2024年11月30日(土)、インディーゲームの開発者を対象としたカンファレンス「Indie Developers Conference 2024」が東京・新橋のAP新橋で開催されました。
インディーゲーム開発にまつわる講演が数多く行われたイベントの中から、本稿では現役弁護士によってゲームに関するさまざまな法律と権利の問題・対処が紹介されたセッション「ゲームに関する著作権と特許権 ―基礎知識と過去事例―」の模様をレポートします。
2024年11月30日(土)、インディーゲームの開発者を対象としたカンファレンス「Indie Developers Conference 2024」が東京・新橋のAP新橋で開催されました。
インディーゲーム開発にまつわる講演が数多く行われたイベントの中から、本稿では現役弁護士によってゲームに関するさまざまな法律と権利の問題・対処が紹介されたセッション「ゲームに関する著作権と特許権 ―基礎知識と過去事例―」の模様をレポートします。
TEXT / ハル飯田
EDIT / 酒井理恵
スピーカーを務めたのは弁護士の前野孝太朗氏。自ら「ゲームしていないと死んでしまうタイプ」と語るほど幼少期からのゲーム好きで、中学生の頃に『逆転裁判』をプレイしたことが弁護士になるきっかけになったそうです。
前野氏はゲームやネットコンテンツなどのエンタメ法務、IPO支援を含むベンチャー・IT法務を中心に扱っており、ゲームに関しても利用規約やプライバシーポリシー、特殊法上の表記や配信ガイドラインの作成など、幅広い法律関連業務を取り扱っています。
本セッションでは、そんな前野氏がゲーム開発に関する多数の問いに回答。過去の裁判例などを交えて解説されました。
最初のテーマはゲームにまつわる著作権の問題について。既存の作品に類似したゲーム内容は著作権侵害にあたるのではと考えられることが多く、実際に前野氏の元にも「こういうゲームを開発しても法的に問題ないでしょうか?」 という質問は数多く寄せられているとのこと。
本件の題材として紹介されたのは、2012年に行われた携帯電話機用の釣りゲームに関する著作権侵害裁判です。ある釣りゲームがリリースされてから約1年半後に似た内容のゲームが配信され、権利侵害にあたるかが争点となりました。
会場内のセッション聴講者への簡易アンケートでは大多数が「著作権侵害に該当しない」との見方を示した本事例。実際には一審が著作権侵害を認める判決を下したものの、二審では侵害しないとの判決になり、これが確定したため最終的には「著作権侵害には該当しない」とされました。裁判所の判断も分かれる難しいケースでした。
この裁判例において重要となるのは「裁判所が2つのゲーム画面をどのような視点で見て著作権侵害を判断したのか」という点。著作権法は「創作的な表現」を保護していると記されており、この文言が著作権法を考える上で大きなポイントとなります。
著作権法第2条では「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています。頭の中で考えているアイデアの段階では表現とは認められませんが、そのアイデアがイラストや文章、音楽、3Dモデルなどの形になることで、法律の上では初めて表現と認められることになります。
条文では「創作的な表現」と記されていますが、この「創作的」について前野氏は「何らかの個性が発揮されていれば子供の書いた絵でも創作的であると認められる」としたうえで、ありふれた表現は保護の対象にならないことに注意が必要であるとも述べました。
法律上ではゲームタイトルのような非常に短い言葉には個性を発揮する余地があまりないとみなされ「創作的な表現」に当てはまりません。また、大枠のストーリーもアイデアとみなされ、表現に至らないものと考えられています。
これらを踏まえて類似する作品が著作権侵害にあたるかを検討してみると、仮に共通点が3箇所見つかった場合でも、その内容がありふれた表現やアイデアとみなされるものばかりであれば、著作権の侵害には該当しないと判断されるのです。
前野氏はこうした「著作権侵害の考え方」が、一般的に「パクリ」と感じられる要素との大きなギャップになっていることを指摘。仮に作品同士の共通点が100個あった場合でも創作的な表現でない部分なら著作権の侵害には該当しないものの、それだけ類似した項目が多ければSNSなどでパクリとして炎上してしまう可能性が高いであろうとの見方を示しました。
例として紹介された釣りゲームのケースでは、裁判所は2つの作品において「魚の引き寄せ画面は、水面より上の様子が画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向に描かれている点」など、3つの要素が共通していると認めています。
