数多くのヒット作がリリースされ、各地で開催された展示会などのイベントも盛況ぶりが目立った2023年の日本インディーゲームシーン。
そんな動向は開発者やパブリッシャーの目にはどう映ったのか。本記事では、インディーゲーム開発者を対象としたカンファレンス『Indie Developers Conference2023(以下、IDC)』を主催した3名による、「2023年のインディーゲームシーン振り返り(?)座談会」の模様をお届けします。
数多くのヒット作がリリースされ、各地で開催された展示会などのイベントも盛況ぶりが目立った2023年の日本インディーゲームシーン。
そんな動向は開発者やパブリッシャーの目にはどう映ったのか。本記事では、インディーゲーム開発者を対象としたカンファレンス『Indie Developers Conference2023(以下、IDC)』を主催した3名による、「2023年のインディーゲームシーン振り返り(?)座談会」の模様をお届けします。
TEXT / ハル飯田
INTERVIEW&EDIT / 藤縄優佑
——2023年のインディーゲームシーンを振り返ってみて、思い出深い出来事や変化を感じたことはありますか?
今井 晋氏(以下、今井):世界に目を向けると、ゲーム業界のバブルが弾け、その影響が大企業だけではなくインディーにまで及びましたね。この1年は投資が渋くなったりお金の流れが滞ったり、ちょっとやりづらくなった時期ではありました。
ただ、日本国内はインディーがめちゃくちゃ元気で話題性には事欠かなかった年だと思います。日本独自のインディー市場のようなものが形成され始めている感じがします。
一條 貴彰氏(以下、一條):国内のインディーゲームへ急速に注目が集まり始めたのが2019年か2020年ぐらいだったと思いますが、それが一層加熱したのが2023年だったかなと。そんな状況でも横のつながりを意識する流れができています。
例えば、ゲームのパブリッシングを含んだコンテストであってもバチバチしたライバル関係ではなく、国内の開発者さんの発展をお互いが助け合う雰囲気がありますね。
今井:今は開発者さんの立場から見ると「売り手市場」だろうと思っていますが、実際はどうでしょうか。5、6年前だったら費用を援助してもらって開発するケースなんてメジャーじゃなかったですよね?
水谷 俊次氏(以下、水谷):いやー、なかったです。今ではそれが普通になりつつありますよね。
今井:パブリッシャー側としては競争が激しくなっていますが、開発者さん側にとっては健全と言いますか、良い状況にはなっていると思っています。
一條:本当にチャンスが広がっている環境ではありますが、そのチャンスをつかんだ後に結局プロダクトとして出せるのかどうか、という結果の検証はまだこれから先を見守ってみないとわかりませんね。
ゲーム開発にお金が必要なのは間違いありませんが、技術的知見や事業運営のノウハウ、そしてもちろん作品を完成させる胆力などいろいろなものが必要です。とくに「完成させる力」は開発者本人のものですから、外部からサポートができるわけではありません。
自分たちで補うとか社外の有識者に頼るなどして解決できるようになっていけるような情報網や、まとまった知見共有の場が必要だと思っています。
HYPER REALさんでもパブリッシングだけではなく、別のパブリッシャーさんと組んでマーケティングのサポートに特化した取り組みもありますよね?
