20年目を迎えた「GTMF」が歩んだ道程
GTMFが最初に開催されたのは2003年2月7日。当時は「Game Tools & Middleware Forum 2003 Winter」という名称でした。会場はデジタルハリウッド大学 東京本校の大ホール・小ホールで、 出展はウェブテクノロジ、シリコンスタジオをはじめとする7社 。出展者の中には「ApplicationCenter BR(オンラインゲーム制作支援)」を展示していたドワンゴの名前もありました。
当時からゲーム愛好家向けではなく、100%純粋なゲーム開発者向けのイベントとして始まっていたGTMF。ゲーム開発者向けのイベントとしてはCEDECが1999年にスタートしていましたが、GTMFはツールやミドルウェアなど「ゲーム開発の道具」に特化したカンファレンスとして、この頃から価値を築いていきます。
GTMFは開催初期から現在に至るまで入場は無料。今よりインターネット普及率も低く、YouTubeやTwitter、Facebookもない時代では、こうしたカンファレンスは貴重な交流の場でもありました。
GTMF 2023 懇親会の様子。毎年こうした大規模な交流の場が持たれるのも、GTMFの魅力のひとつ
その後もゲームハードの変遷とともに規模を拡大。PlayStaion 3やWiiが登場した翌年の2007年から3年間は東京・福岡・大阪という三都市開催となり、2011年以降は現在の形である「東京・大阪」2拠点での開催が定番化しました。また、GTMF 2014からは従来の展示+講演という形式だけでなく、 ゲームデベロッパーとパブリッシャーのマッチングを目的とした「 GTMF Meet-Ups 」も開催 されました。
前半のプレゼンテーションタイムでは、特設会場でデベロッパー/クリエーター7社が得意分野についてのプレゼンを実施。後半のミーティングタイムでは、来場者と各プレゼンター企業が商談や打ち合わせを実施できる
2018年から、これまで運営を担ってきたウェブテクノロジとシリコンスタジオに加え、CRI・ミドルウェアとモノビット、マッチロックが幹事会社として加わることに。翌年、運営委員代表がCRI・ミドルウェア 及川 直昭氏となり、コロナ禍による3年間という我慢の時を経て、いよいよ2023年からGTMFが復活することになりました。
運営委員長 及川氏が語る「オフライン開催の価値」
ゲームハードの高性能化だけでなく、ソーシャルゲームの登場や「VR元年」など、ゲーム開発のツールやミドルウェアは技術トレンドに迎合、あるいは先んじる形で進化を続けてきました。ゲームメーカーズではGTMF会期中に 運営委員代表 及川 直昭氏(CRI・ミドルウェア) にアポイントを取り、取材を実施。近年のトレンドや開催の様子についてお聞きしました。
――GTMF、4年振りの開催おめでとうございます。今年で20周年となりましたが、振り返っていかがでしょうか。
GTMFは2003年から開催していますが、コロナ禍は開催しませんでしたので、大きく「20周年」とは打ち出してはいません。本当はこれが20回目であれば良かったのですが……。
私は2004年からブース出展の立場で関わっていましたが、当時は汎用的なゲームエンジンがなく、各社が独自のツールや技術を紹介する博覧会のような場所でしたね。そこから20年、作る環境も遊ぶ環境も当時からは大きく変化しましたが、GTMFは変わらず開発者に向けたビジネスイベントとして、エンジニアやデザイナーを中心として盛り上がっています。今回も無事に開催ができて、本当に良かったです!
――今回の技術トレンドなどがあれば教えてください。
話題に一番挙がりやすいのはAI/ML技術だと思いますが、出展ブースから見るとクラウドやソリューション、サービス系が増えています。 例えばGame Server Services(GS2)様やDiarkis様、NHNテコラス様など、「GTMF」とはいいつつツールとミドルウェアの範疇を越えるものも増えていますね。ノンゲーム分野からの出展もあり、例年よりも広がりのある展示になっていたかと思います。
GameServerSerives(GS2)ブース
――この20年、ツールやミドルウェアに求められているものは、どのように変化しましたか?
ハード面もソフト面も大きく進化していますが、いつの時代もミドルウェアは「標準機能よりも使いやすく、選ばれる特徴があること」が絶対条件だと思います。この「標準」が指し示す対象は、汎用的なゲームエンジンの登場前後で大きく変わりましたね。
完全に同期するのか、データ互換なのか、あるいは同時利用が可能なのか、それぞれ対応の粒度は異なりますが、少なくとも現在はゲームエンジンと共存できることが前提になりつつあります。
――今回は4年ぶりの開催ですが、2020年から2022年にかけて、例えばセッションのみをオンライン配信するなどのプランは検討しなかったのでしょうか?
