「Sapporo Game Camp 2024」のゲームジャム。2日間でゲームを作り上げよう!
今年のゲームジャムは2日間で実施されます。初日10時から開発を始め、翌日15時30分には最終発表となります。
開発に充てられる時間は29時間30分。移動・睡眠・休憩時間などを含めると、実質20時間も作業できないスケジュールです。原則として作業は会場で行いますが、会場は19時に閉められ、その後は自宅作業が許可されています。
制作するゲームのテーマは初日10時の開会式で発表されます。テーマの活用方法や解釈は自由です。
開発チームは7~8人編成。初対面の参加者同士でチームを組むのですが、このゲームジャム特有の試みとして、「Sapporo Game Camp 2024」の運営に協力しているゲーム開発会社に所属するプロクリエイターが、各チームに1名以上参加します。
「Sapporo Game Camp 2024」に運営協力した札幌市のゲーム開発会社15社(画像はSapporo Game Camp 2024公式サイトより引用)
筆者は、株式会社HiBiGA(ヒビガ)という札幌市のゲーム開発会社に勤めており、今回はプロのデザイナーとしてゲームジャムに参加しました。
初日朝、8人でチーム結成
ゲームジャム初日の10月12日(土)。開始時刻20分前の9時40分頃、会場には大勢の参加者が集まっていました。期待や不安が入り混じる独特な空気感の中、会場は活気づいた様子でした。
今回のチーム総数は16で、筆者が参加したのは15番目のチームでした。会場案内に従い、早速チームの机に向かいます。
チームメンバーは筆者を入れて8人。皆初対面で、互いに探り探りの自己紹介をしている間に10時を迎え、開会式が始まりました。
開会式では、ゲームジャムのルールやタイムテーブルの説明も行われた
開会式の最後に、制作するゲームのテーマが発表されました。
テーマは「凹」。文字・形・イメージ、どのようにも捉えられる題材です。
テーマが公開されるとゲーム開発スタート。メンバーは各自に振り分けられた役割に従い、作業に取り組みます。
チーム内での役割は、ゲームジャム参加申込時に提出した希望をもとに、運営側がバランスを考慮の上で編成しています。
筆者が参加するチーム15は、下記の内訳で編成されていました。
- プロ デザイナー:2DCG(筆者)
- プロ プログラマー
- 学生 プログラマー
- 学生 プログラマー
- 学生 プログラマー
- 学生 プランナー
- 学生 デザイナー:3DCG
- 学生 デザイナー:3DCG
凹→パズル→ウサギ!広がる発想を“ペライチ”の企画に
企画の作成を始める上で、まずは「テーマから直感的に抱いたイメージ」を1人ずつ話していきました。
形状から受けた印象は、「ウサギ」「カタカナの“コ”」「砲台が2個ついた戦闘機」「落とし穴」「ブーメラン」など。ゲームデザイン的な発想として「凹に凸を嵌めるパズル」「凹凸がそろうと扉が開く」といった意見も出ました。
話し合いの結果、「くっつく」と「はなれる」を生かした横スクロール2Dアクションゲームが面白そうだと意見が一致しました。
「凹」の見た目がウサギに似ていることから、「ハコ型のウサギ」が題材に決定。全員でステージギミックの案出しを行い、以下のようなアイデアが考案されました。
- 凹型に対して特定の形でハマるブロックを作る
- ブランコの先端にハマるやつ
- ベルトコンベアに引っかかる
- 形が変わっているのを色で分かりやすく
- 特定の向きで押せるスイッチ
- 特定の形の敵をはめ込んで倒す
メンバーが提案したアイデアを踏まえて、プランナーが企画に落とし込みます。企画書はペライチ(1枚の用紙)にゲームの面白さを凝縮し、分かりやすく伝える方針としました。
企画のディテールを固めていく
当初の想定ではタイムアタック形式を目指していましたが、より長い時間繰り返し遊べるゲームを作ろうと構想を練り、ニンジンの収集本数を競うランキング形式のゲームに変更しました。
無限にニンジンを集められるように、明確なゴールを廃止し、ステージを無限ループさせることにしました。右端のチェックポイントに到達すると、その先に新たなステージが生成される仕組みです。ゲームはいつでも終了でき、その時点で集めたニンジンの本数が得点となります。
