツとして実装。パステルカラーが特徴的で、瞳の中など星を各所に散りばめています。また、左腰にポーチが付いています。
服は、色のついたマットキャップによって表現しています。
左側のポーチについては追加のアニメーション設定が必要になりました。最初は想定していなかったジョイントのアニメーションが、後から追加となってしまい対応に困るというのはよくある話。今作では、基幹骨アニメーションと揺れ物アニメーションを分けて管理していることから、揺れ物のアニメーションの移動値を操作することで対応した、と工夫した点を語っていました。
ピアプロキャラクターズの実装について、モデリング・シェーディング・アニメーションなどの各フェーズで工夫した点や、ソフトウェア・プラグイン・アセットのTipsなどが語られた当セッション。トゥーンシェーダーのこだわりポイントなど、実装に携わった方ならではの具体的な工夫が多く扱われていました。
実際にどのようなルックになっているか気になる方は、『Fit Boxing feat. 初音ミク』をぜひチェックしてみてください。
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