「ななしいんく」らしさを表現するライブステージの作り方。「NANASHI Sing up vol.1-Sparkle-」のコンセプトワークやライティング手法など“バーチャルライブ制作の裏側”を徹底解剖!

2023.08.03
注目記事講演レポート3DCGアンリアルエンジン映像制作
この記事をシェア!
twitter facebook line B!
twitter facebook line B!

2023年7月25日、VTuberプロダクション「ななしいんく」が開催したバーチャルライブを題材にしたアンリアルエンジンの技術勉強会『UEなんでも勉強会 – バーチャルライブ編 – vol.1』が開催されました。

本記事では、「NANASHI Sing up vol.1-Sparkle-」を題材に、UE5でのステージ制作が解説された第1セッション「バーチャルライブ制作・大解剖」をレポートします。

TEXT / 神山 大輝

目次

「NANASHI Sing up vol.1-Sparkle-」から見るリアルタイムライブの魅力

登壇したのはREZ& Co-Founder / ディレクター NOBUAKI KAZOE氏。以前はクラブなどのステージ演出やライブ演出を専門的に行っていましたが、コロナ禍によってライブ自体の総数が減少したことからアンリアルエンジンを使用し始めたとのこと。

講演題材となったライブは2023年5月3日に開催された「NANASHI Sing up vol.1-Sparkle-」。MMTとREZ&の2社が開発を担当しており、UE5を使用するコアメンバーは9名。バーチャルライブは収録型、半収録型、リアルタイム型に大別されますが、今回は観客の反応を見ながらMCを変えたり、歌声や現場のハンディカメラに併せてライティングを変更したりするためにリアルタイムが選択されました。

収録型:事前に歌やモーションを撮っておいて書き出すパターン
半収録型:困難なダンスや演出上の都合で、一部のみ収録したものを利用するパターン
リアルタイム型:今回はこちら。歌もモーションも演出もリアルタイム。UEでPLAYしたものを配信ソフトから展開

リアルタイムの良いところは、現場で起きたインスピレーションを即時的にライブに反映できるところだとKAZOE氏は語ります。「コメントが大量に流れてきた瞬間、”お客さん入ってきた!”という感覚が大きくありました。リハの時よりもロングトーンで歌声が伸びた場合、ライティングもさらに明るくしたほうが良い演出になります」(KAZOE氏)。観客の反応を得たアーティストの機微を、細かい演出で飾っていくことができるのもリアルタイムの重要な特徴です。

『【3D LIVE】NANASHI Sing up vol.1-Sparkle-【ななしいんくミュージック】』。万が一のトラブル対応のため一部でプリレンダーの映像を使用しているが、ダンスや歌唱、ライティング演出は全てリアルタイムで行っていたとのこと

「教会」をイメージしたワールド制作

ワールド制作を行う場合、「ただのCG背景にしてはいけない」とKAZOE氏は説明します。普段の視聴者が違和感を覚えないよう、ななしいんくのワールドであることを率直に伝える必要があったほか、今回ライブに選出された4名以外も「いつか出てみたい!」と奮起するような気持ちに繋がる豪華なライブステージが目指されました。

今回は神聖さや聖域、特別なライブステージというキーワードに繋げるため、テーマを「教会」と設定。教会自体はもともと音が響くような建築設計になっているため、「ななしいんくの活動が世界に響き渡るように」という想いも込められました。

シルエットの作成とキットバッシング

「いつか出てみたいと目指す場所」として、例えばフジロックにおけるGREEN STAGE(約40,000人を収容できる、場内最大のステージ)のように、「音楽フェスのメインステージ」という題材が選ばれました。「教会」と「メインステージ」というコンセプトから、ワールドディレクターが全体のシルエットを作成。この時点で昼と夜のライティングを試しており、全体像についてななしいんく側との合意形成を行います。

続いてキットバッシュによるディティールの設計に入ります。これについては「マーケットプレイスが最高!」というKAZOE氏の言葉通り、ワールドの世界観を示すような蝋燭や燭台などのアセットを次々と購入・配置していったとのこと。また、「歌うななしさん像」など、直接的にななしいんくのステージであると理解が深まるようなキーアセットも配置し、全体の解像度を高めていくことも重要と語られました。

