補助金制度と視察の目的
冒頭に挙げた補助金制度は、 「 我が国の文化芸術コンテンツ・スポーツ産業の海外展開促進事業(コンテンツ産業の海外展開等支援)(JLOX+) 」 といい、経済産業省が実施しています(VIPOは事務局を担当)。
JLOX+ は海外向けのローカライゼーションやプロモーション、プロトタイプ開発などに活用可能で、「台北ゲームショウ2025」では6社がこれを使って出展していました。
補助金の使途や実際にかかった金額は見積書・発注書・請求書などをもって把握していますが、申請された通りに正しく展示されているかどうかを現地に赴いて調査しました。視察時には各ブースに足を運び、実施されている事業者の確認や担当者へのヒアリングを行いました(※)。
※ 記事公開時点では確定検査が完了しておらず、補助金が支払われることが確定した案件ではありません
JLOX+を活用した企業
ここからは、JLOX+を活用・出展した以下の6社の様子をレポートします。
サクセス
クラウディッドレパードエンタテインメント
MUTAN
Phoenixx
HYPER REAL(産経デジタル)
SKOOTA GAMES(スクーターフィルムズ)
サクセス BtoBエリア(B2B Zone)で出展していたのは サクセス 。HTML5のカジュアルゲームや自社のゲームIPを紹介しており、海外のプラットフォームやパブリッシャーを探すために商談していました。
担当者である王 若文氏によれば、台北ゲームショウ公式のオンラインシステム 「Biz-Matching」 を使ってアポ取り・商談しつつ、飛び込みの方とも商談したと言います。また、海外の会社と直接話せる貴重な機会として、本イベントだけでなく海外のゲームショウへ積極的に参加していることも話していただけました。
「サクセス」公式サイト クラウディッドレパードエンタテインメント BtoCエリア(B2C ZONE)でJLOX+を活用した1社が、 クラウディッドレパードエンタテインメント です。ブース内にステージが設置されており、「Falcom jdk BAND」のライブや声優登壇イベントが実施され、非常に盛り上がっていました。
ヒアリングなどに対応していただいたのは、同社の陳 云云氏と川内 史郎氏。「ブース出展に補助金を活用したのは今回が初めて。補助金のおかげで去年の倍の広さの展示スペースを利用できるようになりました。その広さを生かしていくつもの施策を実施できるようになり、お客様の満足度も上がったと思います。また、台北ゲームショウは東京ゲームショウよりも来場者が多いと発表されています(※)。それだけゲームを試遊してもらえるチャンスが増すので、その反応を見ながらゲームを修正できるのも、台北ゲームショウの利点だと思います」とお話いただきました。
※ 「東京ゲームショウ2024」のリアル会場における総来場者数は約27万人
なお、JLOX+の今後の利活用については、ゲームのローカライズは大きな先行投資になるので、ローカライズでの補助金活用も検討しているとのこと。
「クラウディッドレパードエンタテインメント」公式サイト MUTAN MUTAN もB2C ZONEにブースを構え、『ソフィアは嘘と引き換えに』を展示していました。
同社が海外出展したのは今回が初めてですが、日本と台北を中継したユニークな謎解き体験を提供していました。内容としては、ソフィア役の声優である日向 葵氏が日本で待機しており、台北の来場者さんがリアルタイムで映像のやり取りをしながら謎解きに挑めるというもの。これは作品のゲームシステムをモチーフにしたものだといいます。
担当の梅澤 友香氏は、会場の反応について「リアルイベントでしか体験できない特別な試遊を企画したことで、来場者とのコミュニケーションが自然と促され、Steamのウィッシュリスト登録も順調に進みました」と話します。
また6種のトレーディングカードを用意し、ウィッシュリスト登録で1枚、Xアカウントのフォローで1枚、試遊で1枚をプレゼントする企画も実施したとのこと。これがウィッシュリスト登録が順調だった一因かもしれません。
「 台北ゲームショウのB2C ZONEは、東京ゲームショウなどに比べてブースを広く展開している企業が多いことが印象的でした。来年出展するのであれば、Indie Houseでの出展もぜひ検討したいと思います 」と、次回への意見もいただきました。
「MUTAN」公式サイト Phoenixx インディーゲームブースが集まるエリア 「Indie House」 では、 Phoenixx が『スゴイツヨイトウフ』『Electrogical』『NeverAwake』といった作品の展示などを行っていました。
