「展示イベント用に作ったPVは、ストアページにも流用できるの?」「テロップってどう付けるの?」――こうした疑問に答えるため、ゲーマー揃いのゲーム動画制作・広告運用会社Mr.GAMEHITの方々を迎え、「自作ゲームのPV作成・お悩み相談座談会」を実施しました。
インタビューにはゲームメーカーズ編集であり、インディーゲームクリエイターでもある神谷も参加。ゲームを魅力的に伝えるPVの重要性と、前回のPV制作記事を踏まえた制作のコツやTipsについて伺いました。
「展示イベント用に作ったPVは、ストアページにも流用できるの?」「テロップってどう付けるの?」――こうした疑問に答えるため、ゲーマー揃いのゲーム動画制作・広告運用会社Mr.GAMEHITの方々を迎え、「自作ゲームのPV作成・お悩み相談座談会」を実施しました。
インタビューにはゲームメーカーズ編集であり、インディーゲームクリエイターでもある神谷も参加。ゲームを魅力的に伝えるPVの重要性と、前回のPV制作記事を踏まえた制作のコツやTipsについて伺いました。
TEXT / たかひろ
INTERVIEW / 酒井 理恵
EDIT / 神山 大輝
――自己紹介をお願いいたします。
佐藤:Mr.GAMEHIT事業責任者の佐藤昭博です。Mr.GAMEHITは株式会社メイラボが提供しているゲームに特化した動画広告サービスです。私達はゲーマーのみを採用し、全ての者がゲームへの理解が深く、プレイヤー目線で制作できることを強みとしています。もちろん私自身もゲーマーで、Apex Legendsは4,000時間以上プレイしています。
マキノ:クリエイティブディレクターのマキノです。これまではフリーランスとしてデザインや映像関係の仕事をしていましたが、現在はMr.GAMEHITで動画監修などを行っています。ゲーム歴でいうと、物心つく前からPCエンジンの『カトちゃんケンちゃん』をずっとプレイしていたような、家族にゲームの英才教育を施された生粋のゲーマーだと思います。
KASMARIO:映像クリエイターのKASMARIOです。6年前に未経験で動画制作会社に入社し、その後はゲーム動画に限らず、動画広告やMVなどを3,000本以上制作してきました。親がPC88やPC98、X68000などのゲーム機器を購入していた影響もあり、幼少期からゲームに触れていました。RTA(リアルタイムアタック。ゲームのクリア時間を競う競技)で数タイトルの世界記録を取っています。
神谷:今日はお集まりいただき、ありがとうございます。ゲームメーカーズ編集兼インディーゲームクリエイターの神谷です。2年前から本格的にインディーゲーム制作を始め、2024年1月の東京ゲームダンジョンに初出展しました。今日はクリエイター側の立場、出展側の立場として、皆さんに具体的なご相談ができればと思っています。
――Mr.GAMEHITとして、昨年はゲームの展示イベントに多く出展されていたかと思います。ゲーマーとして、動画制作者として、参加されたときに感じた雰囲気やご感想などを教えてください。
佐藤:2023年度はデジゲー博、東京ゲームダンジョン、BitSummit、東京ゲームショウなど、インディーゲームに関連するイベントは取材や協賛を含めほぼ全て参加していました。また、イベントでは出展タイトルを40〜50タイトルほど遊んでいます。
多くのゲームではポスターなどキービジュアル展示はありましたが、まだまだPVまで制作されているゲームは少ないと感じています。遠目からでも世界観やゲーム内容がさらっとわかるような情報メディアとして、動画は非常に効果的だと思いますが、そこまで手が回らない方が多いのではないかという印象でした。
神谷:私も東京ゲームダンジョンに出展した際、PVまでは制作できておらず、純粋に作品展示と操作方法のパネルを置いていただけでした。当日しっかりと遊んでもらえるように直前まで開発を行っているので、そこまでは工数が割けていないというか……。
――1イベントで40~50タイトルというのは非常に多く遊ばれている印象ですが、一方で遊ばれなかったゲームもあるわけで、どういった基準で試遊対象を選んでいるのでしょうか?
