初音ミクと『Fit Boxing』がコラボ。公式イメージを守りつつ「スポーツするミク」を3Dで表現するためのモーキャプや衣装の工夫をレポート【GCC2025】

初音ミクと『Fit Boxing』がコラボ。公式イメージを守りつつ「スポーツするミク」を3Dで表現するためのモーキャプや衣装の工夫をレポート【GCC2025】

2025.04.23
注目記事ゲームの舞台裏講演レポート3DCGGAME CREATORS CONFERENCE ’25MayaUnityモデリング
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2025年3月28日(金)、ゲーム開発者向けカンファレンス「GAME CREATORS CONFERENCE ’25」が開催されました。

本稿では、『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょに エクササイズ-』における、初音ミクをはじめとするピアプロキャラクターズを本作に沿ったキャラクター表現にするための工夫について、本作のNintendo Switch版の開発を担ったヘキサドライブより岡本 鯉太郎氏が行った講演をレポートします。

TEXT / HiMiKo
EDIT / 酒井 理恵

目次

登壇したのは、ヘキサドライブ 開発部にてテクニカルアーティストを務める岡本 鯉太郎氏です。『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょに エクササイズ-(以下、Fit Boxing feat. 初音ミクと表記)』の開発にあたり、工夫した点や実装のポイントなどを語りました。

同作品の開発環境は、以下の通りです。

  • Autodesk Maya 2023.2
  • Autodesk MotionBuilder 2023
  • Adobe Substance 3D Painter 7.4.1
  • Unity 2022.3 LTS+URP

LookDevで追求したのは、キャラクターの「公式らしさ」と「親しみやすさ」と「動きやすさ」の共存

今回の開発は、初音ミクの「らしさ」はどこにあるのかを分析するところから始まったとのこと。MVやイラストなど多くの媒体に登場する初音ミクというキャラクターについて、今作のLookDevは「公式らしさ」「親しみやすさ」「動きやすさ」の3つのコンセプトを重視したそうです。

「公式らしさ」とは、公式イラストから見て取れる「初音ミクらしさ」のこと。
KEI氏による公式イラストは一般への認知度が高いため、特徴的なポイントを盛り込む必要がありました。例として「長くボリュームのあるツインテール」、「スレンダーな体型」、「肩幅と骨盤の幅がほぼ同一」という特徴を挙げています。これらを盛り込むことで、シルエットだけを見ても初音ミクだと分かるようなモデルを目指したといいます。

KEI氏による公式イラスト

KEI氏の公式イラストの要素を盛り込んだ3Dモデル

その上で、愛着が持てて安心感のある「親しみやすさ」も重要な要素です。髪の毛にはっきりとしたハイライトや逆光の表現を加えたり、鼻のハイライトにこだわったり、まつ毛の端に赤みを加えたりするなど、立体感を持たせるための表現の工夫を紹介しました。

また、今作はエクササイズゲームのため、パンチなどのアクションを行うことが前提となります。「動きやすさ」、つまりモデルの動きの自由度を保つことで、ユーザーが認識しやすいポーズが取れること、アニメーターがモデルを動かしやすいことの双方を意識したといいます。具体的な修正ポイントの例として以下を挙げ、「動きやすさ」を実現するための工夫を語りました。

  • アームカバーを短くし、手の外側にハイライトを置き内側を暗くすることで手の動きを見えやすくする
  • スカートの形状を変え、たくさんあるひだに視線が向かないようにする
  • ベルトの長さや髪の毛の形状を変更し、動きに干渉させないようにする
  • ヒールの高さを変え、ボクシング向きのルックである説得力を持たせる

LookDevの考え方は、鏡音リン・鏡音レン・巡音ルカといった他のピアプロキャラクターズにも適用した

lilToonを採用した、リッチな質感の表現

質感表現については、lilToonを使うことでさまざまな表現が実現できたと岡本氏。lilToonはVRChatでもよく利用されているトゥーンシェーダーです。さまざまな設定項目によって細やかに調整でき、動作も軽いことが魅力だったといいます。

