文字を操り活路を開け!異色のパズルADVがついに日本語化
『文字遊戯』は、万物が文字で構成された世界を舞台とするアドベンチャーゲームです。
タイトル画面からして、その特異なゲーム性を遺憾なく発揮。フレーバーテキストの「これは 我 に関する物語」の中にある「我」をメニュー選択カーソルとして動かせます。
展示ブースでは『文字遊戯 第零章』(『文字遊戯』日本語版におけるデモゲーム)を試遊できた。
写真はそのタイトル画面。「我 は冒険を始める」「我 は設定調整する」「我 は希望目録(ウィッシュリスト)へ登録する」とメニューを選択できる
まず目を引くのはその奇抜なビジュアルで、マップはなんと全て黒背景&漢字のアスキーアート。キャラクターも文字だけでデザインされ、主人公は読んで字のごとく「我」、町を行く人々は「商」や「漁」など職業を示す漢字1字で表現されています。
モノクロで文字だけの画面構成でありながら、無機質さ・簡素さは全くありません。主人公「我」がトコトコと歩く仕草や、木の葉が風にそよぐ様など、細やかなアニメーションが世界を鮮やかに描き出します。
「道」の上では「犬」が吠え、「鳥」が囀り、「樹木」が葉を揺らしている
ときには漢字で作られたモザイクアートによる3Dアニメーションも盛り込まれ、総じて非常にハイクオリティーなグラフィックを堪能できます。
文字だけで作られていることを一瞬忘れそうになるほど作り込まれた映像美がうかがえる(画像はSteamストアページより引用)
※ 本GIF画像は紹介用に作成されたイメージ画像で、本編シーンの抜粋ではないことにご留意ください
ビジュアル面の完成度もさることながら、しかし本作の最大の特徴は、文字の性質を活かした緻密なパズルギミックにあります。
「文字の性質」とは一体どういうことなのでしょうか。
例えば下の画像、一見すると何の変哲もないテキストですが……?
実は本作では、ただのテキストすら「オブジェクト」として干渉可能。文章の周囲を自由に動き回り、「門」をドアとみなして別エリアへと移動できます。
左上の「門」を文字通り「門」と解釈し、開門して通り抜けることが可能
オブジェクトを調べることでテキストが表示され、それを新たな調査対象として選択する。このインタラクティブな謎解き要素は、ゲーム世界全てが文字で構成されている本作ならではのギミックといえます。
部屋の中には暖炉や時計、机が置かれている。スペースキーでそれらを調べて情報を集めよう
机を調べると「抽斗(引き出し)には専門書がしまってある」というテキストが表示。よく見ると文章中に「門」の文字が。ここから次エリアに進めそうだ
謎解きのレパートリーは実に多彩。本作では主に3つの「魔道具」を駆使して文字に干渉し、文章を書き換えることでフィールドに効果を及ぼします。
まず、一部の文字を削除できる「削字之剣(デリートソード)」。例えば、不可能の「不」を削って「可能」とすることで窮地を脱し、突破口を切り開くことができます。
さながら「不可能」を「可能」にする剣。重すぎて持てないはずの剣が軽々と扱えるように
「閉じ込められたのではないか?」の「か」を消すことで「閉じ込められたのではない」に変更。岩壁に通り道が生まれ、脱出可能に
また「押引手袋(プッシュグローブ)」は、文字を押す・あるいは引っ張ることで別の位置まで運び、他の文字と並べて新たな単語を作成可能。
不信感の「信」を下にスライドさせると「自信」という単語が生まれる
さらに、漢字を分解して別の漢字に組み直せる「離合之兜(スプリットメット)」。前述の「押引手袋」と併用することで、異なる文字を作り出せます。
「水」と「白」をくっつけて「泉」に。さらに「糸」とも合体できそうだ
これらのアクションを総動員した巧妙な謎解きギミックは非常に解き心地が良く、唯一無二の体験を味わえます。
ただ解いて楽しむだけでなく、パズルそのものの完成度や芸術性の高さを堪能できることも大きな魅力です。
牢屋の扉は施錠され、窓は頑丈な鉄格子で塞がれている。仮に脱出できても看守に見つかってしまう。看守の目を欺き逃走するには?
