5月23日から始まるUnreal Engineの大型勉強会「UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMER」。2014年からスタートしたUNREAL FESTは、年度内で最大規模のカンファレンスというだけでなく、ユーザーに感謝とノウハウを伝えるためのお祭り的な側面もあります。クリエイターの成功があってこそEpic Gamesも成長できるという同社の想いと、それを支える制度設計やライブラリ・ドキュメントの提供、国内コミュニティなどに触れながら、今回のイベントの見どころについてEpic Games Japanのお二人に解説していただきました。
INTERVIEW & TEXT / 神山 大輝
目次
岡田 和也氏
関西の大手ゲーム会社にてゲームエンジン開発をした後に2016年にエピック ゲームズ ジャパンにサポートエンジニアとして入社。ライセンシ向けのQ&AサイトであるUDNでの回答、直接会社に訪問してのサポート、そして各地での勉強会などでの講演が主なお仕事。そして、最近シン・ウルトラマンを見て大号泣した男
塩谷 祐也氏
AAAのアクションアドベンチャーゲームにてレベルデザイナーとして開発を経験した後に2021年からトレーナーとしてエピック ゲームズ ジャパンに入社。トレーナー職の他、教育やコミュニティ周りも担当しています。公式大型勉強会「Unreal Fest」や 公式YouTube配信「EGJオンラインラーニング」も主なお仕事です。
開発者用MODツールとして登場したアンリアルエンジン
――本日はよろしくお願いいたします。まずは、自己紹介をお願いします。
岡田:Epic Games Japanの岡田です。普段はアンリアルエンジンを使用して頂いている開発会社の技術サポートや、国内におけるコミュニティ活動を行っています。
塩谷:同じく、Epic Games Japanの塩谷です。日本国内のコミュニティ活動や教育周りなどを担当しています。
――お二人とも、現在はEpic Games Japanでサポートやコミュニティ業務に従事しているとのことですが、もともとゲーム開発者だったのでしょうか。
岡田:私は以前、株式会社カプコンでプログラマーとしてゲーム開発に携わっておりまして、ゲームエンジン開発の経験もあります。アンリアルエンジンも当時から使っていて、ご縁があって2017年に現職となりました。
塩谷:私も前職はゲーム会社で、レベルデザイナーとして働いていました。いわゆるプランナー職ですね。学生の頃からアンリアルエンジンに親しんでいたこともあって、もともとEpic Games Japanに入社する前からイベントのお手伝いなどを自主的に行っていて、コミュニティ活動にも参加していました。
――まずはEpic Gamesという会社について教えてください。アンリアルエンジンというゲームエンジンの開発を行いながら、『フォートナイト』などのタイトルも手掛けていますが、どういった会社なのでしょうか。
岡田:Epic Gamesは、ゲームエンジンであるアンリアルエンジンの開発と、このエンジンを活用した『フォートナイト』や、過去には『Gears of War』シリーズなどのゲーム開発を手掛けていたソフトウェア会社です。本社はアメリカの南東部に位置するノースカロライナ州にあって、もともとはEpic Games CEOであるティム・スウィーニーが自宅のガレージでゲームを作り始めたのが創業のきっかけになっています。
最初はデベロッパーとして、1998年に『Unreal』、1999年に『Unreal Tournament』をリリースしていましたが、これらを開発するにあたって当時は「MOD作成ツール」も作っていたんです。これはリアルタイムで動作するライティングやレベルデザインのためのツールでした。あの頃の海外PCゲームはMOD文化と密接な関係にあり、このツールが評価を得たことで、自分たちで使うだけでなく多くの会社にお渡しできるようライセンス化したのが最初期の「アンリアルエンジン」だったんです。
――それが1998年頃ということですね。MOD作成ツールが有名になって、そこから機能進化していったと。
塩谷:はい。そこからバージョンが上がっていき、2022年4月5日には最新となるUE5もリリースされています。また、会社としての大きな特徴は、2018年からEpic Games Storeとしてプラットフォームを作っていることです。これにより、パブリッシング事業も自社内で行えるようになりました。2019年にはフォトリアルなスキャンライブラリを有するQuixelや、近年ではArtStationやBandCampなどをエピックファミリーとして迎え入れ、機能強化だけでなくゲームづくりに役立つサポートも行っています。
岡田:もちろん無作為に手を広げているのではなく、全てはクリエイターのためです。