今井:関係者がここに揃っている『34EVERLAST』が、例としてちょうど良いですね。
一條:『34EVERLAST』の開発者さんは、鉄鋼業を本業としながら個人でゲームを作っています。彼はiGi(※)の第2期生としてインディーゲーム開発のための必要な知見を学びました。「ゲームを完成させるためにはこういう技術とノウハウが必要で、パブリッシャー契約の時はこういうところを意識して……」といった知見を得ました。
卒業後、数々のパブリッシャーに対するピッチを経て、PLAYISMさんとパブリッシング契約しました。そのうえで、HYPER REALさんとマーケティングや海外展開方面をサポートを得る契約をされました。
※ iGi indie Game incubatorは、インディーゲーム開発者向けのインキュベーションプログラム。一條氏はiGiのファウンダーとしてアドバイザーを務めており、今井氏はiGiでメンターを担当している
今井:マーケティングだけではなく、全体的なサポートですね。本作は基本的に個人開発で、例えば3Dモデルの制作依頼する相手も一から探さないといけないので、そのあたりのサポートもしています。
一條:個人開発者さんや小規模開発チームにとって、それはかなりありがたいことだと思います。小規模でやりにくいことを補う役割がパブリッシャーさんにはありますが、すべてをパブリッシャーさんが補ってくれるわけではありません。
そのため、マーケテイング担当やプロジェクトサポートといった、開発者さんの今後の選択肢が増えるようにサポートする職種が増える必要があるんじゃないかなと思いました。
今井:iGiで感じたことですが、自分たちで作ったピッチでいきなりパブリッシャーと契約してお金がもらえたとして、そのお金をどう使えばいいのか、みんなわからないのではないかと。
エンジニアさんやモデラーさんを雇うことや、雇った方々を加えたチームを効率よく回す経験がある方は、ほとんどいないでしょう。進行管理も知見としては必要ですが、「その経験はどこで積めばいいのだろう」と感じました。
一條:国内のインディーゲーム開発者さんが迷ってしまうポイントはそこにあると思っています。個人的には、いま「ゲームをプロダクトとして完成させる」ことが一番難しいのではないか、と思っています。
ゲームのプロトタイプを制作しようと思ったらゲームエンジンがありますし、書籍やWebでさまざまな情報を収集できます。その後、今では年間10件以上はあるインディーゲームイベントへ出展して、インキュベーションプログラムで知見を身につけ、国内外のパブリッシャーさんやパブリッシングを含んだゲームコンテストと契約するといったチャンスをつかんでいきますよね。
ただ、本格的に開発する段階に進む、つまりゲームとして完成させてユーザーに届けるのが難しい。パブリッシャーさんと組んでも、作り込みが不十分なままローンチして失敗したり、売り上げが達成できなかったり、そもそも作品が完成せずにチームがバラけてしまったり。そんな事例が増えてしまうかもしれない。
今井:そういった問題には水谷さんはどうやって対処されてます?
水谷:本当に難しい問題だと思いますね。初めてゲームを作ってる人って、なんとなく“面白いプロトタイプ”は作れるんですけど、その先が難しい。
その例が『ごく普通の鹿のゲーム DEEEER Simulator』で、鹿の首が伸びて二足歩行で歩いてる映像がSNSでバズったんですが、その段階では「どんなゲームを作りたいか」は本人もまだわからない段階だったんですよね。
今井:その作品にはプロデューサー的な立ち位置で介入したんですか?
水谷:アーリーアクセスをすることもあり、どういう方向性で作るかを開発者さんと話し合いをして「どう着地させるのか」を決めないといけませんでした。ゴール地点に引っ張る役割を担う人がいないと、ゲームが完成せず路頭に迷う人が出てきてしまうんです。
オープンワールドにしたいという話がたしか最初にあって、ステージの制作量も心配していましたので小さい箱庭にしようと伝えた記憶があります。
結果として、彼は「場所は同じだけど未来にワープする設定にすれば、同じマップが使い回しできる!」と、天才的なアイデアを最終的に生み出しました。この発想のおかげでリリースできたと思います。
開発者さんごとに話すことは違いますが、「大作を作ろう」みたいな考え方は止めたほうがいい、とはたいていの方に話しています。
一條・今井:あー、たしかに。
水谷:ゴール地点まで引っ張るという点で協力した例としては、『Refind Self: 性格診断ゲーム』もそうですね。
開発スタート時は、本当に性格診断だけをするゲームでした。僕はひねくれているので「僕みたいな40のおじさんは性格診断に興味ないし信用してないから、性格診断の皮をかぶった世界観が面白いゲームにした方がいい」と延々言い続けました。
