10周年イベント「Project L」発表後、ゼロから作り直した
──社内で新作格闘ゲームのプロジェクトが始動したのはいつごろなのでしょうか。またなぜ格闘ゲームだったのでしょうか。
歴史を遡ると、ロボット対戦格闘『Rising Thunder』が最初です。Radiant Entertainmentが開発をしていたのですが、Riot Gamesが買収した際に開発中止になりました。その後に社内で「LoLの格闘ゲームを作ろう」という話が出て、開発に至りました。
10周年イベントで「Project L」を発表した際に、プレイテストでプレイヤーの皆さんからご意見をいただきまして。その時は「そこそこ楽しい」という意見をいただいたのですが、そういった(中程度の)評価を受け取って、満足するゲームクリエイターはいません。
私たちは「もっとワクワクする格闘ゲームを作らなければならない」と考えて、開発をほぼゼロからやり直しました。
その際、そもそも格闘ゲームをプレイすることで楽しいことは何かという問いに立ち返って、私たちは(格闘ゲームの楽しさは)「友達と一緒にプレイすること」だと考えました。「友達が別の場所で対戦しているよりも、自分と同じ場所で、同じ対戦相手と戦えるほうが、もっと楽しいのではないか」と考えはじめたのが、現状の2XKOのコンセプトのきっかけです。
それが5年前の話です。
──5年前ということは、「Project L」の発表が6年前ですので、あの発表のあとすぐにコンセプトを考え直して、その1年後には新たなコンセプトで開発を再スタートさせたんですね。
そうです。もっとインパクトが欲しかったんです。具体的には、友達と一緒にプレイしているとき「負けても、楽しいと思える」ぐらいのエキサイティングな体験です。
例えば、試合に負けた時に「なんで私のこと守ってくれないの!!(笑)」と笑いあえるような状況が生まれたら、楽しい経験になるでしょう。あと格闘ゲームを長年遊んでいる人は共感してくれると思うのですが、格闘ゲームを初心者の友達に教えるのは大変です。
教える側からすると退屈なことも多く、いざ対戦したとしても(実力差がある状態で戦って)そのあと友達が続けてくれるかどうかもわかりません。ただ、協力プレイであれば、実力差があったとしても、一緒に切磋琢磨して、何かに挑戦すること自体は、インパクトのある楽しさであると判断して、このコンセプトを実装しました。
ただ、この開発には、多くの苦労がありました。
課題が山積みだった「デュオプレイ前提の格闘ゲーム」
──具体的に、どのような苦労があったのでしょうか。
まず、デュオプレイの設計は大変でした。デュオプレイのシステムを実装している格闘ゲームは他にもあったのですが、僕たちが作りたかったのは「デュオプレイを前提とした、競技性のある格闘ゲーム」でした。
そう考えた場合、慎重に考える必要が出てきました。例えば「交代」のアクションをコントロールできるのが「プレイ中のプレイヤー」なのか「控え中のプレイヤー」なのか、または「両方」なのか。
頭の中では「うまくいく」と思っても、実際にゲームシステムに実装してテストプレイしてみると、考えているようにはうまくいかなかったんです。
さらには「デュオプレイを前提のゲーム」にした場合、友達がいないプレイヤーは遊べないゲームになってしまうので、1人で両方のキャラを操作できるシステムを共存させなければなりませんでした。
ただ、ここまで対処しても、問題は山積みでした。
デュオプレイを前提にして練習していた2人組が大会に備えて練習していたとして、片方のプレイヤーが急遽参加できなくなった場合、もう片方のプレイヤーが、デュオからソロに切り替えても、スムーズに適応できるようになる必要がありました。
つまり、ソロとデュオの操作性に“差”がありすぎてもダメだったんです。
──その問題に対する解決策の1つがフューズ※1の「サイドキック※2」と「ジャガーノート※3」だったということでしょうか。
はい。「サイドキック」と「ジャガーノート」のアイデアは、様々な検証やプレイヤーの意見から導き出されました。
まず、このゲームを始めたばかりのとき「まずは1体のチャンピオン(※本作やLoLにおけるプレイアブルキャラクターの総称)だけで戦いたい」という意見があったので、フューズシステムに「ジャガーノート」を実装しました。そこに加えて、LoLにおけるチャンピオン同士でサポートしあえる戦い方も再現したかったので、その派生として「サイドキック」のアイデアに至りました。
※1 試合前にチャンピオンの攻撃性能やステータスなどを選択・カスタマイズできる本作の戦闘システム。「ヒューズ」とも