理論上は何点でも稼げますが、周回するごとにギミックや敵の数が増えて難易度も上がっていくので、高いテクニックが求められます。リスクをとって進むか、適切なタイミングでゴールするか、駆け引きが楽しめる構成です。
ステージ構想図。オレンジ色がニンジン、紫が敵キャラクター、黒が空中を移動するブロックなどのギミック、右端の赤い旗がチェックポイントを表している
自機のハコウサギは「ニンジンを配達する、ハコ型の不思議な生命体」という設定です。
また、ウサギモチーフより「因幡の白兎」というキーワードが誕生。「因幡の白兎といえばサメ」と発想が広がり、海の要素として「波止場」の画像を背景に使うことになりました。
さらに「因幡の白兎」はチーム名にも取り入れられました。名付けて「因幡宅急便」。作品タイトルは「届けろ、ハコウサギ!」に決定しました。
デザイナー/プログラマー班が実装に着手
発案されたステージギミックを学生プログラマーたちが整理し、実装に取り掛かります。1名がキャラクター操作、他2名がギミックという布陣で、画面遷移とUIはプロが担当しました。
ゲームエンジンは、イベント側から指定されたUnityを採用。プログラムの共有にはGitを使用しました。
デザイナーチームは、学生1名がキャラクターデザイン、もう1名が背景制作を受け持ちました。ギミックとUIは全員で分担して制作しました。3DCGを得意としている学生がいたので、背景は3Dモデルを画像で書き出して使用することにしました。
データの移送はファイルアップロードサービスを活用します。発行したリンクをDiscordに上げて、チーム内で共有しました。
各自がそれぞれの作業をこなしていくうちに、時刻は13時となり、企画発表会が始まりました。
企画が完成!いざ開発へ
企画発表会では、チーム1から順番に発表を行います。チーム「因幡宅急便」の発表順は15番目でした。会場のスクリーンに、学生プランナーが制作したペライチの企画書が映し出されます。
プランナーの学生が作成した「届けろ、ハコウサギ!」のペライチの企画書
無事に発表を乗り越えた「因幡宅急便」。企画発表は全体を通して15時頃まで続きました。その後、30分程の昼休憩を挟み、15時半頃から作業を再開しました。
作業に集中すること約3時間。18時30分に進捗報告会を行いました。
プログラマーチームは、タイトル画面とインゲーム画面を実装し、自機の操作機能を完成させていました。ロゴやニンジンの画像などは仮素材で実装しています。なお、作品タイトルは見栄え重視で「とどけろ!ハコウサギ!」に変更されていました。
タイトル画面。画面上をクリックするとインゲームに移行する
自機の操作が実装され、ステージを自由に動き回れるように。A/Dキーで移動、Spaceキーでジャンプ、Q/Eキーで回転。Gキーを押せばいつでもゴールが可能
「クレジット画面」と「ランキング」の実装も完了していました。「クレジット」はタイトル画面から閲覧可能です。「ランキング」は、タイトル画面で閲覧できるほか、インゲームでゴールした直後に表示されます。
ランキング画面では、獲得したニンジンの本数に従い1~5位までの記録が表示される
一方、デザイナーチームは素材の作成を進めていました。自機と敵キャラクターは、学生を中心にスケッチでデザインを構想中。背景素材も明日の午前中には完成する見通しが立っていました。
自機のデザインは「ハコ型」のほかにも、さまざまなスタイルを模索していたようです。
学生デザイナーによる自機デザインのスケッチ。ハコ型とは別に、袋のような形をしたウサギの姿が見て取れる。かわいい
ハコウサギのデザイン。耳を人参やギミックにはめ込むゲーム性のため、幅のサイズはシビアに調整していた
敵キャラクターのモチーフには、「ウサギとカメ」の話になぞらえてカメが採用されました。甲羅にはトゲが生えており、踏んではいけないことをアピールしています。
画面には敵キャラクターのカメが映っている。手前のスケッチブックでは、ランキング画面のアイコンをデザインしていたようだ
プランナーは、全体の進捗を確認する合間で、効果音やBGMのフリーの音素材を集めていました。
その後も作業は滞りなく進み、19:00に初日が終了しました。
2日目にして最終日。全員でラストスパート
2024年10月13日(日)。2日目にして最終日となります。気合を入れて9:30に会場入りしました。
