2025年7月18日(金)から20日(日)、京都みやこめっせで開催されていた「BitSummit the 13th」。本記事では展示作品の中から、チーム「.iris」が開発するADV『A Passing in the Night』を紹介します。

夜の街を彷徨う1時間で結末が変わるオカルティックADV『A Passing in the Night』。ニュータウンや日本画を参考に非日常感を演出【BitSummit the 13th】
TEXT / tyap
EDIT / 浜井 智史
現実を蝕む怪奇現象。1時間の行動で結末が変わるオカルティック3Dアドベンチャー
『A Passing in the Night — Concept Video』
『A Passing in the Night』は、現実と悪夢が入り混じる夜の街を彷徨う、オカルティックな3Dアドベンチャーゲームです。
悩みを抱えた青年「かい」が、姉からの電話を聞きながら街を歩く日常的なシーンからスタート。最初は他愛もない内容だったはずが、次第に街や姉の様子に違和感が生じ、日常が崩壊していきます。
やがて、かいは突如現れた悪魔「ベロウ」に「最も大切な記憶と引き換えに全ての苦しみから解放してやろう」と契約を迫られます。
与えられた猶予は1時間。プレイヤーはその間に街中を自由に行動し、悪魔の契約に対する答えを判断することになります。
試遊では、イントロダクションに本編序盤を合わせた約20分をプレイできました。
姉との電話中に突然現れるヤギや、悪魔のビジュアルスタイルなど、日常を侵食する違和感はシュルレアリスム的な世界観を彷彿とさせます。
階調化とノイズを取り入れた幻想的な3Dグラフィックとシュルレアリスム的な世界観が、夢と現実の間を彷徨う不安定さを演出。ダークでミステリアスな雰囲気だけでなく、「背後に何かいるかもしれない」と予感させるじっとりとした恐怖心をあおります。
筆者が特に印象的だと感じたのは、ほとんどのシーンでカメラワークを自由に操作できること。まるで自分がカメラマンや映画監督になったかのように自由な解釈でシーンを構築でき、プレイヤーごとに異なるストーリー体験が楽しめそうです。
プレイ時間は、悪魔に与えられた猶予期間と同じ約1時間を予定。リアルタイムで進行する1時間の中で、プレイヤーが取る行動によってエンディングが変わるマルチエンディング方式を採用しています。
平等に与えられた1時間の中でどのような判断を下すのか。その違いがそれぞれのプレイヤーにとって特別な体験となるでしょう。
「夜の散歩」を着想に生み出された、繊細でドラマチックなグラフィック表現
本作は古田 浩文氏(以下、古田氏)と金 ユニス氏(以下、金氏)のご夫婦が共同で開発しています。古田氏がプログラミングのほかカラーリングをはじめとするデザインを中心に担当し、金氏がモデリングや音楽、アートなどを担当しています。
使用エンジンはUnreal Engine 5。両氏とも仕事や趣味でUnreal Engine 5の使用経験はあるものの、ゲーム開発での採用は本作が初めてだといいます。
日頃から夜の散歩を習慣としている両氏。以前から共同でのゲーム開発に興味を持っていたところに「夜の散歩をウォーキングシミュレーターゲームとして表現できれば面白いのではないか」と着想を得たことで、本作の開発を開始しました。
構想自体は約1、2年前から存在していたといい、2024年9月頃から開発準備に着手。2025年より本格的な開発に取り掛かりました。
深夜の散歩をコンセプトに掲げる本作は、夜の空気感を大切にしながら開発を進めています。リゾグラフ印刷のような色調のズレに、グレインによるノイズの粗さを加えることで、不気味さと静謐さにリアリティを与えています。
このグラフィックスタイルは開発当初からの構想に基づくもの。参考資料として、ニュータウンの雰囲気や昔の印刷物、特に日本画のグラデーションなどが活用されました。
さらに、構想していたイメージに近づけるため、諧調化などの細かな調整を施しています。
本作は、2025年3月に開催された「TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2025」での初出展に引き続き、BitSummitで2回目の出展となりました。
2度のイベント出展にわたる試遊を通じて、3Dゲームならではの課題に直面したと語る古田氏。なかでも、衝突判定やカメラワークで意図しない挙動が発生することがあり、その調整に苦労しているそうです。
今後はゲームシステムや挙動の最適化に注力し、さらなるクオリティアップを目指していきます。
金氏は「約1時間という短い間だけでも、自由に散歩をしているような没入感のあるゲームを目指して開発しています」と本作へのアピールポイントを伝えてくれました。
『A Passing in the Night』公式サイト「BitSummit」公式サイトゲームを遊び、ゲームを作り、絵を描き、文章を書くエビです。
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今日の用語
ワイヤーフレーム(Wire Frame)
- 3Dモデルのエッジ情報のみを表示するレンダリング手法。ゲーム開発においては、3Dモデルやシーンのポリゴン構造を確認することに用いることが多い。
- UIやWebページなどのレイアウトを決めるための設計図。
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