自己紹介
高橋 玲央奈
高橋玲央奈と申します。LeonaSoftware(廈門玲央奈軟件有限公司、株式会社グラティーク)で自社でのゲーム制作とともに、日本ゲームの中華圏展開および中国ゲームの日本展開(ローカライズ・パブリッシング・マーケティング・コンサルティング)を手がけています。
ゲームメーカーズでは「中国ゲーム市場徹底攻略」を連載中。2025年9月時点で3本の記事が公開されています
高橋 玲央奈
G-Fusion 2025 北京では、新作の伴走型育成ゲームデバイス「Thumbylina」を展示・販売しました。開発にはオープンソースハードウェアのThumbyを用いており、基板は中国で製造し、本体部分は3Dプリンタで出力しています。
来場者は約4.9万人!「G-Fusion 2025 北京」とは
G-Fusion 2025 北京を主催するのは、2010年に立ち上がった中国のゲームメディア「GCORES(机核网)」。
設立当初から周年イベントとしてゲーム展示イベントを開催していましたが、2016年に北京で「G-Fusion(核聚变)」を初開催して以降、毎年北京で開催を続けるようになりました。
G-Fusion 2025 北京でGCORESが出展したブース
G-Fusion 2025 北京の会場は、昨年まで使われていた「北人亦創国際会展中心」(北京市南東の大興区)から場所を移して、北京・石景山区の再開発エリア「首鋼園」にある「首鋼国際会展中心」で開催。
首鋼園はもともと中国有数の製鉄所「首都鉄鋼」の跡地で、2022年の北京冬季オリンピックを機に整備が進められました。
イベント名の「核聚变」は日本語で核融合を表す言葉。会場の「首鋼国際会展中心」は工業遺産特有の大型空間にむき出しの設備がサイバーパンクな雰囲気を生み出しており、イベント名に見合った場所となっていました。
イベントでは国内外からパブリッシャー・インディーゲームデベロッパーが集結し、出展作品数は180本を超えました 。
また今年は、石景山区が「中国音数協ゲーム工委」(※)と共催したイベント「京西电竞节(北京西eスポーツフェスティバル)」との連動イベントとして開催されました。
※ 中国のデジタルコンテンツ制作企業により構成される業界団体。日本におけるCESAにあたる組織といえる
来場者数は2日間で約4.9万人 に上ったとのこと。参考として、日本最大級のインディーゲームイベント「BitSummit the 13th」における3日間の総来場者数は約5.8万人、そのうちビジネスデイとして開催された1日の来場者数は約1万人でした。
G-Fusion 2025 北京は終日B2Cで開催されたことを考えると、「BitSummit the 13th」に匹敵する高い集客を持つイベント だといえます。
京西电竞节(北京西eスポーツフェスティバル)は、イベント会場のある北京市石景山区人民政府が主催を務め、中国のゲーム業界団体である中国音数協が後援となり開催された
中国の大手インディーゲームパブリッシャーなどが集結。展示ブースを一挙紹介
会場ではとりわけ中国国内の大手インディーゲームパブリッシャーのブースが存在感を放っていました。これは、7月末に上海で行われた中国最大のゲームイベント「ChinaJoy」が大手スマホゲームパブリッシャー中心の展示になっているのと対照的です。
2P Games 2P Gamesのブースは、同社がパブリッシングする『スルタンのゲーム』を全面に押し出したデザイン。
限定グッズ販売所やフォトスポットを設けており、特にグッズ販売が大人気。大勢の来客で賑わっていました。
WhisperGames WhisperGamesは、名作フリーゲーム『Ruina 廃都の物語』のリマスター版や、PC-98シリーズ時代のレトロなテイストで描かれるアドベンチャーRPG『STARVEIL PROTOCOL A.A.A.』などを出展していました。
IndieArk IndieArkは、人気の美少女ホラーアドベンチャー『MiSide(米塔)』や、6月に正式リリースされた『バックパック・バトル』など、多くの新作ゲームを展示していました。
また、会場限定の先行物販として缶バッジ・冷蔵庫マグネット・Tシャツ・トートバッグなどの公式グッズを販売したり、フィギュアやぬいぐるみ、ゲームパッドが当たる抽選イベントも実施したりしていました。
『MiSide』のリビングセットを1:1で実物再現し、ヒロインであるミタのコスプレイヤーと撮影できるフォトスポットは長い列を作っていた
