ヴァンサバ開発元poncleが即オファーした“キーボードアクション”『Berserk or Die』を徹底解剖!【Unity簗瀬×神山のゲームデザイン深堀りインタビュー】

ヴァンサバ開発元poncleが即オファーした“キーボードアクション”『Berserk or Die』を徹底解剖!【Unity簗瀬×神山のゲームデザイン深堀りインタビュー】

2025.07.16
注目記事ゲームづくりの知識しくみをつくる見た目を良くするゲームの舞台裏インタビュー
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ゲームメーカーズ編集長の神山大輝とユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬洋平が気になるインディーゲームのゲームデザインやクリエイティブを深掘りしていく連載インタビュー企画「Unity簗瀬×神山のゲームデザイン深堀りインタビュー」。

第1回で紹介するのはNao Gamesが開発し、poncleによるパブリッシングで6月9日にリリースされた2D横スクロールアクション『Berserk or Die』。本作は「同時にたくさんキーを押すほど攻撃が強くなる」システムになっており、キーボードに両手でバシバシと叩きつける、他に類を見ない操作が特徴です。

異色の作品はどのようなアイデアから生まれ、目を惹くビジュアルはどのように描かれたのか。そしてなぜ『Vampire Survivors』のponcleによるパブリッシング第1弾タイトルとなったのか。デベロッパー&パブリッシャーインタビューでその背景に迫ります。

INTERVIEW / 神山大輝,簗瀬洋平
TEXT / ハル飯田
EDIT / 神山大輝

目次

全てはBitSummit 2024での運命の出会いから始まった

神山大輝(以下、神山):ゲームメーカーズ 編集長の神山です。今日から新連載ということで、ゲームデザイナーの簗瀬さんと一緒にさまざまなゲームを深掘りする連載をスタートします。最初に取り上げるのは今年6月にリリースされたばかりの『Berserk or Die』です。

簗瀬洋平(以下、簗瀬):ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬です。1995年より17年間ゲーム開発に従事し、『ワンダと巨像』『魔人と失われた王国』などの作品にゲームデザイナー/シナリオライターとして携わってきました。

神山 大輝

ゲームメーカーズ 編集長。使用するキーボードはREALFORCE R3 Keyboard / R3HA11。バンバン叩いても安定する重量

𥱋瀨 洋平

ゲームデザイナー/シナリオライターとして17年間ゲーム開発に従事。現在はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンでアドボケイトとして活動。使用するキーボードはLofree FLOW ロープロファイルメカニカルキーボード

神山:Berserk or Die』は昨年BitSummitで初めてプレイさせていただきましたが、「キーボードを叩く」という特殊な操作が印象に今でも残っています。開発者のNaoさん、自己紹介とゲームの紹介をお願いします。

Nao:『Berserk or Die』を開発したNao GamesのNao(@nao_peca)です。本作は「キーを同時にたくさん押せば押すほど強い攻撃が出る」というゲームで、左右から来る敵の大群を倒すためにキーボードを手のひらで叩きつけるような動作になる操作方法が特徴となっています。

Nao Games Nao氏

17年間ゲーム会社で働いたのち独立し、『Ninja or Die』を制作。2025年6月9日には新作『Berserk or Die』を発売した。美しいドットスタイルのグラフィックスが特徴

poncle presents | Berserk or Die – Launch Trailer

神山:ありがとうございます。そして今日は本作のパブリッシングを担当するPoncleから、プロデューサーのサピオさんもお越しいただいています。

Mateo Sapio(以下、Sapio)poncleプロデューサーのサピオと申します。poncleがソロデベロッパーを応援するために立ち上げたパブリッシング部門として、初めてサポートしたのがこの『Berserk or Die』です。Poncleでは翻訳やマーケティング、QAサポートなどを担当しました。

Mateo Sapio氏

poncleでプロデューサーを務める人物で、『Berserk or Die』を見出した一人。本作において翻訳やマーケティング、QAなど幅広くサポート活動を行っていた

神山:poncleがパブリッシング事業を行うことは昨年にもリリースが出ていましたが、第1作目が日本のタイトルになるのは驚きでした。おふたりの出会いはいつ頃でしたか?