たとえば肌の陰影の表現。lilToonの設定項目の「リムライト」などを使用しています。また、「影設定」の項目で「境界の色」の指定ができるようになっていますが、そこにあえて黄色を指定しています。こうすることで、鎖骨やお腹の筋肉などの部位における落ち影の粗さをカバーしているとのこと。

衣装の表現については光沢マットキャップ輪郭線などの設定を組み合わせた上で反射マップとマットキャップマスクを適用するなど、複雑な設定を行っているとのこと。ライト風のハイライトを入れることで、よりリッチな表現に臨んでいます。

髪の毛のくっきりとしたハイライトや逆光の表現についてもマットキャップを使用しました。いわゆる「天使の輪」と呼ばれるハイライトはマットキャップとマスクで表現しています。

LookDevを経たピアプロキャラクターズ

初音ミク

以下のような点を改善し、モデリングに活かしました。トゥーンでありながらリッチな表現を目指しています。

  • まつげ:色の調整
  • 細かい模様部分:発光を抑制
  • 陰影:衣装への映り込みを無くす
  • スカートの長さ:揺れた時を考えて調整
  • 肩周り・ノースリーブ:ラインを重視
  • 目:明度・彩度を下げてハイライトを抑制
  • 瞳:全体を水色にしつつ、上半分の明度と彩度を上げる
  • 髪飾り:赤をオフィシャルの赤になるよう発光を抑制
  • 衣装デザイン:袖やスカートの細かい部分はオフィシャルを参考

発光箇所は髪飾り・ブーツの模様・スカートの模様など。衣装やブーツには光沢感も表現している。また、スカートの落ち影も調整した

鏡音リン

頭のリボンは当初は垂れていたが、立った状態で揺れるように調整

鏡音レン

レンの髪もリンのリボンと同じく立った状態で揺れるように調整

巡音ルカ

衣装に透明の部分や金属的な輝きがあるのが特徴

パッケージのデザイン衣装 メロディポップ スタイル

イラストは初音ミクの公式イラストも手掛ける岩十氏。三面図にはグローブの内側の処理など細かい点まで書き込まれている

今作では衣装のことを「スタイル」と呼んでいます。パッケージにも採用された「メロディポップ スタイル」はオリジナルの衣装。

フィードバックは靴の裏の模様や、髪留めのアタッチする部分の深さ、ヘッドホンの表裏のデザインの違いなど、細部まで多岐にわたりました。

リムライトは淡い青を使用。髪の色の服は赤と青みどりの部分だけ光沢感がある

ビジュアルとモデルとしての扱いやすさを重視した、スポーツスタイルのこだわり

今作ではスポーツタイプのオリジナル衣装も制作されました。スポーツスタイルの制作にあたっては、ポーズが分かりやすいか、スポーツに適している格好かといった点を重視しました。そのほか、細かいレースなどのスポーツに適さない装飾は避けたとのこと。

初音ミク

最終的には、衣装背面のステッチをX字状とするかY字状とするかのデザインやフリルなどにもこだわりつつ、動きやすさも兼ね備えたスポーツスタイルに仕上がったとのことでした。

鏡音リン

鏡音リンについては特徴的なリボンを活かしつつ、フードを着用させて紐を揺らす仕様に。軽そうな素材の想定で袖部分を大きく開き、リストバンドを装着させてスポーツスタイルっぽさを演出しています。

鏡音レン

鏡音レンもリンとお揃いのリストバンドを装着。すっきりとした動きやすい衣装を意識しつつも、後ろ髪のハネなどの特徴も盛り込んでいます。

巡音ルカ

巡音ルカは公式スタイルだとスリットが長く左足が見えるデザインのため、スポーツスタイルも左足を素足で出すデザインになりました。
公式衣装のときと同じくゴールドもあしらわれています。

カラーバリエーション

スポーツスタイルにはカラーバリエーションも作成。色だけでなく、衣装のデザインや特殊効果に変更が加えられています。これらの差分はモデルではなく、シェーディングによって変更しています。