XEO XEOのブースでは、多面体ポッドの内部に20基のスピーカーを搭載した没入型ゲーミングチェア「XEO Pod」と、4K&マイクロOLEDディスプレイを採用した軽量型VRヘッドセット「XEO Big」を体験できました。
「XEO Pod」に座ると、周囲のスピーカーから包み込むようなサウンドに身を委ねられる。
「XEO Big」は従来のVRデバイスと比較して小型・軽量で、試遊ブースには多くの人が列を作っていた
E-Home(百家合) E-Home(百家合)は中国企業とMicrosoftの合弁会社で、長年中国におけるXboxの販売を担当しています。
今回E-Homeは505 Games・LEENZEE(成都灵泽科技有限公司)と組み、『明末:ウツロノハネ』の試遊や、抽選イベントの開催、限定グッズの販売を行っていました。
Gamirror Games Gamirror Gamesの単独ブースおよびインディーゲームエリアでは、『The Sisterhood Pasture: Cozy Folklore Farming』『Absolum』『Lost and Found Co.』『AiliA』などのタイトルを試遊できました。
Game Science Game ScienceのアクションRPG『黒神話:悟空』は大型ブースを設置。公式が選んだ7種のMODを試遊できたほか、「第四周目火力全開連戦モード」にチャレンジできました。
物販も行っており、猪八戒・虎先锋・黒熊精のぬいぐるみやバッジセット、トートバッグなど公式グッズを販売していました。
GCORES PUBLISHING GCORES PUBLISHINGは、自社配信する新作を中心にPCやコンソール向けタイトルの試遊を行っていました。
また、カードゲーム『絶対不存在的遊戯』を先行体験できたほか、ライバーとのコラボグッズやGPASS会員記念バッジを配布するなど、主催ブースならではの情報発信をしていました。
SIE・セガ・マーベラスなど日本企業も多数出展
イベントでは日本をはじめ世界各国より多くの企業が出展しており、ソニー・インタラクティブエンタテインメントによるPlayStationブースや、ファミ通、セガ、マーベラスなどの大型ブースが展開されていました。
PlayStation(SIE) PlayStationブースでは、PlayStation 5の新作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』や『Stellar Blade』などの試遊台を多数設置。
試遊するとカード・限定パスポート・限定うちわがもらえるイベントも実施しており、終日行列が途切れないほどの盛況となっていました。
セガ セガのブースでは『SHINOBI 復讐の斬撃』を展示。中国本土における初のオフライン出展となり、多くのファンが列を作っていました。
中国では90年代から00年代にかけてメガドライブの『ザ・スーパー忍』(中国語では『超級忍』)が人気を博し、厚いファン層を獲得しているという背景もあり、セガも中国向けローカライズやマーケティングに力を入れているようです。
またイベントに合わせて、北京市朝陽区のショッピングモール「朝陽大悦城」でポップアップイベントも開催されました。
マーベラス マーベラスは『DAEMON X MACHINA TITANIC SCION』の簡体中国語版を初披露。最新ビルドを試遊できました。
プロデューサーの佃健一郎氏によるデベロッパートークも行われ、本作からの新要素や、戦闘テンポ・機体カスタマイズの改善点を詳しく紹介していました。
SNK SNKは『餓狼伝説 City of the Wolves』などの試遊を実施していました。
またメインステージでは、SNKとその中国子会社が主催する「SNK CHAMPIONSHIP SERIES 2025(SCS 2025)」北京大会における『餓狼伝説 City of the Wolves』部門の決勝戦が開催。優勝者には、世界最大のeスポーツ大会「Esports World Cup(EWC)」本戦の直通枠が授与されました。
ファミ通 KADOKAWA Game Linkageが運営するWebメディア「ファミ通」のブースでは、数多くの日本製ゲーム作品を紹介。
