企画段階で面白さを確信。かつてない魅力を放った『塊魂』
本講演に登壇した、バンダイナムコスタジオの矢野 義人氏(画像左)と、MIYAKEYUU STUDIOの三宅 優氏(画像右)
『塊魂』は、球状の「カタマリ」を転がして物体や動物などあらゆる「モノ」を巻き込み、巨大化させていくアクションゲームシリーズです。
2004年に初代『塊魂』がPlayStation 2用ソフトとして登場して以来、続編が複数リリースされ、2024年でシリーズ20周年を迎えます。
記事公開時点での『塊魂』シリーズ最新作は『みんな大好き塊魂アンコール+ 王様プチメモリー』
講演冒頭では、本作の企画が立ち上がった経緯や、三宅氏が感じた本作の魅力などについて同氏から語られました。
企画当時、三宅氏は資料の中にあった「富士山の上に塊が乗っかっている1枚絵」を見たことで、過去に類を見ない魅力を感じ取り「必ず面白くできる」と確信。サウンド面で全面的に協力することを内心で誓ったそうです。
本作の企画は、当時グラフィックデザイナーとしてバンダイナムコスタジオに在籍していた高橋 慶太氏(後に本作のディレクターを務める)が社内公募に提出したアイデアが原案。当初は「大きな球形のトラックボールコントローラー」で操作する想定だった
三宅氏の「『塊魂』推しポイント」
三宅氏は「個人的『塊魂』推しポイント」と称して、本作の魅力を紹介しました。
まず、シンプルながら既視感のないゲーム性が挙げられました。また、カタマリの巨大化に伴い巻き込めるモノのサイズが大きくなる仕様や、移動範囲の拡大といった「直感的なレベルアップ」も良い要素だと述べました。
そのほか、「まるで掃除をしているような気持ち良さが得られる」「くっつけたモノを後からコレクションとして閲覧できる」といった要素も挙げていました。
プレイ中に巻き込んだモノを表示するコレクション画面。音が鳴るモノは音声を再生できる。人物の声のバリエーションや、モノごとに用意された専用の説明文など、制作陣のこだわりがうかがえる
発案者である高橋氏の「ぶっ飛んだ発想」から生まれた要素も紹介。
坂道の先にピンを置きボウリングとして遊べる仕掛けや、一部ステージに設けられた「特定の対象を巻き込んだ時点でゲームが終了する」特殊ルール(※)など、マップやモノの配置を生かした多彩なギミックが魅力的だと語ります。
※ 例えば「ウシ」を巻き込むと終了する特殊ステージでは、牛乳も「ウシ」として判定される。こうしたギミックにより、プレイヤーが想定していないタイミングでゲームが終わることがある
また、「王様」のセリフや、「完成したカタマリを空に浮かべて星にする」ストーリーなどに、高橋氏の発想力が表れているといいます。
初代『塊魂』のストーリーは「王様が酔った勢いで星空を破壊してしまったため、王子が地球で大きなカタマリを作り、夜空に浮かべることで星空を再生する」というもの
こうした数々の魅力を受けて、三宅氏は本作の開発者でありながら、まるでファンのように「教えたい!布教したい!」という気持ちが募ったと語りました。
当時「禁じ手」とされていた手法を実現するためにしたこと
本作のサウンドディレクションや楽曲制作においては、他作品ではあまり見られないという独自の手法やアイデアが用いられているといいます。
はじめに、サウンドディレクションにおける課題やその克服方法について解説されました。その課題は以下の通り。
- 北米やヨーロッパなど、ワールドワイドに展開したい(会社からのお達し1)
- 一般層、ライトユーザーにも訴求したい(会社からのお達し2)
- 新作や新規IPを埋もれさせずに注目を集めたい
- 三宅氏が個人的に抱いていた「挿入歌不要論」を払拭したい
- 音だけで「『塊魂』だ!」と想起させる印象的なサウンドを実装したい
- 法律的な懸念を解消するべく法務部と連携したい
