登壇者の吉岡 翔氏は、MIXIのデジタルエンターテインメントオペレーションズ本部・コトダマン制作部に所属し、コンテンツディレクターを担当する。『コトダマン』のシナリオやセリフのディレクションを統括しており、公式放送の内容や楽曲の歌詞なども含め、キャラクターとストーリーに関わるあらゆるディレクションを担っている
6周年目で前年比売上170%を記録した『コトダマン』
『コトダマン』は、7文字の盤面に文字を当てはめて言葉を作り、攻撃やスキルを発動するバトルゲームです。
使用できる言葉は10万語。岩波書店の広辞苑第七版から抜粋し、ゲームに取り入れています。
2025年4月でサービス開始から7周年を迎えた『コトダマン』。6周年の時点でメインシナリオのユーザーアンケートが過去最高評価を獲得し、対前年比で170%の売上を達成しました。
しかしこれは順調な歩みの結果ではなく、前年に犯した大きな失敗をきっかけに、アップトレンドを作り出した結果であると吉岡氏は語ります。
『共闘ことばRPG コトダマン』ゲームプレイ紹介動画(2019年公開)
本作のストーリー作りは、ソーシャルゲームとしては比較的ヘビーなものだといい、月1回のメインストーリー更新に、2か月に1度のイベントシナリオ(水着イベントなど)、さらに各種コラボやキャラクエストに応じたストーリーなど、豊富な物語体験が提供されます。
キャラクターは1か月あたり10〜15体、進化後の差分も合わせると25体以上が実装され、それぞれ立ち絵、2Dアニメーション、スキル演出、さらにフルボイスが用意されます。
キャラクターは「ことば」の擬人化であり、名前=性能という設計になっています。特に「い」「う」「ん」といった文字を含むキャラクターはゲーム内での使用頻度が高く、結果としてTier(ゲーム内での強さの格付け)も高くなる傾向にあります。
ゲームのレベルデザイン・キャラクター能力・物語という3つの要素が相互に影響するため、バランスが非常に難しいと説明されました。
登場キャラクターの要件イメージ。実際の現場ではレベルデザイン側から「この文字を使ってほしい」というオーダーが出され、それに応じてシナリオ側でキャラクターが選ばれる
『コトダマン』7年間にわたるストーリー変革の歴史
『コトダマン』の物語は、「ニューワードという神が作り出した『コトの木』の果実から言葉や精霊が生まれ、精霊たちが戦いを起こす」という神話的世界観を持っています。
ストーリーは1~2年ごとに区切りが設けられ、区切りの最後にはボス戦を迎えます。これまで主人公が4回変更されており、世界観も2回にわたり拡張されました。
直近に制作されたストーリーは、一般的なファンタジーに近いものも増えているという
1年目はADVパートがなく、ストーリー要素はキャラクターのフレーバーテキストに散りばめられており、それをまとめたものが「言霊界」の世界観となりました。
2年目には紙芝居形式のストーリーが追加され、声優の杉田智和氏がストーリー設定に参加。独自の味わいにより多くのファンを獲得できた一方、ナレッジ(資料)に残らない設定も増えたそうです。
3、4年目は運営がMIXIに移管。主人公と世界が追加されたほか、ADVタイプのシナリオが導入され、物語もより身近な規模感となりました。4年目の運営は好調で、ボスの難易度などに賛否がありつつも、コラボも含めてユーザー満足度は1度目のピークを迎えました。
看板キャラクター「ましろ」の登場
5年目を迎えた本作は、毎月のコラボイベントで流入する新規ユーザーに向けた間口拡大を狙い、「子どもっぽくないコトダマン」を目指した路線転換が行われました。
キャラクターが2頭身から3頭身となり、世界観も刷新。物語は勧善懲悪ではなく互いの正義がぶつかる構図に変更され、3か国の主人公がそれぞれ残り2国と戦い、その主人公も月ごとに切り替わるという群像劇となりました。
ところが、一連の施策が裏目に出てストーリー満足度は大幅に低下。KPI(重要業績評価指標)も軒並み落ち込み、急激な悪化からの回復もなかなか見られませんでした。
また主人公が交代することで愛着が湧きづらくなったことや、増えすぎたキャラクターにフォローが行き届かないケースも発生。1年単位で切り替わる物語展開も、作品のPDCAサイクルを回すためには長くなりすぎており、運用側としても納得のいくコンテンツ作りが難しい状況に陥っていました。
そこで6年目は再起を図るべく数々の決断が行われました。キャラクターデザインを2頭身に戻したほか、群像劇を廃止して視点人物を「ましろ」に統一。世界観も4年目までと統合され、過去キャラクターとの共闘を描く方針となりました。