Phoenixxの梶 菜々子氏は、「台北ゲームショウはアジア圏で最大級の規模を誇る人気イベントなので、昨年から出展するようにしています。来場者さんからの反応が良かった作品は、とうふが主人公のアクション『スゴイツヨイトウフ』です。イベント開催地の台湾にも豆腐を食べる文化があるので、豆腐がどんなものかを知ったうえで、皆さんが笑いながらプレイしていたのが印象に残っています」と話します。
VIDEO
『スゴイツヨイトウフ』Nintendo Switch版PV
「Phoenixx」公式サイト HYPER REAL 産経デジタルのレーベルである HYPER REAL もIndie Houseで出展し、『SAEKO: Giantess Dating Sim』『SKY THE SCRAPER』などを展示していました。
その場でSteamのウィッシュリストを登録すると、その作品の アクリルキーチェーンをプレゼントするキャンペーンが効果的 だったと振り返ったのはHYPER REALの櫛引 茉莉子氏。また、展示した『Telebbit』については、「スピードランコンテストを実施したところ、何回もチャレンジしてくれる人がいらっしゃって、エンゲージメント効果が高いと感じています」と話します。
来年以降の出展の意向については、「HYPER REAL作品のウィッシュリストにおける台湾ユーザー数が多いので、来年も出展したい」としています。
「HYPER REAL」公式サイト SKOOTA GAMES 「スクーターフィルムズ」運営のインディーゲームレーベル 「SKOOTA GAMES」 もIndie Houseで出展し、『ももっとクラッシュ』『ネゴラブ』『CREEP ZONE』『月の鱗』などを展示しました。
同社の原田 拓朗氏に話を伺うと、「想定以上の方に試遊してもらえたのはうれしい誤算です。しかし、少人数でのブース対応では、試遊後のウィッシュリストの登録までなかなかケアできず苦戦しました。増員した後半の土日は、より丁寧な試遊客対応を心がけ、多くの登録をいただきました。SKOOTA GAMESのゲーム内容と相性が良さそうな東アジアに優先して出るべきだと考えて、台北ゲームショウへの出展を決めました。イベントの盛り上がり、お客さんの熱量ともに想像以上で、来年も間違いなく出展しようと考えています」とコメントをいただきました。
「SKOOTA GAMES」公式サイト
BtoB、BtoCエリアもチェックしてきた
ここからは、JLOX+の視察対象以外ではありますが、イベントの理解のために回ったエリア・ブースを紹介します。
BtoBエリア 台北ゲームショウには、 「B2B Zone」 と呼ばれるBtoBエリアが設けられています。東京ゲームショウでもBtoBエリアは存在しますが、台北ゲームショウでは エリア内にブースを出展できる のが特徴です。また、BtoCエリアに出展していても、本エリアに設置されたミーティングルームを予約・利用できるのもポイントです。
BtoBエリアに出展していた、 「あそびるど」 および 福岡インディーゲーム協会 の村上 浩治氏は「今回が初めての出展で、商談中心の話をするためにこのエリアを選びました。海外パブリッシャーさんからも前向きなお話をいただけたので、出展した甲斐がありました」と話します。
「福岡インディーゲーム協会」公式サイト インディーゲームイベント 「BitSummit」 のブースも出展。BitSummitに出展・スポンサーしたいといった相談が数多く寄せられているといいます。
BitSummitを運営する石川 武志氏(画像左)
なお、BitSummitと台北ゲームショウは提携関係にあり、 BitSummitが推薦する4作品の試遊台がインディーゲームエリアにて無償提供 されるとのことです。渡航宿泊費は自己負担ですが、多くの開発者の方が現地にいらっしゃっていました。
「BitSummit」公式サイト BtoCエリア BtoCエリア 「B2C ZONE」 は、大手ゲーム会社の大型ブースを中心に出展。日本からは 任天堂、Cygames、コーエーテクモゲームス などのブースが確認できました。
同エリアで『PICO PARK 2』『ホロライブ ホロの花札』を展示していた、 ジェムドロップ の北尾 雄一郎氏に話を伺うことができました。
「お客さんの反応は上々で、『PICO PARK 2』は試遊待ちの列ができていました。『ホロライブ ホロの花札』は展示のみでしたが、ホロライブファンの皆さんがたくさん来て写真を撮って下さいました。台湾のメディア『巴哈姆特』(バハムート)さんも取材に来てくれて、出展した効果はとても大きかったかと思います」と、同氏は語りました。
「ジェムドロップ」公式サイト
日本からの出展も多いインディーゲームエリア
BtoCエリアに併設された、巨大なインディーゲームエリア 「Indie House」 。同エリアで出展していた日本の方々にお話を聞いてきました。