試遊台では、製品版の前日譚にあたる「第零章」をプレイできました。こちらは2023年7月にSteamでリリースされた無料デモ版で、現在も配信中です。
デモ版はチュートリアルの側面が強く、謎解きも魔道具の基本的な操作で解けるものばかりですが、製品版ではギミックの種類・難易度ともに跳ね上がり、ボス戦も用意。
パズルゲームゆえに「紹介=ネタバレ」となるため多くは語れませんが、「文字」という題材が秘めるポテンシャルを極限まで引き出した演出・謎解きの数々を存分に浴びることとなるでしょう。
パズル要素が衆目を浴びる一方、硬派で重厚なストーリーも魅力の一つ。
本作の世界は今「魔龍(ダークバハムート)」の脅威を前に滅亡の危機に瀕しています。これに立ち向かい世界を救えるのは「識字の勇者」ただひとり。
主人公はある日、何の因果か「識字の勇者」の資質を見出され、「魔龍」を討伐する冒険に出ることに。数々の苦難を乗り越えることで次第に勇者の覚悟が生まれた主人公は、世界の命運を背負う意思を固めます。
「魔龍」との決着、そして世界の行く末は。「識字の勇者」とは一体何者なのか。波乱を越えた先に待ち受ける数奇な運命を、ぜひご自身の目で確かめていただければと思います。
デモ版は「四千三百九十六番目の勇者」の物語。すると製品版では必然的に「四千三百九十七番目の勇者」が登場することになるが……
世界を恐怖で支配する「魔龍(ダークバハムート)」。果たして勇者は魔龍を討伐し、世界に平和をもたらすことができるのか――
『文字遊戯』(日本語版)は「センス・オブ・ワンダー ナイト 2025」においてBest Game Design Awardを受賞。
ならびに、動画クリエイターのポッキー氏が「ゲーム実況者の観点でプレーしたいと思うタイトル」を選出するポッキー賞を受賞しました。おめでとうございます!
中国語のパズルを日本語に変換。前代未聞のローカライズを成功に導いた鍵とは
冒頭でご説明した通り、本作はもともと2022年1月に台湾のゲームスタジオ「Team9」がリリースした、全編中国語で作られたアドベンチャーゲームです。
“言葉の限り”を尽くしたパズルを中核とする本作は、長らく「ローカライズ不可能」と囁かれてきました。それもそのはず、単純にテキストを翻訳するだけではパズルのロジックが崩れ、ゲームとして破綻するためです。
ところが2023年、世間の風評に反してまさかの日本語版がリリースされることが発表。同年Steamで無料デモ(第零章)が公開されました。
そして2025年8月7日(木)、ついに日本語版『文字遊戯』がNintendo Switchで配信開始。その後ほどなくして、8月13日(水)にSteam版がリリースされました。
任天堂の配信番組「Indie World」で本作が発表された際は大きな反響を呼んだ
一時は不可能とまで叫ばれた本作の日本語ローカライズを成し遂げた「フライハイワークス」の黄 政凱氏に、このたびTGS2025の展示ブースでお話を伺うことができました。
展示ブースでインタビューに応じていただいた、「フライハイワークス」の黄 政凱氏
本作のローカライズは黄氏が全て1人で担当し、日本語版におけるディレクション・プロデュースも行っています。システムやビジュアルなどの実装面は、ゲーム・ソフトウェア開発会社の「エスカドラ」が請け負っています。
「Team9」からローカライズの打診を受けた当初、黄氏はその難易度の高さゆえに消極的だったそう。ところが、いざテストプレイをすると物語は急転直下、波乱の展開を迎えることに。次第に黄氏は「これは誰かがやらなければ」と前向きに検討し始めたといいます。
黄氏は10歳まで日本で育ち、その後は台湾に移住したバイリンガル。また無類のゲーム好きが高じて日本のゲーム会社に就職した経歴を持ちます。それゆえに黄氏は「このプロジェクトはおそらく“バイリンガル”かつ“ゲームをよく知っている”という2つの要素を併せ持つ自分じゃないと完遂できないだろう」という気持ちを胸に挑んだそうです。
まずは“全てのゲーム画面”の仕様書作り。確実に差し戻しを防ぐディレクション
ローカライズにかかる労力は一般的な翻訳タイトルとは一線を画し、実質的にゲームを一から作り直すに等しい作業を要しました。
また作中の文字たちは、謎解き・キャラクター・フレーバーテキストなど、何から何まで全て手打ちのスプライトで構成。本作にExcelのテキストデータは存在しません。
キャラクターの歩行モーションや謎解きギミックの挙動など、文字に施されたアニメーションの量や細かさを考えると、非常に手の込んだ制作過程がうかがえます。
「妖蛇(メデューサ)」との戦闘シーン。長い体を左右に揺らしながらプレイヤーを追いかける様は、リアルな蛇を想起させる(画像は『文字遊戯』日本語版のSteamストアページより引用)
プロジェクトが開始したのは約3年前の2022年頃。まず黄氏は、本格的な開発に着手する前に全てのゲーム画面のスクリーンショットを取り、それらをもとに翻訳の仕様書を作成しました。
