『8番出口』のおじさんは約14万ポリゴン。モデル=清澄白河駅説の真相は?開発者に制作過程をインタビュー

2024.02.14
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異変を見逃さないこと
異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
異変が見つからなかったら、引き返さないこと
8番出口から外に出ること

シンプルながら分かりやすいゲーム性とリアルな地下通路を歩く不気味な雰囲気とで高評価を集め、後継作品も生まれるなど一大ブームを巻き起こしている『8番出口』。

今回は、そんな2023年末を席巻した話題作『8番出口』を生み出したKOTAKE CREATE氏にインタビュー。独特な着想のきっかけから技術的なポイント、歩いてくるおじさんのポリゴン数まで、“通路の裏側”を教えていただきました。

TEXT / ハル飯田

INTERVIEW / 神山 大輝

INTERVIEW&EDIT / 酒井 理恵

目次

本インタビューは『8番出口』のネタバレを含みます。先へ進む方はご注意ください。

簡略化のための「歩くだけ」が独特のゲーム性に

——最初に簡単な自己紹介をお願いします。

 KOTAKE CREATEと申します。以前はゲーム会社で3Dアーティストとして開発をしていましたが、『8番出口』がヒットしてくれたので、昨年末に会社を辞めて、今は個人開発者としてゲーム開発に取り組んでいます。

ゲーム会社に勤務していた頃はVFXやエンバイロメントを4~5年ほど担当していました。主なDCCツールはMayaで、一番得意なのはマテリアルとエフェクト系でしたね。

——大ヒットした『8番出口』について質問していきたいと思いますが、まずは開発者のコタケさんご自身の言葉で「どのようなゲームか」を説明していただけますか?

「無限に続く地下通路にある異変に気付きながら脱出するゲーム」です。ホラージャンルに含めるかどうかは……個人的には微妙なラインだと思っています。

——制作期間はどれくらいだったのでしょうか。

プロトタイプ作成や構想を練る期間が総計半年ほどで、実作業は3か月ほどだったと思います。当時はiGi(※)の3期生として『STRANGE SHADOW』というタイトル開発を行っていましたが、東京ゲームショウの展示で一区切りついたことから、新たな作品制作に取り掛かりました。

※マーベラスが主催し、GameBCN、ヘッドハイ、LUDiMUS(ルーディムス)などが協力して構築・運営している、インディーゲーム開発チーム向けのインキュベーションプログラム

『STRANGE SHADOW』の作業が長くなってきたので息抜き的な側面もありましたし、まだ1本もゲームをリリースしたことがなかったので、経験を積んでみたい気持ちもあって、短いゲームを作ってみようと考えました。

スケジュールは細かくは区切っていませんでしたが、「この日までに作ろう」というラインは決めていましたね。制作は基本的にひとりで、人の手を借りたのはテストプレイとデバッグ、英語対応です

不気味な巨大生物から逃げるスリルアドベンチャーとして開発中の『STRANGE SHADOW』

——『8番出口』のゲームデザインに至る着想やプロセスについて教えてください

アイデアの元になったのは、監視カメラの映像で異変を見つけるホラーゲーム『I’m on Observation Duty』ですね。「短いゲームを作ろう」と思った時に、シンプルな作りで売れている作品なので参考になると思いました。ただ、あまりにも同じだと面白くないので、自分らしい題材として「地下通路」を入れようと考えたんです。昔から地下通路は好きな空間で、ゲームの舞台にしたいと思っていた要素でした。

あとはループ系作品がずっと人気の要素ですし、『Twelve Minutes』もプレイして面白いなと感じたので、「異変を探す」「地下通路」「ループもの」の3つの要素で何かできないか?と思ってたどり着いたのが『8番出口』でした。

——早い段階で今のゲームデザインにたどり着いたのでしょうか。

いえ、そうではなかったですね。最初期は『I’m on Observation Duty』を3D化しただけで、ループ要素を入れるというアイデアは無く、電車から地下通路など複数の場所を巡回するようなものを考えていました。その後『I’m on Observation Duty』の監視カメラの映像を切り替える要素がループ映像のようだと感じ、ループする1つの空間でもできるんじゃないかという着想を得ました。

この時は、異変を指摘するために「異変を見つけて銃で撃つ」とか「カメラで撮影する」といった方法を考えていましたが、今回のゲームにはちょっと合わないなと感じました。それに、写真や銃の要素をゲームに取り入れると開発コストも大きくなってしまいます

それなら、いっそのことアクションを移動だけにすればよいと気付き、今のような「進むか、引き返すか」というゲーム性になりました。

ずっと頭の中で構想を練っていたんですが、その発想に至るまで時間がかかりました。

——改めて着想から開発、デバッグを経てリリースまでの流れを振り返っていただけますか?

