登壇者である小倉氏は大学卒業後に広告関連企業に勤務の後、2003年フロム・ソフトウェアに入社しました。広告関連企業での経験がマーケティング分野への興味を抱く機会になったそうです。
フロム・ソフトウェアではゲーム業界以外からの採用も行っており、入社した小倉氏は宣伝部に所属しマーケティングを担当。これまでも『天誅』シリーズや『Another Century’s Episode』シリーズなど数多くのタイトルのプロモーションを担当しています。『アーマード・コア』シリーズでは4以降を担当し、2018年に同シリーズプロデューサーとして最新作『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』(以下『ACVI』)をプロデュースすることになりました。
「プロデューサー」の役割
プロデューサーとは何をする職種か 講演は、プロデューサーとは何をする職種であるかについて解説するところから始まりました。
フロム・ソフトウェアでは、ディレクター が作品の根幹となるコンセプトやテーマ、何を楽しんでもらいたいかを企画し、世界観やコンセプト、システムなどのゲームのクリエイティブに関わるクオリティに責任を負います。
一方でプロデューサー はゲームの商品性を担保するために、ゲームの大きな方向性や商材のクオリティに責任を持ち、プロジェクト全体としての成功を担う役割を担っています。
ディレクターが作品性について、プロデューサーが商品性について、それぞれ責任を持って共有しながら進めていくことが重要であると小倉氏は語りました。
プロデューサーの業務 小倉氏はプロデューサーの主要な業務として、「プロジェクトマネジメント 」「商品性の担保 」「パートナーとの折衝 」といった3点を挙げました。
最大のものである「プロジェクトマネジメント」業務は、プロジェクトの成功に向けて進捗を管理し成功へと導くというものです。成功は“クオリティ”、“コスト”、“納期”の三つの管理と利益の達成であり、大勢のスタッフが分担して取り組むゲーム開発ではプロデューサーがスケジュールの策定と実装内容の把握、コスト管理を行ない、未達の場合の対処や支援を行ないます。
予定が遅れている時は、計画が実務にそぐわないケースや、開発にやりたいことを詰め込みすぎて作業量がオーバーしていることが原因になっているケースがあるため、プロデューサーは作業内容そのものが適切かどうかを判断する必要があると小倉氏は自身の経験を語りました。
「商品性の担保」について、小倉氏は開発内容が作品に本当に必要かをジャッジすることで判断しているそうです。
10年ぶりの新作となる今回の『ACVI』では、プレイヤーとしてこれまで『アーマード・コア』シリーズに触れたことがない層を想定し、テクニックやセオリーをしっかりと伝え理解してもらうことが必須であると判断したそうです。
そのため『ACVI』では、チュートリアルなどをしっかりと実装してきたつもりであったと述べました。しかし、開発途中で実装した内容や機能だけでは、システムやスキルがプレイヤーに伝わっていないことが露呈し、納期とコストが迫る中でどうにかして開発工程にねじ込むというような難しいジャッジも行ったとのことでした。
「パートナーとの折衝」について、フロム・ソフトウェアは日本国内にしか拠点がないため、海外での販売や展開については協業という形で展開しています。
『アーマード・コア』シリーズは『ダークソウル』シリーズや『エルデンリング』などと同じくバンダイナムコエンターテインメントとの協議プロジェクトとなっています。小倉氏はあらゆる内容を協議・連携してプロジェクトを進め、内容はコンセプトから細部のディテールに至るまで多岐に渡り、IPのブランディングの方向性も一緒に模索したとのことでした。
また、ゲーム仕様が世界各国で問題がないか、権利周りや表現が宗教上の問題がないかについての調査だけではなく、海外チームに開発ビルドを触ってもらい、レビューとフィードバックを受けてローカルライズと言語デバック行うなど、海外展開に向けてさまざまな分野での協業も行ったそうです。
そのほか販促においても、本作はワールドワイドのマーケティング戦略を実施。PR計画やさまざまなプランニングを共に構築したとのことでした。小倉氏はプロデューサーとして内容を把握しているためマーケティング業務も非常に効率良くできたと当時を振り返りました。
PRについて、小倉氏が入社した2003年頃とは違い、現在は一つの情報がSNSを介して一瞬にして拡散してしまうため、情報公開やプロモーション、サイトのメッセージは国やエリアを超えたトータルでの展開が求められる
プロデューサーになるきっかけ 小倉氏は自身がプロデューサー職に就任したきっかけを振り返り、プロデューサーになるのはタイミングや人員という環境的な要素や、さまざまなスキルも求められるが、何よりタイトルやフランチャイズへの熱い思いが必要だと語りました。
