2024年9月26日(木)から29日(日)の4日間、幕張メッセで開催されている『東京ゲームショウ2024』。展示されたゲームの中から、今回は「Optillusion」が開発するアドベンチャーゲーム『While Waiting -ただ待つゲーム-』を紹介するとともに、 OptillusionのHongke Luo氏にこのユニークなゲームデザインに至った経緯やそこにかける想いを聞きました。
TEXT / 酒井理恵
ただ待つだけでゲームクリア。「待つ」ことの意味を問うアドベンチャー
YouTube動画『While Waiting | Gameplay Reveal Trailer』
『While Waiting -ただ待つゲーム-』はOptillusionが手掛けるアドベンチャーゲームです。その名の通り、ゲームでやることはただ「待つ」だけ。
バスを待つ、授業を待つ、面接を待つ、手術の結果を待つ……100以上の「待つ」シチュエーションを通して、人生のあらゆる「待つ」ことの意味を俯瞰して考えられるゲームです。
本作を最速クリアしたければ、ひたすら「待つ」のが正攻法とのこと。でも、それで本当にゲームとして成立するのでしょうか?
物は試し、早速ゲームをプレイしてみましょう。
操作方法のチュートリアルを終えて一番初めのシチュエーションは「生まれるのを待つ」。橋のような場所で整列し、川へ飛び込む順番を待ちます。
「何もしない」このゲームですが、各ステージには待ち時間で退屈しないよういくつかの「実績」が用意されています。
実績の内容は「待ち時間って、こういう事ついやりがちだよね」と共感できる内容もあれば「こんなことが起こっていいの!?」と思うようなコミカルな内容までさまざま。例えば、ゴールキーパーをしている間に応援席の好きな女の子に手を振ったり、渋滞中に車の窓を開けてみたり。
渋滞中の車内、窓を開けると中央分離帯にアヒルの雛が。親アヒルと離れてしまったようだ(ゲーム画面はSteamで配布中のDemo版のもの)
車の外に出てみると、アヒルの雛がついてきた。こうなったら、安全なところまで送ってあげなければ……(ゲーム画面はSteamで配布中のDemo版のもの)
そうこうしているうちに車が動き出してしまった!しかも、両親は我が子という重大な忘れ物に気が付いていない……。アヒルの雛たちと同じ状況に(ゲーム画面はSteamで配布中のDemo版のもの)
ステージによっては暇つぶしのために余計な動きをしたせいで、さらに時間を浪費してしまうこともあり、「最短時間でクリアしたければ何もしないのが良い」というアドバイスにも納得。手癖でついついやってしまう「待つ」意味について考えてしまいます。
実績の内容は各ステージの開始時に、一言のヒントがノートに表示されます。ステージプレイ中は右上に未取得の実績のアイコンが表示されていますが、決められた待ち時間ですべての実績の内容を推測し、行動するのは案外難しく、忙しいとすら感じます。
エンディングはノーマルとトゥルーの2種が用意されています。
立ち止まって人生について考えさせられる哲学的な側面を持ちつつ、さまざまなオマージュやコミカルな展開で、「待つ」時間だからといって決して「退屈」ではない、緩急のあるゲームプレイが楽しめます。
湯気で鏡に数字が浮き上がってきた!この展開は広告で見たことがある。きっとトイレのどこかに入力する場所があるはずだ。ちなみに、今にも出てきそうなスパムミートはトイレ我慢ゲージ(ゲーム画面はSteamで配布中のDemo版のもの)
ゲームの根幹である「プレイ」をひっくり返して生まれたコンセプト
本作についてOptillusionのExcecutive Producer / Game DesignerのHongke Luo氏にお話を伺いました。
本作はUnityを使って2022年から制作。開発は一人のメンバーが複数のポジションを受け持つ、柔軟な体制で行いました。ゲーム内のほとんどのアニメーションもチームにいる専門のアーティストが制作。おもにSpineを使い、対応できないところだけフレームアニメーションを使用しています。Spineを選択したのはコスト面の影響が大きかったとのこと。
ゆるいアニメーションはコミック風のイラストとも調和している(ゲーム画面はSteamで配布中のDemo版のもの)
Optillusionは、前作『Moncage -箱庭ノ夢-』でも、キューブの中に広がる世界を舞台にした実験的なパズルゲームを制作していたため、本作でもそうした実験的な面を引き継いでいこうと考えました。
その中で案として出てきたのが「待つ」をコンセプトとしたゲーム。通常、ゲームといえば「何かをプレイする」ものです。それをひっくり返し「何もしないをプレイさせよう」としたのです。そういう意味で本作は「アンチ・ゲーム」でもあるとLuo氏。
ただ、このコンセプトをゲームとして成立させるのは大変で、プリプロダクションには長い時間をかけたと言います。
最も苦労したのは「100以上の待つシチュエーションを考えること」。「待つ」場面にはどのようなものがあるか、そしてそこで何をしたら面白くなるか、ゲームデザインを練るのには骨が折れたそうです。
ゲームの実装難度はそれほど高くなかったたものの、ここにも落とし穴が。
例えば、ローグライクのゲームはゲームを動かす基本のシステムを1つ実装すれば、その後はステージを量産していくのがメインの作業となります。しかし、本作の場合、ステージ毎にゲーム性が異なるため、システムを再利用できる部分がほとんどありませんでした。
また、「待つ」というゲーム性から、何をすれば実績解除となるのかがゲーム画面から伝わりにくい難点もありました。実績のステッカーは、こうした点を補うためのヒントの意味合いも込めて追加しました。
扉を開けると、上司から逃げる別ゲームが始まる。こうしたミニゲームが各ステージに仕込まれている(ゲーム画面はSteamで配布中のDemo版のもの)
「さまざまなシチュエーションでステージを構成する」というゲームのスタイルは「空気読み。」シリーズからインスピレーションを受けています。
また、スタジオの開発メンバーはアニメが好きなメンバーが多く、画面を注意深く眺めていると気づけるオマージュも作品に散りばめられているそうです。
本作は人が生まれてから死ぬまでのさまざまな「待つ」シチュエーションを取り上げています。
人が何かを待つとき、ただ待つのではなく多くの場合は何かをしています。ぼんやりと何もせず時間を過ごすのか、それとも、何かをしながらその時が来るのを待つのか。この選択が本作のコアになっているとLuo氏。
待ち時間の中でできることは基本的に意味のないことです。しかし、そこに意味があると感じるのもプレイヤー次第。本作を通じて哲学的な思索にふけるのも意味のある時間の使い方なのではないでしょうか。
『While Waiting -ただ待つゲーム-』公式サイト東京ゲームショウ2024公式サイトゲームメーカーズ編集。その他、ソーシャルゲーム、ボイスドラマ等のフリーのシナリオライターとしても活動中。突き抜けた世界観のゲームが好き。
『サガ・フロンティア』のアセルス編などのゲームを心のバイブルにして生きてます。
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