2023年9月21日(木)から24日(日)の4日間、幕張メッセで開催されている『東京ゲームショウ 2023』。展示されたゲームの中から、今回は「6th Sense Games」が制作する2Dアドベンチャーゲーム『イノウノカルテ』を紹介するとともに、同作品の開発者である ymd氏とundo氏のお二人に話を伺いました。社内ゲームジャムでの制作から講談社ゲームクリエイターズラボ第2期メンバーに選ばれ、そして2024年リリース予定のフルバージョンに至るまでの歩みやこだわり満載です。
TEXT / 酒井理恵
異能を持つ子供たちを60分間カウンセリング。「正気」を保ちながら多くの情報を引き出す
『イノウノカルテ』は異能を持つ子供たちと対話し、理解を深める2Dアドベンチャーゲームです。
会話の内容によっては、その子供の性格や好きなもの、そしてトラウマがわかることがあります。こうして得たキャラクターの情報は自動でカルテに書き込まれていきます。
プレーヤーは会話が許された60分の間に、できるだけたくさんキャラクターの情報を集め、高い評価ランクをめざします。
ゲームを左右するのは3段階の「信頼度」と「正気度」、そして面会に許された60分という時間制限です。
信頼度が高くなければ発生しないイベントがある……というのはノベルゲームなどでおなじみのゲーム性です。しかし、これが「60分」という時間制限と絡むことにより、1ターンさえ無駄にできない緊迫感が生まれています。
信頼度が高いことにあぐらをかいていると、相手が心の内を何も話してくれないまま面談の時間があっという間に過ぎてしまうこともありえます。この場合、カルテに書き込まれる情報が少ないため、最終評価はおのずと低くなります。
筆者は正解を求めて繰り返しプレイしている間に「何をもって、このキャラクターのことを理解したと言えるのか?」と問いかけられているような気持ちになりました。そして、正解ルートが見えたときには、ほんの少しだけそのキャラクターとの距離が縮められた実感がありました。このリアルな人間性の作りこみこそ、本作の魅力だと筆者は感じました。
こうした部分はymd氏が「自分がこのキャラクターならどうするか」と想像しながら「キャラクターがこの世界に存在している実在感」を心がけて作ったそうです。
『イノウノカルテ』開発の歴史から「こだわり」と「作りこみ」のポイントを知る
開発者のymd氏とundo氏に『イノウノカルテ』開発の歴史を振り返りながら「こだわり」や「作りこみ」のポイントを詳しくお聞きしました。
開発の歴史は2021年05月09日にunityroomで公開された「エリカ」のストーリーから始まります。これは2人が所属する会社で行われた有志のゲームジャムで、ゴールデンウィーク期間中の約2週間を使って制作されました。
この時は制作期間が短いこともあり、ゲームとして成立することを大切にしながらもそれほどコストはかけずに制作しました。「信頼度」と「正気度」を使ったゲーム性はこうした事情から生まれたとのこと。
また、制作期間の都合から、絵柄はターゲット層に分かりやすく刺さることを心がけて作りました。
unityroom投稿時のエリカ(画像はunityroomからの引用)
その後、本作はレトルト氏・ころん氏・フジ氏などのゲーム実況者に取り上げられ、多くの人に知れ渡っていきます。
この反響を受けて、ymd氏とundo氏は本作を8人の異能を持つ子供たちをめぐるアドベンチャーゲームとして本格的に開発することを決意します。
YouTube動画「『危険すぎる子ども達』のカウンセリングをしていくゲーム」はゲーム実況者レトルト氏による『イノウノカルテ』プレイ動画
単に登場人物を増やすだけでなく、他にもさまざまなアップデートを計画しました。
- 各登場人物のシナリオとは別に、全体をつなぐメインストーリーを設定
- カウンセリングについて調べ「一般的にカウンセリングでNGとされる行為」が正解にはならないシナリオに
- 「分かりやすさ」よりも「工数はかかるが自分が表現したかった絵柄」にビジュアルを変更
こうした要素を盛り込んだ企画書を講談社に持ち込んだところ、本作は「講談社ゲームクリエイターズラボ」第2期メンバー7組のうちの1組に選ばれました。「講談社ゲームクリエイターズラボ」とは、講談社がインディーゲームクリエイターが作品制作に打ち込める環境とサポート体制を提供するものです。『イノウノカルテ』がラボメンバーに選ばれた第2期メンバー募集の総応募数は940件にのぼっており、本作は非常に狭き門をかいくぐっています。
ラボメンバーに選ばれて以降の、実際の講談社のゲーム開発へのかかわり方はどのようなものだったのでしょうか?
その点についてお二人に聞いてみたところ、リリーススケジュールの管理をしてもらっている他、本編については「やりたいことをやりたいようにやらせてもらっている」と回答。迷う部分があるときはその都度、講談社に相談を持ち掛けていますが、それによってゲームの根幹部分を覆されるようなことはなく、「この路線でいいんだ!」と自信をもって制作が進められるようなサポートがなされているそうです。
特に、全体をつなぐメインストーリーの最終盤の展開は講談社の担当者から太鼓判を押してもらい、非常に自信になったとのこと。開発のお二人からも、これから登場する新しい要素を楽しみに待っていてほしいとの言葉をいただきました。
フルバージョンの『イノウノカルテ』は2024年中のリリースをめざし、鋭意制作中です。8人の異能を持つ子供たちの間にどのようなストーリーが紡がれるのかリリースがますます楽しみになるインタビューでした。
『講談社ゲームクリエイターズラボ』公式サイト東京ゲームショウ2023公式サイトゲームメーカーズ編集。その他、ソーシャルゲーム、ボイスドラマ等のフリーのシナリオライターとしても活動中。突き抜けた世界観のゲームが好き。
『サガ・フロンティア』のアセルス編などのゲームを心のバイブルにして生きてます。
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