揺れ物、モーキャプ、フェイシャル。アニメーション制作時に工夫したポイントとは

アニメーション作成ではフローごとに以下のツールを使用しました。

  • モーションキャプチャー:ポーズ、アクションの撮影
  • リギング:mGear、カスタムリグ、Maya
  • リターゲットツール:Maya
  • 揺れ物アニメーション:MagicaCloth2、Unity
  • カスタムツール:Unity/Maya

撮影方法の試行錯誤があったモーションキャプチャー

初音ミクとコラボする前の「Fit Boxing」シリーズにあるパンチなどの動きはピアプロキャラクターズの個性に合わせた動きではありません。そのため、ピアプロキャラクターの個性に合わせたモーションを新たにキャプチャーする必要がありました。

今作のモーションは、KEI氏のイラストに描かれている3パターンの待機ポーズを出発点とし、その後、個別モーションの制作へと移った

モーションキャプチャーにおいては、待機ポーズを挟みながら個別アクションを撮影

一日の運動が終わった後に行うスタンプのアクションは、当初は「ハイタッチ」を予定していましたが、よりボクシングらしい「グータッチ」を採用。グータッチは、支えの無い状態で空中で動作を行うと、拳がぶれてふらつきやすい動きです。もっとも安定して撮影できたのは、柱に当てる形で撮影する方法だったと語りました。

一日のエクササイズの締めに行う「グータッチ」のモーション

また、ラッシュはたくさんのパンチを繰り出さなければならず、ゲーム内では非常にハードな動きです。しかし撮影時には痛くなさそうな可愛い連続パンチになってしまい、現場では爆笑が起こったというほのぼのとしたエピソードも紹介されました。

mGearとカスタムリグを併用したリギング――リギングやアニメーションの実装方法

リグはMaya用のオープンソースのリギングフレームワーク「mGear」と内製のカスタムリグとを併用して対応しているとのこと。たとえば基幹骨のアニメーションはmGearで作り、Mayaのリファレンスで読み込んでいます。

一方、腰のベルトなどはmGearだけでは十分対応できないため、カスタムリグを併用しています。足を動かしたときにめりこんだりしないように設定してあり、アニメーターが意識しなくても自動的に動きがついてくる仕組みにしてあると岡本氏は語りました。

変更にも強かった中間ファイル運用

アニメーションの制作にあたっては、既存のアニメーションのファイルと新規で収録したモーションキャプチャーデータのファイルとが混在する形となったそう。複数の形式のファイルを組み合わせやすくするため、中間ファイルが用意されたといいます。

具体的には、既存の『Fit Boxing』にもあるボクシング的な動きはMaya Binaryのリグデータである一方、新しくモーションキャプチャーで撮影したピアプロキャラクターズの動きはMotionBuilderのFBXバイナリデータ。両方を組み合わせるために中間ファイルとなるMayaのシーンを作成し、リターゲットツールの中に組み込むことで、双方の形式に対応できるようにしました。

結果的にはこの中間ファイルを利用した運用はリグやアニメーションの変更にも強く、リターゲットツールの更新も容易だったと岡本氏。具体的には、中間ファイルがあったことによって、以下のような調整が可能でした。

  • ヒジ/ヒザなどのアップベクター対応箇所のバージョンアップ
    Unityインポート時に生じる微妙なズレに対応するため、以下のバージョンアップを実施
    Ver1:ヒジ/ヒザに移動値が入った位置合わせが行われる
    Ver2:ヒジ/ヒザに移動値が無く、UVプレーン上に位置が来る
    Ver3:ヒジ/ヒザに移動値が無く、アップベクターの位置も計算
  • mGearにより入っていたU値のごく小さな値に起因するUnity側のWarningに対応できた
  • 後で作成したキャラクター衣装で必要な基幹骨の追加を可能にした

このように、アップベクターの計算方法変更や基幹骨の追加などの場面で更新が行いやすかったと語りました。

揺れ物アニメーションはMagicaCloth2とMayaのカスタムツール

揺れ物のアニメーションへの対応についても触れられました。Unity向けのアセット、MagicaCloth2は設定項目が非常に少なくて使いやすい上、機能が充実しているとのこと。ネクタイ、前髪、ツインテールなどに使用されています。