『ToHeart』『WHITE ALBUM -綴られる冬の想い出-』『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上』『神椿市協奏中。』『けものティータイム』『ほらふき山の魔理沙』『IZON.』『DarkSwitch』『大悪逆令嬢 ストラテジーオブリリィ』などのタイトルが展示されていました。
『ToHeart』は中国でも有名なタイトル。フル3Dでリメイクされたということで、ブースでも注目を集めていた
アンリアルエンジン(Epic Games) アンリアルエンジンのブースでは、開発者向け技術セッションやリアルタイムデモの展示が行われたほか、イベント出展作品のうちアンリアルエンジンで開発されたタイトルを取り上げ、採用事例を解説していました。
「Nintendo Switch 2」体験エリア 一風変わったエリアとして「Nintendo Switch 2」を体験できるコーナーが設置されており、『マリオカート ワールド』と『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の試遊ができました。
会場では試遊のほか、スタンプを集めることで抽選で記念グッズをもらえるイベントも開催されていた
ただしこれは任天堂の公式ブースではなく、主催団体が独自に運営したもの。
こうした運営体制となった背景は、「Nintendo Switch 2」は中国大陸版(中国大陸向けゲームストアへ接続される機種)を公式に展開しておらず、香港版のみが提供されているという事情があります。
香港版「Nintendo Switch 2」が販売されている北京のゲームショップ。
中国では2000年から2015年までコンソールゲームの販売規制が敷かれていたが、現在は規制が撤廃。Microsoftとソニーは上海にグループ会社を設置し、自社ゲーム機の中国大陸版を販売している一方、「Nintendo Switch 2」は香港版が流通しているため、あえて中国大陸版を提供する必要性が薄れている
そのほかにも、韓国やチェコ、キプロスなど世界各国からゲーム開発スタジオ・パブリッシャーが出展していました。
韓国に拠点を置くゲーム会社「NEOWIZ」のブース
チェコのゲームスタジオ「Bohemia Interactive」のブース
チェコのスタジオ「Warhorse Studios」のブース。甲冑を着て戦うスポーツ「アーマードバトル」の実演も行われ、人だかりが生まれていた
キプロスで設立されたゲームパブリッシャー「CRITICAL REFLEX」のブース
50本以上のインディーゲームが展示された特設ブース
イベント公式のSteam特設ページが用意された影響で、会場では多数のインディーゲームが展示されました。特に中国のゲームレビュープラットフォーム「TapTap」が運営していた「TapTap×インディーゲームエリア」では、50本以上のインディーゲーム を見ることができました。
私たち「LeonaSoftware」のブースもこのエリアにご用意いただきました。出展費用は1ブース8平方メートルで約15万円と、他のイベントより低めの価格。ブースごとに巨大ポスター2枚と長テーブル2台が用意され、試遊や商談などさまざまな用途に利用できました。
寿司屋経営アドベンチャー『デイヴ・ザ・ダイバー』のブースでは、日本国内では未配信のモバイル版を試遊できました。モバイル版の試遊が一般向けに提供されるのは今回が初となります。
併せて、アンケート回答者に対してカードなどのノベルティを配布。来場者からのフィードバック収集に力を入れていました。
多くのインディーゲームブースではノベルティの配布も行われていました。これは個人開発者が中心の日本のゲームイベントではあまり見られません。
中国における「インディーゲーム(独立遊戯)」の定義には、大企業や中小企業が作ったモバイル・PC向けの買い切りゲーム全般が含まれます (※)。それを加味すると、このような積極的なマーケティング手法にも頷けます。
※ もともとは個人開発者あるいは少人数チーム・低予算で開発されたゲームのうち、とくに“メジャーなゲーム企業からパブリッシングされていないゲーム”を指してインディゲーム(独立游戏)と呼ばれていました。
現在では、資金調達によって何十億・何百億という開発費やマーケティング費を投入したゲームや、大企業の傘下で作られたタイトルでもインディゲームと呼ばれる場合があり、ときにはブランディングとして自称する場合もあります。