最初の3Dバージョンでテストをしたのが2023年4月頃でした。その時は、マーケットプレイスで公開されている電車内の無料アセット「City Subway Train Modular」で検証していたので、そもそも地下通路ですらなかったですね。そこから1か月程で銃やカメラがある状態でのループ空間の実装をしましたが、その後しばらくは仕様が思いつかず、『STRANGE SHADOW』の開発に注力しながらアイデアを練る停滞期間になりました。

「進むか引き返すか」の仕組みを思いついた後は、最初の数日で地下通路がループするところまで実装しました。そこに異変が発生する仕様を入れて、最後までゲームが進められるようにしてから、異変のバリエーションを7種類まで増やしました。この時が実作業を始めてから半月か1か月くらいですね。

この時点でテストプレイを行い、評判が良かったことから、開発継続を決断しました。その後、異変を量産して組み込みながらグラフィックのクオリティを上げてリリースに至った、という感じです。バグは発生次第潰していく方式でずっと作っていたので、デバッグ期間は特に設けていませんでした。

——テストプレイ段階で得たフィードバックで、仕様に影響を与えた要素などはありますか?

プロトタイプでは、異変を見つけたあとにスタート地点まで戻り、その後Uターンして再び同じ通路へと進んでいく形式でした。ただし、操作がスムーズでないことから、iGiの同期の方のアイデアをお借りして、現在の「引き返した先に新しい通路ができる形式」に変えています。

——このゲームを作るにあたって、一番大事にした「体験」はなんでしょうか?

ループを楽しんで欲しいと思って作ってはいましたが、明確に「こう感じさせたい」というものがあったわけではないですね。「地下通路が無限ループしたら面白そうだなあ」と思った、その体験を自分が味わってみたくてできあがったと言えるかもしれません。『STRANGE SHADOW』も「巨大生物から逃げたいなあ」という気持ちから始まっているので、“自分がしたい体験”が原動力になっていますね。ただ『8番出口』は短期間で作ろうという目標が優先されていた気もします。

日本の地下通路が好きだったので、最終的に海外の風景のアセットは使わず、自力でアセットを作ることを決めました。「異変を探す」というゲームの都合上、グラフィックのせいで異変に見えてしまう可能性を排除したかったので、自分で作るアセットもできるだけリアルに寄せましたね。

魚眼レンズのような広角を使用したのも、リアルさを増すためです。定番アセットの「Chameleon Post Process」で作成しました。

Before
After

——画面酔いするという意見もあるプレイヤーの「視点の揺れ」も印象的なのですが、こちらを取り入れたのは体験のリアルさを重視してのことだったのでしょうか?

移動時の視点揺れはアセット「Pro First Person Horror Template」を使用しました。画面が揺れない状態だと、現実感よりもゲーム感が強くなってしまうため、カメラの揺れを実装しています。

僕はFPSなどではすぐに画面酔いするタイプなんですが、『8番出口』開発時はそれがなかったので「大丈夫だろう」と思っていたのもありますね。設定で軽減できるようにしたのですが、それでも酔ってしまうという方が多かったので申し訳ないなと思っています。

——ゲーム内のお気に入りポイントはありますか?

地下通路がループすること自体も楽しいんですけど、通行人のおじさんが何度も前から来る光景は面白いですよね。同じ場所をループする作品はあるけど、おじさんまでループしてくるゲームっていうのはない気がします。最初は、あのおじさんは曲がり角を過ぎたらパッと消えてしまう設定だったんですけど、テストプレイをしたときに「ゲーム感が強い」と言われたので、スマホを持って佇むようになりました。

——冒頭でも「ホラーとするかは微妙だ」と仰っていましたが、異変の中にはゾっとするようなホラーテイストのものも数多くありました。やはりホラー作品からインスピレーションを受けることが多いのでしょうか。

普段はホラー映画をよく見ていますね。最近だと「ソウ」シリーズの脚本家リー・ワネルが監督した『透明人間』や、『NOPE』のジョーダン・ピール監督作品が印象に残っています。ホラーゲームは「バイオハザード」シリーズが好きでプレイしています。あとは『8番出口』リリース後の作品にはなりますが、727 Not Houndさんの『悪夢のような日々でした』というホラーゲームが面白かったです。