運用面ではPDCAサイクルの加速を重視し、半年スパンでストーリーを制作できる体制が敷かれました。ストーリー制作の難易度が高まるのを承知の上で新規キャラクターの使用頻度を下げ、逆に既存キャラクターの衣装替え頻度を大幅に増加させました。
続く7年目ではましろを主人公として続投させ、旅の中で過去キャラクターの伏線を回収していくストーリーとしつつ、ガチャの統廃合や新イベント、グッズ展開の強化など運用計画に注力。キャラクター数は減ったものの、それがポジティブに働き、個々のキャラクターの心情を深く掘り下げる構成にできたそうです。
現在では看板キャラクターとしてお馴染みの存在となっている主人公ましろ。その誕生には、こうした「苦肉の策」とも言える経緯があったのでした。
過去のボスキャラたちもかわいい姿で再登場させている
ケーススタディ「ましろ」の誕生経緯
頭身の回帰や主人公ましろの登場といった決断は、頭身変更から3か月後にはすでに行われていました。キャラクター指示書の作成からリリースまで6~7か月かかることから、翌年の新章開始に間に合わせるためには早期に決断する必要があったのです。
このとき参考にしたのは、5年目の新章開始時に実施したアンケート。自由記載欄の約1割がキャラクターに関する意見で、それらを手作業で分類した結果、ネガティブ意見が多数を占めていたことが明らかに。これがプロデューサーやディレクターを説得する材料となりました。
ゲームへの使用金額の多寡、性別、年代の区別なく、ポジティブな意見は少なかった
すでに時間的余裕がなかったため、キャラクターデザインやプランニングはスタッフたちの感性を信じる方針で、ベンチマークとするキャラクターを探りました。
4年目までのキャラクターの頭身と体型を「ゲーム内性能の体現」「ユーザーに好まれること」「性格・設定・属性が一目でわかること」「肢体表現が美しいこと」の4要件で分析。その結果、「性能体現」と「性格・属性の把握」は頭身に関係なく達成可能でしたが、「好まれること」と「肢体表現」には明確な偏りが見られました。
そこで頭身を戻す判断を行い、公式放送でユーザーに「良くないものを提供したので6年目で頭身を戻す」と率直に伝えました。
一方で、5年目で得られた知見も以降のキャラクター作りに活かされています。例えば前屈したポーズを取らせる場合、頭身を高く描いても「勢いを表現している」と解釈してもらえます。頭と体が1:1に見える構図であれば、実際には3頭身だとしても表現の一環として受け入れられるのです。
ましろ導入にあたってのストーリーの変更
ましろは過去シリーズの世界とキャラクター同士をつなぐ役割を与えられたほか、狂言回し(ストーリーを進行させる役割)やマスコットの要素を併せ持つ主人公として設定されました。
ストーリーでは、言葉と意味だけを知っている初期の状態から名実ともに勇者へと成長していく存在として描写。また既存プレイヤーと新規プレイヤー双方に訴求できるキャラクターとするために、偏りが少なく圧が低い人物像が探られました。
とくに重視されたのは、3国抗争から言葉のストーリーに回帰するための仕掛けです。ましろに「辞書」の能力を付与し、物語のテーマに通じるワードを自然な形で説明できるようにしました。また他のキャラクターたちをよく観察する性格にすることで、観測者として登場人物の心情変化を察知し、ドラマの中で伝える役割も担っています。
運用面では、ましろは基本的に配布されるキャラクターとなり、ストーリーで活躍させてからシリーズ終盤でガチャに追加されるようになりました。
さらには5年目の主人公キャラクターたちも調整しつつ残すことで、シリーズ終盤の堅調な人気を活かしました。また「ラスボスは創世神ニューワードと共にましろを作った母のような存在」「言葉に縛られず生きることを掲げている」といった設定も追加されました。
ストーリーのスパンは1か月刻みから3か月に伸ばされ、残った伏線を回収。ましろを配布キャラクターとすることで、一緒に戦った「思い出」を全プレイヤーに提供しています。またX(旧Twitter)などで公開する販促イラストでは、食べ物を美味しく食べる姿など、心理的に受け入れやすいイラストを意識的に増やしました。
主人公「ましろ」を軸に、過去シリーズの世界やキャラクターを地続きの物語としてつなぎ合わせた