KAZOE氏のお気に入り&使用したマーケットプレイス一覧:
Medieval Gothic Cathedral – Gothic Dungeon – Modular
Dungeon Entrance – Dungeon Kit – Dougeons
Modular Concert Stage
Complete Modular Truss Megapack
※最もお気に入りは「Modular Concert Stage」。アップデートによってDMXにも対応したとのこと

ベースの明るさを決めるライティング

ワールド自体のベースとなるライティングはワールドディレクター側が調整。ライブステージが全部暗転したとしても数箇所だけは点灯している状態で、最低限ワールドの世界観をキープできる状態を作っています。デフォルトのライトが明るすぎるとライブ会場風にならないため、今回は夜の教会をリファレンスとしてライティングを設定。この際に参考にしたのは「Lighting a NIGHT-TIME exterior in Unreal」チュートリアルであるとのこと。

本作の次に制作されたRene Ryugasaki 1st solo live「Garnet Moon」では、本作を超える4つのワールドが用意された。「仮想の東京で歌っている」というテーマに則り、東京駅や東京タワーをモティーフしたステージが制作されている

アンリアルエンジンの強みを活かしたステージライティング

多くのVTuberはUnityでライブ制作しているため、アンリアルエンジンでライブ制作を行う場合はデータ変換やルックの調整等を含めて通常より多くの工数が掛かります。初期コストは掛かりますが、それ以上にライティングのルックが大きく向上するメリットがあるとKAZOE氏は指摘します。

今回は照明スタッフが現実のライブ会場で演出を行うように、リアルタイムでライト演出を行います。このため、ワールド上にも現実空間に即したライトがセッティングされました。

ライティングデザイン前(左)とライティングデザイン後(右)の比較。コンサートステージを模したアレイやトラスが組まれている

ラダー配置やアクト(演者)を包むように照らすフィルライト、アクトを正面から照らすキーライト、神殿の内部を照らす灯体などを設定。キーライトだけでは顎のシェーディングがおかしくなる場面もあるため、フィルライトなども併用。現場でライティングを担当するメンバーが入っても分かりやすい作りになっている

ステージ演出で重要なムービングライトのビームについては、DMXフィクスチャーをカスタマイズした灯体(照明器具の総称)を開発したとのこと。また、ムービングライトに入っているゴボ(柄)に応じてビームの形が変化するため、ゴボはオリジナルを用意しています。

DMX512は照明装置の調光・調色を行うための通信規格。アンリアルエンジンユーザーには馴染みが薄いかもしれないが、舞台やライブの現場ではごく一般的に使われる規格だ。KAZOE氏は普段grandMA3やTouch Designerで自作したコントロールユニットで制御しているとのこと

シェーダーアーティストと一緒にステージ上のルックを作り込む

「ライトを右から当てたら左の影が大変なことになる!」「キャストシャドウが入っていないのが悪さをしているのかも?」など、ルックの調整はシェーダーアーティストと密接なコミュニケーションを取り合いながら改善を繰り返す形で進行。

また、今回はすべてがリアルタイムのライブであるため、ハンディカメラマン(ステージ内でライブ撮影を行うカメラマン)が存在するのもポイント。カメラマンがどんな角度から撮影を行っても問題がないように破綻のないルックを作ることが必須であり、キャラクターの横顔アップなど特に難しい角度からカメラを入れる場合はフィルライトを強めに当てて即対応できるよう仕組み化しておくなど、事前の仕込みの重要性が説明されました。

こうしたライトの全体デザインが完了後、演出的なライティングを楽曲に合わせて打ち込みます。この際、特定の灯体はGPU負荷が大きいため、ライトの影響範囲を狭めたり、クオリティを落としたりして最適化を図っているとのこと。

ステージ内の演出として、仮想的なスクリーンに映像投影を行うVJ表現も取り入れている。海の泡などはNiagaraで実装するより、VJ的に投影したほうがフレキシビリティに富んだ演出が可能になるとのこと。また、プロジェクションマッピング的な演出はデカールで行うなど、最適化の工夫も行われていた

また、講演後は実際のプロジェクトが開かれ、ハイクオリティなステージをリアルタイムでプレビューしながらライト演出を行う様子が確認できました。続く質疑応答でも本番環境のマシンスペックや冗長性のためにPC3台編成で臨んでいる旨など、実践的な内容で大いに盛り上がりました。

ワールドに配置された60個ほどのカメラをプレビュー可能な内製ツールや、マスターコントロールシステムも紹介された。今回は60カメラ程度だが、多い時は120カメラほどを事前に仕込んでいるとのこと