『アーマード・コア』シリーズは、フロム・ソフトウェア創業から続くIPということもあり、その火を絶やしたくないという思いが小倉氏に強くありました。また、フロム・ソフトウェアでは代表の宮崎英高氏がディレクターを務める作品が多くなっていましたが、他のディレクターによる作品が生まれることで同社に新しい色や多様性が生まれ、刺激になるとし作品の幅が生まれていく環境が必要だと考えていたそうです。
また、異なる視点でそのタイトルが持つ魅力やクリエイティブの良さを判断して内外に伝えるのは大切だという認識が社内で高まったことや、同シリーズのプロデューサーが退職し不在という状況が数年間続いていたこともあり、マーケティングやPRを担当していた小倉氏が商品性という観点を持って参加すれば本ブランドの一助になるのではと考えプロデューサーに就任したとのことです。
プロデューサーに必要なスキル 続いて、小倉氏はプロデューサーに必要なスキルとして「コミュニケーションスキル 」「問題解決スキル 」「ビジネス視点とバランス感覚 」「開発技術の習得 」の4つを挙げました。
ゲーム開発においてクリエイター一人一人がドキュメントやアセットを作成し、プログラミングするといった実作業を担当していきますが、プロデューサーは「コミュニケーションスキル」をもってクリエイター間の齟齬をなくしてスムーズにプロジェクトを進める役割が求められます。
「問題解決スキル」について、プロジェクトの推進にあたって課題の発生やリスクの顕在化は起こりうるものであり、発生しても解決に向けて判断を下すことも、プロデューサーの職責だと『ACVI』の開発を通じて感じた小倉氏。この問題解決には、ゲーム開発に関する問題以外にも、プロジェクトメンバー間の色々な問題も含まれており、人と人のコミュニケーションを円滑にするという面も含まれるとのことでした。
「ビジネス視点とバランス感覚」については、ゲーム開発はクリエイティブ活動であると同時に販売商品を作り出すプロダクト活動でもあると小倉氏は言います。プロデューサーはゲーム開発がビジネスであると捉えるべきで、クオリティコストの達成や利益が必要であるという視点を忘れてはいけないというのが根底にあるとしています。とはいえ、ゲームは他の消費財と違って作品という側面が大きく、クリエイティブとビジネスのバランスをしっかりと保つことが重要であると語りました。
「開発技術の習得」に関しては、マネジメントする立場でもゲーム開発の実作業が分かっていなければ管理判断はできないため、手を動かして作業する必要こそないものの、ゲーム開発の技法やスキルを磨くことも必要だとしています。特に技術は日々進歩するためプロデューサーもキャッチアップしていく必要がありますが、小倉氏自身に開発経験がないため、苦労しつつもスタッフに協力を得ながら日々挑戦しているそうです。
これら4つのスキルを駆使していくことでプロデューサー業務が円滑に行われていくと小倉氏はこの項目を締めくくりました。
フロム・ソフトウェアのゲーム開発体制とスタイル 続いて小倉氏は、フロム・ソフトウェアの開発体制について解説をしました。
フロム・ソフトウェアの企業理念 は「感動を伝えたい。価値を生み出したい、喜ばせたい。」であり、物づくりのスタンスも、ゲームが好きだからこそ真摯にゲーム作りに向き合う熱い思いをもって開発する会社であり続けたい、というものです。開発者については、些細なことに囚われることなく、面白いゲームをただ真剣に作っている人が見出され、評価されてチャンスが得られる環境というものが非常に重要と小倉氏は感じており、開発現場に 売り上げや評価などを課すことはないと言います。
フロム・ソフトウェアでは常に複数のタイトル開発が同時進行で進んでいて、かつ発売タイトルは1年に1タイトルとサイクルとしてはかなり少ないことから、フロム・ソフトウェアの社員400名のうち9割にのぼる社内の開発スタッフが、固定したチーム性ではなくコアメンバーを主軸に有機的に増減する方式がとられています。それゆえ、社内での座席移動は頻繁に行われ、さまざまなタイトルを経験するメンバーが増える環境にあり、フロム・ソフトウェアらしいゲーム、設計、思想をより濃くできると小倉氏はいいます。
フロム・ソフトウェアの開発人員配分の説明。タイトルAが発売するまでは多くの人員を割いているが、Aの発売後は他のラインが拡充していく。スタッフロールを見れば同じスタッフが複数タイトルに参加しているのが分かるそうだが、「弊社のタイトルは簡単にエンディングまで行けないので、なかなか見比べることは難しいかもしれません」(小倉氏)の声に会場では笑いも起きた
『ACVI』の開発とポジショニング
ここからは『ACVI』の開発について、小倉氏はマーケティングの視点も交えながら講演を続けます。