その理由は、先に仕様を確定して原作者側の同意を得なければ、実装後に大量の差し戻しが発生すると予感したため。チームにとって差し戻し・作業のやり直しが最もパフォーマンスに響くという、ディレクター目線での判断です。
ノンストップで開発を進められるように「エスカドル」の方々には一旦待機してもらい、あらかじめ全行程の道筋を策定。実際に作業が始まったのは1年と半年以上が経過してからだといいます。
黄氏は「こうしたディレクション的な施策がプロジェクトの成功に大きく寄与したのではないか」と語っていました。
漢詩のごとく1文字で緻密な文字数調整
本作のローカライズで重要なのは、パズルの整合性だけにとどまりません。原文通りの意味で和訳したとしても、その文章をゲーム画面で見栄え良く配置できるかは別問題です。
原作ゲームでは、画面の外周に沿うようにぴったりと文章が表示されるシーンや、スライドパズルのように厳密な縦横比で作られた仕掛けなど、1文字もオーバーが許されない緻密なデザインが随所に登場します。
文字数のズレは読みづらさの要因となるため、文章全体の文字数が綺麗に揃う言葉の組み合わせを模索したといいます。
1文字単位で緻密にスペースを詰めながら文章を作成。原作ゲームにおけるこだわりが日本語版でも反映されている(画像は『文字遊戯』日本語版のSteamストアページより引用)
しかし、文字数を揃えるためだけに言葉を水増しするとノイズになるため、不要な文字は削ぎ落さなければなりません。
一方、無駄を切り詰めて直訳的な表現に寄せすぎれば、日本語ユーザーに違和感を抱かれる恐れがあります。とはいえ、逆に当たり障りのない文章でも読み手を退屈させてしまいかねません。
文章だけで表現するという制約の中、厳しい条件下での翻訳作業が続きました。ときには、中国語ならではのギミック(ネタバレにつき詳細は伏せます)を日本語で再現する方法が思いつかず、何か月間も必死に言葉を探し続けた末に、結局妙案が浮かばず別の仕掛けで代用したこともあったといいます。
この途方もない道のり――黄氏が言うところの「地獄の『もじぴったん』」に挑み続けること苦節3年、ついに『文字遊戯』日本語版が世に送り出されるに至ったとのことでした。
使用エンジンはGodot。「W4 Games」製ミドルウェアの登場でSwitch版もリリース可能に
2025年8月7日(木)に放送された「Indie World」にて一躍話題を集めた本作ですが、当初はNintendo Switch(以下、Switch)版を出すつもりはなく、Steam版1本のみとなる予定だったそうです。
Switch版をリリースすることになった経緯について教えていただきました。
まず前提として、本作はGodot Engineで開発されています。そしてGodot Engineには、専用のコンソール向け移植ミドルウェア「W4 Consoles」が、Godot Engine関連企業「W4 Games」(※)より提供されています。
※ 「W4 Games」Godot Engine製ゲームのエコシステム強化を目的に、関連製品やサービスを提供する企業。Godot Engine開発者の1人であるJuan Linietsky氏らによって創設された
ところが本作のプロジェクト発足時、同ミドルウェアはまだリリースされておらず、この時点ではSwitch版をリリースする目途は立っていませんでした。
時が経つこと2024年10月8日(現地時間)、同社は「W4 Consoles」をリリース。これによりSwitch版のリリースが可能となり、Steam版との同時販売も実現できました。
日本プレイヤー向けの限定販売となると、現状Switchが強い優位性を見せているそう。
黄氏は本件について「グローバル化の真逆を行く“日本版オンリー”な仕様に加えて、文字のみ&パズルゲームというコアな要素を凝縮させた本作がこれほど多くの方に遊んでいただけたのは、ミドルウェアを開発してくれたW4 Gamesなど大勢の方々から助けをいただけた幸運によるところが大きい」と語っていました。
「第零章」をクリアすると開発陣からのメッセージが。
デモ公開当時は製品版はまだ開発中だったが、現在すでにリリース済。この機会にぜひ手に取っていただきたい
ローカライズプロジェクトの成功により、その魅力が言語の壁を越えて広範囲に知れ渡りつつある『文字遊戯』。
Steamでは中国語で制作された原作ゲームも販売中。日本語版のあのギミックは原作ではどんな形だったのか?中国語であればこその表現方法とは?などなど、日本語版既プレイ勢にとっても未知なる面白さが待っていそうです。
「数え切れないほどのゲームが世に送り出され、全てを追うことはとても叶わない今の時代において、唯一無二のスタイルかつゲームでしか味わえない体験を堪能できる本作を、ぜひ遊んでみてください」と黄氏よりお言葉をいただきました。
「Team9」公式サイト「フライハイワークス」公式サイト「エスカドラ」公式サイト「東京ゲームショウ2025」公式サイト
ゲームメーカーズで編集や諸業務に携わっています。『星のカービィ』シリーズと『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズが好きです。