Sapio:出会いは2024年のBitSummit 最終日ですね。ルカ(『Vampire Survivors』開発者の Luca Galante氏)と一緒に「何か面白いゲームはないかな?」と会場を歩いている中で特徴的なビジュアルの本作を見つけたんです。

イベント最終日ということもあって私たちもすっかり疲れ切っていたのですが、このゲームはフィードバックがとても気持ちよく、一瞬プレイしただけで幸せな気持ちになりました。それまでは「疲れてもう帰りたいよ」という状態だったルカもすごく元気になって、その日のうちに話し合って「このゲームをponcleが最初にパブリッシングするタイトルにしよう」と決め、翌日にはNaoさんにオファーを行いました

Nao:BitSummitの翌日、月曜日のお昼ごろに「お話できませんか?」ということでお会いしたんですが、事前に詳しい内容までは伺ってなかったんです。最初は「グラフィックのお仕事の依頼だろうな」と思ってお会いしたら、パブリッシングのお話でびっくりしました。

BitSummitでメディア賞を受賞し、登壇するNaoさん

簗瀬:実はグラフィックの依頼で、Naoさんのドット絵でponcleの『Vampire Survivors』のようなゲームが登場する……という展開も見てみたかった気もしますね。

Sapio:Naoさんのドットグラフィックは素晴らしいですが、ゲームのアイデアにも優れていて、本当に才能あるクリエイターだと思います。『Vampire Survivors』は“ルカが1人で開発して成功した”というストーリーがありますが、これもコミュニティのみなさんがすごく応援してくれたおかげです。

今後は「恩返し」として、なかなか支援を受けられないソロデベロッパーをサポートすることをミッションにしたいと考えていて、まさに本作はぴったりの作品だと感じています。

Nao:翌日のお打ち合わせの時点で条件なども提示していただいたので、オファーを聞いてすぐに「お願いします」と即答しました。こちらも個人なので、私がOKなら誰にも相談は要りませんからね。

パブリッシャーとしてのponcleは“恩返し”がしたい

神山:poncleがパブリッシング事業を開始する旨は昨年にも発表がありましたが、最初のタイトルがリリースされたこの機会に改めて「パブリッシングを始めた背景」「パブリッシャーとしてどのようなカラーを出していきたいか」という2点について教えてください。

Sapio:poncleはオーナーのルカがやりたいことをやる会社なので、ビジネスよりも「良いゲーム、良いアイデアを持っているデベロッパー・コミュニティをサポートしたい」との考えを持っています。

“poncleのエッセンス”と言うと、皆さんは『Vampire Survivors』をイメージするかもしれませんが、ゲームについては「楽しいゲームプレイのアイデア」「アクセシビリティ」そして「プレイヤーを尊敬すること」の3つを大切にしています。逆に、ジャンルやスタイルはあまり関係ありません。

アーリーアクセス当時の『Vampire Survivors』ティザー

神山:「プレイヤーを尊敬する」というのは、具体的にどのような点を指すのでしょうか。

Sapio:私はもう48歳ですし、他の多くのプレイヤーと同じく何十年もゲームで遊んできていますから、「左に行くにはスティックを左に倒してください」なんて30分のチュートリアルは不要ですよね?それよりも「早くゲームをやらせてください!」と思うものです。

『Berserk or Die』はスタートしてすぐに気持ちよいゲームが楽しめますし、誰でもプレイできる分かりやすさがあるので、この条件を満たしています。

神山:なるほど。「プレイする人のことを信頼している」とも言い換えられるかもしれません。

Sapio:その通りですね!プレイヤーの経験を信頼して、時間を無駄にしない

神山:『Berserk or Die』はその前提にピッタリだと思いますが、Naoさんは今のお話への意識もあったのでしょうか?

Nao:いえ、デベロッパーをサポートしたいという考えは聞いていましたが、後半については今初めて知りましたね。

神山:意識せずとも方向性が一致していた『Berserk or Die』とponcleは運命の出会いだったのかもしれませんね。

Sapio:この話の最後にひとつ言っておきたいのは、我々はBitSummitが世界中のインディーゲームイベントで一番面白いと思っているということです。海外のイベントはどうしてもFPSやソウルライク、ホラーなどの定番ジャンルばかりになりがちですが、BitSummitは毎年新しくてユニークなアイデアが見つけられる場所です。素晴らしいイベントです。

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「キーボードを叩く」アイデアは、アーケード型の体感ゲームを目指す過程で生まれた

神山:ここからは『Berserk or Die』のゲーム内容を簗瀬さんと一緒に深掘りしていきたいと思います。まずは基本情報として、使用しているゲームエンジンやDCCツールなどを教えてください。

Nao:ゲームエンジンはUnityで、ドット絵には「EDGE」というエディタを使用しています。効果音は自作で、OpenMPTというソフトを使っています。そして、BGMは『Vampire Survivors』のコンポーザーにお願いできました

簗瀬:それは早速、良いコラボですね!