佐藤:もちろん個人の趣味もあるのですが、ブースを一目見た時にゲーム内容が分かりにくいタイトルは、目を引く他のブースと比べてどうしても優先順位が下がってしまいます。
神谷:たしかに、ブースの前で一瞬足を止めてもらう機会は多くても、そのままプレイに結びつかないことも多かったです。
佐藤:展示会のルールにもよりますが、高い位置にディスプレイを設置できれば、遠目からでもゲーム内容を動画などで伝えることができます。ポスターでもいいですが、動画の場合は見せたいポイントや一連のゲームプレイを見せることができるので、より効果的だと考えています。ただ、どのタイミングから見てもヒキがあるような映像である必要はあるかな、と感じています。
――ストア掲載のタイミングで動画が必要なのは分かりますが、開発をギリギリまで行うクリエイターが多い中、なかなか展示会レベルではPV制作まで辿り着かないことも多いと思います。
佐藤:動画の情報量はテキストの数百倍と言われています。ゲームの魅力はストーリーやグラフィックなど、さまざまな要素があります。ゲームの魅力を効率よく伝えられるのは、動画のメリットですね。実際に調査したことがありますが、やはりSteamや各種プラットフォームストアでの売上上位タイトルには、ほぼ必ずPVが掲載されています。
神谷:作った方が絶対に良いのは理解しているのですが、展示会のためだけにPVを作るのはコスト的にも難しいことが多いと思います。展示会は開発のマイルストーンのひとつになるので、必然的に「ここまでにこの機能を作る」という目標は発生しますし、「最低限、プレイヤーが遊べるように仕上げる」必要もあります。
例えば、展示会以外にも制作したPVの活用方法があれば、作ってみる動機にもなる気がしているのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
佐藤:そのままSNSで発信するのが手っ取り早い活用方法だと思います。他にもプレゼンに活用したり、場合によってはアドプロモーションとして有料広告を出したりできます。広告用動画には、30秒動画とYouTubeのアドプロモーション用の15秒、バンパー広告と呼ばれる6秒の動画があります。Mr.GAMEHITでは、獲得効率の高い15秒と6秒の2本立てで制作することが多くなっています。
――個人のPV制作において、最も意識すべき点を教えてください。
佐藤:プレイヤー目線で刺さるポイントがちりばめられていることが大切だと思います。開発者目線で「魅力」だとするポイントは、プレイヤーにはなかなか刺さりません。つまり、自分の作品を客観視することが大切です。
神谷:どうしたら自分の作品を客観視できるのでしょうか?開発側からすると、実装した全ての要素がこのゲームの推しポイントに見えてくるような気さえしています。また、自分が全く問題なく操作して進められるパートでも、実際に遊んだ方は操作やゲームの目的を把握できずにプレイ中に迷いが生じたりなどは何度かありました。
佐藤:最もシンプルな解決法は、他の人に遊んでもらって、どこを面白いと感じているかを観察することです。これまでの経験から、私たちは“いかにゲーム制作のプロであっても、作品の魅力についてはプレイヤーとずれてくることがある”ことを認識しています。私たちも、動画制作を担当するタイトルはがっつりとプレイしてから仕事を始めます。
実際の業務では、担当者が遊んでみて「ここが面白い!」と思ったポイントを列挙し、このPVで伝えたい内容がどこかを精査、クライアント様とも相談しながら進行します。やはり、ものづくりはユーザーの意見を取り入れるのがセオリーかと思います。
神谷:「面白いと思った部分」という意見をもらえるのはありがたいですが、そこだけを抽出して動画を作るだけでは、まとまりがなくなってしまうのでは……?とも思ってしまいます。
佐藤:そこで大切になるのがPVのコンセプトです。ここで立てたコンセプトがユーザーに刺さるかは分からないと感じる場合は、やはりテストプレイを行って要素を抽出するのが良いと思います。こういったPV制作まで手が回らないときは、Mr.GAMEHITのような制作会社を頼るのも手ですね。
※編集注:PVのコンセプトの立て方については、Mr.GAMEHITが監修した「ゲームPV制作チュートリアル」でも詳しく解説している
――ここからは、神谷が制作したPVを見ながら座談会を進行できればと思います。ぜひ、プロ目線でのご意見をお聞かせください。
※時間の都合で佐藤氏が退席。ここからはマキノ氏、KASMARIO氏による実際のPVへのフィードバックをお届けする
「ゲームPV制作チュートリアル」記事内で、神谷がはじめて制作したPV。実際にコンセプトを立て、字コンテを書き、編集までを自身で担当した。なお、使用したゲームは神谷がUEFN制作したデモマップ
神谷:こちらが私の制作した動画になります。Mr.GAMEHITの皆さんに教えていただいた手法を参考にしながら作ってみたのですが、ぜひ率直なご感想をお聞かせください。
マキノ:良いですね。見せる順序が理論に基づいて構築されており、構成も上手く組み立てられていると感じました。今回は30秒バージョンですが、余裕があれば同じ素材で15秒、6秒バージョンを作ってみても良いかもしれません。短い秒数でも内容がぶれることなく伝えられれば、さらに活用範囲が広がると思いますよ。
KASMARIO:全体的にとても良くできていると思いました。開始数秒のトランジションで「ここから説明パートに入ったんだな」とすぐに理解できる構成も良いです。ここで動画のテンポも変わった印象ですね。
演出としては、スローモーションが目を引きました。時間をかけて作り込んだ部分は、ユーザーにもしっかり伝わっていると思いますよ。
神谷:ありがとうございます!好意的なフィードバックを頂けて、とても安心しました……。今は「良かった点」を挙げていただいたと思いますが、逆に改善点はありますでしょうか?