※2 「フューズ」のひとつ。本作のデュオプレイは戦闘に出る側と控え側の2人チーム制で、戦闘中にチャンピオンを交代することも可能だが、「サイドキック」を使用するとHP増加やバフなどの強化を受けられる代わりに交代が不可能となり、ダウンしても控えを出せずそのまま敗北となる。なお、控えチャンピオンとの連携技(アシストスキル)は使用できる
※3 「フューズ」のひとつ。「サイドキック」と同様にチャンピオンを交代できず、1体のダウンで敗北となる。さらにアシストスキルも使用不可能となる。
それと引き換えに、試合開始時の必殺技ゲージが2本に増える(通常は1本)など、「サイドキック」にはない恩恵が追加される
飽和状態の「格闘ゲーム市場」で勝ち残れるゲームデザインとは
──「Project L」の発表時から6年経ち、あれから多くの格闘ゲームが登場しました。当時とはマーケットの状況が変わってしまっています。現状の飽和状態の格闘ゲーム市場で、勝ち残れるゲームデザインとは何だと考えていますか。
「友達と遊べること」だと考えています。基本プレイ無料なので、格闘ゲーム未経験者でも試すことができます。これはすごく大切なこと。そこからデュオプレイを含めて、初心者の友達同士で上達していけます。
加えて、チーター対策、ラグ対策、バグへの速やかな対処、これらは徹底すべきです。あとは、プレイヤーの声を聞くこと。初心者から競技プレイヤーまで、様々な意見を聞いて、積極的に改善していきます。
──SNSで発信した意見もショーンさんは見てくれているということでしょうか(笑)
はい。私は「SNSをやりすぎている人間」ですので(笑)
──私もβテストで遊んでいますので、プレイヤー目線の意見で気になったことをお聞きします。パルスコンボ(※)についてです。
とても良いシステムだと思う反面、調整が難しそうなシステムだなと。火力が上がりすぎるとボタン連打で良くなり、テクニカルなコンボの有効性が下がり、火力が下がりすぎると、初心者にとって厳しいゲームになってしまう。
「初心者救済」なのか「プロも適宜使用する操作」なのか、パルスコンボを将来的にどの位置に落ち着かせようと考えていますか。
※ 弱・中・強のいずれかのボタンを連打するだけで、自動的にコンボが発動するオートコンボ機能。
操作設定画面やチャンピオン選択時にオン・オフを切り替えられる
「初心者救済」を目指しました。理想のバランスとしては「パルスコンボよりもベストなコンボは存在するが、パルスコンボで十分ともいえる」です。
また、システムとしてパルスコンボをONにしたとしても、通常のコンボも選択できます。加えて、パルスコンボの面白い使い方は、競技的なプレイヤーが新チャンピオンを試す際に、まずはパルスコンボをONにして「基本的な動きを手早く確認できる」というものです。
──なるほど。確かに、LoLにはとても多くのキャラクターがいて、また2026年には、5体のチャンピオンを追加するという発表もされてます。それだけ頻繁にキャラクターが追加されるとなると「動きを確認するために、パルスコンボを使う」というのは便利ですね。
はい。私たちもデュオプレイの格闘ゲームにおいて、現状の10体程度のキャラ数では少ないのはわかっていますので、今後も追加していきます。
私たちがデザインするキャラクターは、すぐにそのキャラの楽しさが理解できて、やり込み要素もあるものです。楽しみにしておいてください。
おまけ:2004年に「EVO」の「鉄拳部門」に出場されていましたよね
──最後に、ショーンさんは2004年にEVOの鉄拳部門に出場されていましたよね。それぐらい格闘ゲーム好きということは、今回の格闘ゲーム開発は念願のといいますか、制作が決まったときは、かなり嬉しかったのではないでしょうか。
はい。ずっと作りたかったんです。私も社内のお偉いさんに対して、何年も前から「いつか格闘ゲームを作りたいんですよ。忘れないでくださいね。」とアピールしていました。
その後、リードデザイナーとして2XKOに携わることになって、本当に夢みたいですよ。
──ショーンさんが格闘ゲームにおいて「大事していること」「ここは絶対に変えない」という強いこだわりのある部分は何でしょうか。
「負けても楽しめること」です。
たとえ負けたとしても「負けた理由はわかった」「次はこれを試してみたい」という考えになれるような格闘ゲームであることが大事です。
──負けても学びがあるゲームということですね。ショーンさん、本日はありがとうございました!
こちらこそありがとうございました!あなたと6年ぶりにLoRの話ができて嬉しかったですよ。また話しましょう!
Riot Games公式サイト『2XKO』公式サイト
1987年生まれ。会社経営者。大学時代はFPSにハマって留年。
「キャリアコンサルタント」から「飲食メディア編集長」を経て、eスポーツ業界へ。
7年間のeスポーツ取材の経験をもとに、eスポーツ専門の編集プロダクション兼、取材代行会社を設立。