なぜ今、『アーマード・コア』なのか これまで『ACVI』についてインタビューを受けた小倉氏は、海外のメディアからよく聞かれたこととして、「なぜ今『アーマード・コア』を作るのか」という質問をあげています。
『アーマード・コア』シリーズは、フロム・ソフトウェアが創業当時から続けているメカアクションシリーズで、今年26年目を迎える長寿シリーズです。特徴は何と言っても、頭、腕、足や武器などのパーツを自由に組み替え、自分だけのメカでさまざまなミッションを遂行するところにあります。
一方でフロム・ソフトウェアは、2013年の『ARMORED CORE VERDICT DAY』の発売後、『ダークソウル』シリーズ、『Déraciné』、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』、そして2022年には『エルデンリング』といったダークファンタジー作品を発売しています。世界中でさまざまなアワードを受賞しているこれらのタイトルを差し置いてなぜ今『ACVI』を作るのかと疑問を持たれるのはすごく当然のことだと感じたと小倉氏は言います。
なぜ『ACVI』を作ろうとしたか、それは『アーマード・コア』には今の時代にも通用する普遍的な面白さが備わっていると考えており、さらにこれまでのさまざまなタイトル開発の経験から優秀な人材も育ち、社内でもアーマード・コアを作りたいというスタッフが多くいたこともあって、それであれば作らないという選択肢はそもそもなかったからと小倉氏は述べました。
しかしながら、フロム・ソフトウェアでは複数のタイトルを並行開発中ゆえに社内リソースを適宜配分しており、結果的に10年もの長い期間が空いてしまったということのようです。
追求し直した『アーマード・コア』のコア 本作の開発について、2017年末には次の『アーマード・コア』を作るにはどうしたらいいかとの議論が始まったそうです。2018年には宮崎氏と数名のディレクターが開発初期段階のイニシャルディレクターとして参加し、今の時代に『アーマード・コア』を作るならどんな方向性を目指すべきかを検討すべく企画開発に着手。ブランドをリブートさせる着想については最初は明確にあったわけではないものの、今の時代にあった調整や変化は必要と感じており、同時に『アーマード・コア』の面白さは今でも通用するという信念があったと小倉氏は語ります。
プロトタイプ開発では、『アーマード・コア』の面白さとは何であるかという素朴な疑問を解明するため、映像やテストビルドといった試行錯誤を繰り返しました。
その結果、「『アーマード・コア』のコアコンピタンス の見直し」という答えに辿り着きました。『アーマード・コア』シリーズの根幹の面白さは、武装の交換(アセンブル)とアクションの自由度とが直結し相互に作用する ことです。しかし過去作では武器を変更してもダメージなど数値上の変化のみでアクションに影響を及ぼすまでにはいかず、脚部を変えても多少の変化だけで、相互作用しているとはお世辞にも言えない、『アーマード・コア』が本来持つ面白さの真髄が伝わっていなかったと小倉氏は語ります。そして目指すべきは、アセンブルすると挙動が変わり、プレイスタイルの自由度と多様性がもたらされること だと述べました。
さらに、メカとしての意義、人間には真似のできないメカならではのアクションができること、メカゲームでしかできない世界といった「メカゲームである意味 」を提示することが、本作の魅力を伝えるための絶対的な必要条件であるとも述べました。
そして、フロム・ソフトウェアらしいアクションゲームの設計思想と言える立体的なマップ設定、手触りの良いアクション挙動、多彩なモーションとリアクション、手ごたえのある高い達成感が得られるゲーム性といった、これまでの開発で得られた知見や経験を土台にすることで、『アーマード・コア』の面白さを上積みする。そんな信念のもと、今の時代にふさわしい『アーマード・コア』を実現すべくブランドを最適化していくことになります。
2019年に『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が発売された後、リードプランナーだった山村優氏が、2020年にディレクターとして本プロジェクトに合流することで開発は加速していきます。
マーケティングからから見た『ACVI』のポジショニング
続いて、マーケティングの見地から見た『ACVI』のポジショニングについて解説が行われました。
小倉氏は戦略策定プロセスについて、経営理念、経営指針からはじまり、企業内部外部での市場環境分析、市場機会の探索、そして、事業ドメインの決定と戦略策定、最後に、行動計画、実行、効果検証まで多様なプロセスがあり、フェーズにさまざまなマーケティングツールが存在すると説明をします。