超小型デバイスを展示するLeonaSoftware LeonaSoftware は、指先ほどの大きさのオープンソースハードウェア「Thumby」をベースに、伴走型育成シミュレーションゲームを同梱した『Thumbylina』を展示していました。
同ブースの高橋 玲央奈氏は「本作は世界で一番小さいギャルゲーです。プレイヤー自身が運動・勉強などをするときにタイマーをセットすると、キャラも一緒に頑張ります。タイマーの時間に応じてポイントがもらえ、ポイントでガチャが引けるようになります」と話します。
「LeonaSoftware」公式サイト 20以上のタイトルを展示したroom6 「海外ユーザーの比率を上げたいので、今後は積極的に海外出展したいです」「20以上のタイトルを試遊できるようにしていますが、台湾のユーザーが初見で選ぶゲームは日本と変わらないです。好みがわかりやすいので、台北ゲームショウは安心して出展できるゲームショウだと思います」。そう話すのは room6 の木村 征史氏と伊藤 純子氏。
room6によるインディーゲームレーベル「ヨカゼ」に関する展示も行われていました。文化庁の文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター等育成・文化施設高付加価値化支援事業)による助成を受けた「ars●bit」プロジェクトが、ヨカゼを支援。そのサポートによって今回台北ゲームショウに出展しているとのことでした。
「ars●bit」プロジェクトの豊川 泰行氏に、同プロジェクトのことを伺うと「ゲームを起点とした分野横断型クリエイター・アーティストの発掘・育成とグローバル展開の支援を行うもの」と説明していただきました。
ボカロPのはるまきごはん氏が手がけた『幻影AP-空っぽの心臓-』や、はなぶし氏×hako 生活氏の『ピギーワン SUPER SPARK』など、クリエイター同士のコラボレーションや企業の枠を超えた連携が評価され、プロジェクトの先行モデルとしてヨカゼが支援されることになったそうです。
「room6」公式サイト イベント代行出展も担うUkiyo Studios インディーゲームエリアで目を引く展示をしていたUkiyo Studiosは、イベント代行出展や海外PRサポート、ローカライズなどを行う、ゲーム業界のビジネスサポート会社です。今回は海外パブリッシャー「CRITICAL REFLEX」と日本のパブリッシャー「Alliance Arts」のゲームを中心に出展していました。
とくに注目されていたのが、『Buckshot Roulette』のマルチプレイヤーモードをもとにデザインされた「リアルBuckshot Rouletteテーブル」。長蛇の列をなし、インディーゲームエリアで一番の盛り上がりを見せていました。
「Ukiyo Studios」公式サイト
台北ゲームショウへの出展はオススメ!
台北ゲームショウが開催される台湾は日本から地理的に近いこともあり、海外イベントでありながら非常に参加しやすいイベントです。台湾は人口が少なく、マーケットとして軽視されてしまうかもしれませんが、Steamユーザーの割合は多いそうです。
また、インディーゲームエリアの出展費は、「台北ゲームショウ2025」だと4日間で10,500新台湾ドル(約49,000円)~。かなり安い価格設定で、初めての海外出展に台北ゲームショウを選択するのも良いと思います。日本からの出展者も多いので、出展時の経験談など聞いてみるのも良いかもしれません。今回のレポートが、少しでもお役に立てば幸いです。
出展すると、Steamの台北ゲームショウ特設ページに作品を掲載できるのも大きな利点です(画像は Steam特設ページ のスクリーンショット)
中小規模のゲーム会社やインディーゲーム開発者(※)の方々は、費用の問題で出展を断念することも多いと聞きます。その場合は、JLOX+など補助金の活用を検討してみていただければと思います。
※ 個人からの申請は不可。規模は問いませんが法人格であることが申請条件の一つです
JLOX+は募集をすでに終了していますが、JLOX+の後継事業である経済産業省・令和6年度「クリエイター・事業者⽀援事業費補助⾦(クリエイター・事業者海外展開促進)」の実施が決定 しており、その事務局をVIPOが担当する予定です。こちらの補助金の公募開始ならびに公募説明会等につきましては、決まり次第、VIPOのホームページ等で発表する予定です。
JLOX+公式サイトでは、補助金の活用事例を確認できる(画像は JLOX+公式サイト のスクリーンショット)
VIPOとしては今後もゲーム業界を含め、日本コンテンツの海外展開を支援していきたいと思っています。海外展開について何かお困りの点がございましたら、公式サイトなどからご相談していただければと思います。
VIPO公式サイト 台北ゲームショウ公式サイト