インディゲーム(独立游戏)とはゲームの開発形態および配信形態に由来する幅の広い定義であるため、その対象が多様なゲームジャンルに及ぶのはもちろん、コンソールタイトル/オンライン配信/買い切り/フリーミアムゲームなどの区分や、オンライン要素のあり/なしといった従来の定義とは異なる性質を帯びており、その線引きは今や中国国内に限らず大変難しいものとなっています。
ピクセル2Dプラットフォーマー『忍者明』(画像左のブース)はスピードラン挑戦企画を実施し、日別チャンピオンに200元(約4,000円)のSteamギフトカードをプレゼントしていた。また限定アクリルマグネットなどのグッズ配布も行っており、来場者の行列が途切れない人気ブースとなっていた。
ピクセルタワーディフェンス『Relic Guardian – Tower Defense』(画像右のブース)も試遊者向けにアクリルスタンドやキーホルダーなどのノベルティを配布していた
デッキ構築型のローグライク『Pirates Outlaws 2: Heritage』(画像左のブース)は、新要素を反映した最新ビルドの試遊を実施。TapTapの事前告知を利用して集客を行い、来場者にカードやバッジ、さらにはマウスパッドまで配布していた。マウスパッドは中華圏ではよく見られるプレゼントで、かさ張るアイテムのためコアユーザー向けといえる。
中国の怪談を題材にしたホラー×推理アドベンチャー『頭七(TOUQI)』は、ネット掲示板を模したUIに表示されるテキストを読み解き、必要に応じて実地調査を行うゲーム。ブースではSteam Nextフェスで公開されたデモが展示され、シール・アクリルスタンド・キャラクターのバッジを無料で配布していた
メインステージで開催する競技プログラムも充実していました。
初日には前述した通り「SCS 2025」北京大会の『餓狼伝説 City of the Wolves』部門決勝が開催。
2日目には『鉄拳8』の公式世界大会「TEKKEN World Tour 2025」のDOJO大会と、『ストリートファイター6』の公式世界大会「Capcom Pro Tour 2025」におけるワールドウォリアーの中国大会(Asia #1)のTop8〜決勝が実施されました。
メインステージで行われた、『ストリートファイター6』の公式世界大会「Capcom Pro Tour 2025」ワールドウォリアー中国大会の様子
中国の大手ゲームイベントとは独自に発展を遂げた「G-Fusion 2025 北京」
中国大陸で有名なゲームイベントとして挙げられるのは、例年7月末頃に上海で行われる「ChinaJoy」や、11月頃に上海で行われる「WePlay」があります。
ChinaJoyは大手企業が手がけるモバイル・PC・コンソールゲームの展示や業界カンファレンスも含む総合イベント。一方でWePlayはCiGA(China Indie Game Alliance、中国独立遊戯連盟)が主催するインディーゲーム中心のイベントで、独自の人気を持っています。
G-Fusion 2025 北京はこれらのイベントと比較すると「中国北部で唯一の大規模ゲームイベント 」「AAAタイトルとインディーゲームが共存しているイベント 」であることが特色といえます。コンソールゲームハード最大手3社(任天堂・ソニー・Microsoft)のゲーム機をこのコンパクトな会場でプレイできることもユニークな特徴です。
ゲームイベント乱立の時代と言われているなか、G-Fusion 2025 北京はほかでは見られない独自性を確立しており、十分に差別化が効いているイベントです。今後の発展を期待して、来年も参加しようと思います。
「G-Fusion Game Fest 2025 北京」公式サイト 「LeonaSoftware」公式サイト
日本と中国でゲーム会社を経営している。ゲーム開発、配信のみならず日中間でのゲーム海外進出、ローカライズ、マーケティング、コンサルティングなどを行う。2019年9月2023年9月まで一度も帰国せずに中国に滞在し、日中ゲーム産業の架け橋として奮闘。過去の作品として「円谷プロ ウルトラマン 大決戦!ウルトラユニバース」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ炎のカスカベランナー」「マッピー 対決!ネオニャームコ団」などがある。廈門国際アニメフェスティバルゲームコンテスト審査員。2021ゲーム産業白書、2024ファミ通ゲーム白書中国担当ライター。iGi(indie Game incubator)メンター。