裁判所はこの共通点がそれぞれ創作的な表現に当てはまるか否かを次のように判断しました。
結果として、最終的にはすべての共通点が「著作権の侵害には該当しない」という結論に至ったとのことでした。
著作権侵害については他の作品における裁判例も紹介しました。
王子がファンタジー世界で戦う作品の背景となる情報が似ていたケースについては「ありふれた表現」であると判定。また、「携帯電話機等を利用する歴史をテーマとする美少女育成型の放置系RPG」が共通点となった例では、主要な画面とホーム画面上のボタン構成が似ていたとされましたが、これもアイデアの範疇として侵害にはあたらないと判断されています。
前野氏はこうした著作権侵害の検討では、ここまで紹介された「類似性」の問題と、既存の著作物を基に創作したかどうかの「依拠性」との、2つの視点が重要になると紹介。前出の放置系RPGの例などあまりにも画面が似すぎている場合には「元の作品を知らなかった」という主張が通ることは難しいため、依拠性が裁判の争点にはなりづらく、類似性が肯定されるか否かで争われると述べました。
また、著作権侵害が認められるか否かで「著作権侵害ではない」と判定される場合でも当然ながら「何をしても良い訳ではない」ことにも注意が必要で、前野氏は題材となった後発の釣りゲームも裁判では著作権侵害にあたらないとされたものの、もし自身にリリースして良いかの相談が寄せられたら「どちらかと言えば止める方向でアドバイスすると思います」とコメント。
その理由については、実際に一審と二審で判決が分かれたように判断が難しい事案であり、場合によっては侵害になる可能性があること、そしてここまで類似した作品を同業界・同一ジャンルで出すことによって警告書が送られるリスクなどが挙げられました。法的措置への対応や警告書への回答検討にはコストが発生します。そして、状況によっては和解金や開発のやり直しにも発展。そうすれば追加のコストまで発生します。ユーザーへの反響も考慮し、慎重に検討すべきケースであることが確認されました。
著作権については昨今大いに話題となる生成AIも議論の対象となる要素です。前野氏も「これだけで1時間経ってしまう」とその問題の複雑さに触れたうえで、本セッションでは生成AIについて考える際の簡単なポイントが紹介されました。
生成AIの活用については文化庁や経済産業省、そして知的財産戦略本部など各所からガイドラインが示されている状況です。前野氏はそうしたガイドラインのなかでも、経済産業省が7月に発表した「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」を基本的な事項が見やすい教材であると推薦。
セッションではガイドブックの内容から一部を紹介。生成AIの著作権侵害は「学習段階」と「生成・利用段階」に分けて考えることが主流であり、ゲーム開発においてはイラストや音楽の生成など後者が該当するケースが多くなります。利用段階では生成されたコンテンツが他の著作物と類似していないか、Web 検索や剽窃チェックツールを活用しての確認が推奨されています。
ガイドライン内では他の著作物に似た表現が生成されないようにするため、特化型の生成AI利用を避けることや特定の著作物と関連付けるプロンプトの入力をしないといった対策も紹介。前野氏もこうした留意点や対応策が有効であるとの見方を示しました。
そうした対策を講じた作品が著作権法上では適当であっても、配信プラットフォームの基準に反してしまうとリリースできないのも注意が必要なポイントです。PCゲーム配信プラットフォーム最大手の「Steam」でも米国の法改正の影響を大きく受けるように、プラットフォームの規約は流動的でありながらも影響が大きい要素です。
前野氏は生成AIを使用した作品に対するユーザーからの反響も予想すべきであることにも触れ、実際に相談を受けた案件でも生成AIの利用を公表後にSNSなどでの反発が集まったことがあるとして、「どのように説明して生成AIの利用を発表するか」も重要になってくるであろうと述べました。
続いてのテーマは「特許権」について。特許権は「発明」を保護するものと考えられており、著作権法では保護の対象とならなかったアイデアが守られる法律です。
特許法では発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの(特許法第2条第1項)」と定めており、出願から20年間はその発明を独占する権利が与えられます。同時にその内容は必ず公表されることとなっており、これは新たな技術の公開によって更なる産業の発展を期待するルールであると紹介されました。
