契約トラブルの約半数は「契約書がないこと」。PLAYISMの講演「インディーゲーム開発者が知っておくべき契約の落とし穴」レポート【IDC2023】

2024.01.15
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2023年12月17日(日)、インディーゲーム開発者向けカンファレンス『Indie Developers Conference 2023』が東京・新橋で開催されました。

本記事では、アクティブゲーミングメディアの水谷 俊次氏が講演した「インディーゲーム開発者が知っておくべき契約の落とし穴」をレポートします。

TEXT / たかひろ
EDIT / 藤縄 優佑

目次

登壇者は、アクティブゲーミングメディアのパブリッシング事業であるPLAYISMの事業責任者 水谷 俊次氏。 本カンファレンス『Indie Developers Conference 2023』主催者の1人でもあります。

PLAYISM 水谷 俊次氏

PLAYISMが登壇した理由

日本国内のインディーゲーム市場は販売規模、販売数ともに拡大しており、かつてないほど恵まれている状況といえます。それに比例するかのように、契約にまつわるさまざまなトラブルが増え、相談件数も増えていると水谷氏は言います。

そんな契約に関わるトラブルを未然に防ぎたい思いから、水谷氏は今回登壇したとのこと。

PLAYISMは、2011年からゲーム販売事業を開始し、売り切り型のPCゲーム、家庭用ゲームをグローバルに展開しています。

この12年で手がけてきたタイトル数は300本ほど。つまり、契約も300回以上は交わしています。

直近で手がけたタイトルは『恐怖の世界』、『薔薇と椿』のNintendo Switch版、『Refind Self: 性格診断ゲーム』のスマートフォン版とSteam版。『グノーシア』のPS版やXbox版など

契約トラブルの元になる3つの主な要因

本講演は法や会計の専門的知見をベースにした話ではなく、あくまでインディーゲームにおける商慣習をベースに、水谷氏らが遭遇したトラブルに基づいています。

水谷氏は、インディーゲーム開発者が外注やパブリッシャー契約する際にまず気を付けたい点を3つ挙げました。

契約書が、そもそもない

契約トラブルの約半数は、契約書がないことです。契約書を用意していない理由としては「友達だから契約書がなくても大丈夫だと思った」事例がもっとも多いそうです。

友情とお金が絡むとややこしくなるので、友達だからこそちゃんとした契約を結ぶべきと水谷氏は話します。

契約書がなくても、法的には口頭で「これをお願いします」「わかりました」と話した時点で契約は成立します。ですが、言ったかどうかで争いが起き、泥沼化することが多いので書面での契約は必須です。

何らかの事情で契約書を用意できない場合でも、メールやSNSなどテキストベースで契約内容を確認しておき、第三者から見てもどんな契約を結んだかを立証できるようにするなど、文面に残しながら話を進めることがとても重要です。

つまり、契約内容を文面に残すことに合意が得られない場合は、契約しないことを考えても良いということです。

契約書を読んでいない

当事者が契約書を読んでいないケースも見られます。

メールで契約書ドラフトを送ると5分で承認の返信が来たので、もう一度しっかり確認してもらうよう返したこともある、と水谷氏は言います。

海外では、弁護士に任せているので自分は契約書を読んでいないこともあるそうです。専門家の力を借りるのは非常に重要です。しかし、弁護士が教えてくれることは、法的に書面が正しいか、リスクがあるか、といった点であって、契約が妥当かどうかではありません。

インディーゲームは誰のものでもない自分自身のビジネスなので、契約内容の良し悪しやどういった契約をしたいかは、他人任せにしてはいけません。

契約書は自分でよく読み、契約を結んでから仕事をスタートすることが重要です。これで7割ほどのトラブルは未然に防げると言います。

リスクを把握しきれていない

リスクを把握しきれていないことも、トラブルの原因になります。

パブリッシャーと契約する場合、分配率や開発費の支払いなどについては理解していても、何をしたらもらえるのか、いつもらえるのかなどについてはよくわかっていない方もいるでしょう。