Sapio:poncleも音楽はすごく大事だと考えていて、本作のBGMは『Vampire Survivors』の楽曲を手掛けたFilippo Vicarelli先生にお願いしました。テーマに沿った良い音楽になったのではと満足していますし、Naoさんも受け入れてくださって良かったです。

神山:企画や実装にかかった期間など、全体のスケジュールを振り返っていただけますか?

Nao:2024年1月10日頃から開発を始めて、1か月後の2月10日には「敵を倒していって、1日の終わりに現れる商人から強化アイテムを買う」という現在の1ステージにあたる流れは確立されていました。個人開発なので企画書も書かずにどんどん実装していくスタイルで、どの時期にどのような作業をしたかは正直あまり覚えていないですね。

本作には「時間経過」の概念が存在する。左右から襲いかかる敵を倒し続け、日が沈むと1日が終わる。1日の最後には商人が登場し、敵を倒して入手したコインで「HP上限アップ」「貫通力アップ」などいくつかの強化アイテムが購入できるというゲームサイクル

簗瀬:開発スピードも早いですよね。「キーボードをバンバン叩く」というアイデアは、どの時点からあったのでしょうか?

Nao:当初は「左右から来る敵を倒していく」アイデアだけでしたが、2月の段階ではキーボードを叩く操作を独自の要素として実装していましたね。何か変わった操作がないとよくあるゲームになってしまうと思い、それならば「体感ゲームっぽい感じにしよう」と考えて生まれたのがこのアイデアでした。

簗瀬:前例を調べようと思って「キーボードを叩くゲーム」と検索してみたら、このゲームが出てくるんですよ。もしかすると他にもあるかもしれませんが、今のところは「キーボードを叩くゲーム=『Berserk or Die』」になっているのがすごいですよね。

キーボードの左半分を叩くと左方向に攻撃が出て、右半分を叩くと右方向に攻撃が出る仕組み。押したキーに対応して攻撃やガードが可能になり、攻撃は多くのキーを同時にたくさん押すほど強力に

Sapio:以前にNaoさんから「アーケードゲームをイメージした」と聞きました。ゲームセンターで味わえるような特別な操作体験を自宅でも楽しむにはどうすればいいかを考え、目の前にあるキーボードにたどり着いたと言っていました。

神山:確かに、ゲームセンターには特徴的な操作の筐体も数多くありますね。

Nao:そうですね。みんなが持っているキーボードで、体感ゲームっぽい遊び方ができればと思って考えました。

簗瀬:どうにも人間には「何かを叩いてゲームしたい」欲求があるようで、昨年の「神ゲー創造主エボリューション」でも、丈夫な特製のボタンを強く叩くゲームが面白くて好評でした。そんな根源的な欲求に応えているゲームになっているのかなと思いますね。

加えて、そんな「キーボード叩いていて楽しそう!」という入り口がありつつも、マウスやゲームパッドでの操作にも対応しているのも流石だなと思いましたね。他のデバイスで遊んでいても、結局はメカニカルキーボードが欲しくなるゲームでもあると思いますが。

キーボード以外にゲームパッドやマウスだけでも操作が可能。ただ、本作ではキーボードを“強く”推奨している

Sapio:そこは本当に大事なポイントですね。キーボードを叩くギミックが印象的ですが、それを抜きにしても「ステージをクリアして、キャラクターが解放されて、またアイテムを集めて強くして」というゲームの深さは味わえた方がいい。だからゲームパッドでもマウスでも遊べるように考えました。

神山:2024年2月にキーボードを叩く操作が生まれていて、そこから1年半の開発期間があったと考えると……さすがに何台かキーボードが壊れてしまったのではないでしょうか?