取得されている特許の内容は誰でも自由に閲覧が可能で、セッションではゲーム会社が保有する特許の例として「ファイナルファンタジー」シリーズの「アクティブタイムバトルシステム」の特許(特許番号第2794230号)を紹介。特許はその内容を「特許請求の範囲」として文章での明示が必要であり、その請求項を読んでも特徴的なゲームシステムなどは「非常にややこしく、読み解くのが難しい(前野氏)」ことも珍しくありません。
難解な特許の内容を読み解くためには、特許は「現在の技術では難しい問題を解決する発明」であるため、その概要が記された「発明の詳細な説明」欄を見ると理解しやすくなることも紹介されました。実際に「アクティブタイムバトルシステム」では従来のターン方式が“静的なゲームで臨場感に乏しい”点を、新たに“臨場感とスリルに溢れたスピーディーなゲーム展開”へと変える発明であると記されています。
このように特許はゲーム会社の名前や内容からすべて確認が可能なものではありますが、個人や小規模でのインディーゲーム開発においてはすべての特許を網羅したチェックは現実的とは言えません。
それでも特定のゲーム会社の作品における特徴的な操作方法やシステムなどと類似する特徴を盛り込む際には、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で対象となる特許を簡易的に確認するのが望ましく、必要に応じて弁護士など専門家への相談も検討すべきであることが確認されました。
3つ目のトピックはゲームにまつわる「契約書」について。契約書は内容によって見るべき箇所が異なりますが、本セッションではインディーゲーム開発においてよく見られる「業務委託契約書」と「パブリッシングに関する契約書」の2例を念頭に詳細が解説されました。
前提として契約書は「証拠」の役割を果たすものであり、口頭だけでも契約の成立は認められるものの、齟齬が発生した際に根拠として扱われるものであることを確認。契約書に記載されている事項は弁護士の視点からも争いにくいものであり、裁判の結果が予測されるため実際の裁判まで発展せず話し合いでの解決に至るなど、紛争の予防や早期解決に役立つことも紹介されました。
まず「業務委託契約書」は、イラストや音楽などを外部のクリエイターにお願いする際に必要となるもので、その契約条件を明確にしておくことが求められます。ゲームは音楽やイラストなどさまざまな著作物が集合して完成する作品であり、それぞれ別の人が権利を持っている状況では「続編でアセットが使えない」「グッズにキャラクターのイラストが使えない」などの問題が発生してしまうことも考えられるため、開発に関する著作物は契約で権利を集約しておくことが必要であると語られました。
過去の事例では契約書が存在したにも関わらず「成果物にゲーム内の動画が含まれるか明らかでなかった」ため、その帰属について裁判だけで約3年にも渡って争われたこともあり、前野氏は著作権の帰属に関しての紛争は「本当に時間がかかる」と言及しました。
業務委託契約書に盛り込むべき事項は主に以下の3点。
特に3. については、著作権法では「作者が権利を持つ」という考えになっているため、業務委託したイラストは取り決めがなければイラストレーターが権利を持つことになります。開発に支障をきたさないためにも、必ず「成果物の著作権を含む知的財産権が委託者に帰属する(譲渡する)」という内容で権利の分散を防ぐべきであると補足されました。
また、契約書における著作権については単に「著作権などの知的財産権は委託者に帰属する」という表記だけでは足りず、必ず「著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)等の知的財産権は委託者に帰属する」と、27条28条を明記する必要があることも重要なポイントです。
個人で契約書を作成するのは容易ではないため、参考として文化庁による「著作権契約書作成支援システム」も紹介。業務委託の契約は非常に幅広いジャンルに及ぶため、契約書を流用してしまうと適合した内容になっていないリスクも生じます。サービスを利用するほか、前野氏は「弁護士に相談して一度ひな型を作ってしまう」ことで以降の契約をスムーズに行えることも紹介しました。
業務委託については2024年11月1日にフリーランス保護法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)が施行されており、特にフリーランス同士の委託契約であっても一部適用される点や、相手が法人であっても条件を満たすとフリーランスとみなされる点には注意が必要です。