- マーケティング面でも開発初期から連携を図りたい
- サウンドチームの高い能力を売り出したい
「歌詞付きの楽曲を有名ボーカリスト10名に歌ってもらう」企画を提案
本作の魅力を伝えるために考案されたサウンドの企画は、「訴求力の高い『声』をメロディに据えた楽曲を、日本人なら誰もが知っている10名のボーカリストに歌ってもらい、インゲームミュージックとして実装する」ことでした。
前例のない無理筋な提案だったと三宅は語りますが、幸いにも高橋氏はこれを快諾。気がかりだった法務部との調整も、早くから準備を進めたことが功を奏し、無事に協力を仰ぐことができたとのこと。
三宅氏いわく「半分は狙ったうえで、半分はダメ元で」提案したという
ゲームシステムとの相性や技術的な限界といった事情もあり、すべてのアイデアを採用できたわけではないとも話す
「この曲じゃないとダメだ」と思わせたい
ボーカリストの選定は、「できれば年代問わず知名度があり、誰もが知っている人」「声を聞けば誰かわかる人が望ましい」など複数の条件が設けられました。
スタジオ側で作った曲に対して歌のみを提供できることも重視されました。ソングライターに打診すると、自分で書いた歌を採用してもらえると期待させてしまい、ミスマッチが起こる可能性があるため避けていたそうです。
いくつかの条件のもと選ばれた10名のボーカリストと、その担当楽曲
インゲームにボーカルの歌声を入れるのは当時としては珍しく、通常なら忌避される「禁じ手」だったといいます。それを実行するのであれば「この曲じゃないとダメだ、と思わせるほどの良い曲」を作ることが求められます。
それだけでなく、ボーカリストが抱く「キャリアに恥じない良い曲」という期待や、ユーザーから向けられる「友達に勧めたくなる良い曲」という期待にも応える必要があります。
これについて三宅氏は、高い実力を誇るナムコサウンドチーム(現在の「バンダイナムコスタジオ サウンドチーム」)のスキルを売り出す課題にも取り組めたのではと語りました。
当初は、オープニングやエンディングを除いてインゲーム楽曲に歌詞を入れる予定はなかった。そのため、開発初期の楽曲(三宅氏が担当した『塊オンザロック』『さくらいろの季節』など)は、サビ部分が意味のないスキャットで構成されている
個性的な楽曲を生み出すため、実際に取り組んだ手法を紹介
楽曲制作においては、「作家×ボーカリスト×ジャンル」でシナジーを生むコンセプトが掲げられました。
作家を選ぶ際、マルチな作風より「誰にも負けない専門性」が重視されました。ボーカリストと作家のマッチングについては、曲を歌ってもらうこと自体が作家のモチベーションになる形を目指しました。
限られた予算でボーカリストを起用するため、契約条件の工夫や、企画の持ち掛け方、エージェントの使い分けなど、さまざまな手段で打診をしました。ときには三宅氏自らが交渉に向かうこともありました。
先方から「内容次第」と返された場合は、そのボーカリストに「やりがい」を持ってもらえる音楽ジャンルや方向性を提案することで対応した
幅広いユーザー層に訴求するため、多彩な音楽ジャンルを取り揃えました。アーリーアダプター(※)に刺さる流行の先駆けを狙ったスタイルや、一般層に向けた「ド直球・ド定番」の曲調など、誰もが好みの楽曲を見つけられることを目指しました。
※ 新たな商品やサービスを比較的早期に受け入れ、購入・利用する消費者のこと
開発中に使用していたBGMリストや、プレイ中に流すBGMのジャンルを選定していた記録。草案の中には、まだ実現していないジャンルも眠っているという
楽曲をアレンジする際、ストリングスやホーンセクション、アンプの歪みといった、生音シミュレーション音源では再現できない「推しポイント」のある楽器の音は、生演奏で録音しています。