Nao:いえ、それが今のところ1台も壊れていないんですよ。

簗瀬:ちなみに、普通にプレイしてデバッグするのは大変そうですが、自動プレイなどは実装していたのでしょうか?

Nao:ステージやキャラクター解放のデバッグモードはありますが、私自身もずっとキーボードを叩いてプレイしています。力技でデバッグしていたような感じですね。

直感的なシステムと「自己所有感」の関係性

神山:「特徴的な操作にしよう」というところからキーボードを叩く操作に至るまでの着想をもう少し深掘りしたいと思いますが、例えばアーケードライクな操作を求めるなら大きなボタンを作るなど他のアプローチも考えられると思いますが、その点はどうでしょうか。

Nao:特殊な専用コントローラーにしてしまうとゲームとして売れないのが一番の問題でした。誰でも持っているデバイスから選ぼうと思って、マウスだと振り回すくらいしか特殊な操作の余地がないので、もう多分そういうゲームはあるだろうと考えて、すぐにキーボードに辿り着きました。

簗瀬:このゲームのおかげで「メカニカルキーボードをバーンと叩くのがすごい気持ちいいんだな」と気付けますよね。私も最初は、かなり緊張しながら叩いていましたが。

Sapio:あとは皆さん必ず「知らないショートカットがある」と発見することになるでしょうね。

簗瀬:なりましたね!私がプレイしていて思ったのは、攻撃のためにキーボードをバンバン叩いているとガード用のキーを咄嗟に押すのが難しいので、フットペダルなどのデバイスにガードを割り振ってプレイするのが一番効率的な操作方法じゃないかと。そんな感じで「こういう機器や設定を使ったらどうだろう」というカスタマイズでコミュニティが盛り上がりそうですね。

Sapio:他のタイトル専用のデバイスも活用できると思いますし、なんでもできそうで面白いですよね! 私たちもコミュニティの皆さんが色んなデバイスで遊んでくれたらと期待しています。

開発中のUnity画面

神山:実際にプレイしてみると、攻撃に硬直があるので敵を引き付けたくなる一方、待ちすぎると遠距離から矢の攻撃を浴びてしまうというのが良いバランスだと感じました。簗瀬さんはプレイしてどうでしたか?

簗瀬:Nao Gamesさんは前作の『Ninja or Die: Shadow of the Sun』の時も感じたんですが、操作キャラクターがすごく複雑でスタイリッシュな動きをするのに、操作そのものはすごくシンプルですよね。

前作『Ninja or Die: Shadow of the Sun』アナウンストレーラー

簗瀬:キャラクターの動きは、あまりプログラム的に制御しすぎると「ただタイミングよくボタンを押しているだけ」のゲーム性になってしまいがちですが、本作はちゃんと敵を引き付けてから同時にキーを押して攻撃することで「思い通りに動かしている感覚」が強く味わえます。細かくどのキーを押すか考えない操作が体を動かす感覚に近いので、“自己所有感”がすごく強いですよね。

本能的に体を動かしている感覚と、ゲームのキャラクターを動かしている感覚が一致していて、これは精密なコントロールをするゲームでは出ない感覚だなと思って、すごく感心しました。

Nao:プレイヤーが取る行動が、複数の効果を持つように意識してデザインしています。『Berserk or Die』だと、攻撃すると同時に弓矢を弾けるので防御にもなっていますし、『Ninja or Die』の時も同じようにジャンプが移動と攻撃を兼ねているんです。プレイヤーができる行動を少なくして、その効果の範囲を広げるようなゲームデザインを心がけていますね。

『Ninja or Die』は移動と攻撃を兼ねたジャンプのみで進むアクションゲーム

簗瀬:このゲームですごく気持ちいいのが、複数の敵をまとめて倒す時なんですよ。よくあるゲームだとただ全体を吹っ飛ばすだけにしてしまいがちですが、『Berserk or Die』ではちゃんと最初の敵を攻撃して、その勢いで奥にいる敵に攻撃して……という連鎖的な動きがちゃんとある。複数のキーを押して複数の敵にちゃんと当たるっていう一致がすごくうまいですよね。