僕は、クリエイターにとって今は良い環境になっていると思うんです。以前はすさまじい能力を持つ人しか注目されなくて、本当の天才しかいないような状態でしたよね。
一條:恵まれない環境で生き残れる人しかいなかった。と言いますか。
水谷:そういった方々は金銭的な援助を受けていなかったにも関わらず、化け物みたいな作品を作っていたのを見ると、やっぱり(必要な支援は)お金がメインって言いづらいですよね。
今井:もちろんお金はあったらいいけど、それにプラス何が必要ですか。
水谷:パブリッシャーの私が言うのも変なんですけれど、お金をもらうと「売れそうなゲーム」を作らなきゃいけないと思ってしまうんですよね。
PLAYISMは、「一見売れなさそうでも、好きなものを作った方が売れるよ」とアドバイスしています。しかし今の開発者さんは、例えば「この『インディーゲームA』がこれくらい売れていてパズルアクションにもニーズがあるから、僕のゲームは〇〇本売れるはずだ」と考えながら開発してしまうんです。
そこで「君の作っているゲームは『インディーゲームA』にならないと思うし、それなら僕は『インディーゲームA』を買うよ」と言って止めないといけないんですが、それを言ってくれる人はなかなかいませんよね。
今井:たしかに、マーケティングについて質問する開発者さんは多いです。
一條:マーケティングとか「こういう方が受けるんじゃないか」みたいな考えを始めると、それは自分のゲームじゃなくなってくるんですよ。
今井:そういう考えを一旦遮断してほしいからパブリッシャーがいるんですけどね。
水谷:そうなんです。でもSNSのフォロワー数がどうとかSteamのウィッシュリストの数がどうとか……。皆さん“ウィッシュリスト病”にかかってますよ。
ウィッシュリスト登録数が1万でも10万でも売れない時は売れないし、売れる時はウィッシュリスト登録が1,000でも売れるから、(とくにパブリッシャーと協業することを決定・検討しているなら)気にしない方がいいんです。そういうのはうち(パブリッシャー)でやるから、開発だけに集中してほしいですね。
一條:それを意識してゲームを作るのは、企業で誰かに言われて作っているのと一緒ですよね。「上司の命令」が「市場動向やウィッシュリスト」に置き換わっただけで、それから逃れるために独立したんじゃないのかい?と感じてしまいます。
水谷:ゲームづくりのノウハウが整理されることで、「こうすべきだ」みたいな考えが広まっていますよね。ただ、昔のゲームは今にない尖り方をしていて面白かったです。インディーゲームって洗練されていくほどつまらなくなるから、すごく難しいですよね。
「支援をもらってゴール」みたいな気持ちになる方も出てきてしまうんじゃないかと思いますし、どうサポートするのが良いのかは支援をする立場でありながら悩む部分です。だから近年のインディーゲームは流行ってはいますけど、昔より面白いかと問われると「個人開発のすげえゲームってあんまりないな」と思っちゃったり。
今井:対して海外は50人や100人規模のチームで開発している状態になってきて、日本と海外でインディーゲームシーンの動向がかなりズレてきていますよね。
水谷:「これってインディーゲームでいいのかな?何人までがインディー?」なんてウダウダ言ってる場合じゃないと思わされるくらい、海外はガンガン攻めまくっていますよね。我々はパブリッシャーなのでゲームづくりはせずパブリッシュし続けますが、時々「インディーゲームって何だったっけ?」と悩んでしまいます。
一條:ゲームは商業的な面と作品性・芸術性の二面性がくっついて離れないコンテンツなので、それは一生悩み続けるしかないことだと思うんですよね。
一條:インディーゲーム開発者としては、「これがセオリーだ」みたいに何かを押し付けられたくはないんですが、放っておかれすぎると人知れず潰れてしまうかもしれない。なので、幼少期の孫悟飯をさらって修行をつけたピッコロ大魔王みたいに、遠くから見守りつつピンチになったら助けてくれるような存在があると嬉しいなと。
個人的に一番危惧しているのは、今は“目立つのが上手い”人が注目を集めすぎていて、じっくりとゲームづくりに集中している方たちが日の目を見ずに止めていくような不均衡さを感じることです。
素晴らしい作品を作っているインディーゲーム開発者さんがゲーム制作を止めてしまうことが一番回避したいことです。それをなくすためにも開発者同士が情報共有や情報交換ができる道を作る。っていうのが私の中でIDCをやっていくモチベーションにもなっています。