ちなみに5年目開始時は不評だったアンケート結果は、ストーリーの微調整や頭身変更について先行発表していたことも影響して、最終調査ではユーザー満足度が4年目の最後の水準にまで回復しました。
その状態からユーザー待望の6年目がスタート。ましろの成長に合わせて女の子同士がドロドロした感情をぶつけ合う、『コトダマン』としては新しいタイプのドラマが描かれたこともあり、ユーザーの盛り上がりはそれまでにないものとなりました。
シリーズきっての大盛況を迎える中、運営はついにましろをガチャに投入します。
このときのイラストは以前キャラクターの頭身を分析したときに得られた知見が発揮されており、頭身を上げることで比類なき特別感を生み出していました。しかし構図の上では顔と体の比率がほぼ1:1になっており、ユーザーに違和感を与えることもありませんでした。
左下がガチャ登場時のイラスト。また同時期に「ほぼ設定書そのまま」のグッズも販売されている
なおサービス開始6周年のキービジュアルではフル頭身のましろを描くことで、6年目のテーマだった「未来」を表現。またゲーム内でもエクストラスキルとして「1度だけ全文字使用可能」能力を実装したところ、非常に大きな話題を呼びました。
こうした施策は、5年目から6年目に変革する経緯により、シナリオサイドからもディレクションやレベルデザインの領域へ提案が可能となり、実現できたものだそうです。
最終的には、BGM再生の機能を用いた「歌」の実装やストーリーのフルボイス化も実現しました。
こうしてユーザー満足度は過去最高を更新。売上は前年比170%、ARPU(ユーザーあたりの平均収益)177%、ガチャ平均回転数147%となり、キャラクターの魅力が寄与しやすいKPIに関しては記録的な上昇幅だったとのこと。売上に占める「作品固有コンテンツの割合」も増加しました。
Q&A「こんなときどうした?」
長期運用タイトルでは「必要なナレッジが残っていない」という問題が発生しがちです。本作のキャラクター「アイ」はそうした問題が健在化したキャラクターでした。
アイは、アガペー的な無償の愛と仏教的な苦しみをもたらす愛のニュアンスの両方を併せ持つ複雑なキャラクター。その新バージョンを登場させる際に、現在のチーム内に詳細な設定を知る者がいないことが発覚します。
そこで、アイの登場時を知るマーケティング担当や、外注先へのヒアリングにより、設定や当時の空気感を調べ、実装へとこぎつけました。
「聞いてみるとわかることは意外に多い」と吉岡氏は語る
また、運営側が本来やりたかったことと外的要因がバッティングするトラブルも頻発するとのこと。
たとえば公式放送のユーザー参加型企画「レジェンド化運営会議」では、人気投票1位に輝いたキャラクター「ダセット」のレジェンド化案がリアルタイムで検討されましたが、結果としてダセットの「闇落ち」展開が決定。これは運営が想定していない事態でした。
このときは闇落ち状態を最終的な成長にいたるための「溜め」として使い、キャラクター本来の魅力を取り戻したバージョンを合わせて配布することで対応。
この結果、ユーザー全体のイベント参加率も上昇したたけでなく、「レジェンド化運営会議」自体も毎年恒例のイベントとなりました。
こうした設定追加が日常茶飯事であることは「良くも悪くもある」としつつ、『コトダマン』においてはポジティブに作用していると吉岡氏は見ている
講演の最後、ここまでの話を3つのポイントにまとめた吉岡氏。
1つ目は、いかなる状況下でも臨機応変に対応できる「ストーリーの柔軟性」。2つ目は、直すべきところは捨てる/必要なものは生み出すという、今できることに向けて果敢にトライする姿勢。そして3つ目は、ユーザー調査などを通じて形成した「心の中のユーザー像」と対話しながら、作品を楽しんでもらえるか判断できるようにすること。
また同時に、シナリオに携わる人間は、プロデューサーやディレクターに対してデータを使いつつ話せる力が必要だと述べました。
ユーザーに対しても、内部での意思決定にしても、相手に通じる「言葉」を自分の中に持ち、意義のあるコミュニケーションをする大切さを伝えつつ、本講演は締めくくられました。
『共闘ことばRPG コトダマン』公式サイト7周年を迎える「共闘ことばRPGコトダマン」のストーリー/世界観の生存戦略 - CEDEC2025
ゲームメディアや、劇場アニメのプログラム(いわゆるパンフレット)などに関わるようになり四半世紀。「クリエイターがどのように考え、作品を作っているのか」はつねに大きな関心事です。
インディゲームの文化的側面や、クラウドやAIなどゲーム周辺の技術にも興味アリ。