元ネタという意味では、壁人間に捕まった時の演出は『P.T.』でリサに捕まってゲームオーバーになるシーンを参考にしました。余談ですが『8番出口』の世界観的に殺されるような演出は入れたくなかったのと、気味の悪さを出したかったので、演出の最後は壁人間の顔が近づいて暗転するようにしています。
双子と赤い水は、みなさんもお気づきのように映画の『シャイニング』ですね。

それと、Xでもバズっていましたが、照明の配置がバラバラになる異変は清澄白河駅をモデルにしています。

リアルなグラフィック作りと、難易度のバランス感覚

——リアルな地下通路はどのようにしてデザインされたのでしょうか。異変は清澄白河駅がモデルのものがありましたが、地下通路にもモデルの駅がありますか。

地下通路のモデルとなっている駅は別にあります。地下通路のデザインは、モデルとなった駅にネットで検索した別の駅からゲームに使えそうな部分を追加して作りました。モデルとなった駅そっくりそのままの駅がある訳ではありませんし、公開するとその駅に迷惑がかかってしまう可能性もあるので秘密にしています。

逆に、モデルではないのですが、京都の烏丸線に『8番出口』に似ているスポットがあると聞きました。実際に行ってみたら本当に似ていて、かなり怖かったですね。

——偶然似ているほうがむしろ怖さがありますね。開発に使用したツール、汎用的なアセット、ご自身で制作されたユニークなモデルやエフェクトにはどのようなものがあるのでしょうか。

DCCツールはMayaとSubstance Designerで、異変の表現にPhotoshopを使っています。

開発には既存のアセットも多く使いました。おじさんと双子はMetaHuman、他の人はScanned 3D People Packで作っています。UIのゲームパッド対応ではプラグインの「UI Navigation 3.0」に助けられました。

地下通路の壁や点字ブロックなどはテクスチャをSubstance Painterで作りました。誘導サインも自作です。押し寄せてくる赤い波は「Water Materials」の水の色を加工し、通路に流せるようにマテリアルの改造やメッシュの作成をしました。こうした既存アセットに手を加えて作成した異変もありますね。広告や張り紙はフリー素材を活用しながらPhotoshopなどを使って加工しています。

作中の貼り紙と、実際の開発画面

——3Dモデルの仕様については、事前にどの程度決めていましたか?

特には決めてなかったですね。ただ、通路にある消火栓はアセットを使用しているんですが、円形に空いている穴にすべてポリゴンが割り当てられているんです。実況動画などを見るとその表示が一部の方の環境ではバグってしまって異変に間違えられていることもありました。

——ゲーム内で一番大きいモデルは、やはりおじさんですか?

おじさんは約14万ポリゴンあります。髪の毛にアンリアルエンジンのGroomを使っているんですけど、一番高いクオリティのLODだと重くて動かなかったので、1~2段階下げたモデルを使用しています。

——ちなみに、なぜ「8番」出口なのか、つまり8ステージ制にした理由はなにかあるのでしょうか。

単純に8って横にすると無限のマークになって、ループのイメージに近いなと思ったから、ですね。8じゃないと絶対ダメではなかったんですが、ステージ数もちょうどいいと感じたので。

登場した異変は簡単なものが一番多くて、難しいもの、ゲームオーバーになってしまう特殊なものが同じくらい。割合で言えば60:20:20くらいでしょうか。このバランスについてはシンプルに感覚で振り分けましたが、メリハリがついていたほうが飽きにくいかなとは意識しました。

——異変の出現順は完全にランダムなのか、それとも序盤は簡単なものが出やすくなっているなどの法則があるのでしょうか。

基本はランダムで、4番出口など一定以上進むと、演出として見せたい異変や難しい異変が優先的に出ます。あまり簡単なものばかりだとあっという間にクリアできてしまいますので、ここで一度ゲームオーバーになってもらっています。

ゲーム開始からルールの案内が出るまでは異変が発生していないので、ここが「異変のない状態を覚える」エリアなのですが、ストアページにルールが書いてあったり、人から「異変を見つけるゲームだ」と聞かされていたりして、最初のエリアから異変を探してしまう人が多かったみたいです。そこは少し失敗したなと思っている点ですね。

——特に気に入っている異変はありますか?