「クリエイターが成功すれば我々も成功する」という理念の上、より良い制作環境を整えて行きたいと考えています。とにかくクリエイターを推していくぞ、と。そしてそこから素晴らしい作品が生まれたら、結果的にまたEpic Gamesも成長できる。こうしたエコシステムを循環させていくのが理想です。
Epic Games Japanの成り立ち
――この”クリエイター”の対象はもちろん日本人も含まれているということだと思いますが、改めて日本法人ができた経緯を教えてください。
岡田:日本法人は2009年に設立されました。当時も本社からライセンスを提供する形で開発されたアンリアルエンジン 3やUDKを使ったタイトルはありましたが、どうしても時差の関係や言語差の関係でサポートが難しい現状がありました。そこで、弊社代表の河崎が、サポート業務や「ゲームエンジンとはなにか?」という啓蒙も含め、国内での活動を始めたというのが設立経緯になります。
――ゲーム開発の歴史を振り返ると、従来はプロジェクトごとにライブラリ開発を行うなど独自設計が基本でした。その点、今は描画なども含めて、さまざまなことをショートカットして開発に取り掛かることのできるいい時代になったと感じています。
岡田:弊社の河崎が良く言うのが、ゲームエンジンは「プレゼン資料を作るためのPowerPointと同じ」ということ。紙に書いたり、社内で専用のツールを開発したりすることなく、みんなが共通の環境でプレゼン資料を作ることができるようになったのと同じで、キャラクターの挙動やライティング、さまざまなアルゴリズムなどを最初から揃えた状態にしておくことで「面白いゲームを作る」ことにフォーカスできるのが利点です。開発効率を上げるために、プログラマーでなくても遊びの面白さを検証することができたり、レベルを作ってギミックを組んで、というのもビジュアルスクリプティングで行えるようになっています。エンジンコードもオープンになっていますので、何かあっても「自分たちでなんとかできる」というところも、玄人目線で見れば魅力だと思います。
――AAAタイトルでの採用事例が目立ちますが、昨今では個人開発やインディータイトルでの採用も多いように思います。
塩谷:すぐにキレイな絵が出るということで選んでいただくケースもありますが、非プログラマーでもゲームロジックを作れるということをご評価いただくことが多いですね。
岡田:アーティストが1人でゲームを作ってリリースをできるというのも本当に感動的ですよね。『ジラフとアンニカ』や『黄昏ニ眠ル街』などがそうですが、そのほとんどをビジュアルスクリプティングで行っており、「これが今のゲーム開発なのか!」と驚くと思います。
――アンリアルエンジン 5は基本無料で使えるという認識ですが、リリースした場合どういったロイヤリティが発生しますか?
岡田:売上が100万ドルを超えたら、超過分の5%をお支払いいただくという計算です。また、映像制作や建築などのノンゲーム分野ではロイヤリティが発生しません。個人で使う分には、完全無料と言ってしまって良いかと思います。ライセンスはEULAライセンスとカスタムライセンスがあり、後者は企業向けのサポートを含むライセンスです。皆さんがお使いになるのは前者のEULAライセンスになるかと思います。
塩谷:EULAライセンスには個別のサポートはありませんが、国内コミュニティのクリエイターがそれぞれのゲームづくりをサポートし合っています。もちろん私達も公式としてたくさんチュートリアルを出していますし、日本語ドキュメントも作っています。5,6年前に比べてチュートリアル周りも整備されてきているので、あの当時「難しそうだな…」と思っていた方も、ぜひアンリアルエンジン 5が出たこのタイミングで再チャレンジして欲しいと思います。
アンリアルエンジン 5 公式サイト国内コミュニティの現状
――国内コミュニティについて、どういった活動を行っているのでしょうか。
塩谷:毎回異なるテーマで行うオンラインセミナーや勉強会の開催と、日本語ドキュメントの整備とラーニングコンテンツの作成、そしてアンリアルクエストのような初心者向けの技術解説などを行っています。あとは「今週の一枚」と言って、ユーザーの方の作品を毎週ピックアップしてEpic Games Launcherに掲載する試みも行っています。
岡田:私自身にもEpic Games公式からリツイートされて嬉しかった体験がありますし、なるべく公式がクリエイターの作品に反応するような流れは作りたいなと思っています。もう3年ほどやっている試みになります。
塩谷:あとは、アドベントカレンダーをEpic Games Japan社員が頑張って1ヶ月埋めたということもありましたね。
――セミナーやイベントの開催、SNS上でのクリエイターとの交流などがメインになるということですね。コミュニティに入りたいと思ったら、まずはTwitterアカウントを作って、小さいことでも良いので進捗を頑張ってあげていくということになりますか?