リスクについては契約書面で明記されていない部分でもあるので、注意して契約を進めることが重要です。

権利関係やコスト負担など、契約で想定される3つのリスク

上記のトラブルを前段として、本題はここから。

どのようなことに対してリスクが発生するか具体例を3つ挙げ、それぞれについて解説されました。

想定リスク1:権利関係

1つ目は権利関係について。インディーゲームを開発、販売する際には、さまざまな権利が生まれます。

この権利とは、ゲーム自体の著作権や販売権だけに留まりません。海外展開のためのローカライズテキストの著作権、PR用のアートやプロモーション映像の著作権、ゲーム内ボイスの使用権や、BGM・効果音・音楽素材などの原盤権など多岐にわたります。

これらの権利を誰が持っているのか、具体的に正しく把握しておかないと後々トラブルが生まれると水谷氏は話します。ここからは、それら権利を一つずつ取り上げて解説されました。

インディーゲームの著作権

まずはインディーゲームの著作権から解説。
インディーゲームは開発者が著作権を保持しているのが一般的ですが、とあるパブリッシャーの著作権表記を見てみると、
パブリッシャーの著作物であると記載されているものも見受けられました。

つまり、インディーゲームの著作権は、契約によってはパブリッシャーのものになるケースがあります。

契約内容に合意して著作権を譲渡する際は、その分のリターンがあるはずなので、リターンの内容を理解していれば問題はありません。契約内容をよく理解しないうちに、パブリッシャーに権利を押さえられてしまっていたケースが問題なのです。

インディーゲームの著作権を誰が持つかは、契約書面できちんと把握しておきましょう。

そもそも著作権を自分(開発者)が持たなくなったら、何が起こるのかがまず認知されていないようです。簡単にいえば、自分で作ったゲームのことを自分の一存で決められなくなります

たとえばPC版ゲームの売れ行きが良いので他のプラットフォームでもリリースしようと思っても、続編を作ろうとしても、自分の著作物ではないので決定権がありません。パブリッシャーが他の開発メンバーを揃えてリッチな続編を作ることもあり得ます。

繰り返しになりますが、インディーゲームの著作権が奪われるなんてけしからん、という話ではなく、インディーゲームの著作権を手離すとしたら、その分のリターンはどういうものなのかを正しく知ったうえで判断することが重要です。

ローカライズテキスト、PR用アートの権利

ローカライズテキストの権利については、翻訳を担当した側が持つことがメジャーであるため、パブリッシャーが持っているケースが大半だと思われます。

パブリッシャーにローカライズしてもらったインディーゲームのPC版がリリースされたとします。その後、自分でスマートフォン版をリリースしようとしたとき、ローカライズテキストが使用できない可能性があります。プラットフォームごとに翻訳テキストが異なるゲームがあるのは、こういった理由があるそうです。

プロモーション用のアートやアセットについても、パブリッシャー側が用意していたものをセルフパブリッシングでは使えません。別のプラットフォームでセルフパブリッシングをしたいなら、新たに自分で広告バナーを作らなければなりません。

プラットフォームごとにアート・映像の統一感がなく見えるのはあまり良いとは言えません。パブリッシャー側のアート・映像を使うには交渉が発生し得るので、これらの著作権も確認しておきましょう。

ボイスの権利

最近は、インディーゲームにもボイスがつくことが一般化してきています。

しかし、ボイスの権利は複雑で、特定のリージョンで特定のプラットフォームでしか使えない事態もあり得ます。契約後、海外ユーザーから「日本語ボイスを聞きたい」要望が出てきて実装することにしたら、ボイスの使用料が別途発生するかもしれません。

契約によってはゲーム内ボイスを広告宣伝に使用するには、別途費用がかかることがあります。ボイスを発注する際は、ゲーム外での用途も十分に想定した上で発注しないと、後々大きなコストが発生してしまいます。

音楽の権利

音楽は権利周りの歴史が長く、複雑な問題が発生しがちです。
音楽もボイス同様にリージョン・プラットフォームが制限されたり、広告宣伝用に使用できなかったりするケースがあります。

とくに、サウンドトラックの販売については問題が発生しがちです。ゲーム内での使用目的で契約したサウンドを販売するには別の契約を結び、作曲者にロイヤリティを払う必要があります。