KASMARIO:最初の3秒程度で「ゲームの全体像がわかるカット」を入れても良かったと思います。例えば、このゲームにタイムアタック要素があることが伝わりづらいと感じたので、序盤に目立たせる必要がありましたね。冒頭に大きなテロップを入れることも方法の一つです。開発者が「当たり前に分かるだろう」と感じる部分ほど、むしろ丁寧に説明する必要があります。
神谷:こうした情報を全て入れ込もうとすると、あっという間にカット数が増えてしまう印象があります。どのように伝える情報を取捨選択すればいいでしょうか?
KASMARIO:取捨選択を的確に行うためには要素分解が必要です。このゲームで例えると、落石エリアで障害物を避けながら進むことと、レールエリアで敵を倒しながら進むことは同じ「ギミック」要素なので、エリア説明は画面分割して1画面に表示させる方法もあります。これによって尺を削ることも可能です。
また、このPVの流れはゲーム内ギミックの登場順番と同じ順番になっていますが、登場する順番にこだわる必要はありません。伝えるべきことは「このゲームで何ができるか」です。
神谷:同じ要素のものはまとめたり、説明的なカットは割愛できたりするんですね。実装したものはできるだけ取り入れようとカット数が増えてしまう傾向にありましたが、ここはコンセプトを立てることで防止できる気もしました。
神谷:制作中はキャプション位置で悩むことが多かったです。読ませるべきテキストをどこに配置すべきか、判断基準がないので困ってしまいました。ユーザーの視線をコントロールするコツなどがあれば教えていただけますか?
マキノ:まず、キャプションを出す位置がバラバラになるのはよくないですね。視線が定まらず、文字を目で追うことに気を取られ、動画の内容がわかりにくくなります。人間は思ったよりも文字を読むのが遅いので、制作者が思っている以上に少し長めに表示しておくと良いでしょう。また、敵が大量に湧くなど、背景に要素が多い場合は、見せたい物に注目させるような配置が有効です。
神谷:今回のゲームでは「下に落ちたら失敗」「ゴールに辿り着くことでゲームクリア」などのルールがあるため、ゲームを理解してもらうために「スタートするカット」「ゴールするカット」「失敗するカット」を入れざるを得ない制限がありました。どうしてもカット数が増えますが、キャプションだけで説明しても理解するのが難しいと思いますし、バランスが難しかったです。
マキノ:このゲームで最低限伝えなければならない要素は「コースをスタートして、ゴールをしたらクリアできる」ということだけ。それだけあればPVとしての要件は満たされていると思います。とはいえ、短い時間でゲーム性を伝えるのはとても難しいですね。ただ、例えばゲームオーバーについては「落ちたら失敗」というカットを一瞬見せることで伝わります。
神谷:全てを文字情報で補う必要はないんですね。短い尺で適切に内容を伝えるテクニックには、他にどんなものがありますか?