神山:ひとつのキーだけを押すと射程の短い小攻撃が出るだけですが、まとめてたくさんのキーを押せば気持ち良い大きな攻撃が出る。たくさん敵がいるなら、そのぶん力強くキーボードを叩かなければいけなくて、それがまとめて倒してる身体的な感覚に繋がっているのが良い仕様だと感じました。

簗瀬:先ほどの「プレイヤーを尊敬する」という点にも繋がりますけど、見た目にはキーボードをガチャガチャ叩いているようなゲームに見えても、上手くプレイしないと簡単にやられてしまうんですよね。

簗瀬:操作は簡単だけど、“ガチャプレイ”で気持ちよく遊べるだけではなく、上手い人のプレイが分かるような仕組みができている。ここが両立できていて、さらに気持ちよさがあるのは「こんなシンプルかつ上手なやり方があったんだな」と、若干悔しさすら覚えるくらいです。

Sapio:「Easy to access,difficult to master」という考えがあるんですよ。アクセス(ゲームを始める)は易しいけれど、マスターするのは難しいというもので、『Vampire Survivors』もそうですよね。プレイヤーはお金を払えばすぐに遊べますが、さらにプレイヤーが“時間”をゲームに払うことでリワードがもらえるという仕組みです。

『Berserk or Die』も、プレイを続けることでアイテムやレベル、キャラクター解放などが行われます。最近のゲームには、こういったゲームの仕組みが求められるような気がしています。

単純なキー数認識ではない、独自の攻撃力計算式

神山:「ぶっ叩く操作」改め「自己所有感の高い攻撃システム」の仕様について詳しく聞きたいと思います。攻撃モーションは3段階あると思いますが、これは「同時に押した数が何キー以下ならこの攻撃、何キー以上ならこの攻撃」という閾値を設けて判定しているのでしょうか?

Nao:同時に押されているキーの数で判定している訳ではないです。最初にキーを押した時点でタイマーがスタートして、そこから規定の時間までにいくつのキーが押されたかで判定する仕組みになっています。

例えば、最初にキーを1つ押した時のパワーを1とすると、0.1秒後に2つ目のキーが押されたらパワー+0.5で、0.2秒かかっていたら足されるパワーが減って+0.2になって……というような計算式があって、この合計で強さが決まります。見た目の違いは3段階ですが、攻撃力はほぼ無段階ではありますね。

神山:強い攻撃ほどダメージ量が大きくなるのでしょうか?

Nao:ダメージ量は変わりませんが、攻撃時の移動距離が増えて、敵に当たった時のキャラクター速度の減速が小さくなっていきます。

簗瀬:つまり押したキーが増えるほど、攻撃に巻き込める敵の数が増えるということですね。「たくさんキーを押すと強くなる」ゲームそのものがこれまでに存在しないので、計算式の考え方は他と比較はできませんが、非常に面白い仕組みですよね。

ゲーマーとしては「人差し指をガード位置に置いたまま、残りの指で効率よく強攻撃を出したら良いんじゃないか?」と考えていたんですが、攻撃が無段階で強くなっていくのなら、ガードからも指を離して可能な限り多くのキーをバンバン同時押しした方が良いということですね。

簗瀬氏のプレイ時の指配置。本作の左ガードは「5,T,G,B」キー同時押し、右ガードは「6,Y,H,N」キー同時押し(つまり、左右のキーボードの境界位置にあるキーを押す)となっており、簗瀬氏は「それぞれのガードに指を置きっぱなしの方が対応力が上がる」と考えて攻略に挑んでいた。ただ、この仕様では「手を離してキーボードを叩いた方が、より攻撃範囲が広がる=攻略しやすい」ということも分かってきた

神山:そうですね……確かにガードは難しいとは感じました。それぞれ縦に並んだ「6,Y,H,N」が右ガード、「5,T,G,B」が左ガードということは、本来は指一本でガードができるはずなんですが、バンバン叩いていると咄嗟に正確に押せないんですよね。

簗瀬:ある意味ではちゃんと繊細さも問われるんですよね。ここはやっぱりプレイヤーが工夫したりお互いに「こういうの指の置き方してます」と情報交換し合ったりできるテクニカルさがありますね。

格闘ゲームでも、指の置き方や操作デバイスの持ち方がコミュニティの中で活発に議論されるので、このゲームも「普通のキーボードでどの置き方が1番いいのか?」という話は絶対に盛り上がると思いますよ。

神山:アーケードスティックの「ワイン持ち」や「かぶせ持ち」みたいな議論ですよね。ちなみに、開発者のNaoさんはどのような押し方をしているのでしょうか?