当然、オンライン開催も検討はしました。GTMFのセッションは、本当に好きなことを全部言ってもいいセッションなんですね。CEDECでいうスポンサーセッションが並んでいる印象で、まさに「自社技術の売り込みをしてください!」という45分間になっています。特 定のゲームエンジンに紐づく講演である必要もないですし、この辺りは各社やりやすいのではないかと思います。
ただ、一方においてオンラインではまだデモがやりにくい。ツールを実際に触ってもらったり、ハードウェアを使ったりするデモは難しく、どうしてもセッションに比重が寄ってしまいます。顔が見えて、直接ツールに触ってもらえるような環境は、もしかすると今後技術の成熟によって可能になるかもしれませんが、今の段階ではオフライン開催にこだわりました。
――最後に、GTMFに興味を持たれた方や参加者に向けてメッセージをお願いします。
日頃からツールを作っている側からすると、「開発者からのフィードバックをいかに吸い上げるか?」は非常に重要なんですね。クリエイターが踏み込んだことをやろうとするとき、必要に迫られてツールをカスタマイズするときが最も進化する瞬間なんです。
デベロッパーが何を考えているのか、そのフィードバックをフランクに話せる場所から生まれるものは必ずあって、それがオフライン開催の価値だと思います。 久しぶりのGTMFということで、初来場の方もいると思いますが、ここは最新の技術情報を一気に知ることのできる場所です。ブースではリアルな商談もできます。できれば毎年続けていきたいと思っていますので、出展者も参加者の皆様も、GTMFをどうぞよろしくお願いいたします!
2023年度 大阪・東京会場の様子を写真で振り返ります!
GTMFは2023年6月30日に大阪・コングレコンベンションセンター (グランフロント大阪内)で、同7月4日に東京・秋葉原UDX GALLERY NEXT THEATERでオフライン開催となりました。記事の最後に、GTMF 2023 両会場の様子を写真でレポートします。
大阪・コングレコンベンションセンター 編
大阪会場の全景。併設のホールではセッションが行われている。セッションの合間は全ブースともに賑わっており、いくつかのデモ体験ブースには列ができていた
運営委員長 及川氏とフリーアナウンサー 大河原あゆみ氏が歩いて周り、全てのブースでLTを実施。このLT行脚について回る開発者も多く、新しい技術をまとめて知ることのできる良い機会に。写真:ヤマハ株式会社ブース
写真左:エピック ゲームズ ジャパンブース 写真右:日本マイクロソフト株式会社ブース
写真左:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社ブース 写真右:シンキングデータ株式会社ブース。ステッカーやアメニティを貰ったり、ブースに置かれたオブジェクトを眺めたり、ぐるっと周るだけでも楽しい
写真左:今回初出展となるJVCケンウッドブースで3Dオーディオを体験する筆者。自分でHRTFを選ぶ仕組みが新鮮だった。写真右:ヤマハの仮想立体音響ソリューションSound xRも体験。ノンゲーム分野から出展が相次ぐのは想定内だが、オーディオ系が多いのは嬉しいサプライズだった
東京・秋葉原UDX GALLERY NEXT THEATER編
東京会場の全景。UDX GALLERY NEXT THEATERはL字型のスペースになっており、奥側にもブースが立ち並ぶ
会場入口に位置する受付前のパネル。セッションは3トラック制で、各社が自社製品やサービスの強みや特徴、タイトルでの使用事例などを語っていた
写真左:大阪会場から引き続き、常に動きながら展示を続けるゼロシーセブン株式会社。展示も体力勝負だ 写真右:先日ゲームメーカーズでも取り上げたPlayable!を展開する株式会社AIQVE ONE株式会社ブース
常に混み合うブースも。CRI・ミドルウェアブース前では、デモ展示やスタッフの話に耳を傾ける開発者だけでなく、各社のサウンド職が同窓会のように集って話す姿も。会場内はどこも非常に賑わっていた
懇親会の様子。大阪会場に引き続き、恒例のじゃんけん大会も実施され、思わぬ高額商品の登場に驚きの声も。4年ぶりのオフライン開催、各社ともに大いに交流を楽しんだようだ
GTMF 2023 - 公式サイト
ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビュー や作品メイキング解説 、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。