2023年3月18日(土)、東京工業大学 大岡山キャンパスにて、東工大デジタル創作同好会「traP」主催の第16回 ゲーム制作者交流イベント『GAME³(ゲームキューブ)』が開催されました。traP所属の学生たち以外にも外部の開発者や協賛企業も出展した、濃密で熱気にあふれたイベントの模様をお伝えします。
TEXT / じく
EDIT / 神谷 優斗、藤縄 優佑
目次
キャンパスで開催される学生による交流イベント
GAME³の会場は、東京工業大学 大岡山キャンパスの講義室です。1室のみで開催されたため、時間を区切って出展者を入れ替えるという形式が採られました。限られたスペースを有効活用できるだけでなく、出展者の担当時間外に、イベントを見て回れるなど、交流を重視した方式だと言えます。
出展ゲームをピックアップ
出展された作品は、どれも発想が豊かで魅力的なゲームばかりでした。その中で実際に試遊して印象に残ったゲームをいくつかご紹介します。
ARDictionaryHacker
本作は、スマホのカメラ機能と実物の辞書を使った、英単語学習用ARゲームです。スペルの一部が隠されている英単語が表示されるので、辞書から正解となる英単語を探してスマホで撮影します。正解を撮影するまでの時間を競い、間違えるとペナルティ時間が加算されます。
ゲームでは、英単語の予想中に、「○○○を写せ」という指令も出されます。正解が予想できない場合は、指令にある文字列を撮影することで、隠されたスペルが少しずつ開示されます。ヒントをもらえばもらうほど正解にたどりつきやすくなりますが、その分だけ時間もかかってしまうので、短時間クリアからは遠のいてしまうバランスの取り方が楽しいゲームでした。
開発理由をお聞きしたところ、昨今の音声認識を利用したゲームを見て「それならば文字認識もあっていいのでは?」という発想から生まれたそうです。英単語のスペルの隠し方が絶妙で、正解が分かった時の「ああ、それか!」という驚きや喜びが生まれる素晴らしい作品でした。
難易度は4段階あり、最高難易度の「Difficult」で出題される単語は大学受験レベルから選んだとのこと。各難易度において、難しすぎず簡単すぎもしない単語を選ぶのにこだわったそうです。
ひなるひ氏 Twitterアカウント音隠しの森
インコの歌う3つの音と同じ音を、ステージにある音を鳴らせる物に触れて探すゲームです。
「音を探す」「音を鳴らす」操作は、作業らしく感じるかもしれませんが、操作していること自体が楽しいと思わせてくれることが最大の魅力でした。
ゲームの根幹はしっかりしており、完成がとても待ち遠しい作品でした。
『音隠しの森』ストアページHyperNova
すべてがボクセルでできた世界で展開する、2.5D横スクロールシューティングです。敵からのドロップアイテムを拾うことで、ショットの種類や自機を囲むオプションが追加されるシステムは、かつての正統派シューティングゲームを思わせます。
ボクセルシューティングにした理由は「ボクセルによりドット絵のような味が生まれるほか、開発時間も短縮できる」「シューティングが好き」とのことでした。
本作は2人協力プレイも可能なうえ、役割を分担できるユニークなシステムを搭載している点が、最大の特徴といえるでしょう。自機狙いの弾は1P側に向かう仕組みで、バリア機能を持つ2Pは1Pの前に出て守る立ち回りが求められます。
なお、獲得したオプションは相手に渡すことができ、状況に応じて攻撃の役割を切り替えられます。
『HyperNova』ストアページRoute98
traPが2022年冬に開催したハッカソンで優秀賞を受賞し、今回のGAME³では当日アンケートで1位を獲得したローグライクアドベンチャーです。
本作はゾンビがはびこる世界で、なるべく少ない日数で「家に帰る」ことを目指します。主人公の活力が尽きる、もしくはゾンビたちに攻撃されるなどして増えていく「感染」の値が、100%に達してしまうとゲームオーバーです。
歩を進める「進む」と、食料・アイテムを見つける「探索」といった行動によって「活力」が消費されますが、「休憩」コマンドで回復できます。食料があれば活力が大きく回復するので、「探索」をしたいところですが、、ゾンビなどの敵と遭遇する可能性もあります。手持ちの武器で応戦するか、感染値の増加を鑑みて逃げるか、状況に応じた判断が求められます。
先に挙げたハッカソンは、準備が3日、ハッカソン自体は7日という開催期間だったそうですが、そんな短期間で本作を作り上げたとはとても思えない完成度の高さに驚かされました。当時のハッカソンのテーマの「Route」から、国道(Route)を歩いて家に帰るという目的、そして主人公の背景などが語られずとも想起される内容も魅力的です。
なお、作中のドット絵やBGMはすべてオリジナルとのこと。リソース管理や行動の配分など、バランス調整にもこだわったと言います。
Route98 ゲーム紹介XOR Numbers
提示された2つの条件の排他的論理和に当たる数字を素早く選ぶスマホ向けゲームです。排他的論理和とは、2つの条件のうちいずれか一方のみに当てはまる場合をtrue(真)、両方当てはまるか両方当てはまらない場合はfalse(偽)となる演算です。
例えば「素数」「12で割って1余る」という条件の場合、2や25はtrue、4や13はfalseになります。単純な1つの条件に当てはまるかどうかの選択ではなく、この排他的論理和を素早く考える、数学パズル的な面白さがあります。
提示される2条件の組み合わせは、「数の中に1がある」「各桁の和が最後3に収束」などがあり、ゲーム途中で切り替わります。また、対戦モードも開発されていました。
ほかにも、デバイスやジャンルに縛られない自由な発想のゲームや、既存ジャンルにありながら開発者のオリジナリティが注がれ磨き上げようとしているゲームなど、一つ一つが魅力的なゲームばかりでした。
表彰式・懇親会