マキノ:「タイムアタックであること」を示すには、背景に透過して時計の針が進んでいる様子を見せることも効果的です。失敗を示すには、×マークなどのそれらしいアイコンを合わせて表示したり、悔しそうなキャラの表情やポーズを映したりすることでも表現できます。
神谷:なるほど……!そのアイデアはなかったです。「タイムアタック」と文字を出さなくても、時計の針を重ねるだけで機能が理解できるんですね。
神谷:カット数の話題の続きですが、「動画のテンポ感」を出すために1カットごとの長さを決めることが難しく感じました。動画の緩急はコンテ時点で決めているのか、できあがった動画をもとに尺を調整するのか、どちらが良いのでしょうか?
マキノ:コンテ段階である程度決めていますが、厳密に秒数などは指定していません。実際に編集を行う際に良いポイントを探っています。
KASMARIO:あとは、BGMによっても大きく印象が変わりますね。
神谷:たしかにBGMも重要ですね。私は「音ハメ」があるPVが魅力的に感じているのですが、どの段階からBGMとの合わせ方を意識すれば良いのでしょうか?
KASMARIO:私の場合は最初にBGMを決めてから編集を行うことが多いです。映像素材を少し長めにカットしておくと、音に合わせた調整が簡単にできます。音楽の拍子に合わせて、小節の頭のタイミングで画面が切り替わると気持ち良いと感じます。
ほとんどの音楽には4/4や3/4などの「拍子」がある。試しに1、2、3、4……とBGMに合わせて手拍子をしてみよう。1、と数えたところが「小節」の頭になる。続く2,3,4、と数えられる部分は「拍」。このどちらかに合わせてカットを切り替えるのが無難な選択肢だが、もちろん全て揃える必要はない。「手拍子が合わないな」と思ったら、それはシンコペーションだったり変拍子の楽曲だったりするが、この場合は気合で合わせよう
神谷:今回は終盤までBGMが決められませんでしたが、決めるタイミングは動画を作り始める前が良いんですね。
KASMARIO:ただ、個人制作の場合は動画を作ってからBGMを決めるのも良いと思いますよ。尺が合うように作って最終的にBGMの雰囲気と合わなくなるより、作った動画に合うようなBGMを探した方が効率的な場合もあります。
BGMの小節に合わせてカットを変更すると「BGMが聴こえなくても、テンポがよく見える」というメリットも得られます。小節に合わせる時点で必然的にタイミングよく画面が切り替わるので、音が聞こえづらい展示会の環境でも「なんとなくテンポがいいPVだな」と周りから思ってもらえるはずです。
神谷:最後に「視線誘導」について、キャラクターが左右に大きく動いて去っていくカットなどは、次のカットでも位置を合わせたほうが良いように感じられました。ただ、どうしても上手く繋がらないカットも多く、なにか誤魔化せるようなTipsはないでしょうか?
シーンが切り替わるときに、キャラクターの位置や大きさが変わってしまった
KASMARIO:キャラクター位置ではなく、トランジション自体を特定方向に流すなど、方向を統一して使うことである程度の無茶は通すことができます。ズームイン・ズームアウトも有効ですが、その場合もズームインのみ、ズームアウトのみで方向を統一してください。
今回の動画は背景が青空で統一されているので使用できないのですが、背景色が複雑なときは画面を白くするトランジションを挟んでリセットする手もあります。
――長時間にわたり、PVのお悩みを聞いていただき、ありがとうございました。最後に、この記事を読んでPV制作に挑戦する方に向けてメッセージをお願いします。
マキノ:まずは完成させましょう!1箇所にこだわり過ぎるあまり、完成後に修正する時間を減らしてしまうのはもったいないです。1つのカットに時間をかけて悩むより、まずはカット編集だけでも完成させて、ブラッシュアップはその後に行いましょう。
KASMARIO:作り続けてさえいれば、必ず良い動画が作れるようになると思います。ゲームの魅力を効果的に伝えるために、ぜひPV制作にチャレンジしてみてください!
佐藤
いきなり長尺のPVを作らず、まずは短く簡単なものからチャレンジして欲しいです。イベント出展でいえば、人がブースの前を通り過ぎるのはほんの数秒ですから、15〜30秒のPVがあれば十分だと思います。もし迷ったり、手が足りなかったりする場合は遠慮なくMr.GAMEHITへご相談ください!
ギリギリ昭和に生まれ平成で育った男性。
アクション、RPG、FPS、恋愛ADVとプレイするジャンルは様々。
一番やり込んだタイトルは『Another Century’s Episode 3 THE FINAL』。今もシリーズ新作を待ち続けています。
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