委託先に対して「取引条件を書面又は電磁的方法で示す」義務が発生しているため発注の際には対応が必要で、SNSやチャットツールでの条件提示も電磁的方法には認められるものの、履歴が消滅してしまう可能性があるツールよりも電子メールなど確実な手段が推奨されました。
開発や配信をサポートする契約もケースによって内容がさまざまに変化するため複雑で、それでいて開発における影響が非常に大きい要素です。
パブリッシング契約では、知的財産権の帰属や許諾範囲などを細かく確認することが必要です。近年はパブリッシャーが開発費用を負担するケースも多くなってきていることから、支払額や時期、開発に頓挫した場合の返金の必要性などにも気を付ける必要があると紹介されました。
前野氏は過去に「開発と配信をサポートしてくれる会社が見つかった」という開発者からの相談を受けて契約書の文言を確認してみたところ、開発のサポートを受けた部分と開発者個人が制作した部分で権利が分散してしまう状態になっていた例にも遭遇したとのこと。先述の通り、法的には著作物はそれぞれのクリエイターに権利が存在するという考えが通例のため、契約で定めずして開発者個人にすべての権利があるという解釈は難しいと言えます。
契約書の内容を確認する際には「上手くいかなかった時にどうなるか」という視点を持つことが重要であると紹介したうえで、前野氏は「契約交渉は悪いことではない」と強調。基本的に契約での条件は提示する側・原案を示す側が有利な内容を作成することが当然であり、これを「ずるい」と思うのではなくしっかりと交渉してから契約するべきであると述べました。
前野氏は契約相手が相談者に対して「弁護士には相談しない方が良い」と勧めてくるケースにも遭遇したことがあると、契約には大きな駆け引きが存在することをアピール。先に「契約します」との発言や意志を示した場合にはその後の条件・契約書提示で納得できなかった場合でも後から弁護士が介入しての相談も難しく、最初に契約を約束しない姿勢も重要とのこと。
また、ゲーム開発に関してはアイデアやイラストをコンテスト形式で募集し、入選作品に対して契約を行うケースもあります。こうした際も「景品として契約してもらう立場では交渉しづらいが、コンテンツが消費されないよう確認してほしい」と、留意を促しました。
最後のテーマは「警告書」への対応について。これまで紹介されたような権利や契約についてのトラブルが発生した際、弁護士から権利の侵害について「一週間以内に使用をただちに中止すること」「損害賠償として支払うこと」などを求める警告書が送付される可能性が考えられます。
前野氏は警告書への対応はとにかく初動が重要であり「可能な限り早めに専門家に相談すること」を推奨。慌てて要求を呑むことを約束してしまうと以降の交渉が難しくなる可能性もあり、本当に対応が必要であるか否かの判断も含め、必ず専門家を頼るべきであると強調しました。
警告書内で期限が定められている場合も弁護士を介して応答すれば多少の猶予が生まれるのが通例であるため、極端に焦る必要はないとのこと。前野氏は「準備などは不要なので速やかに相談してほしい」としたうえで、可能な場合は相手方との関係性やこれまでの時系列順のやり取りなどの情報があればスムーズであると述べました。
情報共有については自身にとって不利な事実であってもそれらを踏まえた交渉が可能なため弁護士には伝えるべきと前野氏。弁護士には守秘義務があるので第三者に知られることはないので安心してほしいと呼びかけました。
ここまで紹介された法律に関する問題と共通するのは専門家への相談が重要であること。特に警告書の送付を受けた際には速やかな相談のため、事前に要件別に依頼先を確認しておくことが推奨されました。
アイデアや権利を巡る問題から自身が委託者となる場合やサポートを受ける場合の契約、そして生成AIの活用までさまざまな法的ポイントについて専門家からの解説とアドバイスが送られたセッション。どのようなケースで自分が当事者となり対応が求められる可能性があるか、一度シミュレーションしておく良い機会となったのではないでしょうか。
シティライツ法律事務所Indie Developers Conference大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。
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