アンリアルエンジン以外の全体システムに関する質問に対しては、事前用意された資料をもとに説明が行われた

「NANASHI Sing up vol.1-Sparkle-」 動画アーカイブUEなんでも勉強会 - バーチャルライブ編 - vol.1 動画アーカイブ
神山 大輝

ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビュー作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。

ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。

関連記事

5/10(金)発売の『CGWORLD 2024年6月号 vol.310』最新号の一部をゲームメーカーズで先行公開!テーマは「ローポリから始める3DCG」
2024.04.29
トイロジック、UE4のRPC関数をベースにしたプレイヤー同期処理を解説。大規模オンラインゲーム『FOAMSTARS』に導入した管理の仕組み
2024.04.26
Unreal Engine 5.4がリリース。アニメーション関連の新機能「Modular Control Rig」の追加、「Motion Matching」の正式リリースなど
2024.04.24
UE6にはフォートナイト用の言語「Verse」が導入される?GDC 2024のVerse講演から見るアンリアルエンジンの今後
2024.04.22
Unity Technologies、HDRPを解説した無料の電子書籍をUnity 2022 LTS版にアップデート。進化した水面の表現やSpeedTreeを組み合わせたTerrainの使い方を183ページにわたって紹介
2024.04.19
オーディオミドルウェア「Wwise」のサウンドをUnreal Engineで再生。「書かれた通りに設定すれば必ず動作する」ガイド、Audiokineticが公開
2024.04.18

注目記事ランキング

2024.04.22 - 2024.04.29
1
【2022年5月版】今から始めるフォートナイトの「クリエイティブ」モードープレイ開始から基本的な操作方法まで解説
2
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧
3
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.5「島の設定」
4
『フォートナイト』で動く本格的なゲームが作れるツール「UEFN」とは?従来のクリエイティブモードから進化したポイントを一挙紹介!
5
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.1「アイテム系」
6
【CHALLENGE1】「クリエイター ポータル」を使って、UEFNで作成した島を世界中に公開する
7
フォートナイトとUEFNがv29.30にアップデート。すでに公開した島をプレイできないようにする機能が導入される
8
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.7「NPC系」Part1
9
まるで『マイクラ』?ボクセル地形を生み出す無料アセット「VoxelPlugin Free」で”地形を掘ったり積み重ねたり”して遊んでみよう
10
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.4「ゲームシステム系」
11
UEFNで使えるプログラミング言語「Verse」のノウハウが集結。『UEFN.Tokyo 勉強会 03 Verse Night』レポート
12
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.2「ユーティリティ系」
13
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.6「チーム・対戦系」Part1
14
【STEP2】UEFNの基本的な使い方を覚えよう
15
フォートナイトとUEFNがv29.20にアップデート。見下ろし視点でもプレイヤーキャラクターの向きを操作できるようになった
16
フルカラー書籍「UEFN(Unreal Editor For Fortnite)でゲームづくりを始めよう!」、ついに本日発売!全国書店で好評発売中!
17
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.8「ゾーン系」
18
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.10「UI系」Part1
19
【CHALLENGE2-1】フレンドと一緒にゲームを作ろう――UEFNプロジェクトをチームメンバーとリアルタイムで共同編集する
20
『フォートナイト』で建築ビジュアライゼーション!?UEFNでオリジナルの世界観をどう作り上げたか、その手法を解説【UNREAL FEST 2023 TOKYO】
21
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.10「UI系」Part2
22
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.3「プレイヤー系」
23
【CHALLENGE3】UEFNの機能「ランドスケープ」を使ってオリジナルの地形を作る
24
「UEFN」って実際どうなの? 編集部が3時間で「みんなで遊べるアクションゲーム(?)」を作ってみた
25
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.9「建築物系」Part1
26
【STEP4-2】リスポーンとチェックポイントの仕組みを作る
27
【STEP4-1】コース外に出たらデスする仕組みを作る
28
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.7「NPC系」Part2
29
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.6「チーム・対戦系」Part2
30
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.9「建築物系」Part2
VIEW MORE

イベントカレンダー

VIEW MORE

今日の用語

乱数
ランスウ プログラムにおいてランダムに生成される数値。アルゴリズムによって導かれ、実際には完全なランダムではないため疑似乱数とも呼ばれる。
VIEW MORE

Twitterで最新情報を
チェック!