Nao:私は綺麗な格子状の「Planck keyboard」と呼ばれるタイプのキーボードを使っているので、ガードは人差し指で押しています。ただ、これはもともと「スペースキー連打でスタミナ回復する」仕様だった頃の名残で、その癖がついてしまっているからでもありますね。

NaoさんのPlanck Keybordコレクション。日本ではなかなか入手が難しい

Nao:スペースキー連打の仕様は一部キャラクターにだけ残っていますが、単純な連打操作は面白さに影響を与えないと考えました。すでに、キーボードを叩く時点で十分に特徴のあるプレイ感になっているためです。

簗瀬:一般的に、受け身の行為を一生懸命やらせると不満を覚えやすいとも言われます。このゲームはすでに十分ユニークな操作を獲得しているので、スタミナ回復でストレスを与える必要がなかったのかもしれませんね。

神山:いずれは『Berserk or Die』とコラボした推奨Planck keyboardが出たら面白いですね。

Sapio:それは良いですね。これから本当に色々な可能性があるタイトルだと思いますね。ただ、『Berserk or Die』はキーボード以外のコントローラーでプレイする人も少なくないため、これからコミュニティの声を聞きながらパッチも作っていく予定です。本当に今日(リリース日)から仕事が進められる感じですね。

難易度調整には『ヴァンサバ』ルカ・ガランテ氏も協力。一緒にUnityを触る

神山:敵をまとめて倒すのが非常に爽快という話もありましたが、終盤にもなるとかなりの敵が左右から押し寄せてきますよね。敵の発生はどのように制御されていますか?

Nao:左右どちらから来るかはランダムですね。何秒後に次の敵が来るかというタイミングはあらかじめ決まっていて、日が進むごとにそれが段々短くなっていくシステムです。 

神山:横スクロールの要素があると我々はどうしても右に行きたくなってしまう感覚があるのですが、そこは意識されましたか?

Nao:意識はしてませんが、確かにイベントに出展するとひたすら一方向に進むプレイをされる方もいらっしゃいますね。これはハイスコアを目指すゲームなので、どちらかにひたすら進むよりも敵を待ち構えて倒す方がスコアを稼ぎやすくなっています。

時間経過とともに大量の敵が押し寄せてくる

神山:実際にプレイしていると、敵を大量に引きつけるのがポイントだなと思いつつ、弓矢による遠距離攻撃もあるので待ちプレイだけだと成立しない良いバランスになっていると感じました。

Nao:難易度調整はルカさんも含めたponcleにテストプレイしてもらって、細かな数値の調整を行いました

Sapio:ルカは細かな調整がすごく上手なのでサポートしましたけど、それでも本当に細かいところだけですよ。主役はもちろんNaoさんです。

簗瀬:Naoさんが主体的に開発を進めつつも、クリエイティブ含めてponcleがしっかり見ているというのが非常に良い関係に思えますね。難易度調整まで手伝っているとは思いませんでした。

神山:このゲームは各ステージごとにボスが設定されていますが、出現タイミングなどはどう設定されたのでしょうか?

Nao:ボスは5日目の朝に出現します。このゲームは「敵と戦って、夜になると行商人が出てきて1日が終わる」サイクルなので、自然と「5日目くらいにしよう」と決まりました。

節目に強力なボスが登場

神山:横スクロールアクションで、シームレスに日にちを繰り返していくゲーム性というのも、決してストレートな発想ではないように思いました。

Nao:2Dアクションで時間が進むシステムがあまりないのは、朝から夜になる流れを直感的にわかりやすいよう見た目で表現するのが大変だからだと思いますね。実際、私もあまりやったことがなかったので、朝から夕方、そして夜になる流れを自然に見せるのは難しかったです。

簗瀬:日が沈んでいくところはすごく印象的ですよね。アート面でも非常に良い作品だと思っています。

神山:このサイクルによって、自然とゲームの仕組みが理解できる流れになっていますよね。まずはボスと戦える5日目を目指して頑張って、倒した後もハイスコアを目指していくと。

Nao:はい。ゲームはボスを倒しても無限に続き、10日目からはかなり難しくなります。この理由も、ゲームの中で回収されますよ。「何日も戦っている」という感じを表現するため、シームレスに夜になって、次の日の朝からまた始まる形にしたかったんですよね。

簗瀬:この手のゲームで地形に多少の斜面や丘があるのは珍しい印象ですが、これはゲーム性からの要素なのか、見た目を単調にしないためなのか、どちらですか?