マーケティングツールとして、経営理念においてはパーパス経営、MVBがあり、内外の環境分析と市場探索においては、PEST分析やVRIO分析、SWOT分析などがあり、事業ドメイン決定と戦略策定においては、3C分析、5Force分析などがあります。最後の行動計画・実行・効果検証には、STPや4Pなどさまざまなツールが存在します。
これらのツールは先人マーケターの編み出した優れたものであるものの、重複する箇所もあるためフル活用しようとすると何度も同じことをすることになってしまいます。そしてツールに現状を落とし込むこと自体が目的になってしまい、本来解決すべき課題解決に繋がらないこともあると、小倉氏自身の経験も重ねながら述べました。
そこで小倉氏は「市場 」「強み 」「ターゲット 」「ポジショニング 」といった4点に絞り込み、これらの要素が『ACVI』において一貫性を持ってどのように機能しているかを判断することにしました。
小倉氏は、『ACVI』がやりごたえのあるアクションゲーム 「市場 」に存在し、他社がすぐに真似のできない近年のタイトル開発から得られた知見と経験によるフロム・ソフトウェアらしいゲーム設計思想 が「強み 」となっていると分析。そして、「ターゲット 」は遊び応えのあるアクションゲームを求めるユーザー であり、取るべき「ポジション 」を強固な設計ゲーム設計をベースに『アーマード・コア』シリーズ根幹の面白さを現代に昇華させた新たなメカアクションゲーム と設定します。
ポジショニングから導かれる『ACVI』のゲーム要素 このポジショニングを『ACVI』のコアコンピタンスを踏まえ、ゲーム内容に沿って表現すると、アセンブルとアクションが相互作用 し、自キャラが立体的に激しいアクションする人間には決して真似のできない数々の挙動 を行うことで、FPS由来ではなくアクションゲームを礎とするシューティングゲームという新しいスタイルを提案 し、今のフロム・ソフトウェア が作り出すメカならではの銃撃戦によるアクションゲーム を作り出す、という方針が導き出されます。
この方針を本作を開発していく上での軸として、ディレクターや全ての開発スタッフが議論をして一つずつゲームの要素を積み上げていきました。
アセンブルとアクションの相互作用について、例えば脚部パーツを変えると大きな変更が起こるようにし、オーソドックスで汎用的な二脚、跳躍力に優れた逆関節、上空でホバリングできる四脚、圧倒的な積載量(本作ではメカパーツに重量があり、制限もある)を誇るタンクといったユニークで特徴的なアクションが実現しました、また、武器の違いにより撃ち方や反動、弾丸の振る舞いといった挙動にも差が出るように意識しており、プレイヤーが過去作以上に自分好みの機体を構築できるように心掛けたそうです。
メカならではの特性について、自身の身体的な拡張性も重要視すべき点だと小倉氏は言います。生身の人間には決して真似ができない点として、空を飛んだり急接近したりといったダイナミックな動きができるように設計したそうです。さらに同社が得意とする立体的で折り重なるマップ設計のノウハウを活かし自由に飛び回ることができる巨大マップを作成することで、プレイヤーにメカならではの機動力を体験してもらえたのではないかと語りました。
またメカならではの挙動として、装備した四つの武器を同時使用しながら回避したり、防御しながら攻撃を行ったりと複数の動作を同時並列で行えるようにしており、バトルを立体的でアグレッシブなのものへとシフトさせたそうです。
さらにアグレッシブなバトルにメリハリをつける要素として、スタッガーシステムを用意。敵がダウンした瞬間に一気に攻め立てるバトル内でも感情が激しく動くタイミングを設けるほか、どの武器でスタッガーを引き起こしどの武器でダメージを与えるかといった、武器の連携を考えることがアセンブルの武器選択要素に新たに加わったと小倉氏は述べています。
なお、今作では過去作に比べシューティング要素よりもアクション要素を際立たせて おり、過去作のように自分の被弾率を下げ相手の被弾率を上げるゲーム性から、瞬間的な判断をするゲームに変更されています。ゲームスピードも一段下げてプレイヤーが見てから対処できる戦闘距離にしたそうです。
これによって敵の攻撃予兆や挙動を見て対処できるようになり、また近接武器のパターンも豊富に揃えてよりアクション部分を重視した設計になっています。そのため本作では激しくアグレッシブなバトルが多くなるため、プレイヤーのエイム負担を下げてアクションに集中してもらうためにターゲットアシストと呼ばれるロックオンシステムも導入したそうです。
これらのアクション要素は今までの『アーマード・コア』にはなく、誰もが初めて触れるものだったため、オンボーディングやチュートリアルも充実させています。さらにオンライン対戦やACデータ/イメージ共有などの要素も盛り込むことで、『ACVI』は従来の『アーマード・コア』シリーズの根幹はキープしつつも、新しいメカアクションを提示できたと小倉氏は本作のポジショニングについての解説をまとめました。