今井:私はそこがパブリッシャーの仕事かなと思っています。良質かつ面白い作品を、面白い文脈に載せてパブリッシャーが立ち回らなきゃいけないんです。
今井:僕が担当しているインディーゲームとはまたちょっと別物ではありますが、最近だとティラノスクリプト・ティラノビルダー(※)がすごい勢いで新人クリエイターを生み出していますよね。
その中にはSteamでゲームを出そうとは思っていない人も多いかもしれませんが、クリエイティブな香りがする場所になってきていて、その先に何かがありそうな気はしてます。
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一條:ティラノスクリプト(ビルダー)で作られたゲームのコンテスト『ティラノゲームフェス』の応募数も、2016年の119作品だったところが2022年は540作品(※)ですから、すごい増え方ですね。
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今井:若い子がノベルゲーあたりを作ろうと思ったら、ティラノスクリプトを使う流れが確実に来ていますよね。イラストも最近のセンスだなと感じる作品が増えていますし、音楽クリエイターとも上手く協力して作品を完成させている面白いシーンになりつつあります。
ここから商業デビューすると考えた場合、ティラノスクリプトのまま出すのか、それとも他のエンジンに移植するのかは難しい判断ですよね。
一條:そこは自分のクリエイティビティを優先した方がいいんじゃないか?みたいな気もしつつ、それだとパブリッシャーさんが苦しむことになりますが(笑)。
今井:「この作品めっちゃ良いけど移植どうしよう……」みたいなケースはありますね。
一條:Unity、アンリアルエンジン、Godot、GameMaker、ウディタ、アクツクと、現在は多種多様な開発環境があります。
移植などのノウハウについては、その使っているゲームエンジンの利用者同士で知見をちゃんと共有するコミュニティをエンジン提供者や有志が運営していてくれるといいんじゃないかなって思います。エンジン主導と野良コミュニティ、多種多様なものがあることが望ましいですね。
——今後、技術・開発以外で共有しておくべき知見はありますか。
一條:事業トラブルに対する法的措置の知見もちゃんと共有されるべきだと思います。
海外だと「お前のゲームをヨーロッパでマーケティングしてやるぜ!」と言って何もせずに売上の何パーセントかを持っていく事件が起こっているらしいので。
国内でも表面化していないだけで、契約トラブルなどはすでに起こっているかもしれません。こうしたトラブルは今後どんどん増えることだと思っていまして、開発者さんには「今年は防御の時代だ」とよく伝えています。
コンテストや展示イベントにはチャンスがあるしゲーム開発を助けてくれる人もいるんですけども、その中には当然悪いやつも含まれているので、何か起きた時にちゃんと弁護士に頼れるような情報収集は必要だなと思っています。
もっとも、これは海外の話を聞いた開発者としての考えなので、パブリッシャーさんの考えはまた違うと思いますが。
水谷:“悪い開発者”もいますよね。作品が一向に上がってこなかったり(笑)。
一條:もちろんそうですね(笑)。当然ながら進行管理に長けた人ばかりではないので、スケジュールを切ったとしても守れなくて、立てた計画がどんどんずれ込んでしまうんですよね。
水谷:来年はこのタイトル出すんだ!と決めても半分くらいしか実現しないのが、パブリッシャーの難しいところです。
一條:計画書を作ろうにもこれは実現可能なのか、もし不可能ならどこまでやるべきなのかが分からないんですよね。ゲームって漫画や映画のような商流のフォーマットがないのも難しいと思います。
今井:尺も決まってないですからね。
一條:例えば漫画の場合、作家さんを見出したら雑誌やWeb媒体で連載をスタートさせて、単行本にして、そこからメディアミックスやコラボレーションで広げていくという一連の商流があるのではと思います。インディーゲームはそれぞれ尺も違うし、開発期間は3年5年は当たり前。作品ごとにやることを別物として考えないといけない。
この点については自分は「開発者が知見を身につけてつけて強くなるしかない」と思ってますが、それが全員にできるわけではないとも思うので、そこでマーケティング周りをパブリッシャーさんにお願いしたり、マーケティングができる会社さんを別に入ってもらったりという選択肢があることが一番望ましいと思いますね。
ただ、この能力はゲームづくりとは別軸なので、やっぱりゲームクリエイティビティって難しいんですよ。……今年の振り返りという話題だった気がしますが、こういう話ばかりでいいんでしょうか(笑)?