パッケージ版の特典としてCDのサウンドトラックを用意するとユーザーに喜ばれますが、原盤を複製する権利は基本的に音楽家の方が持っているので、印税が発生します。最終局面で印税の具体的な額が判明することもままあり、想定以上のコストがかかってしまってビジネスプランが崩壊、なんてことも。あらかじめ、サウンドの使用範囲を音楽家の方と話し合いましょう。

また、音楽家がJASRACなどに加盟し、ゲームサウンドの権利申請がされていると、ゲーム実況の際に音楽でBANされたり広告申請ができなくなったりなど、実況者側に影響が出ます。この点についても、音楽家の方とお話しておくことが重要です。

音楽家は開発のコアを担う重要なチームのメンバーとして、開発チームでどのような形で利益を分配するかを十分に話し合っておかないと、後々大きな問題に発展します。

想定リスク2:業務の役割とコスト

想定されるリスクの2つ目は、業務の役割とコスト。

ローカライズやプロモーションの担当者や、それに伴って生まれるコストはどうするのか。パブリッシャーや投資家から提供される開発費はどのように回収される予定なのか。 ゲームエンジンなどのライセンスフィーは誰が支払うかなどが曖昧なときがあるので、協議しようということです。

パブリッシングにおいて、ローカライズやデバッグ、マーケティング、カスタマーサポートやメンバーの給料など、さまざまなコストが発生します。そのコストをどう回収するかは契約によって異なります。

たとえばローカライズコストをパブリッシャーが負担した場合、そのコストはパブリッシャーの取り分の中で回収、最初に入ってくる金額から分配、開発者の取り分から差し引く、といった契約が考えられます。

これら3パターンで取り分が変わるため、「ゲームの売れ行きが良いのにお金が入ってこない」とならないよう、契約書をよく読みましょう。もし契約書にコストの回収方法が書かれていないなら、しっかりと関係者間で協議しましょう。

ゲームエンジンを使ってインディーゲームを開発していたら、ロイヤリティについても考えなければいけません。たとえばアンリアルエンジンは売上が100万ドルを超えると5%のロイヤリティが発生します。

ゲームエンジン以外のツールでも利用規約があり、売上などに応じて費用がかかるかもしれません。また、フォントは商業利用可能であっても別途費用がかかることがあります。

こうしたコストを誰が負担するのか、事前に話しておくことでトラブルを防げるでしょう。

想定リスク3:うまくいかなかったとき

想定されるリスクの3つ目は、各フェーズで契約書通りに進行しなかったとき、うまくいかなかったとき。こうした事態を想定しておくことは大変重要です。

契約書にうまくいかなかったときを想定して記載するとキリがないため、契約書面に出てきませんが、事前に話し合うことがトラブルを未然に防ぐ一助となります。

具体例の一つとしては、外注でドット絵を描いてもらったり、シナリオを書いてもらったりしたときに、想定したクオリティで成果物が納品されなかったケースです。延々とリテイクを繰り返すと納品が終わらなくてお互い困ってしまうので、外注依頼するときは、リテイクの回数や「納品後〇日以内に成果物確認を行う」などの検収期間を決めておきましょう。

外注時は、「いい感じでお願いします」のようなふわっとした発注ではなく、具体的な指示でお願いすれば、このようなトラブルを減らすことができると水谷氏は言います。

開発の遅れも想定しておくべきうまくいかないことの一つです。

たとえば、来年の夏頃に最後のステージが完成するという想定で、ステージ専用BGMの制作依頼をする契約を結ぶとします。ですが、開発が遅れると発注自体も遅れてしまいます。それが1〜2週間ならまだしも、1ヶ月や2ヶ月の遅れ、下手すればいつ発注できるかわからないような状態に陥り、トラブルにつながってしまいます。

インディーゲーム開発者あるあるとして、依頼する内容と期間は前もって伝えているけれど、開発が遅れたとしても何もお願いしていない期間だから受注側は損をしていないと話す方がいらっしゃいます。しかし、受注側はその仕事のために予定を空けているので、発注のない期間を無給で過ごさなければならない「待機コスト」が発生します。