このGAME³はゲームの展示だけでなく、制作者の交流も兼ねているイベントです。展示時間終了後、すぐにアンケート投票が行われ、上位入賞者が表彰されました。また、協賛のゲームクリエイター甲子園からも独自に賞が与えられました。
そして表彰式終了後には、懇親会が開かれました。示し合わせたわけでもないのに、先ほどまで展示していたゲームを楽しみ、語り合う空間が形成されていました。小規模ながらも自由で活気あふれる雰囲気は、まさに学生主導のイベントらしさを感じました。
traP副代表のUzakiさんにインタビュー
展示終了後の交流時間に、本イベントを主催したtraPの副代表で、ゲーム班の代表でもあるUzakiさんにお話を伺いました。
──GAME³を主催するtraPの規模や組織についてお教えください。
traPが380人、そのうち精力的にゲーム制作に取り組むコミュニティである「ゲーム班」が4~50人ほど在籍しています。
traPは「“デジタル”創作同好会」ですので、ゲーム班以外にもグラフィックやサウンドなどの班もあります。そういった人たちに手伝ってもらうこともあり、ゲーム班でなくてもゲーム制作に自由に関わることができます。言い換えれば「ゲームが好き」ならばゲーム班に入れますし、プレイが好きなだけでも構いません。
──今回で16回目を迎えたGAME³の歴史についてお教えください。
GAME³は2015年から始めたイベントで、当時は東京工業大学の別組織によって、ゲーム展示会として開催されていました。そこから何年かを経て、元々「“ゲーム”創作同好会」だったtraPが、イラストやWebなどまで範囲を広げた「“デジタル”創作同好会」として発足し、そのタイミングでtraPがGAME³を開催するようになりました。
──GAME³は大学の講義室を利用していますが、施設利用料はかかりますか? また、GAME³へ向けての開発にかかる費用はtraP側で負担しているのでしょうか?
traPは東工大の公認サークルなので、申請すれば無料で講義室などを使用できます。機材や開発環境については、traPは「個人の創作を応援する」という立場なので、基本的には自己負担です。
ただし部費は徴収していますので、例えば「このアセットを使いたいので購入していいですか?」という部費申請などはあります。イベントでの細かい備品や懇親会の軽食なども部費でまかなっていますが、今回のGAME³では協賛企業の方にご協力いただきました。
──GAME³に向けた開発作業はどのように行っていますか?
今回はハッカソンで制作して出展という流れが多いですが、長期プロジェクト的に制作を続けて出展している人もいます。
普通のゲーム開発ならば年単位で多くのプロジェクトメンバーが集まりがっつりと開発するのがスタンダードだと思います。traPの場合はハッカソンや思い付いた時にふらっと作り、もう少し極めたかったらイベントに向けて調整する、というのが多いです。
限界まで開発作業を続けて今日を迎えた出展者も多く、いま行われている懇親会では打ち上げのように解放感あふれる姿も見られますね(笑)。
──traPではハッカソンなどを定期的に開催しているようですが、どのような環境で開発作業をされていますか?
基本的にオンラインで非同期的に作業をしています。内製の部内SNSでコミュニケーションを取るほか、DiscordやGitHubなどを使用しています。ハッカソンでの開発も、現在はオンラインが主です。日中は大学の授業、夜にオンラインで開発というスタイルですね。過去にさかのぼると講義室を貸切りにしてみんなで開発、というのもあったそうですが今の自分には想像できません。
コロナ禍でリモート環境が続きましたが、むしろその利点を知って生き生きと活動していた面もあります。リモートでの交流がメインでしたので、アイコンとIDだけ知っているサークル員同士がイベントで初めて顔を合わせるなんてこともありました。
今回のGAME³はそういった貯め込んだ力を解放しているような感じです。今後はオフラインハッカソンもできればと思っています。
──GAME³として大切にしていることは何でしょうか?
先人の方たちの想いもありますが、自分としては「ハードルが低いイベント」であることです。大学生が主催して制作しているので不備が出ることもありますが、気軽に交流できる場であり、誰にでもチャンスがある環境にできればと思っています。
traPでもよくあるのですが、作るのは好きだけど発表にまで至らない人がいます。それは、作るだけで満足することもありますし、人前でレビューを受けるのが怖かったり、発表するまでの洗練する作業が厳しかったりなどです。それでも「創作は人に見せて完成する」ものだと常々思っているので、それがしやすい環境を整えていければと考えています。
制作者同士の交流を意識させるイベント
展示や懇親会など、終日を通してGAME³は「ゲーム制作者同士の交流イベント」の側面を強く感じました。そして出展作品は、一つ一つに輝きを秘めた何かが存在していました。それはアイデアや技術などさまざまですが、現在進行形で進化し続ける姿は見る者をわくわくさせます。
また、今回の小林さんのインタビューで気付かされたのが、今の多くの大学生はコロナ禍の影響を受けたことになります。それでも彼らはリモート環境を存分に生かし、たくましくゲーム制作やデジタル創作をし続けてきたということを実感させられました。コロナ禍が明ける兆しが見える昨今、今後のGAME³、traPの活動に期待しています。
第16回 ゲーム制作者交流イベント「GAME³」東京工業大学「デジタル創作同好会traP」ゲーム会社で16年間、マニュアル・コピー・シナリオとライター職を続けて現在フリーライターとして活動中。 ゲーム以外ではパチスロ・アニメ・麻雀などが好きで、パチスロでは他媒体でも記事を執筆しています。 SEO検定1級(全日本SEO協会)、日本語検定 準1級&2級(日本語検定委員会)、DTPエキスパート・マイスター(JAGAT)など。
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