Nao:そうですね。斜面は単調にならないために作っています。ただ、傾斜の関係で低い位置にいると敵を倒してドロップしたコインが自然と集まってくるので、結果的に効率の良い立ち位置にはなっているかなと思います。

独自のアートスタイルを支える実践的テクニック

簗瀬:アートについても質問していきます。序盤のステージではローマ兵のような敵が出てきますが、この時代背景や設定をセレクトした理由はどのようなものでしょうか。

Nao:名前こそ出していないのですが、キャラクターにはそれぞれモデルがいます。1人目の主人公はカエサルがモチーフで、イタリアのローマをイメージした敵が出現します。

他のキャラクターも世界中の偉人がモチーフで、次のキャラクターはクレオパトラのイメージだから砂漠ステージになっている、という形になっています。通常ステージは6つあって、操作キャラクターも6人登場します。

Nao:操作キャラクターによって戦い方も変わります。先ほどのクレオパトラが題材のキャラクターは攻撃時に上から矢が降ってきますし、項羽をイメージしたキャラクターは「スペースキー連打でのスタミナ回復」のギミックが残っています。せっかくのシステムを完全に捨ててしまうのはもったいなくて、力強いキャラクターなので合うかなと思って残しましたね。

ちなみに、服部半蔵をイメージしたキャラクターが一番ゲーム性が変わりますね。手裏剣を投げて攻撃するんですが、自分は攻撃方向とは逆に進んでいくトリッキーなシステムになっています。世界中の人に遊んで欲しかったので、偉人はできるだけ世界各地に散らばるように選びました

簗瀬:なるほど。そこにグローバル視点が入ってくるんですね。やっぱり身近な存在が出てくると選びたくなる気持ちはありますからね。名前は出てこなくても、一目見ればカエサルやクレオパトラらしい背景というのは伝わります。

Nao:キャラクターセレクト画面では世界地図が出てくるので、よく見ていただければそのキャラクターのイメージとなった人物がどこの国の人かは分かると思います。

神山:背景もかなり手が込んでいますが、レイヤーはどれくらい作られているのでしょうか。また、前作『Ninja or Die』とも比べて、ドット絵やグラフィックで工夫したポイントや注目してほしいポイントがあれば教えてください。

Nao:レイヤーは4層ですね。 1番手前のプレイヤーがいるレイヤーと、奥側に背景用の3レイヤーがあります。本作ならではのアート要素といえば、やはり時間変化の表現ですかね。

背景のレイヤー構造

簗瀬: 奥が明るくて手前が暗い、逆光のような表現になっているから、太陽によって影が落ちているかのような印象を受けますよね。かなり陰影が強いというか、映画的なシーンになっているなと思いました。

Nao:これには2つ理由がありまして、ひとつは何も描かなくていい黒の範囲を大きくすることで「早く描ける」 という点ですね。もうひとつは「絵は全体を描き込むより、描き込んでいる部分とそうでない部分の差がある方が見栄えがいい」からです。

神山:地形を見ても、デティールが描かれているのはフチの部分だけで、その下は真っ黒ですね。コントラストがかなり強いというか。

Nao:そうです。基本的にすべてにこの仕組みを活用していて、実はキャラクターも中心部分はもう真っ黒で、縁の1ピクセルくらいしか描いていないんですよ。でもゲーム画面になるとそうは見えないというか、中心まで色があるようにも感じられるんです。

 

Nao:絵画ではよく「境界を描き込め」と言われるのですが、それと同じ感じですね。学生時代は機械工学科に通っていたので、プログラミングを覚えたあとに絵を練習して、そこからグラフィックデザイナーに転向したんです。ゲーム会社時代のグラフィッカーとしての経験が活きているのかもしれません。

簗瀬:ゲーム画面を見れば見るほど、遠くの風景を含めてアニメーションしている部分が多く、全体的に豪華に感じます。でも確かに、輪郭だけがカラーで、中心は黒く塗られていて、すごくメリハリを感じますね。視点の上下もあるからか、すごく立体的で大きな戦場が表現できています。