塩谷:今のところ最も大きいのはTwitterで、フォローしていただくと情報を追いやすいかと思います。#UE4、#UE5などアンリアルエンジンに関するハッシュタグも追っていますので、ぜひいろいろな投稿を頂けると嬉しいです。また、Epic Developer Communityという公式コミュニティも存在します。こちらは現状英語のみですが、ローカライズ予定もありますので、楽しみにお待ちください。
感謝を伝えるためのカンファレンス『UNREAL FEST』
――今回のテーマとなるUNREAL FESTについて教えてください。
塩谷:UNREAL FESTは数ある勉強会の中でも最大規模のカンファレンスです。年に1度のお祭りとして2014年に始まり、翌年2015年からは春に関西開催、秋に横浜開催と、年2回の開催となりました。コロナ禍となった2020年以降はUNREAL FEST EXTREMEと名前を変え、オンライン開催イベントとして継続しております。アンリアルエンジンを使っている企業様の事例紹介や、我々公式のスタッフが機能紹介の講演を行うといった内容になっています。
岡田:「いつもアンリアルエンジンを使ってくれてありがとうございます」という気持ちが前提にあって開かれているイベントです。参加者無料で、現地開催していたときは展示ブースもたくさんあり、本当にお祭りという感じでした。お硬い勉強会というよりは、みんなで盛り上がろう、というコンセプトがありました。
――オンラインだとなかなかお祭り感の創出は難しいと思いますが、その辺りはいかがですか。
岡田:最初は試行錯誤しましたが、最近はアンリアルクエストによってお祭り感が出るようになってきました。ユーザーと一緒に何かができるということは大切だな、と改めて感じています。
塩谷:アンリアルクエストは、2021年夏開催からスタートしたユーザー参加型企画です。UNREAL FESTの講演は難易度が高いものも多く、初心者にとっては敷居が高く感じられていたと思います。「今日初めてアンリアルエンジンを触ります!」という人でも気軽に始められるような学習イベントとして、日ごとに提示されるお題に沿ってアンリアルエンジンを触っていき、最終日には簡単なゲームが完成するというような仕組みを作りました。進捗は専用のDiscordに投稿し、分からないところは参加者同士で助け合うような形で、初回開催のアンリアルクエストでは1,000人以上が参加してくれました。
――カンファレンス内で初心者向けのイベントを行うのは非常に良い試みだと思います。いよいよ5月23日からUNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMERが開催されますが、個人でゲームづくりを行っている人にオススメな講演を、それぞれ1つずつ教えてください。
塩谷:全ての講演が参考になるというのは前提として、1つ選ぶならCAVYHOUSE様の講演『インディーゲーム「くちなしアンプル」「マヨナカ・ガラン」制作事例』でしょうか。これまでに10作以上を手掛けたベテランのインディーゲーム開発者で、近作となる『くちなしアンプル』『マヨナカ・ガラン』のゲームの設計についてご講演いただきます。全ての表現に意味や意図があって、それをキッパリと教えてくれますので、「どういった考えのもと、どのように仕様を決めているのか?」という考え方の部分が参考になると思います。まだアンリアルエンジンを使い慣れていない方にとっても、参考になる部分が多いと思います。
岡田:ゲーム業界を目指している学生の方を対象にするならば、株式会社アトラス様の『「真・女神転生Ⅴ」における開発事例紹介』が良いと思います。アンリアルエンジンをプロフェッショナルな方が使うときに気をつけていること、エンジンの運用方法や各機能の注意点などを広くお話していただきます。全てを理解するのが難しくても、見ているだけで参考になる部分は多いと思いますし、「ここに追いつくぞ!」というモチベーションにもなるのではないかと思います。分からない単語を調べながら、少し背伸びして見るような講演です。
岡田:また、講演以外にも、5月28日には「UEインディーゲームクリエイター座談会」を開催します。参加者はご登壇もいただくCAVYHOUSE氏、『黄昏ニ眠ル街』制作者のnocras氏、「講談社ゲームクリエイターズラボ」1期メンバーのnakamichi(ネコゲームティーチャー)氏の3名です。私がコーディネーターとしてご質問していくほか、視聴者の皆さんからのご質問も受け付けようと思っています。これも、アンリアルエンジンの理解がなくても楽しめるものになると思いますので、ぜひご覧ください。
――お二人とも、ありがとうございました。最後に、UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMERへ向けて、あるいは読者の方へ向けてのメッセージをお願いします。
岡田:アンリアルエンジンは古くからあるゲームエンジンですが、今が学び始める一番良いタイミングだと思います。みんなと一緒に勉強がしたいというお悩みに対しても、UNREAL FESTやアンリアルクエストをご用意しています。最初の一歩を踏み出すのは怖いかも知れませんが、勇気を持って始めていただければ、私達は暖かくお迎えいたします!皆さんの作品が花開くことを、本当に楽しみにしております。
塩谷:私自身は学生の頃からUNREAL FESTに参加していますが、必ず何かしら持って帰ることのできるイベントになっていると思います。講演の数々はもちろんのこと、アンリアルクエストはそれぞれの環境で作業をすることが前提のため、まさにオンライン開催の今だからこそできるイベントになっていると思います。ぜひ、この機会にUNREAL FESTを楽しんでください。皆さんのお越しをお待ちしております!
UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMER 公式サイトアンリアルクエスト Discord招待リンクゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビューや作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。
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今日の用語
ローパスフィルター(Low-Pass Filter)
- 電気信号のうち、指定した周波数(カットオフ周波数)以下の信号を通し、それより上を大きく低減させるフィルター。
- ゲーム開発において、基本的にはサウンド用語として用いられる。例として、特定のセリフをローパスフィルターによってくぐもった音に加工することで、隣の部屋や遮蔽物の後ろで話しているかのような表現を行うことができる。