さまざまな挑戦が功を奏してか、本作は国内外を問わず複数の受賞を果たしました。サウンドトラックCDの売り上げも好調で、海外からも購入があったといいます。
海外での高評価は狙ったわけではないそうですが、「楽曲の質を上げたことで、ボーカリストを知らない外国の方々に高評価をいただいたということなのですかね」と三宅氏は語りました。
海外のゲームサウンドに関する複数のプライズを受賞したほか、ゲームソフトとして史上初のグッドデザイン賞を受賞
『ナナナン魂』や『LONELY ROLLING STAR』などの制作背景
『ナナナン塊』~三宅氏×ゆうさま(三宅氏)×鼻歌~
『ナナナン塊』は、三宅氏が携帯電話に録音した鼻歌をそのまま収録した楽曲です。
当時はアマチュア作家が次第にプロの世界に参入できるようになり、「下手だけどやりきる」面白さが評価され始めた時代だといいます。
そうした背景から、ゲーム起動時にあえて「ヘボい」鼻歌を流すことで、ギャップによる面白さを狙ったとのこと。
『塊魂 オリジナルサウンドトラック -塊フォルテッシモ魂』のYouTubeプレイリスト
『LONELY ROLLING STAR』~矢野氏×椛田 早紀氏×チップチューン~
『LONELY ROLLING STAR』の制作にあたり、矢野氏は「1人でカタマリを転がす寂しそうな王子に向けて、恋人のような存在が王子に向けて歌っている」というストーリーが思い描けるように意識したと述べました。
また、「小さなカタマリが次第に大きくなる」様子を表現するために、Aメロの主旋律を短い2音ずつで構成し、Bメロやサビへと移り変わるにつれて次第にメロディを長くする手法が取られています。
『塊魂 オリジナルサウンドトラック -塊フォルテッシモ魂』のYouTubeプレイリスト
『LONELY ROLLING STAR』については、音楽解説も行われました。一例を挙げると、Bメロのコード進行を揺らして不安定にすることで、カタマリが四方八方に転がる印象を与えているといいます。
スライドで表示した音階表と、矢野氏が手元で鳴らすピアノ音源を用いながら、専門的なコード進行の理論について熱い議論が交わされた
また、インゲームで流れる楽曲の基本構成についても紹介されました。本作は1ゲームが最長20分程度続くため、歌の途中からカラオケを挟み、再び歌に戻る構成で約20分の楽曲としています。
そのほか、『愛のカタマリー』『塊オンザスウィング』の楽曲制作事例や「効果音、ボイス、ムービーに関して」「効果音の秘話」といった話題を用意していたようですが、講演の終了時刻が迫っているため、あえなくカットとなりました。
「ブックレットコンテ」や「塊CDタイトル案」など、講演で使用されなかった資料についても、後日スライドが公開予定と述べられた。なお、2024年9月4日(水)に「CEDiL」にて、本講演で使われた資料が公開されている
『塊魂』シリーズがファンに愛されるシリーズに育った理由は、独自のゲーム性や楽曲制作における施策だけでなく、商業か否かに左右されない「本当に良いものを実装しようとする姿勢」ではないかと三宅氏は語ります。
輝くためには必要なものがある。それは、「自然を愛する心」「バランスの取れた食生活」「十分な睡眠時間」「日に焼けた肌」。そして日々重ねた「愛のあるモノづくり」。
「これをこの講演で伝えたかったんですよね」と両氏は笑い合った
「本講演をきっかけに、製品と皆様が輝き続けるヒントになればうれしいです」という言葉を最後に、講演は締め括られました。
『塊魂』シリーズ公式Webサイト「塊魂オンザウェブ」♪ NANAーNANANANANAーNAーNAーNA、塊魂サウンド 20年間輝き続けるためのアイデア - CEDEC2024
編集プロダクション「浦辺制作所」に所属。ITやゲームにかかわる書籍・Webメディアにおいて、執筆と編集を担当している。ゲーム全般が下手だけど好き。
合同会社浦辺制作所 公式HP