Sapio:これは私の個人的な感想ですが、多層レイヤーでなんでも動いているグラフィックは、黒澤明作品に通じるなと思いますね。黒澤明は日本だけでなく、ユニバーサルのマエストロですから。常に何かが動いている『Berserk or Die』を始めて見た時は私も「すごい!」と思いましたよ。

神山:言われてみると、敵を連続して倒した時のヒットストップや暗転演出も黒澤明監督の映画っぽく感じられますね。ちなみに、エフェクトはどのような工夫があったのでしょうか。画像の連番のような表現も多かったように感じました。

 

Nao:Unityのパーティクルシステムと、手描きの画像をそのまま表示する手法と、2通りの実装を用いています。使い分けは状況次第ですが、本当に細かな点がいっぱい出てくるような時だけはパーティクルを使うようなイメージになっています。

神山:敵キャラクターに青いエフェクトがかかっているのも気になったのですが、これはどのような表現なのでしょうか。

Nao:背景オブジェクトと重なっている時に分かりやすくするために青く発光させています。これはシェーダーで処理しています。

神山:なるほど!特別に光っているので強化されているのかと思っていました。たしかに視認性が上がるので、ゲームとしてはプレイしやすかったですね。

『Berserk or Die』とponcleのこれから

神山:本作はBitSummitなどで展示されていた頃は『Last Standing』というタイトルだったと思いますが、なぜ『Berserk or Die』に改名したのでしょうか?

2024年のBitSummitでのブースの模様

Nao:『Last Standing』は検索性が悪かったんです。新しいタイトルを考えようとなった時に、poncleが前作『Ninja or Die』のタイトルをすごく気に入ってくださっていて。

Sapio:私も「これは超強いフレーズだな」と思ったので、話し合いをする中でエッセンスを残したほうが良いと思ったんです。

Nao:そして「Berserk」の部分は、キーボードを叩くイメージからですね。

簗瀬:死ぬまで戦い続けるという点でも「Bererk」は良いですね。

Sapio:日本人でも、みんなが知っている言葉ですよね。そんなやり取りの中でいくつか名前をアイデアとして送って、最後はNaoさんに判断してもらいました。

神山:これはPoncle側からの提案だったんですね。最後に、『Berserk or Die』の今後についても教えていただきたいです。

Nao:これからもキャラクターやメッセージなどを追加していくようなバージョンアップを考えています。無事にリリースには至りましたが、まだまだアップデートを考えています!また、CEDEC2025でも「理想に挑み、現実に学ぶ:未経験から飛び込んだインディーゲーム開発者のリアル / Berserk or Dieの絵作りとヴァンサバのponcleとの出会い」という講演の後半でお話しますので、ぜひご参加ください。

神山:そして、サピオさんには今回『Berserk or Die』で本格始動した“パブリッシャーとしてのponcle”の今後のビジョンと、日本のデベロッパーさんに伝えたいメッセージがあれば教えていただきたいです。

Sapio:私たちは先日のTOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2025にも参加しましたが、今年のBitSummitにも参加する予定です。メインはNaoさんの『Berserk or Die』ですが、同時に“次のNaoさん”と言えるクリエイターさんを必ず見つけたいとも思っています!

そして、poncleとしては今後2つの活動があります。まずはパブリッシャーとしてはさらに日本以外の新タイトルを準備していて、年内には発表できる予定です。そしてデベロッパーとしても、『Vampire Survivors』ではないルカ・ガランテの新作タイトルをそろそろ発表できるので、楽しみに待っていてください!

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神山:どちらの新作も楽しみにしております。ちなみに「僕の作ったゲームをぜひ見てほしい!」という方はponcleにどのようにコンタクトすれば良いですか?

Sapio:そうですね。これからBitSummitのponcleについての情報が公開になると思いますので、まずはブースを見に来て欲しいですし、poncleと仕事をしたいという気持ちがあるのなら、我々のdiscordもありますので、そういったところからぜひアプローチしてほしいです。

神山:ありがとうございます。お二人とも、今後の展開を楽しみにしています!

Berserk or Die | Steamページ
ハル飯田

大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。

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