MagicaCloth2は全ての設定項目を表示しても2カラム分と非常にコンパクト

レンダリングはUnityでFBX ExporterとRecorderを用意するとRecorderの中にFBXの項目ができることを利用してFBX出力を行いました。
UnityとMayaとでデータのやり取りをする際は、モーションのFBXへの書き出しや、揺れ物のジョイントのグループ化、アニメーションレイヤーの作成などはカスタムのツールで行えるようにしているとのことでした。

AvaterとアニメーションはRead/Writeにチェック

カスタムツールではモーションをテーブル化し、2ループ分のモーションを出力。これをMaya側のバッチ処理で1ループのモーションに書き出す

左のパネルでモーションのFBXを指定して読み込み。キャラクターが読み込まれると、ネクタイなどの必要な揺れ物を自動でアニメーションレイヤーとして作成し、右側に表示。アニメーションレイヤーを編集することにより、元のアニメーションには触れずに済む

フェイシャルはuLipSyncで

フェイシャルアニメーションについてはUnityのプラグインであるuLipSyncを使用しています。フェイシャルはブレンドシェイプではなく、ジョイントで動かしていると岡本氏。俗に「かざり目」と呼ばれる不等号のような形をした目はモデルを切り替える形ですが、それ以外はアニメーションレイヤーで制御できるようになっています。

具体的には、アニメーションレイヤーを切り替えることで、笑った状態(2パターン)、両目を閉じた状態、片目を閉じた状態(左目ウインク、右目ウインク)などの表情に変えられるようになっています。また、口の形としては「あ」「い」「う」「え」「お」「ん」が用意され、音声によって自動で変更していると語りました。

DLCの新スタイルへの対応

岡本氏は最後に「桜ミクスタイル」・「目指せ!一番星スタイル」の工夫について語りました。

桜ミク

「桜ミク スタイル」はダウロードコンテンツとして用意されました。ツインテールにつけられた、さくらんぼの形の髪留めが特徴的なスタイルです。

この髪留め部分について、MagicaCloth2でジョイントを増やして揺れ物の設定をする際、ジョイントを増やしすぎると折れたような形になってしまったそうです。そのため、ジョイント数を3本くらいに絞って対応したとのこと。

また、髪留めをさくらんぼ大にすると髪の毛の表面でヒットするようになり、柔らかく揺れる感じが出なくなります。そこで、あえてコリジョンをさくらんぼより小さい形に整え、すこし内側にも揺れやすくするように調整したといいます。

目指せ!一番星スタイル

「目指せ!一番星スタイル」は公募した衣装の中から選ばれ、無料アップデートコンテンツとして実装。パステルカラーが特徴的で、瞳の中など星を各所に散りばめています。また、左腰にポーチが付いています。
服は、色のついたマットキャップによって表現しています。

左側のポーチについては追加のアニメーション設定が必要になりました。最初は想定していなかったジョイントのアニメーションが、後から追加となってしまい対応に困るというのはよくある話。今作では、基幹骨アニメーションと揺れ物アニメーションを分けて管理していることから、揺れ物のアニメーションの移動値を操作することで対応した、と工夫した点を語っていました。

基幹骨のアニメーションは既にリリースされているため、修正できない。しかし、そのまま流用すれば手がポーチを突き抜けてしまう

ピアプロキャラクターズの実装について、モデリング・シェーディング・アニメーションなどの各フェーズで工夫した点や、ソフトウェア・プラグイン・アセットのTipsなどが語られた当セッション。トゥーンシェーダーのこだわりポイントなど、実装に携わった方ならではの具体的な工夫が多く扱われていました。

実際にどのようなルックになっているか気になる方は、『Fit Boxing feat. 初音ミク』をぜひチェックしてみてください。

Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょにエクササイズかわいい~パンチをおかわり!『 Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょに エクササイズ- 』 における モデリング & アニメーション 開発事例 ‐ GAME CREATORS CONFERENCE ’25
HiMiKo

40歳からCGの勉強を始めた元SE。BlenderとUEの勉強をスローペースで続けています。旅行先ではよく食い倒れています。

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