水谷:では話を戻しちゃいますと、日本市場って欧米の何年か前の状態にあると思っていて、今年の欧米は本当にバブルが弾け始めてる。日本も数年後には同じようなことが起こるんじゃないか、と気を付けないといけないでしょうね。
さっき「クリエイターにとって今は良い環境」と言いましたけど、決して甘い状況になったわけではもちろんないです。むしろ、1本あたりの平均売上は下がってるんじゃないかなと思うんですよ。
競争が激化しているのもありますし、年々ゲームファンのインディーゲームに対する期待値が高くなっているのも感じます。
今井:ハードルは高いですね。ビジュアル方面でもやっぱり厳しく見られるようになったと思います。
水谷:それなりのクオリティじゃないと見向きもされない状況になってます。昔はバグがあっても笑って許されていた風潮でしたが、今はそんなことないですね。
今井:今は“アイデア一本勝ち”みたいな作品がなくなったわけではなくて、最近だと『Slay the Princess』はビジュアルだけ見ると雑さの残る絵本といった印象の作品なんですが、シナリオの面白さで発売から1か月で10万本のヒットを記録しました。
これは英語圏の方たちがテキスト中心のゲームを受け入れるようになったことも大きいのかなとも思います。
一條:言語の対応と言えば、デジゲー博やBitSummitなどのイベントに出る作品を見ると、英語・中国語などの多言語対応は当たり前にやっているところが大半になった感じがします。
以前はそこまで準備をしている人は少なかったんですが、今はブースで話を聞いてみると「もう英語版も用意しています」「今は機械翻訳ですけど、いずれはローカライズをプロに頼む予定です」みたいな反応があって、対応言語もチラシやブースにしっかり表示してあるんです。
儲かるから海外進出しよう!っていうわけではなくて、ちゃんと「自分たちがこだわっているゲーム作品のファンになってくれそうな層は、国内だけじゃなく海外にもいるんだ」という感覚が多くの開発者さんに伝わるようになったんだなっていう気がしますね。
水谷:とはいえ基本的には日本の作品は日本で売れていますし、逆も然りです。じゃあ100万本の大ヒットを狙おうと考えたら、やっぱり日本国内だけでは難しくて、アメリカや中国で人気にならないといけない。
でも「アメリカ向けにこうしよう」と考え始めると、それはさっきの話と一緒ですよね。
一條:海外展開については行政からも目を向けてもらい始めたところが嬉しいところです。私が文化庁のWebメディアでインディーゲームの潮流に関する連載を持たせていただいたり、VIPO(映像産業振興機構)がIDCのスポンサーになっていただいたり、という動きがとにかく嬉しいです。
——行政はどういった形で支援するのが理想的でしょうか。
一條:これは個人的な要望でもあるのですが、わかりやすいのはローカライズ費用とか、海外パブリッシャーさんとやり取りする時のビジネス通訳とかですね。開発者さんが個人でやりきれない海外進出に関する事業に補助があるととても嬉しい。
国内のインディーゲーム開発者さんはすでに良い作品を作っているので、それを適切に幅広いゲームファンへ届けられる仕組みを提供することへ時間を使うべきだというのが私の主張です。
——カジュアルな話題として、今年印象的だったタイトルや、パブリッシャーとして担当したかったと思うタイトルについてうかがいたいです。
今井:Steamでリリースされた作品で良かったと思ったのは、やっぱり『ファミレスを享受せよ』です。日本のシーンからあのタイトルを見つけてきてSteamという土台に乗せるのは非常に価値があることだと思います。内容も良かったし、私たちもやりたいなと羨ましく感じました。
——フリーゲームだった作品をSteamとコンシューマー機で完全版を有料販売し、ヒットしたという事情も印象に残りました。
今井:そういうケースはPLAYISMさんも経験がありますよね?
