2023年9月21日(木)から24日(日)の4日間、幕張メッセで開催されている『東京ゲームショウ 2023』。展示されたゲームの中から、今回はSlug Disco Studiosからリリースされる海洋生態系シミュレーションゲーム『Ecosystem』を紹介するとともに、同作品の開発者 Tom Johnson氏に本作を開発するきっかけとなったとある研究が持つ魅力について聞きました。
TEXT /田端 秀輝
形態から生態、進化と淘汰までシミュレーションされる、海洋生態系箱庭ゲーム
Steam向けに開発された『Ecosystem』は、プレイヤーが海洋に生息する生命体を生み出し、自然選択による進化を見守りながら生態系を成長させていくシミュレーションゲームです。なお、本作はセンス・オブ・ワンダー ナイト 2023(SOWN2023)のファイナリストのひとつとして選出されました。
ゲームは、プレイヤーが生命を生み出す環境を砂洲・サンゴ礁・深海などから選択するところから始まります。
まずは海底にさまざまな植物や付着生物を植えていき、「生態系のエコシステムHP」を上げていきます。
ある程度植物を増やし「生態系のエコシステムHP」を上げて「ライフポイント」を獲得すると、次は動物、つまり魚を放流させることができるようになります。
このゲームのユニークなのは、プレイヤーが魚をデザインできるという点です。体色やヒレの模様といった見た目だけでなく、その魚の食物連鎖のどこに属するものか、繁殖や戦闘のタイプといった生態に関するもの、さらに体の部位の形まで編集することができます。
こうして自分でデザインした魚を放流してみたのですが、本作では魚の泳ぎは魚の形状をもとに物理シミュレーションされています。今回、頭でっかちで体のバランスが悪い魚を作ってしまったため、うまく泳ぎ回ってはくれませんでした。
本作では、魚は他のプレイヤーがデザインしたものもクラウド上で図鑑として記録されており、それを呼び出すことができます。むしろ、ゲーム側で最初から用意された魚はおらず、このゲームに登場する魚は、全てゲームの中で生成され、そして進化していったものなのです。
今回のプレイでは筆者が作った生物は衰退に向かっていってしまいましたが、うまく環境を整えていくと繁殖して海に生物が満ちていきます。さらに生態に応じて変異や他の種との交配も発生するとのことで、ある程度はデザインしつつも思いも寄らぬ形で自分だけの生態系を作り上げることができるそうです。
予想通りにいかない進化も含め、多様な生態が作り出す世界の魅力をシミュレートで描く
本ゲームを開発したTom Johnson氏に、本作の開発経緯などを伺いました。(本インタビューは、アサノハ製作所の梁川ろんげ氏にご協力いただきました)
本作の開発環境はUnityで、2017年から開発を始めたとのことです。
本ゲームにおける生態系のシミュレーションですが、90年代にマサチューセッツ工科大学(MIT)のKarl Simsという研究者が行った研究にインスパイアされて開発されたとのことです。
Johnson氏は「彼のバーチャルな生物が、実際の生物の驚くほど多様な生態をうまく捉えていることに衝撃を受けました。彼らが泳ぎ、競い合う姿がとても魅力的だったのです」と語ります。
さらに、Sims氏の研究で最も驚いた事のひとつとして「進化がしばしば予想通りに進まない」ことを Johnson氏は挙げています。「ゲーム開発の初期段階においては、コードにミスがあると、生物がそのミスを利用するために実際に進化しました。例えば物理システムの欠陥を利用して、動かなくともエネルギーを獲得してしまいました」(Johnson氏)と、本作の開発にも活かされています。
Sims氏のシミュレーションを見て、自分だけの世界を持つことができる、これで遊んでみたらすごいことになりそうだと思ったJohnson氏は『Ecosystem』を開発することになるのですが、「彼がシミュレーションを作った当時はスーパーコンピューターが必要でしたが、今ではデスクトップで動かすことができる」と、プレイヤーが身近な環境でこの体験ができることのよさを教えてくれました。
本作は現在Steamにてアーリーアクセスでリリース中です。2024年春のフルリリースに向け、魚とは動きの体系が異なる生物であるカニや、群集行動など生物の複雑な関わり合いを実装していきたいとのことでした。
生態系を作り上げる非常に様々な要素がシミュレーションで作り上げられている『Ecosystem』。試遊では生態系をうまく作り上げることはできなかったですが、「予想通りに進まない」ことが開発思想に織り込まれていると聞き、水に包まれているようなBGMに浸りながらじっくりと腰を据えて取り組んでみたくなった一本でした。
『Ecosystem』公式サイト東京ゲームショウ2023公式サイト「ゲームと社会をごちゃまぜにして楽しんじゃえ」がモットーの、フリーのコンテンツ開発者。節電ゲーム「#denkimeter」やVRコンテンツ、体験型エンタメの開発をしています。モニター画面の中だけで完結しないゲーム体験が好きで、ここ十数年注目しているのはアイドルマスターです。
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今日の用語
ローパスフィルター(Low-Pass Filter)
- 電気信号のうち、指定した周波数(カットオフ周波数)以下の信号を通し、それより上を大きく低減させるフィルター。
- ゲーム開発において、基本的にはサウンド用語として用いられる。例として、特定のセリフをローパスフィルターによってくぐもった音に加工することで、隣の部屋や遮蔽物の後ろで話しているかのような表現を行うことができる。