赤い水が流れてくる異変と、おじさんがめっちゃ見てくる異変ですね。ちなみに、おじさんの歩行アニメーションはアンリアルエンジンの「City サンプル」のモーションを使っています。

あと、壁から出てくる人間にはアンリアルエンジンの「Scanned 3D People Pack」を使い、壁に馴染むようにマテリアルやテクスチャを作って適用しました。移動モーションはUnreal Engine 5の女性マネキンの歩行モーションで、抱きついてくるアニメーションは自作です。

作中でも屈指のホラー要素と評判の「壁から出てくる人間」

——没にした異変のアイデアがあれば、その理由とあわせて教えてください。

「蛍光灯の数が変わる」「点字ブロックが線状から点状に変わる」などの異変はやめました。異変があまりにも難しすぎた場合、見つけた時の嬉しさよりも「こんなの分かるか!」というストレスが上回ってしまうからです

ゲームとしても見つけるのは「間違い」ではなく「異変」なので、見つけた時に違和感や不安を感じるようなものにしました。ルールも「見逃さないこと」なので、環境音が変化するなど、サウンドのみで構成する異変は入れていません。

サウンドといえば、突然ドッグサロンの広告が動いて犬の鳴き声がする異変の没案もありましたね。急に音がするのはドアを叩く異変でやっていましたし、不気味さよりかわいさが勝っていたので、この案は没になりました。

ゲームが現実を侵食する感覚

——『8番出口』はリリース直後から大反響を呼びましたが、売れ方の傾向、発売時のウィッシュリスト数などを教えていただけますか?

発売前にSteamページを公開した旨のSNS投稿がバズったので、初動が成功したパターンになりますね。その効果もあってか、ウィッシュリストも4万ぐらい登録していただいたと思います。

——バズった要因について、ご自身でなにか分析されましたか?また、広めるための工夫はあったのでしょうか?

動画に関してはなんでバズったのか、正直よくわからなかったですね。『STRANGE SHADOW』の動画は開始2〜3秒で目を惹く映像を入れるよう意識したんですが、8番出口はそれをやっていなかったんです。そもそも地下通路モチーフのゲームが少なくて目をひいたのか、PVの最後でおじさんが走ってくるシーンが良かったのか……。

ツイートする時は分かりやすい文章で、一番最初に「こういうゲームです」という説明を入れるようにはしています。リリース後に心がけたこととしては、面白いSteamレビューを見つけたら自身のアカウントからスクリーンショットをポストするようにしていました。

「実況しやすい」とはテストプレイの時に言われていて「確かにな」と思っていましたが、二次創作がこんなに増えるとは予想もしていませんでしたね。

——ゲーム実況や感想で印象的だったプレイヤーのリアクションはありますか?

異変を見つけると0番出口から段々と数字が増えていくんですが、それを異変だと勘違いして引き返してしまう人がいたのは予想外でしたね。あとは異変の“偽出口”から出てクリアだと思ってしまう人もいました。

それと「おじさんが靴下を履いてない」ことを気にしている人が多かったんですが、あれは異変じゃありません。事前に気づいていたら、靴下に見えるよう黒く塗っていたと思います。

——人によってさまざまな着眼点があるのも『8番出口』の面白さに繋がっていますね。販売価格はどのようにして決めたのでしょうか。

ボリュームに対して価格が高いだけでストアで低評価をされてしまうこともあります。本作は30分程度のプレイ時間を想定をしているため、500円以下が理想と考えました。ただ、最初はふざけて888円にしようかと思ったこともありました。

——最後に、今後の作品について教えていただける情報があればお願いいたします。

システムは近しいもので舞台を変えた『8番出口』の続編的なものを作りたいなと思っていますが、まだどうなるか分からない部分が多いですね。作業コストが減るのでは、と広告を募集することも考えてはいたのですが、作業コストよりも管理系のコストが大きくなってしまいそうなので……検討中です。

——ありがとうございます。『STRANGE SHADOW』も含めて、今後も KOTAKE CREATEさんの作品にも注目したいと思います。

『8番出口』が現実でよく見る光景をモチーフにしたおかげで、普通の駅の8番出口が観光地みたいになっちゃったり、地下通路通るのが怖くなっちゃったという声も聞けたり、ゲームが現実を侵食している感じがすごく良いなと感じました。続編もそうですし、他の作品でもそういう演出ができたら良いなと思っています。ありがとうございました。

『8番出口』ストアページ『STRANGE SHADOW』ストアページKOTAKE CREATEさんX

▼KOTAKE CREATE氏による『8番』シリーズ続編『8番のりば』インタビュー記事はこちら

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ハル飯田

大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。

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