音声認識AI×マダミス『深宇宙探査』試遊レポート。リアルな会話体験を生む実装手法・世界観の作り方を訊いた【TGS2025】

音声認識AI×マダミス『深宇宙探査』試遊レポート。リアルな会話体験を生む実装手法・世界観の作り方を訊いた【TGS2025】

2025.10.09
注目記事イベントレポート東京ゲームショウ2025
この記事をシェア!
Twitter Facebook LINE B!
Twitter Facebook LINE B!

2025年9月25日(木)から28日(日)の4日間、幕張メッセにて『東京ゲームショウ2025(以下、TGS2025)』が開催されました。本記事では「Latent Entertainment」が手掛けた、音声認識AIを利用したマーダーミステリーゲーム『深宇宙探査』を紹介します。

TEXT / 種村朋洋

目次

AI対話アプリとアナログコンポーネントが融合した独自のゲームデザイン

『深宇宙探査』紹介映像

『深宇宙探査』は、有人宇宙探査船を舞台にした2人プレイのマーダーミステリーです。

プレイヤーは、キャラクター設定や行動が記されたシートに基づき、事件に遭遇した探査船のクルーになりきって各自の視点から物語を体験し、アナログの地図や「証拠カード」から得られる情報に基づいて事件の真相を推理します。

キャラクターシートやプレイマット、事件の情報が記された「証拠カード」など、アナログのコンポーネントの数々を用いてプレイする

証拠カードは、表に「廊下」「貨物室」といった場所情報や「死体の状況」など、得られる情報のカテゴリが記載されており、裏をめくると詳細情報を入手できる

一般的なマーダーミステリーではゲームマスターが進行役を務めますが、『深宇宙探査』ではゲームマスターが存在せず、AIキャラクター「ミランダ」が進行の一部を担います。

ミランダは実際に生成AIで実装されたiOSアプリで、プレイヤーはアプリを通じてミランダと音声会話を行い、事件に関する情報を集めます。一部の「証拠カード」にはQRコードが記載されており、ミランダに読み込ませることで新たな情報を引き出すことも可能です。

ミランダの応答は物語の展開やプレイヤーの問いかけに合わせて変化します。物語が進むにつれて、ミランダを単なる進行役としてだけでなく登場キャラクターの一人と認識し始め、本当に会話をしているような存在感が表れてきます。

ミランダに「ねぇ、ミランダ」と呼びかけるとシステムが起動し、音声による質問ができるように

本作は、TGS2025に無料で出展できる公募枠「Selected Indie 80」コーナーの1作として選ばれています。

さらに、AIキャラクターとの対話による独自の体験が評価され、TGS2025で開催されたゲームアイデアコンテスト「SENSE OF WONDER NIGHT 2025」のファイナリストに選出。

AI・デジタル・アナログの要素が融合したゲームデザインについて、審査員から高い評価を得ていました。

SENSE OF WONDER NIGHT 2025配信アーカイブ

初出展でSOWN2025ファイナリスト進出。AIキャラクターと織り成すリアルな会話体験

Selected Indie 80コーナー内の「LatentEntertainment」ブースにて、本作を手掛けたRyo Yoshizawa氏に開発に関するお話を伺いました。

開発者のRyo Yoshizawa氏

本作はYoshizawa氏が初めて開発したゲーム作品だといい、TGS出展も今回が初となります。

同氏は以前コミュニケーションロボットの開発に携わっていたほか、小説の執筆活動も行っていました。しかしながら、文章だけで構成しなければならない小説という媒体に表現の限界を感じたといいます。

そのような中、マーダーミステリーと出会ったことで「キャラクターになりきる」という遊びに面白さを認識し、物語体験とロボット技術を融合したコンテンツの構想につながったといいます。

スマートフォン画面の右側に表示されているのはミランダのカメラ。このカメラは、iPhoneのカメラを通して実際にプレイヤーの姿を認識し、まるでプレイヤーを視界に捉えるようとするかのように方向を変える

ミランダとの対話アプリはUnityで作成。対話を構成するAIエンジンにはOpenAIのAPIを利用することで、オンラインでの情報入力や対話内容の生成が可能となっています。

ミランダが管理する情報は物語の進行に応じて内部的に変化するように設計されており、この技術は特許を申請中とのこと。

開発当初はミランダが過剰に発言を続けたり、重要でない情報を強調したりする問題がありました。自然な会話を実現するため、AIに世界観を理解させる調整に時間を要したといいます。

また、生成AIは同一の質問に対して常に同じ回答を返すわけではありませんが、本作ではこの“揺らぎ”をあえて許容しているそう。プレイヤーが真相までたどり着く過程が“揺らぎ”によって移り変わる様を、本作の楽しさの一つとして捉えられるような設計を目指しているとのこと。

ゲーム中、ミランダから逆に質問を返されることもある

TGSでの展示に先立ち、Yoshizawa氏は本作のプロトタイプを2025年3月23日(日)開催の「愛知ゲームキャッスル」で展示しました。

プロトタイプではミランダの機能をAI音声会話のみに留め、作中世界に登場するAIキャラクターとの対話を楽しむアプリケーションとして展示していましたが、試遊したお客さんからは好意的な反応が得られたそうです。中には20分間もキャラクターと話し込む人もいたといい、キャラクターとの会話に面白さがあるという確信を得たといいます。

またその際、来場者の一人からSelected Indieへの応募を勧められたことが、今回のTGS出展の決め手になったとのことです。

本作は「マーダーミステリーの初心者でも手軽に楽しめる」ことをコンセプトに掲げており、製品版に向けてそのコンセプトを達成できるよう、今後も開発を進めていきたいとYoshizawa氏は語っていました。

公式Xアカウント https://x.com/LatentEntertain
公式YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@LatentEntertainment90
発売時期 未定
種村 朋洋

ゲームデザインとプレイヤーのインタラクションを考察しながらゲームを遊ぶのが好きです。

ゲーム以外では謎解きイベントや漫画が好きです。

関連記事

「立体の表面」が舞台の『表面迷宮くるまぶ』。経産省主催の「創風」に採択されたネオ2Dアクションパズルを試遊&インタビュー【TGS2025】
2025.10.02
1,200万本のヒット作『Valheim』、発売前の予想は「2万本」だった。開発チームにインタビュー【TGS2025】
2025.10.02
ローカライズ不可能と囁かれた、“文字世界”を冒険するADV『文字遊戯』がついに日本語化。苦節3年の開発秘話を訊く【TGS2025】
2025.09.30
ハムスター型のかわいい「ハンディ殲滅兵器」と国を守るタワーディフェンス『MOCHI-O』。講談社GCLサポートのもとでも「じぃーま」氏らしさは健在【TGS2025】
2025.09.30
「東京ゲームショウ2026」、来年9/17(⽊)〜21(⽉・祝)に開催予定。ついに史上初の5日間開催へ
2025.09.29
アクロバティック日本列島爆走ゲーム『電車アタック』。爽快トリックアクションの着想や「日本らしさ」を描くこだわり【TGS2025】
2025.09.27

注目記事ランキング

2025.10.05 - 2025.10.12
VIEW MORE

連載・特集ピックアップ

イベントカレンダー

VIEW MORE

今日の用語

ブレンド(Blend)
ブレンド 2つ以上のものを混ぜ合わせることを意味する英単語。 ゲーム制作においても、2つ以上の要素を特定の割合によって合成することを示す。
VIEW MORE

Xで最新情報をチェック!