水谷:我々以外でも、コンテンツを追加してフリーゲームを有料化した過去の事例としては、『洞窟物語』などがありますね。ただ、フリーゲームを別のプラットフォームでそのまま有料販売するという意味では、我々がパブリッシングした『片道勇者』が初なんじゃないでしょうか(※)。
※ 英語のローカライズは実施している
最初は「お金を取っていいのか?」 という恐怖があったんですけど、ローカライズにかかった費用が大変だったので思い切りました。フリーゲーム界隈って作品に対してお金を取ることに前のめりじゃない方が作ってるので、すごくピュアな才能が眠ってますよね。
今井:フリーゲームといえば『Ib』の展覧会「ゲルテナ展」(※)を見て、2000年代を振り返るフリーゲーム展覧会とかやりたいなと思いました。その流れをうまく今のインディーゲームの流れと接続したいですね。
※ 作中で主人公「イヴ」が訪れた展覧会「ゲルテナ展」を再現した展覧会。Nintendo Switch版の発売を記念し、各地で開催された
——水谷さんはいかがでしょう。
水谷:担当したかったゲームは『HUMANITY』ですかね。僕は広告業界出身なので、映像ディレクターの中村 勇吾氏が手がけたゲームは憧れです。おそれ多くて声をかけられませんでしたが……。
水谷:あとはやっぱり『スイカゲーム』じゃないですか?「ゲーム実況がきっかけで売れることはそんなにない」っていう定説はありますが、『Vampire Survivors』あたりからゲーム実況で火がつくパターンが目立ってきてますよね。
一條:『スイカゲーム』はそのパターンを狙って作ったタイトルではないと思うので、再現性はないですけど(笑)、印象的ではありました。
一條:まだリリースされていませんが、私がiGiで支援をさせていただいた『断崖のカルム』は、建築物に非常にこだわりのある方です。こだわり抜いた作品はわかりやすく突出した部分ができるので、応援したい気持ちになりますね。
——お話は尽きませんが、そろそろ締めくくりのお時間になりました。最後に来年の抱負をお願いいたします。
一條:来年の目標はとにかく自作ゲームのリリースです。ゲーム開発者としてはこの1年を計画の練り直しに費やしています。開発初期から使用している技術やサーバー費用などに制限があって、現実的なところにプロジェクトを落とし込んで作り直して……という作業をやっていました。
2024年3月に開催されるインディーゲームの展示会『ゲームパビリオンjp』への出展を予定していますが、ここでプレイアブルが見せられていないと、来年中には出せないかなと感じています。
水谷:すごい。現実的な目標だ!
今井:私もリリースが目標ですね。担当しているタイトルのいくつかは来年リリース予定なので、パブリッシャーとしての仕事を果たすためにもリリースを目標にします。
水谷:目標といっても、来年の計画はほぼ決まってるんですよね。なので計画通りに……行かないんですけど(笑)、着実にやっていくのが一番の目標ですかね。
あと、これは毎年思っていることですが、PLAYISMとしてパブリッシングは変わらずやっていきつつも、パブリッシングだけにこだわらず、インディークリエイターにとって良いアイデアがあればいろいろと面白いことをやっていきたいです。
——ありがとうございました!
PLAYISM公式サイトHYPER REAL公式サイト一條 貴彰氏 Webサイト大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。
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