『ACVI』のマーケティング戦略 『ACVI』のマーケティング戦略 に関して、小倉氏はコアコンセプトに対するバリューとして、「自由度の高いアセンブル」「メカならではの三次元の立体機動」「手応えと駆け引きのバトルデザイン」「ゲームを彩る広大な世界観と物語性」の4つをプロモーションの柱とすることを決定。フロム・ソフトウェアの新作アクションゲームというメッセージを送り出すことにしました。
『ACVI』の価値は『アーマード・コア』が持つ根幹の面白さであり、発売までのさまざまな段階でこれらの情報を発信し、認知や理解をされるように注力したとのことです。2022年の12月に情報を公開して以来、「アセンブル」「三次元立体機動」「バトル」「世界観」の四つのファクターを集中的に伝えてきたそうです。
巨大なマップでメカの挙動やバトルのアクション性についての動画をメディアを通じて発信を行う、体験会などを通して実際に『ACVI』をプレイヤーの手で動かしてもらうといったことを行うことで、目指しているアクションのゲームの姿を共有してもらうようにし、これらの要素以外のものを極力排除することでコミュニケーションを先鋭化させ、コンパクトに『ACVI』を伝えることを心掛けたそうです。そしてこれらがうまく伝わっていれば、嬉しい限りだと小倉氏は語りました。
既存のフランチャイズをリブートするとは
最後に小倉氏は、既存のフランチャイズをリブートするとはどういうことかについて、今の時代に適した形で蘇らせることだと述べました。それは見た目の事だけではなく、システム技術全てにおいて今の時代に即したものに柔軟に対応することが必要だということです。
一方で変化させてしまうとそのIPの良さを削いでしまう恐れもあり、変えて良い点と変えてはいけない点を見極めることが非常に重要だと小倉氏は指摘します。IPを奥底まで見つめ続け、光輝く原石すなわち、それだけが持つプリミティブな部分があると確信できるかが重要だということです。
『アーマード・コア』という創業当時から続くフランチャイズを現代に蘇らせた際においても、変えてはいけない、そしてより進化させるべきである芯となる部分をしっかり見つめ直すことが非常に重要であり、それはアセンブルでアクションが変化すること であったと小倉氏は述べました。
『アーマード・コア』は提供する課題に応じて自分自身を最適化していく独特なアプローチをしており、作戦内容やミッション、登場する敵に応じてメカを構築し攻略していく面白さがあります。単にゲームのメカニクスというだけでなく、メカいじりの楽しさや作戦に応じて装備を変えていくプロの傭兵らしさといったフレーバーにもなります。アセンブルこそが『アーマード・コア』の世界観を定義する重要なファクターなんだと小倉氏は再認識したそうです。
『ACVI』の開発において、根幹の面白さと現代に蘇らせるための設計手法、変える点と変えない点が整合性をもって一本に繋がった時にプロデューサーとして光明を見出すことができた瞬間だったとこれまでを振り返り、そして個人としては、いつも圧倒的な信頼感を置くクリエイターの宮崎氏がいない中で『ACVI』を作り上げることができたのは、フロム・ソフトウェアとしての収穫であったとも小倉氏は語りました。
苦労している時こそ今一度初心に立ち返るということは、ゲーム開発以外の部分でも重要で、プリミティブが強固であればあればあるほど強い輝きを放つのだと思ったと小倉氏は述べ、この結論をもって本講演を締めくくりました。
本講演の後、筆者が「過去のIPを今に蘇らせるという点において、2017年と2023年ではマーケティングの観点ではかなり違っているが、この点をどう判断したのか」と聞いてみたところ、小倉氏は「確かに異なる部分もありますが、だからこそプリミティブな部分を見つめなおし適宜キャッチアップした」と回答しました。そのプリミティブな部分は『ACVI』において強烈な輝きを放っているのではないでしょうか。
『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』はPlayStation 4、 PlayStation 5、 Xbox One, Xbox series X|S、Steamで発売中です。
既存IPシリーズのリブートにおける再定義とARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONのポジショニング|CEDEC+KYUSHU 2023 ARMORED CORE VI OFFICIAL SITE
5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れてゲームライフが始まる。2000年代にノベルゲーム開発を行い、異業種からゲーム業界に。ゲームメディアで記事執筆を行いながらゲーム開発にも従事する。