外注先の都合が合わなくなれば発注自体が立ち消えてしまうので、内容だけでなくスケジュールなどを決めたうえでやりとりを進めましょう。

パブリッシャーとの契約通りに開発が進まなかったときのことも想定しましょう。

例として、1年間でゲームを完成させるために1年分の支援をパブリッシャーから受ける契約を結んだにも関わらず、開発が2年目に突入してしまい、スケジュール通りに作られなかったときのことを考えます。

進捗が遅延しても、2年目の費用を出すパブリッシャーもいれば、契約内容通り1年が経ったので今すぐリリースしてくださいと話すパブリッシャーもいるかと思います。

スケジュールにどれだけ余裕を持たせても遅れは発生しがちです。パブリッシャーとはスケジュールについて話をしておかないと、ものすごく徹夜したけれど間に合わなかった品質のゲームをリリースしなければならないおそれがあります。

ですので、契約書の記載だけでなく、契約書通りにうまくいかなかった場合はどうなるか、確認を取っておく必要があります。

あまり想定したくない事態ではありますが、パブリッシャーがパブリッシング事業から手を引いたときはどうなるのかも想定されるリスクの一つです。

開発途中で契約を解約せざるを得なくなったら、パブリッシャーが出した費用の返却を求められることがあり得ます。また、ゲームに関する権利が戻ってこない可能性もあります。どの部分が誰のものになのか、気にしておいたほうが良いということです。

パブリッシャー側としても、うまくいかないことを想定しながら契約を進めていると言います。

水谷氏は、開発が想定以上に遅れ、ついには完成しなかった場合、「費用はもう返ってこないんだろうな」「その代わりソースコードはいただけないだろうか」などと考えることもあるそうです。

ステージを10個作る予定でしたが完成品として実装されているのは7ステージ、のようなケースは多々あるそう。想定のクオリティに達しておらず、元の計画とずれてしまったらどう販売するか、などを思案しています。

しかし、これらの事態を考えだすとキリがなく、「誰とも契約しないほうがマシなのではないか」という考えになってしまうので、どこかで踏ん切りをつける必要があると話していました。

契約は、最終的には相手をどこまで信用するかで決める

会社の大きさや実績、担当者の人柄は契約に関係ありません。わからないことは話し合い、よくわからないままになっている部分があるなら、契約はしないほうがいいと水谷氏は言います。

弁護士や会計士にチェックしてもらうのは重要ですが、契約するのは自分自身であり、 自分自身がそのリスクを負っても契約すべきであると判断すれば契約しましょう。

「契約前、ゲームの権利を握っているインディーゲーム開発者のほうが偉いので、大企業相手でも関係なく、パブリッシャーとは堂々と交渉していただきたい」と同氏は話します。

交渉の中で、売れ行きが芳しくないことが予想できても、パブリッシャーにグローバル展開をしてもらって名を広めておき、次のゲームで頑張ろうかなど、リスクとリターンを加味して相手とどういう気持ちで契約するかが大事だと言います。自分だけでなく相手にもリターンとリスクが存在することをわかったうえで、相手をどこまで信用するかを決めましょう。

最後に水谷氏は「インディーゲーム開発者はパブリッシャーの力を必ず借りなければいけないわけではなく、1人で作って売るゲームが100人で作って売るゲームに絶対勝てないなんてことはもちろんないわけです。インディーゲーム開発者なので1人で戦うという選択肢はつねにありますので、よくわからないまま契約してしまうのならば、1人で戦うという手があります。これがトラブルに一切巻き込まれないので一番良いのですが、現実的にはそうも行かないケースも多々ありますので、十分考えた上で契約を進めていただき、今後トラブルが起きないことを願っております。

まずしっかり契約書を作り、しっかり読む。 そして、リスクとリターンを理解、把握した上で交渉することを心がけていただければと思います。」と締めくくりました。

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たかひろ

ギリギリ昭和に生まれ平成で育った男性。
アクション、RPG、FPS、恋愛ADVとプレイするジャンルは様々。
一番やり込んだタイトルは『Another Century’s Episode 3 THE FINAL』。今もシリーズ新作を待ち続けています。

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