ゲームジャムの会場「サッポロファクトリーホール」の外観
メンバー全員が揃うと、進捗を再確認します。その後に話し合ったのは「今日やること」と「今日やらないこと」。
今回のゲームジャムは開発期間が短く、全てのアイデアの実現は叶いません。5時間30分後に発表会を控えた今、やらないことを決めるのも重要です。
当初はステージを自動生成によりループさせる構想でしたが、完成発表までの残り時間を考慮した結果、ステージの難易度上昇システムは導入せず、1番目の最も簡単なステージのみ実装することに決まりました。
3DCGの「波止場」画像。ローポリで高品質に見せる学生デザイナーの工夫
完成発表の時刻が近づく中、チーム一丸となって黙々と作業を進めます。筆者も、ランキング画面のデザインやインゲームのUI作成に加わりました。
デザインチームでは、学生デザイナーが3DCGで「波止場」や「巨大ニンジン」の背景画像を作成してくれました。
「波止場」の背景。2Dで描かれたゲーム画面とのアンマッチさが、不思議な世界観を際立たせてくれそうだ
地面に巨大なニンジンが突き刺さった背景画像も制作してくれた
波止場の写実的な光景や、巨大ニンジンの表面は、一見するとハイポリゴンのモデルのように思えますが、実際は学生デザイナーの工夫により、ローポリゴンのモデルをベースに高品質な見た目を表現しています。
具体的には、Mayaで3Dモデルを、Zbrushでテクスチャを作成し、モデルをSubstace Painterにインポートしてテクスチャを張り付けています。
ZBrushでテクスチャを作成する様子。学生デザイナーがツールの使い方を見せてくれたので、写真を撮らせてもらった
作成したテクスチャをSubstance Painter上でローポリゴンのモデルに貼り付ければ、ハイポリゴンのような見た目を作り出せる。PC画面に映っているのは「巨大ニンジン」のテクスチャを調整している様子
タイトル画像は、学生デザイナー2人が協力して作成してくれました。
ランキング画面は、仮素材で作ってもらった画面をもとに筆者がレイアウトを調整した後、本素材に差し替えました。
素材は学生デザイナーたちが作ってくれました。「RANKING」の文字や、1~3位に添える王冠のアイコン、ニンジンのイラストも学生デザイナーが手掛けています。数字はシステムフォントを活用しています。
15時にゲーム全体の動作確認を行ったところ、無事に起動し、メンバー全員で「動いた!完成!やったー!」と盛り上がりました。
完成発表会の開始時刻は15時30分。そのギリギリまで調整を行ったのち、いよいよ発表の時を迎えました。
遂に迎えた最終発表会
15時30分から完成発表会が始まりました。チーム全員で前に出て、制作したゲームを6分間で発表します。
発表順は初日の企画発表会と同様で、チーム「因幡の宅急便」は15番目。発表の進行は、ゲーム全体を理解している学生プランナーにお任せしました。
発表の緊張が長引くプレッシャーは相当なもので、プランナーも前チームの発表時から緊張しているのが伝わってきました。
いよいよ「因幡の宅急便」の発表順。チームメンバー揃ってステージに上がり発表を行いました。
チーム「因幡宅急便」の最終発表の様子。いろいろあったが、無事に発表を終えられた
最終発表会は17:30頃に幕を閉じ、その後は会場準備を経て18:00頃に懇親会がスタート。各テーブルには運営が用意した大量のピザが並び、会場前方には試遊台が設置されました。各チームが互いの作品をプレイし、懇親会は大いに盛り上がりました。
チーム「因幡宅急便」でも、お互いの苦労を称え合い、全員で記念撮影をしました。
チーム「因幡宅急便」の集合写真。筆者は右から二番目の黒い半袖シャツの人
今回のイベントでは、ゲーム開発会社のスタッフと学生が普段はなかなかできない交流を楽しみ、お互いに貴重な経験を共有できたといいます。
札幌では、今後もゲーム開発のシーンを盛り上げる様々な活動が行われる予定です。筆者もその一助を担うべく、イベント参加を通じてその魅力をお伝えしていけたらと思います。
ゲームジャム、最高!
Sapporo Game Camp 実行委員会の札幌市が提供する、『Sapporo Game Camp 2024』振り返り動画
「Sapporo Game Camp 2024」公式サイト
どさんこ。KAWAII絵が描ける。冷やし中華とグミが好き。